第137話
イザベラ姫の命を受けて、民間船にてハーナウ領へやって来たカステルモール様御一行……
レコンキスタを潰す前に、ツアイツの安否をイザベラ姫に伝える。
ただ其れだけの為に、やって来た一団だった。
「それで、彼らは何処に居るんだい?」
「それが、総勢32名もいらっしゃいましたので、大広間にてお待ちです」
32名だって?
そんなに押し掛ける程の事が有ったのかな?
「分かりました。
では大広間に行きま……
イテテテテ……」
「ツアイツ殿、無理はしないで下さい。
代表で、カステルモール殿だけを先に通して貰えませんか?」
ダッシュ、ナイスフォロー!
エーファが、カステルモール殿を呼びに行った。
「ご内儀……
奥さんだよね?
エルザの紹介だけなら、大袈裟な……」
「ツアイツ殿、ご無事ですかー?」
カステルモール殿が、物凄い勢いで室内に入ってくる。
「カステルモール殿、お久し振りです。
どうなされたのですか?」
カステルモール殿は、僕を上から下までじっと見詰めている……
左腕から左半身に向けている視線が厳しい。
「ああ、これはレコンキスタからの刺客にやられてしまいましたが……
大分良くなりました」
本当は昨夜のシェフィールドさんヤンデレ化事件の傷なんだけど、ガリア組には仮病って伝えてなかったから……
「その傷……
まだ塞がり切ってないではないですか!
そんなに血が滲んで……
でも意識はハッキリしているので良かった。
回復の見込みは、どうなのですか?」
まさか心配して来てくれたのかな?
「先程、意識が戻ったんですが……
僕も水のメイジ。
後は完治まで、そう掛からないですよ。
あの、カステルモール殿……
聞いてますか?」
もんの凄い殺気をたぎらせてマスケド?
嘘がバレたのかな?
「あの……
カステルモール殿?」
「ツアイツ殿……」
「はっハイ!
なっ……何ですか?」
この真剣な顔は……
何が有ったんだ?
「お願いが有ります。
動ける様になったら、一度イザベラ姫に会ってあげて下さい。
彼女は、ツアイツ殿の怪我を会報で知ってから塞ぎ込んでいます。
せめて手紙でも構いません。
無事を知らせてあげて下さい」
そう言って頭を下げた。
「あっ頭を上げて下さい。
ちょうどイザベラ様には、何か贈り物をしようと考えていたところでしたから……」
カステルモール殿は、それでも頭を上げてくれない。
「私は、あの意地っ張りで我が儘で意地悪な姫を気に入っています。
見た目よりも、ずっと強く気高い姫を……
しかし、ツアイツ殿の怪我を知ってから……
彼女が、泣きそうな小さな少女に見えてしまうのです。
出来れば、直接会って無事を知らせて頂きたいのです」
えーと……
イザベラ様が、僕の事を心配して塞ぎ込んでいる。
イザベラ様と僕は……
友達で共犯で戦友?
そしてアイドルとしてのプロデューサー?
どちらにしても、彼女が僕を心配してくれているのは嬉しいかな。
「勿論です!
ちょうどお会いして話したいと思ってましたから」
「そうですか!
良かった、それなら我らが護衛の任に付きます」
やっと頭を上げてくれた。
「折角、我が家に来てくれたのですから暫く滞在していって下さい。
イザベラ様には、直ぐに手紙を認(したた)めますので……」
ワルドズの方を見て
「カステルモール殿達の世話をお願いしますね」
そう言って、部屋から出て行って貰った。
……ヤバかった。
あの勢いで心配してくれて来たのに、実は謀略で仮病でした、テヘッ!
何て言える訳無い。
カステルモール殿に頭まで下げさせてしまったからには、何としてでもガリアには行かねばならない。
イザベラ様……
僕の事もちゃんと心配してくれたんだ。
でも立地的にアルビオンより先にガリアには行けないよな……
どうしようかな?
うんうんと考えてみるが、時間と距離の関係で難しい。
そうだ!
もう1人、フォローしないといけない女性が居たんだった。
僕は天井に向けて話し掛ける。
「お姉ちゃん。
居たら出て来て欲しいな」
シェフィールドさんは、音もなく部屋の隅に転移してきた。
「ツアイツ様……」
彼女の目は、まだ微ヤンデレな感じがする。
「お姉ちゃん。
気持ちは嬉しかったよ。
でも、家族が互いに傷を付けちゃダメだよ。
お姉ちゃんは、ジョゼフ王のお嫁さんになるんだから、花嫁に傷が有っちゃダメでしょ?」
ジョゼフ王よ。
ヤンデレパワーは、全て貴方に向けさせて貰います。
「ツアイツ様……
私の事を嫌ってないの?」
「何で?
僕はお姉ちゃんを傷付けたかもしれない、僕の事が許せないんだ。
お姉ちゃんに怪我は無かった?」
よし、黒目が減ってきた。
もう少しだ。
「私は平気。
ツアイツが庇ってくれたから……」
「良かった、安心した……
じゃあ、少し寝るね。
寝るまで側に居てくれる?」
シェフィールドさんの目は、慈愛に満ちた何時もの目だ……
ヤンデレエンドは回避出来たぞ!
「ツアイツは、お姉ちゃんが居ないと寝れないのね?
しょうがない甘えん坊さんね……」
ベッドの脇の椅子に座り、頭を撫でてくれる。
良かった……
元に戻ったよね?
何か地雷を踏んだ気がビンビンするが、ジョゼフ王に押し付けるから平気だ。
それに普段は優しいお姉ちゃんだから……
彼女を泣かせるのは嫌なんだ……
でも今は、少し寝よう……
体が休息を欲しがって……る…から……
SIDEシェフィールド
良かった……
ツアイツ様が、他の連中みたいに私を化け物として見たら……
どうしようかと、思ってしまったから。
彼は、他の奴らと違う。
私を恐れていたら、こんな無防備な姿は晒さないわ……
優しくて、思いやりが有って、有能で、何処か壊れて狂っている大切な私の弟……
今だって無理して私をフォローしてくれたんだわ。
嗚呼……
彼を、ツアイツを独占したい!
私だけのツアイツにしたいわ……
でも駄目よ。
ツアイツは、私をジョゼフ様の花嫁として傷が付かない様に体を張って守ってくれたの……
その気持ちを大切にしなければ。
早くジョゼフ様と結ばれて、ツアイツをガリアに呼んで3人で暮らしたい。
それには、レコンキスタはもう要らないわ。
早く壊したいけど、ツアイツの頑張りを無駄には出来ないわ……
「あら?
ツアイツが魘されているわね。
大丈夫よ。
お姉ちゃんがずっと側に居てあげるから……」
ヤンデレエンドフラグは、まだ折れていなかった!