トリステイン編アンリエッタルート第2話
タルブ村の特設前線基地。
アルビオン派遣軍の第一陣が準備出来た為、アンリエッタ姫が演説を是非やりたい!
と言い出した。
マザリーニ枢機卿とヴァリエール公爵が草案を考える。
しかし、アンリエッタ姫にはそんな物は関係無かった。
特別に設えた壇上に登る……
その手には、折角マザリーニ枢機卿が考えて考え抜いた草案は無かった。
後にそれを未開封の状態で部屋で見付けてしまったマザリーニ枢機卿は、膝を付いて慟哭した。
この時のアンリエッタ姫は、色々な意味で色ボケしていたので……
それでも壇上に見目麗しいトリステインの花!
金色の百合をあしらったティアラに純白のレースを重ねたドレス。
手には、トリステイン王家に代々伝わる杖を持った彼女は王女と言う寄りは女王に見える……
沢山の歓声を片手を上げるだけで抑えた様は、流石は王家のカリスマだ!
彼女の言葉は魔法で拡声され会場全てに行き渡る。
「この場に集まって下さった皆さん……
私はアンリエッタ・ド・トリステインです」
ただ名乗っただけだが、割れんばかりの歓声が沸き起こる。
そして、彼女が頷くと歓声がピタリと止まる……
「今回の事件で、私とこの国の為に働いてくれた御方、そしてこれから共に戦場に向かって頂ける皆さんに最高の感謝を……」
アンリエッタ姫はそう言って会場の皆に頭を下げる!
これには周りも驚いた!
人気絶頂、トリステインの姫が臣下に……
名もない一兵卒や平民に頭を下げたのだ!
常識では考えられない異常な行動だ。
しかし、敬愛する姫にお願いされちゃった彼らの興奮は最高潮!
もうアンリエッタ姫の為なら何でもやります状態だ。
これには、マザリーニ枢機卿やヴァリエール公爵も驚いた!
あのアンポンリエッタ姫が、こんな掌握術を持っていたのが信じられない。
誰?アレ誰?状態だ。
「今回、私が私の国に巣くう腐敗貴族を一掃出来たのは……
全て私の為に無償の愛を注いでくれる1人の男性(ひと)の力によるものです」
そんな有能な臣下が居たか?
誰だ、その者は?
皆が脳裏に浮かべるのは……
ヴァリエール公爵?
魔法衛士隊隊長ワルド子爵?
それとも、銃士隊隊長アニエス殿?
どれもそれらしく、また違う様に思える……
「思えば私は初めて彼に会った時……
彼は私の最大の悩み事を解決して下さいました。
それが出会いで有り、その後も陰ながら私の力になり続けてくれたのです!」
この話の後では、アニエス隊長の線は消えた。
では誰だ?
皆は、アンリエッタ姫の話の続きに意識を集中する。
「二度目にお会いした時……
あの人は、愚かな私に王族としての在り方を教えて下さいました。
そして私の失態を……
全て解決して下さいました。
その手際は素晴らしく、彼にお礼をしたいのに私の立場では何も出来なかったのです。
当時、私は篭の鳥でしたから……」
悲しそうに俯く姫に、皆が同情する。
当時の姫様は、有能なのに周りの宮廷貴族が何もさせてくれなかったのだと。
「そんな私に彼は……
決意と覚悟を教えてくれました。
この日、私は生まれ変わりました」
この演説を聞いていたヴァリエール公爵は焦った。
これはマズい。
非常にマズい展開だ!
この後に、誰だと話してしまうと取り返しがつかなくなる自体に発展する。
しかし止める手立てが無い。
今、強引に止めれば……
この演説を聞いている全員を敵に回す。
畜生!
誰だアレは?
あのポヤポヤが、あんな演説を出来るなんて!
「そして私はこの国を……
トリステイン王国をより良くする為に動き始めました。
しかし、連綿と続くしきたりや体制は中々変わりませんでしたわ」
彼女は溜め息をついた。
きっと、彼女の邪魔をする連中が多かったのだろう。
そいつ等も粛清だ!
群集心理とは、時に危険な暴走を始める。
今、彼女が誰々に邪魔をされたと言えば。
その相手はリンチを受けただろう。
そして、彼女を良く思っていなかった連中は……
この雰囲気を理解した!
余計な事は言えないと。
「そんな私に、彼は一冊の本を贈ってくれました。
報われぬ行動に疲れていた私には、何よりの励みになる物でしたわ」
彼女が明るい表情をする。
まるで当時の事を思い出している様に……
ああ、本当に嬉しかったのだな、と。
「真夏の夜の夢……
この秋には、トリステイン王立劇場で公演されますわ」
この言葉を聞いて、ある程度の事情通は相手が誰かを推測した。
まさか、我らが教祖なのか?
「私は彼に、彼の為に生まれ変わりました!
大恩有るあの人の為に……」
誰かをかき抱くように両手を広げる。
アンリエッタ姫は、恍惚とした表情だ!
この時、彼女は演説中なのをわすれ暫くトリップしていたのだが……
群集は、この溜めも彼女の気持ちの表れだと思った。
早くアンリエッタ姫から、その名を聞きたい!
「私は、帝政ゲルマニアの貴族。
ツアイツ・フォン・ハーナウ様に愛されています!」
本人が居ればフザケルナ!
と叫びたかっただろう。
アンリエッタ姫は、持ち前の妄想力で自分が愛されていると感じていた!
「ツアイツ・フォン・ハーナウ殿?
まさか、我らが教祖は巨乳姫に無償の愛を捧げていたのか?」
「なる程、確かにアンリエッタ姫は乳もデカい美少女だからな。
納得出来るぞ!」
「流石はツアイツ殿だ!
他国の貴族ながらトリステインの為に尽力していたとは」
アンリエッタ姫が、手にした杖をかざした!
群集は杖の先を見る。
「しかし、私にはアルビオン王国のウェールズ皇太子から求愛されているのです!
彼は星降るある夜に、ラグドリアン湖の辺(ほとり)で始祖ブリミル様に愛を誓って下さいましたわ」
始祖に誓った愛は絶対だ!
無償の愛とは、そう言う意味だったのか。
我らが教祖も報われぬ愛に生きるとは……
「しかし彼は、私の為にウェールズ皇太子に啖呵を切って下さいました。
どんな手を使っても、私の気持ちを叶えてくれると……
そして、その結果が今の状況ですわ」
彼女の恍惚は止まらない!
「私はトリステイン王国とアルビオン王国の為に、ウェールズ皇太子の愛を受け入れますわ。
両国が、手に手を取って繁栄する為に……」
アンリエッタ姫は、国の為にウェールズ皇太子を取るのか?
では、我らが教祖の気持ちは?
この国の為に動いていたのはツアイツ殿なのでは?
やり切れない気持ちが芽生える。
敬愛するアンリエッタ姫の気持ちが分かるから……
今、群集とアンリエッタ姫の気持ちはシンクロしていた!
「でも私は、ツアイツ様も愛しています!
ならば、2人を夫にすれば良いのですわ。
私は私の為に、ウェールズ様とツアイツ様と結ばれたいのです!
皆さん協力して下さい」
アンリエッタ姫の、ぶっちゃけトークに一瞬会場が静まり返ったが……
数秒後に爆発した!
彼女は逆ハーレム宣言をし、群集はそれを受け入れた。