第151話
深夜にプチトロアに向かう馬車の中で密談が進む。
その周りには、厳重な警護を敷いて……
知らぬはイザベラ姫だけ。
彼女の初ミッションは微妙に成功したが……
内密と言う面では、完全敗北だった。
「カステルモール、ジャネット。
私はツアイツが欲しい。
協力してくれ」
仕える姫から本音を相談された2人。
「勿論、協力させて頂きます。
面白そうだから!」
「ツアイツ殿をガリアに迎える……
それは大変喜ばしいですな」
微妙にイザベラ姫の想いとは違う方向で承諾する家臣2人……
「しかし、独り占めは無理ですよ。
既に4人の婚約者が居ますから」
「特にテファ殿ですが……
ハーナウ家に既に居ますし、彼女のオッパイは伝説クラス……
幾らイザベラ様でも勝てないですよ」
初っ端から高すぎるハードルを示す2人。
「黙れ!
婚姻なんて物は、血統と爵位が物を言うんだ。
最後に結ばれても、第一夫人は譲らない」
イザベラ、コメカミがヒクヒクしながらも答える。
「既に浮気オーケー?
それは何とも……」
「確かにイザベラ姫の胸では、彼を独占するのは不可能でs……
イタッ!
車内で暴力は!」
「黙れ!
不敬を続けるなら、この一升瓶を喰らわすよ!
別に私はツアイツを独占しようとも思ってない。
序でに見てくれや乳の大きさで繋ぎ留めるつもりも無い!」
「「確かにアバズレですし、気立ても良くn」」
「死ぬか?
此処で、ああん?」
両手で一升瓶を構えて恫喝する。
「「すみませんでした」」
素直に頭を下げる2人。
狭い車内では逃げ場も無いから……
「確かに私は、他の婚約者達と違い性格も可愛くないし凄い美人でも無い。
しかし、そんな物でツアイツを物に出来るとは考えていないよ。
私には私のやり方が有る。
それに、あの程度の恋敵を潰すのは簡単だ。
政治的圧力・物理的な実力行使……
ネタは幾らでも有るし、実行出来る駒も居る。
それが、ガリアの女王たる私の力。
そして、ツアイツの野望の手助けを出来るのも私だけだ……
その線で攻めるよ」
「ははははっ!
マジですね、権力を私用で使うのも躊躇わず無駄に有能だし陰険で腹黒い……」
「使える物は全て使って攻めるのですか?
エゲツないですよ。
たかが一貴族の小娘を相手に大国の王女が全力全開なんて……」
イザベラは下を向いてヒクヒクしている。
「何度も言わせるなよ……
黙れ、黙らんかお前ら!」
彼女の目は据わっている。
「異性との恋愛も、他国との外交も基本的には同じ。
自分のカードを有効に使い、どれだけ自分に利益をもたらすかだ。
この場合は、愛情だね。
ツアイツは、基本的に優しい。
しかし、その一方で彼の身内に敵対するとエゲツない……
どんな手段で来るか、まるで分からない。
だから私は、小娘達には手を出さない。
そして本人も気付かない内に状況を固めて、逃げ道を塞ぎ、アイツから私に求婚する様に仕向ける。
なぁ?
楽しい仕事だろ、お前達もさ?」
その笑みは壮絶だった。
うふふ、あはは、な恋愛観など微塵も無い猛禽類の笑み……
「そんなに凄んでも、ツアイツ様の前だとヘニャヘニャですよね?」
「確かに寵を受けるのに素直になれないなら、そんなアプローチも有りですよ。
可愛くなりましたね、イザベラ様は……」
ポンポンと肩を叩いて慰める?
「では、明日の夜またお待ちしております。
くれぐれも内密にお願いします」
そう言って、カステルモールは戻って行った。
「私の隠密行動は完璧だ!
なぁジャネット?」
「……そうですね」
知らぬは本人だけだった。
SIDEツアイツ
イザベラ様……
随分と対応が、フレンドリーになってきた。
もう友達と思っても良いかな?
しかし、明日までガリアに滞在となると……
もう、トリステインでの緊急召集会議は始まるだろう。
頑張って下さい、義理オヤジズ!
僕は僕に出来る事をしますから……
「ねぇ?エルザ。
何でナチュラルに僕の部屋に居るのかな?」
「んー?
暇だからー、遊んでー!」
ベッドに座り思考に耽っていたのだが、エルザが僕の見舞い品を漁っているのが気になる。
この見舞い品は、イザベラ様が帰った後にプチトロアのメイドさん達が、彼女の名前で贈ってくれた品々だ……
つまり、イザベラ姫はちゃんとこの訪問の準備を整えて側近達の協力体制も敷いているんだ。
これが、イザベラ様の凄い所だよね。
大国ガリアを取り仕切ってるのは伊達じゃない!
だから僕は他の婚約者達には言わない事も、彼女には相談出来るんだ。
こと謀略で、同じ高さで周りを見れる人は少ないから。
彼女に相談したい事は2つ……
一つ目は、ロマリアへの対応。
イザベラ様は、アイドルとして絶大な人気が有る。
ブリミルなにそれ?
って位だから、あいつ等は必ずチョッカイを掛けてくる筈だ!
僕も新たな宗教と言われてもしょうがない程に、信者を広めてしまった貧巨乳連合の教祖だ。
奴らからすれば、自分達の利権を犯す敵だね。
だから足並みを揃えておきたい。
レコンキスタが倒れたら、元とは言えブリミル教の司教が反乱を起こしたんだ。
威信回復に躍起になるだろうし、格好の的だからね。
簡単にやられるつもりはないから……
2つ目は、オルレアン絡みの件だ。
オルレアン夫人の治療とジョゼットの扱い。
これはジョゼフ王にも関係するし、治したっきり助けたっきりで済む問題じゃない。
ちゃんとその後の道筋まで整えないと駄目だ。
それに、ジョゼットにはジュリオがコンタクトをしていた。
此方も居なくなったのがバレたら問題だ!
直ぐには疑われないが、母娘3人で幸せに暮らしていればバレる。
偽装しないと無理だよ。
「エルザさん!
夜中にそんなに食べると太るよ?
それと、そのパイは僕も食べたいから。
お茶を煎れるから待ってて……」
「はーい!
エルザ、取り皿貰ってくるー!」
トテトテと部屋の外へ走って行く。
吸血鬼だけに、夜が本来の活動時間なのかな?
懐いてくれるのは嬉しいけど、周りの事も考えて欲しい……
アレか?
僕は巨乳派教祖だから、絶対安心ってか?
「ツアイツお兄ちゃん、持ってきたよー!」
「はいはい。
お皿並べてね……」
カステルモール殿が帰る迄は付き合ってあげるかな。
端から見れば、仲の良い兄妹のようだ!