第135話
小さな事から嘘から綻ぶ事を回避する為に、本当に怪我を負う事にした。
しかし頼んだダッシュ殿のライトニングクラウドは、シェフィールドさんにより防がれた。
これは危険だ!
主にダッシュ殿が……
超過保護なシェフィールドさんが、僕に攻撃魔法を放ったダッシュ殿を許すとは思えない!
「ちょシェフィールドさん違いますからね!
ダッシュ殿には僕が頼んだ事ですから!」
シェフィールドさんは、ライトニングクラウドを吸収し紫電をパリパリと纏っているデルフを無造作に放り投げる。
「姉さんヒデーっすよ!」
デルフが文句を言っているが、彼女は動かない。
ダッシュ殿も固まっている。
早く逃げろダッシュ殿!
「あの、シェフィールドさん?」
ゆっくりと此方を振り返った彼女の顔は、恍惚としている……何故?
「嗚呼……ツアイツ様……
貴方も普通では無かったのね。
謀略の為とは言え、躊躇無く自分に怪我を負わせる事が出来るなんて……」
彼女はゆっくりと近付いてくる。
普段と態度が違う。
目がグルグルのヤンデレMAXだ!
「嬉しい。
貴方も私と同じ様に、何処か狂ってるのね」
そう言って僕を抱き締める……
「私は不安でした。
己の生に無頓着で、世界に不満を募らせる主。
そして、その手を血にまみれさせ狂った主に仕える私……
どんなに良くしてくれていても、ツアイツ様は私達とは根本的に何処かが違うと思っていたわ」
抱き締める力が強くなる。
乳圧で苦しくなる……
「でも貴方もこちら側の人間だったのね。
嬉しいわツアイツ」
力を込めてシェフィールドさんの拘束を解く。
「シェフィールドさん、何を?」
嗚呼……
あれは、危険域を突破した目だ!
「愛するツアイツを傷付ける者は、誰だろうと許さないわ。
貴方は私が守ってあげる。
でも貴方を傷付けるのも、私以外は許さない」
「な、何を言ってるの?」
「大丈夫……
貴方に火傷が必要なら、私が貴方を傷付けるわ。
それに駄目よ。
稲妻の火傷は、特徴が有るから火のメイジには付けられないの」
嬉しそうに、僕を抱き締めて頭を撫でながら……
囁く様に、危険な台詞を言う。
「だから私の手で、ツアイツを燃してあげる」
ちょ、コレってヤンデレさんに殺されるパターン?
「この火石を操れば、火のメイジと同じ事が出来るわ。
大丈夫よ。
このまま私も一緒に燃えてあげるから……
さぁ準備は良いかしら」
そう言って、抱き締められて密着した体と体の間に火石を挟んだ!
「ツアイツ、お姉ちゃんと共に燃えましょう……」
そう言って火石の力を解放しようとしたので、火石を掴んで彼女を突き飛ばす!
激しい熱、暴力的な爆風を受けて僕の左半身から激痛を……
「ぐっ……ぐあぁ……」
掴んで火石を放り投げようとしたが間に合わず、左腕を付け根まで火球に包まれ、爆風で左半身に火傷を負ってしまった。
「くっ……
ダッシュ、水の秘薬を……
早く!」
有りったけの水の秘薬を使い治療をする。
ヤバい、激痛で意識が朦朧とする。
しかし、子供の頃からカリーヌ様に受けた拷問と言う名の訓練が、僕に苦痛に対するタフネスさを齎(もたら)してくれたのか……
「シェフィールドさん」
「ツアイツ様、何故?」
彼女は涙ぐんでいる。
しかし、目はまだヤンデレだ。
ここで対応を間違えれば、僕は死ぬだろう。
「シェフィールドさんを傷付ける奴は僕も許せないんだ……
自分を含めて……
だから、落ち付いて、ね。
僕とシェフィールドさんは家族だから……」
ヤバい、流石に意識が……
「ダッシュ殿、後は頼みます。
僕は元々重傷だから……
分かりますよね?
身内に被害を及ぼさない様に、騒ぎを……
抑えて…下さい……」
そう言って意識を手放す。
出来る事なら
「シェフィールドさんヤンデレEND」
なんて終わり方で無い様に……
SIEDダッシュ
つっツアイツどのー!
この状況で、何を私にさせようとするのですか?
くっ足が、足に力が入らない……
シェフィールドを見れば、呆然としている。
私には、遠慮も無く死を与えるかも知れないが……
私を一個人として見てくれたツアイツ殿の為に
「しっかりしろ!」
このヤンデレ女をひっぱたく!
目の焦点が合って、睨まれてしまった……
「何をするの?」
あっ足に力が入らない……
「つっツアイツ殿が私に託した事……
それは、我々の誰にも被害が及ばない様に、この事態を纏める事……
ここは、私が何とかするので、直ぐに立ち去れ!」
言うやいなや、爆発音を聞いた使用人達が騒ぎ出している気配がする。
「しっしかし、ツアイツ様が……」
ダンダンダン!
「ツアイツ様、今此方から凄い音がしましたが!
大丈夫ですか?」
「早く行け!」
シェフィールドは、後ろ髪を引かれる様な表情で転移して行った。
さて、私はこの場をどう取り繕ったら良いのだ?
急ぎドアに向かい、扉を開けながら考える。
「ワルド様!
一体何が有ったのですか?
きゃツアイツ様!
どうなさったのですか?」
エーファと言ったか?
メイド長が、ツアイツ殿の下に駆け寄って行く。
「大変なのだ!
見舞い品の中に火石の罠が仕込まれていた。
私が来た時には、既にツアイツ殿が自分で治療を……
しかし、応急処置だ!
早く水メイジを呼んでくれ。
そしてツアイツ殿は、動揺を抑える為に内密に処理をしろ!
と、言われた。
サムエル殿と相談を……」
ツアイツ殿専属のメイド達が、慌ただしく処理をしていく。
流石に手際が良い。
専属の水メイジが治療に当たるが、既に応急処置がなされいる為に殆どする事がないそうだ。
ツアイツ殿を着替えさせ、綺麗な包帯で処置を終えると
「命に別状は有りません。
しかし絶対安静にして下さい。
何か有れば別室に控えてますのでお呼び下さい」
そう言って退出してしまった。
皆の視線が、私に集中している……
詳しい事情を説明しないと、許さない!
そんな視線だ……
ツアイツ殿!
どうか、私の嘘がバレる前に意識を回復して下さい!
もう、いっぱいいっぱいですから……