第142話
久し振りに、エーファ達とイチャイチャして戻ってみれば……
庭で殴り合いの喧嘩をしている父上ズを発見した。
ウチの父上と義父上は、年も近く若い頃から良くつるんでいたとは聞いていたが……
「良い大人が、殴り合いの喧嘩とは何をしているんですか?」
全く、親がアレだから子供は苦労するぜ。
ヤレヤレだぜ。
な、ポーズを決める!
「「お前のせいだろーが!
ガリアの姫を口説き落とすなど、聞いてないわー!」」
あれ?
イザベラ様が僕と?
「何を言っているのですか?
それは無いですよ。
本人も笑って否定してましたし……
彼女の旦那さんは、ガリアに有益な者がなるんだと。
きっと有能な奴なんでしょうね、羨ましい」
「「お前なぁ、あんなにイザベラ姫と仲良くしておいて、それは無いだぁ?
よし、お前も外に出ろ。
世間の常識を教えてやる!」」
失礼な人達だなぁ……
「はいはい。
でも僕は怪我人ですし、騒ぐとシェフィールドさんが現われますよ?
それで、今日の内にガリアに出発しますけど宜しいですか?」
キョロキョロと周囲を見回す父上ズ。
「「いいかツアイツ!
くれぐれもイザベラ姫と、変な約束はするなよ。
分かってるよな?」」
変なって……
「無事を知らせて、ちょっと相談するだけです」
幾ら僕でも、イザベラ姫は無理だと思うぞ。
大国の姫と他国の貴族の嫡子……
物語の中だけの出来事ですよ。
そんなラブストーリーは!
そして、ツェルプストー辺境伯は閣下の下へと旅立っていった。
男の浪漫本の新刊を3部づつ持っていったが……
一族幽閉のエーさんは、健在のようでした。
SIDEお買い物軍団
名も無き我が領地の街を歩いている。
トリステイン王国のブルドンネ街よりは、よっぽど賑やかだ。
この辺は、ハーナウ一族が商人出身なのも関係が有るだろうか……
街に繰り出したメンバーは
ワルド殿・ダッシュ殿・ロングビルさんの大人の護衛チームにテファとジョゼットだ。
最も、テファは既に街中の人が知っているツアイツの大切な人だから……
「若奥様、今日は何かお求めですか?」
「ティファニア様、ツアイツ様が喜びそうな物が入荷しましたよ」
「新作が入りましたので、後で寄って下さい」
などと、歩く端から声が掛かる。
既に、ツアイツの婚約者だと知れ渡ってるし、特に威張っている訳でもない。
見目麗しく物腰の柔らかな彼女を嫌う者はいないだろう……
「テファさん、すごーい!
街の人達の人気者なのね」
「テファ……
お姉ちゃんより先に若奥様かい。
ツアイツ様、早く私も貰ってもらわないと……
マダオより後なんて我慢できないからさ」
残りの女性陣の反応はマチマチだ。
「いえ……
街の皆さんには、良くして貰ってますから」
真っ赤になって弁解する彼女を見て、市民達の好感度は上がっていく。
「そっそれよりジョゼットさんの衣服を揃えましょう。
本当なら屋敷に商人さんをお呼びするのですが……
あっこの店です」
衣服を扱う商店を指差す。
それなりの店構えの小綺麗な店だ。
「こっこんな店?
私、無理です無理。
お金無いですから……」
ワタワタと慌てるジョゼットに
「旦那様から、これ位使って良いと言われてますよ」
と片手を広げて見せる。
「5エキュー?」
「いいえ。
暫く滞在するのだからと500エキューです。
この店ですと、一着安くても30エキューはしますし……
あっ倒れた?」
ジョゼットは、後ろに倒れ込みそうになりダッシュが支えた。
「そっそんな……
服で500エキューとか無理ですぅ」
倒れたジョゼットを見ながらしみじみと話し出す。
「ツアイツってさ……
こんな所が、やっぱり貴族様だよね。
軽く買い物に行けって、平民の三年分近い予算を出すし……
アルビオンの不正貴族から巻き上げたお金は要らないって言うし。
やっぱりハンサムで有能でお金持ちって良いわぁ……」
ロングビルが、遠い目をしている。
「お姉ちゃん!
それがツアイツ様の優しさなの。
私の時は、全てご自分のデザインをオーダーで作らせたから。
金額を聞いて驚いたわ!
だって、お屋敷が買える位ですもの……
笑って余り使う事が無いからって、言ってくれたけど」
テファの時は、きっと0が1つ多かったのだろう……
「どちらにしても、これ以上の買い物は彼女には無理だろう。
明日にでも屋敷に呼んで見立てて貰おうか。
店主に話をしてくる。
皆はジョゼットを連れて先にお茶でも飲んでいてくれ」
良い所を見せたいワルドが、そう言い出した。
「そうだね。
じゃ頼むよ。
ジョゼット、ほら驚いてないで起きな。
お茶を飲みに行くよ」
庶民派のジョゼットには、女性陣に優しくお金持ちのツアイツの親切は……
メンタル的に辛かったみたいだ……
喫茶室と言う、貴族だけでなく平民も利用出来る価格帯のお茶を出す店に行く。
「うー落ち着きません。
どう見ても周りの方が気になってしまって……」
確かにこのメンバーは人目を集めるだろう。
美女・美少女が三人に、双子みたいな(黙っていれば)美丈夫が居るし……
「大丈夫です。
私も未だに馴れませんが、周りの人達は皆さん親切ですし、ね?」
天然さんは強かった!
「ミス・ジョゼット。
ツアイツ殿に悪気はないのだ。
少し驚くかも知れないが、素でああ言う態度だからな。
慣れる事だね。
これから、お世話になるのだろう?」
ロングビルが、誰こいつ?
みたいな顔で見る。
「ワルド様、今日は格好良いですね!」
「はははっ!
そうかい?照れるな」
テファのお世辞にも、爽やかに応えている。
概ね好印象を与えられただろう。
頑張れ、ワルド!
「でも、本当にお世話になりっぱなしで良いのでしょうか?
私、何も持ってないし何も出来ません……」
俯いてしまうジョゼット。
「ツアイツ殿が言っていたよ。
ミス・ジョゼットは、このままでは国の都合で扱いが酷くなるだろう。
ならば、利害が一致している我々の所にいるのが、私にとっても都合が良い。
だから気を使う必要なんてない……
ってね。
だから、君は此処に居て良いんだよ。
居なくなる方が大変なんだ」
「ワルドさま……
やっぱりツアイツ様って素敵!
こんな私にまで、気を使ってくれてるんですよね?
テファさんいーなー!
あんな旦那様なら私も欲しいです」
ダッシュが、ワルドの裾を掴んで囁く。
「本体、ツアイツ殿を持ち上げるのは良いが、すっかりツアイツ殿の方を気にしてるぞ?
自分をアピールしなくて、どうするんだ?」
「嗚呼……
しまった、つい……」
本末転倒か?
恋心より忠誠心が勝ったのか?
ジョゼットの中で、ツアイツの株は急上昇!
しかし、大人の対応のワルドの株も上がっていた。
このまま、変態紳士がバレなければ上手くいくかも知れない。