第153話
謀略女王現る!
トリスタニア王宮の大広間には、多数の有力貴族が集まっている。
アンリエッタ姫による、緊急召集会議。
またあの暴走姫が、何かやらかすのか?
集まった貴族達の大体は、ヤレヤレ的な感じだ。
しかし、ツアイツ絡みの連中は……
仕える姫の暴走を何とか良い方向へと纏める為に。
具体的には、レコンキスタに内通する連中を弾劾し始めた時に、速やかに対処する準備を整えていた。
ヴァリエール公爵、ド・モンモランシ伯爵、グラモン元帥とその門閥貴族達……
それに、ワルド(遍在)隊長、ド・ゼッサール隊長・アニエス隊長。
彼らの緊張は高まるばかりだ!
「アンリエッタ・ド・トリステイン様のおなりです」
近衛の声と共に、豪奢な扉が開きアンリエッタ姫が入ってくる。
金のティアラに純白のドレスを纏う彼女は、まさにプリンセスに相応しい容姿だ……
そして、マザリーニ枢機卿が現れた時は顔をしかめた。
しかしその後ろに追従する仮面の女傑を見た瞬間、誰かが漏らした言葉が……
けして広くない会場に響き渡る。
「あれは、烈風のカリンだ……」
現役時代を知る連中の多くが、当時の悪夢を思い出す。
数々の伝説を撒き散らした女傑を従える王女。
これは、とんでも無い事が始まる。
皆の予感は的中していた。
アンリエッタ姫が最上段に設えた椅子に座り、集まった貴族達を見渡す。
そこには、一国の王女に相応しい気品と風格が有った!
性格と能力は別問題だが……
「今日、皆さんに集まって頂いたのは、このトリステイン王国の未来を話し合う為です!
そして、それはハルケギニア全体にも関連する事。
今、トリステイン王国が直面している問題を分かる方が居るならば、この私に教えて下さいませ」
突然のアンリエッタ姫の質問に、皆が問題を思い浮かべる……
何時までも、空位の王座。
喪に服すだけで、政に関心の無いマリアンヌ様。
挙動が不審なアンリエッタ姫。
最近のさばる銃士隊の連中……
平民が近衛に加わるなど言語道断だ!
ウザいマザリーニ枢機卿。
ヤバい王族非難ばっかりだ……
これを伝えるのは、マザリーニ枢機卿の仕事だろう!
多くの貴族がそう思い、彼を凝視する。
視線に込められた意味を理解出来るのか、マザリーニ枢機卿は溜め息をついた……
「恐れながら、アンリエッタ姫……」
「お分かりになりませんか?
貴方方の危機意識の薄さには、空恐ろしい物を感じますわ……
私には分かります。
このハルケギニアに起こっている疫災について」
「「「…………?」」」
「アンリエッタ姫、何をお考えでしょうか?」
マザリーニ枢機卿が、何を言い出すか分からないアンリエッタ姫に質問する。
何時もの、トンチンカンな行動とは何かが違うと感じたから……
「分かりませんか?
今、天空の大陸で起こっている争乱を……
ブリミル教の司教が、始祖の血を引く我らに弓を引いたのです!
彼らの掲げる錦の御旗は、聖地奪還と……
びっ美乳教を広める事。
ブリミル教の司教が、新たな教義を広めるだけでも問題なのに、聖なる王家を害するなど……
何故、次に狙われるのはトリステイン王国だと思われないのか!
何故、その様な暴挙を見て見ぬ振りをするのか!
この私は不思議でなりませんわ」
この発言にヤバいと思ったのは、レコンキスタに内通する連中だ。
彼らはアルビオン王国陥落後に、当然の様にトリステイン王国に侵攻して来るのを知っている。
その為に手引きをし、成功の暁には其れなりのポストを用意して貰っている為に……
この流れはマズい。
しかし、この姫にだからどうこう出来るとも思えない。
この場をやり過ごし、クロムウェル司教に連絡しようと考えた。
「落ち着かれよ、アンリエッタ姫……
そのレコンキスタなる組織が本当に我が国に侵攻するとは限りません」
リッシュモン高等法院長が、アンリエッタ姫に意見する。
確かにそうだ。
下手に刺激するより、様子を見るべきだろう。
大半の貴族はそう考えているた……
「リッシュモン殿は、レコンキスタ首魁のクロムウェル司教のお考えが、お分かりになるのですか?
聖地奪還など、ハルケギニア全ての国が総力を上げないと果たせぬ夢!
美乳派を広めたい彼が、アルビオン大陸だけで満足すると?
何故、そう考えるのでしょうか?」
「そっそれは……
しかし、不確かな情報で敵対するのは大問題!
一度、使者を送ってみてはどうでしょうか?
アンリエッタ姫が望まれるならば、私が使者としてレコンキスタに向かっても構いませんぞ」
「おお、何て勇敢な!」
「流石はリッシュモン殿だ!」
「アンリエッタ姫、レコンキスタに使者を送りましょう!」
口々にレコンキスタと国交を結ぼうと騒ぎ出す。
「……私は、そうは思いませんわ。
何故、逆賊に使者を送るのですか?
送るのならば、王党派に援軍を送るべきです」
遂に、アンリエッタ姫の口から派兵案が出た!
「姫様、トリステイン王国を戦火に晒すのですか?」
ゴンドランアカデミー評議会議長が諭す。
この男、見た目は地味で印象が薄いのだが腹は黒い。
「そうですぞ!
先ずは、トリステイン王国の安泰が一番。
わざわざ危険に首を突っ込む必要は有りませんぞ。
アンリエッタ姫には、少し難しいかもしれませんが、国との付き合いとは、その様な物なのです」
売国奴トップ2人が、アンリエッタ姫の考えを思い留める様に説得する!
兎に角、この場は有耶無耶にしなければ、彼らの欲望の危機だから……
「貴方方には、トリステイン王国がレコンキスタに敵対しては……
王党派に増援を送っては不味い事が有るのですか?
売国奴としては?」
アンリエッタ姫は、切り札を切った!
「なっ!
証拠は有るのですか?」
「そうですぞ!
いくらアンリエッタ姫とは言え酷い侮辱ですぞ」
「えっ?証拠?」
しかし、あっさりと返された!
その時、後ろに控えていた烈風のカリンが
「黙れ、下郎!
貴様等の薄汚い裏切りの証拠とリストだ。
最も信頼する筋から調べて貰った物だ。
言い逃れなど、最早不可能と思い知れ!
トリステインの膿を一掃するぞ!
抵抗するなら、私が直々に相手をして差し上げよう!
さぁ捕らえろ」
控えていた、グリフォン・マンティコア両隊及び銃士隊。
それと、グラモン元帥の手の者がリストに記載されている連中を捕まえて行く。
刃向かえば、烈風のカリンが問答無用で殺しに来る恐怖の為か、割とすんなり捕まった。
惚けているアンリエッタ姫……
カリンの怒号を真後ろから聞いてしまった為に、少し漏らしてしまった。
しかし、気を失わなかっただけでも大した物だ!
連れ出される、リッシュモンが投げやりにアンリエッタ姫に話し掛ける。
「アンリエッタ姫よ。
何故、此だけの事が出来る器量が有りながら普段はポヤポヤだったのですか?
普段からしっかりしていれば、国を売る者も少なかった筈ですぞ!」
この言葉は、アンリエッタ姫の心を抉った。
私のせいで国を裏切ったのかと……