第154話
トリステイン王国の稀代の謀略女王、奮闘す!
あれよあれよと言う間に、腐敗貴族達は捕縛されていった。
何と全体の三割近くが、売国奴だった訳だ。
アンリエッタ姫は、余りの展開に付いて行けず設えた椅子に座り込んだ。
それを見た残された者達は、アンリエッタ姫が未だ話が有るのだろう。
と思い各々が椅子に座り、アンリエッタ姫の言葉を待つ。
皆が熱を帯びた目で彼女を見詰めている。
歴代の王でも、此処まで鮮やかな捕縛劇は出来なかっただろう。
それに、数多くの有力貴族が捕らえられ、要職にも空席が出来た。
その席を狙うならば、アンリエッタ姫に取り入るのが最短距離だろう。
「アンリエッタ姫、お見事でした!
まさか、リッシュモン殿が裏切り者だったとは……
いやはやご慧眼恐れ入りました」
「全くその通り!
アンリエッタ姫は稀代の女王にあらせられる」
「さぁ次の指示を下され!
我らはアンリエッタ姫の為に働きましょう」
取り入りたい貴族連中の見え透いた追従だ……
「ふう……」
アンリエッタ姫が、溜め息をつく。
これは、カリンの怒号に当てられて疲れたせいと、少し漏らしてしまったお尻の辺りが冷たくて気持ち悪かったのだが……
彼らはそうは思わなかった。
「いえ、お世辞等ではありません!」
「我らの本心ですぞ!」
慌てる貴族達……
「少し休憩を挟みましょう。
頭を冷やさないと」
そう言って、アンリエッタは席を立った。
パンツを履き替える為に……
残された者達の心情はエラい事になっていた!
アンリエッタ姫は、我らに呆れて席を外されたのだ。
これは真面目に取り組まないと、売国奴の二の舞だ、と。
SIDEアンリエッタ
兎に角、濡れたパンツを履き替えたい!
この一念で、足早に自室に向かう。
「嫌だわ。
良い歳なのにお漏らしなんて……」
取り敢えず着替えを済ませ、落ち着いた所でヴァリエール公爵夫妻が訪ねて来た。
正直な所、辛い。
「アンリエッタ姫、お見事でしたな。
これで売国奴は一掃された。
次はアルビオンの王党派への応援ですな」
ああ、まだ有ったのね。
でも此が本題なんだわ!
ウェールズ様とツアイツ様の愛を手に入れる為に……
「有難う御座います。
もう少し頑張らねばなりませんね。
ヴァリエール公爵、カリン殿行きましょう」
ヴァリエール公爵夫妻を伴って会場に向かう。
アンリエッタ姫は、ただ迎えに来てくれた!
位に考えていたが、彼らはそんな善意では無い。
アンリエッタ姫に一任されているのだよ我々が!
そんなジェスチャーで有り、王党派への派兵もヴァリエール公爵主体で進んでいった。
アンリエッタ姫は、ニコニコと微笑むばかり……
会場に向かう途中で、アンリエッタ姫に
「流石はアンリエッタ姫ですね。
ツアイツ殿に話したら、さぞかし関心するでしょう。
実はこの後の展開について彼から腹案を貰っているのですが、その様に進めて宜しいか?」
これには、アンリエッタ姫も感激し
「やはりツアイツ様は私の師……
私の行動も全てお見通しなのですね!
分かりましたわ。
お任せします」
「ははっ!」
礼を取るヴァリエール公爵が、ニヤリと笑ったのには気付かなかった……
こうしてアンリエッタ姫の稀代の謀略女王説は、トリステイン中に爆発的に広まっていった!
他にも腐敗貴族達の領地を王家の直轄領地とし、悪質な税率を戻したりと善政をヴァリエール公爵主体で進めて行く。
同時に王党派への派兵の準備を整えて行く。
アンリエッタ姫を総大将とした援軍!
しかし、天空のアルビオンに兵を送る為に用意出来た空中船は15隻。
そして空中戦の出来る幻獣を従えた魔法衛士隊を全て投入する。
総兵力は一万に届いた!
タルブ村周辺に前線基地を設け、目下急ピッチで派兵準備を進めている。
この一連の流れをトリステインの貴族や平民達は、アンリエッタ姫が実は相当の遣り手で有ると思い込み、酒場では彼女を褒め称える声が夜遅くまで聞こえた!
歴代トリステイン王家の中で、最も謀略に長けた王女アンリエッタ……
勘違いとは時に凄い事になる典型的な例だ。
ただ、本人は相変わらず夜な夜な一人芝居に興じている。
最近は、ウェールズ皇太子と子育ての件で意見が合わないらしい……
彼女は、とても感性が豊かな女性なのだから。
SIDEレコンキスタ
盟主オリヴァー・クロムウェルは得体の知れない不安に刈られていた!
アルビオンの反乱は順調だ。
王党派は、サウスゴータまで追い込んだ。
連戦連勝……
毎日の様に傭兵達の数も増えている。
総兵力は五万に届く勢いだ。
これなら、策も何も無くても力押しで勝てるだろう。
もう一息で、アルビオン大陸を手中に出来るのだが……
嫌な報告が2つ有る。
1つ目は、憎っくきハーナウ家の小倅に送った刺客からの連絡が一切無い。
奴の首には一万エキューの懸賞金をかけた。
相当数を送ったが、未だに成功しない。
2つ目は、トリステイン王国が我らと戦う準備を始めている。
アルビオンを平らげてから攻め込む予定だったのだが……
間者の報告では、一万人程度だそうだ。
大した脅威も感じないだろう、普通なら……
しかし、何かが引っ掛かる。
何かを見落として無いか?
「盟主オリヴァー・クロムウェル!
サウスゴータ侵攻の準備が整いました。
何時でも出発出来ます」
部下が、待ちに待った報告をしてきた。
いよいよだ!
いよいよ、私が王となる日が来たのだ!
「では明朝、全軍に演説を終えたら出発だ!」
レコンキスタの最後の戦いが始まった。
忘れ去られた手紙を届ける銃士隊員達……
トリステイン王国で、アンリエッタ姫の株がエラい事になっている最中に、漸くアルビオン大陸に上陸出来た。
彼女等は、魔法が使えないので民間船をチャーターするしか無く随分苦労した。
王党派の皆さんは女性に優しく、怪しい手紙を持参した彼女等を暖かく迎えてくれた。
そして、わざわざ船を用意して送り返してくれたのだ。
しかし、手紙の行方は……