第144話
お留守番ルイズ!
両親がトリスタニアに行ってしまい広大な屋敷に1人きりとなってしまった。
エレオノールねえ様は、アカデミー。
カトレアねえ様は、自分の領地に。
「暇だわ……」
デザートのクックベリーパイをフォークでつつきながら、ポツリと零す。
両親から、ツアイツの怪我の話は聞いた。
相変わらず、色々忙しい婚約者の事を思う。
「ツアイツがウチから出て行って一週間も経っていないのに……
なんで私暇なのー?」
今月末には学院で会えるのだが、広大なヴァリエール領に1人きりでは退屈で仕方がない。
「でもお母様から、自分達が戻るまでは屋敷から出ては駄目だと言われているし……」
フォークで突き過ぎて、クックベリーパイは既に原型を留めていない。
「ツアイツ風に言えば、ニート満喫中なんだけど……」
御馳走様と言いながら、自室に歩いて行く。
ボーっと庭に設えた東屋に行き椅子に座る。
「暇、暇なの……
そうだわ!
屋敷から出れないなら、屋敷に呼べば良いのよ」
早速、親友のキュルケ・モンモン・タバサ……
は、ガリアに戻ってるらしいけど、鷹便なら届くのかしら?
イザベラ姫と仲直りしたって言っていたから、プチトロア宛で送れば良いかな?
検閲されても問題無い内容なら平気でしょ!
スラスラと手紙を認(したた)め鷹達に括り付ける。
「あなた達、頑張ってね!」
瞬く間に視界から消えてゆく鷹達を見ながら、早く親友達と遊びたいと思う。
そして、これはツアイツ宛よ。
先程の三通より分厚い手紙を鷹に括り付ける。
気のせいか、鷹も積載量を越えてますよレディ?
な、目線を送るがスルーされてしまった!
「さぁ旦那様の所に!
返事を必ず貰って来なさい」
ヨタヨタしながら飛び立つ鷹……
彼はこの手紙を無事に届けるが、ツアイツはガリアに発った後だった。
息も絶え絶えだったので、受け取ったテファが双子山に挟みナデナデしたら元気に回復し、ハーナウ家に居座っている。
何たって返事を貰わねば帰れないのだから!
お留守番キュルケ
お父様が急にハーナウ家に呼び出されて行った。
詳しい内容は分からなかったが、何やら
「またか?あのアホ姫が!」
とか言っていたから、多分アンリエッタ姫が何かやらかしたから調整が必要なのだろう……
「旦那様も大変ね。
普通なら他の女の事でワタワタするなんて、お仕置き物だけど……
私は出来た妻だから、何も言わないわ」
自室で寛ぐ若奥様はのんびりとしていた。
「しかし、暇ねぇ……」
対外的にハーナウ家との婚姻を知らせてない為か、ツェルプストー夫人が嫡男を妊娠中の為だろうか?
彼女を舞踏会等に招待する貴族が増えた。
お父様も付き合い的に断れない相手には、行く様に言われているが、他のはキュルケの意思に任されている。
とある夜以降、急激に色気を増した彼女は大人気だ!
「暇だからお呼ばれしようにも、同世代の子弟の紹介ばかりだから嫌なのよね。
ウザいしエロい目で見るし……」
机の上に、幾つもの招待状が有るのだが……
火の魔法で跡形も無く燃やしてしまった。
どうやら全て、不参加の様だ。
お出掛けツアイツ
イザベラ姫とウェールズ皇太子に手紙を認(したた)める。
どちらも王族。
いきなり訪問など失礼に当たるだろう。
ガリア王国の方は、カステルモール殿が同行してくれてるのでなんとかなるか。
しかし、戦時中のアルビオン王国はそうはいかない。
最悪の場合、拘束されたりする心配も有るからね。
「ツアイツ殿、準備は宜しいか?」
カステルモール殿が部屋まで迎えに来てくれた。
エルザも一緒だ。
「ツアイツお兄ちゃん、早く行こうよ!」
エルザ殿は、カステルモール殿の背中に貼り付いている。
夫婦?
いや親子として周りは見るだろうな……
「ええ。
この鷹便を放てば完了ですから。
さぁお行き……」
クェ!
と一鳴きして、力強く飛び立つ鷹達。
「イザベラ姫にですか?」
「ええ、先に知らせておいた方が良いかなと。
それと、アルビオン王国に一報を入れておかないと……」
「相変わらず、気を配ってますな」
これが、人間関係を円滑にするんですよ!
と、話しながら庭に出る。
そこには、見事な風竜と火竜達が羽を休めていた。
一際大きい風竜に近づく。
「ブリュンヒルデ、久し振り!」
ポンポンと首の付け根を叩くと、顔を擦り付けてくれる。
しかし、顔と言っても子供の体位有る訳だから尻餅をついてしまう。
ベロベロを追撃で舐めてくれるのだが……
「ちょ、待って……
舌がザラザラでくすぐったいから……
てか、カステルモール殿止めて下さい」
「ツアイツ殿は、相棒に気に入られたんですよ。
普段は気難しいのですが……
ほら、ツアイツ殿が困っているぞ」
やっとじゃれるのを止めてくれた。
「行きは空中船だったのではないのですか?」
ウチの高速船を要らないと言ったけど、まさか風竜だけでは長旅だよ?
「国境に船を待たせてます。
大型ですから、竜達も乗せられます。
プチトロアに近づいたら、相棒に乗って先に送りますから」
なる程、空中空母で来てるのか……
「では、行きましょう!
ガリアへ」
ブリュンヒルデが、長い首を使い器用に僕を背中に乗せる。
その後ろにカステルモール殿が、フライで飛び乗る。
気がつけば、両親とメイドズが並んで見送り?
「ツアイツよ。
くれぐれも、イザベラ姫と変な約束はするんじゃないぞ!」
「ツアイツ……
テファさん達を悲しませる事をするなら、お仕置きですよ!」
父上、母上……
僕って、節操無しで信用がないのですか?
「全く不要な心配です!
そんなつもりは有りませんから」
無言のメイドズの視線も痛い……
「お土産買ってきますから!
心配しないでね。
ではブリュンヒルデ、お願い」
ポンっと首を叩くと、一声嘶いて大空へ飛び立つ。
「ちちうえー!
テファ達には、今日行くって言ってませんからー!
宜しく伝えてくださーい」
反対されそうな彼女等は、今はお出掛け中だ!
説明を父上に託して、イザベラ様の下へ。
もう、父上達は胡麻粒みたいに小さく見えるぞ!
「お前ら、気合いは十分かー?
イザベラ様の下に、ソウルブラザーを送り届けるぞー!」
「「「ヒャッハー!
ようこそ、ツアイツ殿。
ガリアで花嫁が待ってますぜー!」」」
「ちょ?おま、おっおーい?」
ブリュンヒルデの力強い羽ばたきに、振り落とされない様に、彼女の首に掴まって体制を整える。
「カステルモール殿?
何を言ってるのですか?」
「いや、イザベラ姫はツアイツ殿にベタぼれでして。
私達は、イザベラ姫の婿はツアイツ殿以外認めませんから。
良く本人達で話し合って下さい!
では、飛ばしますからしっかり掴まって下さい」
「「「ヒャッハー!
花婿ゲットだぜー」」」
「待たんか、オマエらぁー!」
ツアイツが育て上げたイザベラ隊の忠誠心は、アルビオン大陸よりも高かった。
そして、皆のアイドルとして他の誰かに取られるよりは、ツアイツとくっ付いて彼がガリアに来る方が良いと思っていた。