第13話
貴族なんだし許婚の一人や二人居ても……ね。
正直この一言は痛かった。
これで男子だけでなく、女子からも隔意を持たれてしまう。
ルイズが何か言う前に
「友好的な貴族の間で、自分の子供達を結婚させようって話は割りと有るけど。
僕らの場合は、お互いをもっと知る為に同じ学院に入学したんだ。
君らの両親も僕以外の相手も視野に入れて検討しろって事で言ったんだよ。
だから良く考えて喋らないと、周りが誤解するよ」
「「私と結婚は嫌なの?」」
二人が不安そうな顔で見ている。
ヤベー何かグッと来る物が有るな女性の不安顔って……
「嫌じゃないけど、決めるにはまだ早いって事だよ。
良く考えないと後悔するし、周りの皆だって素敵なレディ二人に遠慮してしまうよ」
と、取りあえず誤魔化した。
そしてポツリと
「僕だって在学中に相手を見つけないと、カリーヌ様からエレオノール様との結婚を進められそうだし……」
と言うと周りの反応が同情を含んだ物と、キュルケとルイズにはまだチャンスが有る事を理解したようだ。
これで少しは僕らの風当たりも弱くなるだろうし、夜にでも彼女らにも理由を説明しておこう。
折角の学院生活がつまらなくなるし、彼らはこれからのトリステインを担う世代だから、仲良くしておかないと後々で問題が発生する。
その辺も二人に言い含めないと……
キュルケはともかく、ルイズはその辺の考えが甘いからな。
やはりと言うか早速ギーシュが二人に粉をかけていた。
「美しいお嬢さん方、ギーシュ・ド・グラモンです。宜しく」
と薔薇を咥えて気障なポーズを決めている。
実際に見るとコレハイタイナー……
モンモンの様子を見ればそんなに嫌がってないけど、まだ付き合ってないのかな?
モンモンと目が合ったので、ニコリと微笑んでおいた。
彼女には秘薬(豊胸薬)のアドバイスが欲しいので、仲良くしたいんだよね。
あっ真っ赤になって目を逸らされた……
やはりゲルマニア貴族は、トリステインでは嫌われているのかな?
地味に凹むわ。
ギーシュ達を見れば二人に、こっ酷く振られている。
キュルケには趣味じゃないしツアイツの方が素敵といわれ、ルイズにはキモイから近付かないでと怯えられている。
ギーシュ呆然……
そして僕に詰め寄って
「君の所為で、レディ二人が僕の魅力に気が付かない様になってしまった。
どうしてくれるんだい?」
と言い放った。
「どうしろと言われても、彼女らの趣味じゃなかったんだろ?」
と言うしかなかったのだがキュルケとルイズが
「「ツアイツに絡むな変態の露出狂!」」
と止めを刺してしまった為、ギーシュはプライドを傷付けられたと僕に決闘を申し込んだ。
「君の所為で、二人のレディの美的感覚が狂ってしまった。
どうしてくれるんだい?
決闘だ!
まさか断らないよな」
「いや……
しかし、貴族間の決闘は禁止されてるんじゃないのか?」
おいおいギーシュ、決闘騒ぎはサイトが来てからだろ。
「ふん。
逃げるのか。
ゲルマニアには貴族のプライドが無いのかい?」
薔薇を咥えてあくまで余裕の咬ませ犬ギーシュ君。
「ツアイツやっちゃいなさいよ!
お母様から聞いたわよ。
戦闘訓練でお墨付きを貰ったって」
「そうよ。
最年少スクエアメイジなんだし、軽く捻っちゃえ」
こらこら追い討ちをかけるな。
ギーシュ真っ青だよ。
「ききき君は……ももももしかして……
烈風のカリンの弟子って噂の……」
「ヴァリエール夫人とは、家族ぐるみの付き合いで何度か魔法の指導を受けているのは本当だよ」
「ででではヴァストリの広場にて待ってるからな……
ににに逃げるなよ」
正直に言って面倒臭いし目立ちたくないんだけど、断ると臆病者扱いだろうな……
全く君の出番はまだなのに。
「誰かヴェストリの広場まで案内してくれないか?」
何人かのモブ達がこっちだど案内してくれる。
入学式当日に決闘騒ぎとは、問題児扱い決定だろうな。
だが今後も突っかかって来る馬鹿は必ず居るから、ここは完全に力の差を見せ付けないと……
とのんびり歩きながら考えていた。
ヴァストリの広場につくと、結構な生徒達が輪になって集まっている。
上級生もチラホラ居るな。
何となくギーシュの後ろにギーシュを応援する男達が集まり、僕の後ろにはキュルケ+ルイズ+その他女性陣な配置だ。
あっタバサ発見。
でかい杖に眼鏡っ子で本を読んでいるけど、こっちに注意を向けているのはわかる。
今日始めて会うが、原作と同じチッパイのロリっ子だな。
原作ではルイズと人気を二分する程のキャラだ。
確かに綺麗だし保護欲をそそりそうな娘だね。
実際はかなりしっかり者で、頑張り屋さんなんだが見た目では解らない。
それに彼女とは、深く係わらないつもりでいる。
正直ジョゼフなんぞに、目を付けられたくはないので……
「よく逃げずに来たな。褒めてやろう」
ん?ギーシュ少し落ち着いたのかな?
