第136話
ああ、ツアイツ!
死んでしまうとは、何事だ!
僕の切断した首を抱き締めて、座り込むシェフィールドさん。
愛おしそうに髪を梳いている……
ツアイツ・フォン・ハーナウ、享年15歳。
ハルケギニアをオッパイで駆け抜けた、若き教祖の早すぎる死だった……
「ヤンデレなシェフィールドさんBAD END2」
「って違うわー!
まだまだこれから僕のサクセスえろストーリーは始まるんだー!」
あれ?
生きてる……
思わず首が付いてるかを確かめて、左腕の痛みで我に帰る。
「知ってる天井だ……
それと、知ってるダッシュ殿……」
目の前には、隈を作ったダッシュ殿が憔悴しきって座り込んでいた。
「良かった、ツアイツ殿……
もう少し遅ければ、私はストレスで消滅してました」
どんだけ苦労したの?
「それで、どれ位かな?
意識が無かったのは?」
「まだ翌日の昼過ぎです。
まる12時間は意識を失ってましたよ……」
そう言って、僕が気付いた事を知らせる為に出て行った。
痛みの有る左半身を確認する……
酷い状態だが、指も全部有るし動く。
顔には怪我は無いし、左上半身と左腕が中程度の火傷で済んだ。
時間は掛かるが、完治する程度の怪我だ。
暫くは見た目は酷いけど、結果オーライか……
などと考えていたら両親とメイドズ、それとテファと本体ワルド殿が駆け込んで来た。
「ツアイツ、見舞い品が爆発したとは本当か?」
「ツアイツ、痛くない?
痛いなら主治医を呼ぶわ」
両親が同時に話し掛けてくる。
見舞い品が爆発?
ダッシュ殿を見れば……
僕を拝んでいる。
ああ、そう言う設定なのか……
「ええ……
確証は有りませんが、箱の一つから煙が出てまして。
外に放り投げ様としたが間に合いませんでした……
後は、山積みの水の秘薬を有りっ丈使い応急処置を頼み、ちょうど来てくれたダッシュ殿に後を任せたのです」
「ほら、私は嘘は言ってませんよ!」
すかさずダッシュ殿が、自己弁護し始めた。
疑われていたのかな?
「旦那様、お身体は平気ですか?
痛くはないですか?」
テファが泣きそうな顔で、訊ねてくる。
前にロングビルさんに重傷を負わされた時みたく、抱き付いてはこなかったが……
「僕も水のトライアングルですから分かります。
酷い火傷ですが、完治します。
時間は掛かるけど、傷も残らないですよ」
それを聞いて皆が安心したようだ。
「少し休みますね。
その前に父上とダッシュ殿とワルド殿は、お話が……
残って貰えますか?」
これからの対策だけは、話しておかなければ……
「良いだろう。
皆は先に休んでくれ。
テファ殿は、先程まで徹夜で看病していたのだ。
後で礼を言っておけよ」
今は有能な父上だ!
テキパキと皆を下がらせ、ベッドの脇に椅子を3つ用意し並んで座る。
「さぁ話せ……」
気付いてるのかな?
「この怪我……
ちょうど良いから利用しましょう」
「ダッシュ殿の報告に有った、アンリエッタ姫の暴走が原因か?」
ダッシュ殿を見れば、頷いている。
「私が大筋を話しました。
しかし、アルブレヒト閣下への謁見はその怪我では無理でしょう。
なので、ツェルプストー辺境伯に使いを出して貰いました。
彼に来て貰い、そして閣下に報告をして貰う」
流石だ、ダッシュ殿!
「流石です、ダッシュ殿。
父上、アンリエッタ姫は、我らでは既に制御不能……
そもそも彼女を制御など、近くに張り付いて居なければ不可能でした。
不正の資料・リストを渡し、全ては義父上達に託しました。
しかし、最悪の事態を考えてゲルマニアも増援を送ろうかと考えたのです」
父上は、目を閉じて考えている。
「貴様から見て、王党派はどうだ?
我が祖国を巻き込む必要が有るのか?
そもそもアンリエッタ姫の恋愛成就など、もう協力する必要も無かろう!」
んー父上は、アンリエッタ姫を見限るつもりかな?
「ウェールズ皇太子。
実際お会いしましたが、有能ですし我らと同等の変態ですね。
アレは、僕達との連携の取れないアンリエッタ姫ではどうこう出来ません。
現戦力では、王党派は少し不利ですから。
あと一手をトリステインに打たせ、花を持たせる予定でしたが……」
「あの暴走姫のせいで、精々が国内の腐敗貴族の処理で終わる……か?」
「増援まで、話を纏められるかが疑問です。
でも増援が無いと王党派が危険だ。
だから戦意高揚を含めて、僕はアルビオンに向かいます」
「お前が、其処までする必要は無いだろう。
ゲルマニアの参戦許可がおりれば、ウチとツェルプストー辺境伯の常備軍で事足りる」
親として、至極真っ当な意見だ。
「閣下へのお願いは、義父上が来てから話し合いをしましょう。
我らゲルマニアには悪くない話ですから。
アルビオンとの軍事同盟と婚姻同盟……
閣下の悲願の始祖の血を帝室に入れる事も可能ですから」
アルブレヒト閣下は、ゲルマニアが始祖の血が入ってない事だけで、国力の格下連中に軽く見られるのが我慢出来ずにいる。
アルビオン王国はハルケギニア最大の空戦力を持っているから、軍事同盟にも旨味が有る。
それに、ジェームズ一世もウェールズ皇太子も王族としてマトモだ。
彼らは、話し合いで手を組む事が出来るだろう。
この国際交流は、お互いの利益が有るから問題は無い……
「今は少し休め……
それと、先程ワルド殿から聞いたが。
極上のロリっ子が、此方に向かっているそうだ。
それが、ミス・ジョゼットか?」
ああ、忘れてた。
「ワルド殿、首尾はどうだったのですか?」
ワルドズの方を見ると……
ダッシュ殿が目を逸らしたぞ?
「ツアイツ殿、取り敢えずミス・ジョゼットを彼女の意志で、セント・マルガリタ修道院から連れ出す事には成功しました。
序でに、ロマリアとジュリオに隔意を持たせる事も上手く行きました。
彼女はホ〇国家と、それに情報を売ったジュリオを恨んでます……」
それは……
ロマリアがガリアにちょっかい掛ける芽の一つを摘めたって事かな。
落ち着いたら、イザベラ姫に相談しよう。
彼女なら、悪い様にはしないだろうし。
また迷惑を掛けてしまうな……
お詫びに何を贈ろうかな?
などと彼女の好きそうな物を考えていたら、エーファから報告が有った。
「ツアイツ様、済みません。
ガリア王国竜騎士団団長カステルモール様とご内儀様以下イザベラ隊の皆様が、面会を求めていますが……
どうしたら良いでしょうか?」
まさかの、ガリア精鋭部隊の来訪の知らせだった!