第158話
深夜のカステルモール邸で向かい合う美男美女。
しかし話している内容は甘い物では無かった。
イザベラ様……
アルビオン行きを止めるかと思ったけど。
彼女程有能ならば、僕と同じ考えに行き着いたんだな。
王党派が勝つには、あと一手足りない。
それを補うのに、最速で有効なのは僕なんだと。
やはりイザベラ様は、この手の話では頼りになる。
フォローも望みうる最高の物だった。
しかし……
あの笑みが気になる。
アレは、エレエノール様やカリーヌ様の悪巧みの顔と非常に似ている。
「あの……イザベラ様?」
「何だい?
泣いて縋って止めて欲しかったのかい?」
ああ、ニヤニヤに変わった……
気のせいだったのかな?
「戦争の片棒を担がせたんだ。
何時か何かで、借りを返しなよ」
今度は、見惚れる純粋な笑顔……
短時間で3種類の笑顔を見せられるとは。
「希望が有れば、教えて下さい。
出来るだけの事はしますから」
「…………良く考えておくよ。
大丈夫、酷い事は頼まないからさ。
ちゃんと常識の範疇だよ?」
大国の王女の常識ってどうなんだろう?
アンリエッタ姫の常識よりはマシかな……
でも金銭感覚だって桁違いだろうし。
「お手柔らかにお願いします。
それと、もう1つ相談が有りまして……
オルレアン公の件です」
「シャルロットの実家だね……
もう知ってるだろう?
タバサは、オルレアン公の一人娘のシャルロットなんだよ」
そうか、イザベラ様でもジョゼットは知らないのか。
なら、オルレアン夫人を治してから話をした方が良いだろうか?
「はい。
それで、この件はかなりリスクの高い話なんですが、話して良いですか?」
「粛清され、不名誉印を刻まれたシャルロットの実家か……
良いよ。
どちらにしても、私が聞かないと先に進まない類の相談なんだろ?
話しなよ」
何か、イザベラ様って話しやすいな……
「先ず、オルレアン夫人の治療方法ですが……
手に入れています。
しかし、タイミングが難しいのです」
「……エレーヌの母親か。
確かに幽閉中だし、治療したとなるとお父様も疑うだろうね。
毒を持ったのは……」
イザベラ様が悲痛な顔を……
実の父親が、友人の母を害したと思ってるのかな?
「イザベラ様。
ジョゼフ王は彼女に毒を盛ってませんよ。
治療の副作用が強かったのです」
自分の夫が女装癖の有る近親相姦希望者。
しかも、夜な夜な爛れた宴をしているのを知れば、精神も病むよね。
「えっ?
それは本当なのかい?」
「そうです。
だから治療に関しては、ジョゼフ王も煩くは……」
彼女は考え込んでいる。
「では、私がお父様に掛け合って許可を取れば治せるんだね」
僕は、黙って頷く。
「なら、早く治してやっておくれ。
あの子も喜ぶよ!」
しかし、それに関連してジョゼットの話もしなければ……
「何だい、その顔は?
治療には条件が厳しいのかい?
手伝える事なら言ってほしい」
「その……
オルレアン夫人が、回復したら確認したい事が……」
「確認?
その口振りだと、治療に手間は掛からない。
治した後に問題が有るんだね?
ふう……アンタは何時もビックリ箱だよね。
良いよ、聞かせてくれ」
よくも此だけの会話で、予測出来るよね。
「ガリアの風習では、双子を忌み嫌うそうで……
セント・マルガリタ修道院でロマリアの密偵団とジュリオ助祭枢機卿が、怪しい動きをしていました。
調べてみれば……
シャルロット様の双子の妹、ジョゼット様が居ました。
彼女は、ロマリアの密偵団が強引に拉致しようとした所を保護しています。
普段は、フェイスチェンジで顔を変えていますが、瓜二つです」
イザベラ様は、長い間黙ったままだ……
「……………ツアイツ?」
「はい」
「その娘をどうするつもりだい?
彼女は……」
「出来れば、親子三人幸せに暮らして欲しいですね」
イザベラ様の目は真剣だ!
「その娘、ジョゼットと言ったかい?
公表も無理だね。
王族の醜聞なんだよ!
アンタの身だって心配なんだ。
その娘は、私に預けな。
私が必ず何とかするから……」
ああ、彼女はオルレアンの人達を大切に思っているんだな。
だけど……
「イザベラ様と僕は、もう一蓮托生・呉越同舟ですから。
一緒に考えましょう」
ニッコリと笑い掛ける。
「ごえつどうしゅう?
何だい、それは?」
「東方の諺で(共犯者として)立場の違う2人が協力して、ずっと一緒って事ですよ」
「!」
あれ?
イザベラ様、固まった?
不味かったかな、一国の姫を共犯者扱いは……
「そっそそそ、そうかい?
アンタが、まさかそう考えているなんて……
まっまぁ仕方ないね!
うん。
ごえつどうしゅうで良いよ。
良い言葉じゃないか!
これから末永く宜しく頼むよ」
妙に慌ててるけど?
気を使ってくれて、賛成してくれたのかな?
全くイザベラ様は、口は悪いけど優しいから……
SIDEカステルモール&ジャネット
呼ぶまでは近付かないって言っていたが、今夜も扉に張り付いている2人。
「毎回驚かされるが、ツアイツ殿の情報網はどうなっているのだ?
オルレアン夫人の件の真相……
治療法に、双子の妹の存在だと!」
「良いわ、ツアイツ様って!
ツアイツ様って波乱万丈の生き方をしてますよ。
絶対に死ぬまで退屈しないわ!」
扉にへばり付き、中の話を聞いている!
秘密を知ってしまったら、自分達でさえ危険な内容も有ったのだが?
「ツアイツ様、イザベラ様にプロポーズしましたよね?よね?」
「ずっと一緒か……
それを実現するのは難しい。
しかし、あの2人が協力すれば可能だな。
当然、我らも協力するしな」
覗き屋2人は誓った!
彼らの未来に協力する事を……
「しかし意外でしたね。
まさか、ツアイツ様からプロポーズするとは!
微妙に分かり難くかったけど……」
「イザベラ様が、あっさり受けた事がか?
それともあっさりツアイツ殿がプロポーズした事か?」
「両方です。
謀略系のお二方なら、もっと婉曲な方法なのかなと……」
「「ロマンティックでは無かったけどな(ね)」」
何か、息の合っている2人だった!