後ろからは男性陣が応援している。
「ギーシュやっちまえー」
こらこら煽るなよ。
「お前と違い美女を独り占めしそうだからやっちまえー」
そんな事はないよ。
「ルイズたんハァハァ」
いやヤバイの混じってないか?
「いや逃げると言う選択肢は無いだろ。
お互い貴族ならば」
ニヤリと言ってやる。
「よくぞ言った。
僕は青銅のギーシュ。
このワルキューレ達でお相手するよ」
そう言って薔薇の杖を振り花びらを舞わせて、更に花びらを錬金してワルキューレを作り出す。
全部で7体、既に剣・槍・盾を各々装備してる最初から本気モードだ。
僕は周りに
「あーもっと離れて離れて!」
と声をかけ、直径30m位の輪を倍の直径60m以上に広げさせた。
「二つ名はまだ無い。
ゲルマニアのハーナウ家長子ツアイツ、いざ参る」
そして自身最高のゴーレム(機動な戦士の敵方量産機)を錬金する。
「クリエイトゴーレム!」
自分の前方に全長18mのゴーレムにアックス2本装備を錬金し、ギーシュと向かい合う。
「お互い正々堂々と勝負しよう。
では薙ぎ払え!」
ダブルアックス投擲→吹っ飛ぶギージュ+ワルキューレ7体→序に土砂も吹っ飛ぶ→ギーシュ側の応援団(男達)全滅……
「悪は滅びた……
戦いは常に虚しいだけだ。
何も僕に残さない」
渋く決めたつもりでこの台詞を言い、ゴーレムを戻して抉れた土を元に戻し颯爽と後ろを向いて後を去ろうとしたが……
後ろには半円に並んだ女子達が居るので、その輪に突入する形となってしまった。
魔法が絶大な意味を持つトリステインでは、僕のゴーレムは圧倒的だったから其れなりに高感度アップかな?
と軽く考えていたが……
ミナサン、ハンターの目をして僕を見詰めている。
アノメハキケンナカンジガスル……
金髪ロール、モンモンが突撃してきた。
「ツアイツ様は新しい水の秘薬を数多く生み出していると聞きましたが、土のメイジだったんですか?」
あー風邪薬とか頭痛薬とかハンドクリームとか、平民用に安く配合し直した事かな?
「土のスクエアですが、水もトライアングルなんですよ。
モンモランシ家のお嬢さん」
とニッコリ。
「私の事をご存知なんですか?光栄ですわ」
「母からトリステインのモンモランシ家のご令嬢の調合する香水について、聞き及んでいますから」
と顔つなぎの意味でお世辞をいった途端に、キュルケとルイズに両耳を引っ張られ
「デレデレしない」
とズルズル連行されてしまった。
まだ周りも話したそうだったけど、般若な二人に気後れたのかそのまま見送られた。
ドナドナドナードナーな気分。
その後、二人の機嫌を直すのに虚無の日に出掛ける約束をさせられた。
教室に戻ると、コルベール先生が待っていてギーシュと二人で学園長室に行く様に言われ連行。
ギーシュ何気に回復早くね?
廊下を歩いている最中にギーシュから
「モンモランシ嬢と話していたけど仲が良いのかい?」
と聞かれた。
やっぱりモンモン好きなのかな?
「同じ水メイジとして彼女の香水について聞いていただけだよ」
「えっ君は土メイジじゃないのかい?」
「土はスクエアで水もトライアングルなんだ。」
「水もトライアングル!
凄いな!
あの烈風のカリンの愛弟子ってのは、本当だったんだ」
「弟子入りしたいなら紹介するよ。
ただし死ぬか生きるか的な拷問に近い訓練だけど……」
あっなんか思い出したら涙が……
「すまない。
嫌な事を思い出させたかい?」
僕の空ろな眼でガクブルしだしたのをみて、不味い事を言ったのかとフォローしてくれた。
「正直あのシゴキを耐えただけで自信が付くよ。
但し余り忍耐力を付け過ぎると、エレオノール様の婿として期待されるけど」
「あのエレオノール様か……
たしか破談記録更新中だったよね」
「知ってる?
あの人破談する度に、僕を呼付けて夜通し自棄酒で愚痴を聞かすんだぜ。
堪んないよ実際」
「すまない。
弟子入りの件は無かった事にしてくれ。
そんな拷問と特典はいやだよ」
「ルイズだって、あのカリンの血を強く引いているんだぜ。
気を付けろよ。
僕は派手だけど怪我をしない様に注意するが、彼女は問答無用で男の子の急所を狙うよ、マジで……」
「それは……
忠告有難う。
改めてすまなかった、言い掛かりみたいな事をして」
「いや僕も舐められちゃいけないと派手にやりすぎたよ。
こちらこそごめんな」
僕ら二人は学院長室に着く前に和解した。
こいつは友達として見れば良い奴だな。
そんな二人をコルベール先生はため息を付きながら
「兎に角、しっかり謝る事ですよ」
と僕らを学院長室に押し込んだ。