第143話
「私の名前は、アンリエッタ・ド・トリステイン。
偉大なる始祖ブリミル様の血を引く王女ですわ。
でも今は1人の恋に悩む哀れな女……
私は、天空の高貴なる人に恋をした地上の姫でしたわ。
彼のハートを鷲掴みする為に努力してきました。
しかし、私の成長を見守り強力な援護をしてくれている殿方の存在を認めてしまった……
あのお方は何故、私の為に無償の協力をしてくれるのかしら?
もしかしたら、私の事を好きでいてくれてるの?
彼の気持ちに応えなくてはならないのでは?
でも、私のお友達の婚約者でもあるわ。
嗚呼……
友情を取るか?
恋を取るか?
私は、その事を考えると夜も眠れませんわ。
始祖ブリミル様!
私はどうしたら良いのですか?」
トリスタニアの王宮のベランダで、毎夜行われる幸せな姫様の一人芝居。
銃士隊の連中は、この姫の痴態を隠す為に苦労を強いられていた。
「ねぇねぇ?
今夜の姫様は、ツアイツ様よりな気持ちなのね」
「昨夜はウェールズ様との結婚を決意して、ツアイツ様に決別の思いを伝える迄行ったものね」
キャイキャイと、うら若き銃士隊員達はアンリエッタ姫の一人芝居の感想で盛り上がる。
「でもウェールズ様って、お国が大変じゃない。
噂では連戦連敗だそうよ……
それに比べて、ツアイツ様は著書の人気も凄いわ。
やはりボンボンより社会に出て稼いでる殿方の方が私は良いかも」
「えー、でもツアイツ様ってエロい本も書いていて、そっちにはファンクラブまで有るそうよ。
ちょっと気持ち悪いわよ。
私なら、サラブレッドの王子様を狙うわ!」
それぞれに支持者が居るようだが、基本的にはアンリエッタ姫の妄想話だ!
「おい!
無駄話せずに周りを警戒しろ」
アニエス隊長とミシェル副隊長が、若い隊員を窘める……
「しかし、アンリエッタ姫のお相手ってどちらが良いのかしら?
隊長なら、ウェールズ様とツアイツ様のどちらと結婚したいですか?」
「ああ?
どっちもお断りだ!
しかし能力的には、あの変態の方だな。
ボンボンじゃこの国も危ういぞ」
ガチレズねーちゃんだから、男全般を敵視しているが、どちらがこの国の為かと聞かれれば……
自国も纏められず、内乱を押さえるのに四苦八苦してるボンボンより、どんな手でも使ってくるツアイツの方が頼もしいと思っている。
実際に園遊会で会ったウェールズ皇太子は……
アンリエッタ姫から逃げるだけの、情けない男だったし。
「意外ですね。
アニエス隊長が、ツアイツ殿を選ぶとは……
やはり園遊会で、手を繋がれていたと聞きましたが。
お好きなのですね?」
「はぁ?手を繋ぐ?
ばっバカもの!
あれは逃げるアイツを姫様の下に連れて行く為に仕方なくだな……」
「アニエス隊長が、殿方の手を触れるだけでも大変なのは、皆が知ってますよ。
それをしっかり握り締めて走るなどと……」
「ちっ違うぞー!」
「お静かに!
アンリエッタ姫が、室内にお戻りになりました。
今夜は、ツアイツ様への気持ちを確認したが、国の為にウェールズ様に嫁ぐ!
で終わりましたね」
「周囲を確認して、撤収するぞ!」
「「「「了解しました」」」」
綺麗な敬礼をして散らばって行く隊員を見て、溜め息をつく……
SIDEアニエス
「全く、他人の恋愛は面白い……か……
しかし、あの変態め。
姫様の心を乱しおってからに」
アンリエッタ姫が、ウェールズ皇太子に向ける気持ち……
それは憧れだ!
今は恋心も本物だろう。
しかし、他に魅力的な対象が現れたら?
その思いが続くのかが不明だ。
では、あの変態に向ける思いは?
それは依存だと思う。
何時も、的確な方向性を示し、彼女のお願いや悩み事を全て解決する。
しかも、あの園遊会の時にアルビオン王国の皇太子に対して、一介の貴族の嫡子が……
アンリエッタ姫の為なら、手段を選ばす彼女の思いを添い遂げさせる!
なんて啖呵を切ったんだ。
王族にだぞ。
それが、どんなに重い事なのか知っているのか?
あの変態は、実はアンリエッタ姫をとても大切にしている。
あっ愛しているのではないのか?
ならば、あの行動も理解出来る。
自分の書いた脚本だって、タダで献上したt
「アニエス隊長、赤くなってどうしました?
噂では、ツアイツ殿は刺客と戦い怪我を負ったとか……
心配なのですね?」
ミシェルめ。
何を言い出すかと思えば……
「別に心配などしていない。
怪我を負ったのは事実だろうが、あの変態が死ぬ訳がなかろう」
あの腹黒い、用意周到な変態が只でやられるか!
主犯は倒したそうだし。
どうせ、軽症なのを周りが騒いでいるだけ。
シェフィールドお姉様が、付いていらっしゃるのに……
嗚呼、あの鋭利な眼差しで又見詰められたい。
お姉様は、今何をしてらっしゃるのかしら?
SIDEミシェル
「アニエス隊長?
どうしました、トリップしてませんか?」
目の前で、掌をヒラヒラと翳すが反応が無い。
どう見ても、目をウルウルとさせて上気した表情を浮かべているのだが?
これは、本当にゲルマニアの少年に惚れているのかもしれない。
しかし、女性隊員を片っ端から部屋に呼ぶ変態だと思っていたが……
男女共に喰える変態か!
しかも相手は15歳の少年と聞くが……
アレか?
巷で噂のショタコンか?
この間は、私を押し倒そうとしたのに。
あんなに真剣に私を口説いてくれたのに……
本気なのかと思えば、遊びだったのだな。
もう知らないから……
妄想姫の腹心は、やはり妄想娘だった。
しかも、ミシェルは隊長なら体を許しても良いかな?
とまで思っていた。
しかしこの痴態を見て、それは幻想だったのだ!
と、理解しアニエス隊長を放って任務に戻る事にした。
残念、アニエス隊長!
君のレズハーレムは、当分無理だろう。
周りも、君がショタコンのツアイツ狙いと思い始めている。
まぁガチレズよりショタコンの方が、ほんの少しだけマシかも知れないぞ。