トリステイン編アンリエッタルート第3話
アンリエッタ姫が、演説で盛り上がっている頃。
サウスゴータの王党派は、激しくレコンキスタに攻められていた。
王党派の総戦力は一万五千人。
それに対しレコンキスタは傭兵が中心だが五万人だ!
籠城戦には三倍の戦力で当たれと言うが、まさにそれだけの戦力に差が有る。
幾ら士気の高い王党派と言えども疲労は蓄積していく……
しかし、ほぼメイジの居ないレコンキスタ軍の消耗も激しい。
半日の戦闘で二千人近い傭兵が戦闘継続不可能に追いやられた。
王党派の損害は殆ど無い。
何度目かの襲撃を終えた連中が引き上げるのを見ながら、ウェールズ皇太子は悩んだ。
このままではジリ貧だ!
今は士気も高く兵の損耗も殆ど無い。
しかし、今日1日の戦いで二割近くのメイジが丸一日以上休まないと精神力が回復しない状況だ。
自分も疲れた……
約二千人の傭兵にダメージを与えたが、五万人の内の二千人。
つまりは、あと25回同じ被害を与えないと勝てないのだ……
「ウェールズ様……
夜襲の危険も有ります。
少しでもやすみましょう」
バリーが心配そうに、気遣ってくれる。
「父上からの援軍は?
連絡は無いのかバリー?」
バリーは首を振る。
これは、負けるかもしれない……
ふとアンリエッタ姫から送られた、酷い捏造手紙を思い出す。
勝つ為には、あと一手欲しい。
トリステインの増援がくれば、レコンキスタは二方面に軍を展開しなければならず、此方への対応は緩くなる。
守ってばかりではなく、攻勢に……
しかしアンリエッタ姫の!
あの異常な愛と偽乳を受け入れなければならないだろう。
くっ……
ツアイツ殿の教えを実践する為にも、ここで潔く玉砕などあり得ん!
「誰か!
トリステイン王国に使者を送るぞ」
苦渋の選択だが、滅亡よりもマシだ!
SIDEツアイツ
「カステルモール殿。
偵察隊が帰ってきたみたいですね。
状況はどうですか?」
風竜部隊が、その高速を活かし強行偵察に行って戻ってきた。
此方の位置がバレる危険も有るが、サウスゴータに入ってしまう前に情報が欲しかった。
そう言うと、何人かのイザベラ隊員が操舵室に入ってきた。
偵察から帰ってきた連中だ。
「報告!
サウスゴータは完全に包囲されてます。
敵軍は四万強」
「報告!
ダータルネスの近くに、トリステイン王国軍が展開しています。
その数、一万」
「報告!
オリヴァークロムウェル、サウスゴータ北側本隊に本人を確認。
本隊戦力は二万」
次々と報告が入る。
予定よりレコンキスタの人数が多い。
それに、トリステイン王国軍がダータルネスに?
先に退路を絶つつもりか……
「カステルモール殿。
状況は良くはないが、悪くも有りませんね。
サウスゴータに合流するか?
トリステイン王国軍に合流するか?
どうしましょう」
カステルモール殿も悩んでいるみたいだ。
「我らは少数……
故に防衛戦には向きません。
当初は戦意高揚の為に王党派に合流が最善かと思いましたが……
トリステインの増援が思ったより早い。
このまま其方に合流した方が有利でしょうか?」
んー、まだ来ない援軍の為に王党派の士気を高め籠城戦に備えるつもりだったが……
既に増援が居るなら、其方に合流した方が良いかな。
ダータルネスを落とせれば、レコンキスタへのダメージも大きい。
ウェールズ皇太子には連絡を入れれば良いか……
「しかし、我らはゲルマニアとガリアの混成部隊。
トリステイン王国軍に合流するのは問題が……」
「トリステイン王国軍には、ヴァリエール公爵家の旗を確認しています」
義父上が来てるなら問題は無いのかな?
「では、トリステイン王国軍に合流しましょう。
王党派には、援軍到着の知らせを鷹便で」
僕はこの判断を後悔する事になる。
アンリエッタ姫を本当の意味で怖いと思った……
SIDEアンリエッタ
タルブ前線基地から続々と兵がアルビオン大陸へと上陸してきますわ。
私は戦の事は疎いです。
グラモン元帥やヴァリエール公爵が良く纏めてくれていますから平気でしょう。
先ずは、ダータルネスを陥落させレコンキスタにダメージを与えるらしいですが……
全軍で敵軍本隊に突貫した方が良いのでは?
効率が悪い気がしますわ。
「アンリエッタ姫!
お喜び下さい。
ツアイツ・フォン・ハーナウ殿が手勢を率いて姫の為に応援に駆け付けてくれました。
今、中央広場に……」
嗚呼、やはり私は愛されているのね。
戦場にまで来て頂けるとは……
「直ぐに向かいますわ!
失礼の無い様におもてなしして下さい。
ああ戦場故、着替えも……
誰か、支度を」
色ボケ姫の頭の中は、戦場のロマンスで溢れていた!
ツアイツ、逃げろ!
SIDEツアイツ
何だ?
この熱狂的な歓迎は?
たかが30人程度の増援に全軍から歓迎されている様な気がするのだが……
それに、アンリエッタ姫に直ぐ面会とは。
先にヴァリエール公爵達と話をしたいのだけど……
一万人と言う人の波に揉まれては、ヴァリエール公爵に会うなど不可能に近い。
それに口々に無償の愛とか、おめでとうございます?
何がめでたいのかな?
「ツアイツ殿ー!
こっちだ、ツアイツ殿ー!」
呼ばれた方を見れば、ヴァリエール公爵が両手を振っている。
此方も振り替えし近くに進もうと思うが、人の波が凄い。
そのまま、押し返されてしまう!
「すみません、通して下さい!
ヴァリエール公爵の所まで……」
ヴァリエール公爵は、何故か逃げろ?
と言っている様だが?
何から逃げるのだろう?
その時、前方の人垣が別れて道が出来た!
モーゼの十戒か?
その先に、アンリエッタ姫が見える。
小走りに走ってくるが……
良くウェールズ皇太子の為に援軍を送るまで漕ぎ着けたられたね。
愛は偉大か?
その時ヴァリエール公爵の声が、言葉がハッキリと聞こえた!
「ツアイツ殿、逃げろ!
彼女と君はデキていると捏造されている!」
はぁ?
そんな馬鹿な事が?
と考えていたら……
アンリエッタ姫が抱き付いてきて、強引にキスをされた!
周りの群集の歓声が爆発した。