第163話
カステルモール殿に案内され、両用艦隊司令部まで来た。
確か隠密行動だったはずですよね?
しかし現実は……
「ようこそ、ツアイツ殿。
両用艦隊総司令官クラヴィルです。
いや、ガリアの海賊船長と名乗った方が分かり易いですかな?」
ナイスミドルがフレンドリーに握手を求めてきた。
「ああ、いつぞやの女神像発注の……
その節は、有難う御座いました。
そして、これからアルビオン迄宜しくお願いします」
握手に応じると、周りから拍手が沸き起こる。
コレ本当に隠密作戦なのかな?
周囲にバレバレなんだけと……
「ミスタ・ツアイツ!
航海中の貴方の世話係のヴィレール少尉です」
同世代位の男が目の前で敬礼している。
「此方こそ宜しくお願いします」
取り敢えず、握手を求めてみるが……
「はっ!
感激で有ります」
何だろう?
両手で握って振り回された……
この連中の中で、僕の位置付けってどんなの?
「ヴィレール少尉よ、落ち着け!
さてツアイツ殿、案内しますぞ。
我がガリアが誇る両用艦隊の最新鋭戦艦に」
クラヴィル司令官に案内されて見た物は……
「天を突くドリル……
何と御立派な!
衝角(ラム)ですね!」
舳先にドリル状の衝角を取り付けた両用戦艦を見上げる。
「流石はツアイツ殿!
男の浪漫を理解していらっしゃる。
本来この甲鉄艦は、ガリア初の装甲戦艦です。
ネームシップであり、プリンセス・イザベラ号が正式名称です。
しかし、イザベラ様からどうしてもコレを改装しろとの厳命を受けましてな」
イザベラ様、流石は大国を表で仕切る才女……
やる事が半端ない!
「しかし……
この船でアルビオン迄乗り付けて、あまつさえレコンキスタと戦闘などは……」
「流石はイザベラ様の想い人……
イザベラ姫が心配ですか?
心配ご無用!
この船は新造戦艦で有り他国に情報は未だ無い。
つまりは無国籍艦。
しかし、このクラスの戦艦を保有できる国は限られている。
どの道疑われるなら、最新鋭を用意しろ!
と言われましたよ」
疑わしいが証拠が無ければ、どうにでもなるか……
イザベラ様はスケールが違うなぁ!
「クラヴィル司令官!
1つ伺いたいのですが……
この衝角、まさか?」
クラヴィル司令官は、ニヤリと笑い
「ドリル回転させろー!」
「「「アイアイサー!」」」
見事に回転式ドリルだ!
「グレ〇ラガン……
クラヴィル司令官、お読みになられたのですか?」
天元突破グレ〇ラガン……
僕が子供向け熱血小説としてアレンジしたんだ。
舳先にドリルを付けた空中戦艦の熱き艦長の物語を……
ドリルだけグレ〇ラガンで内容は、スペースシップ・ヤ〇トをハルケギニアに合わせたんだけど。
最後に敵戦艦を下からドリルで突き破ったラスト……
再現する気は無いですよね?
まさか今回の戦闘では……
「これですな!
サインをお願いします。
いやツアイツ殿は、海と空の漢の気持ちを良く理解しておられる。
我らは船乗りですが、大海原にも天空にも愛を持っております!
この本は素晴らしい。
我が両用艦隊のバイブルです!」
随分と擦り切れた本を渡された。
相当、読み返してくれたんだろう……
サラサラとサインをして渡す。
「船には男の浪漫が詰まっています!
クラヴィル殿、アルビオン迄お願いします」
「任せて貰いましょう!
出航するぞー!」
「「「アイアイサー!」」」
随分と賑やかな隠密作戦の始まりだった。
そのまま、艦橋まで案内される。
流石は新造戦艦!
僕も空中船は何度か乗ったが、純然たる戦艦は初めてだ。
接舷された桟橋から、風石の力により船が上昇していく。
余り外を見るとトラウマが発動するので、なるべく艦橋の中央部分により前だけを見る。
「どうですか?
この船の乗り心地は」
クラヴィル殿が気を使って話し掛けてくれた。
「良いですね!
こう……
力強さと安定感を感じます。
そして先端のドリル。
この船は白兵戦も想定してるのですか?」
敵戦艦に突き刺して、乗り込みそうだよね?
「ははははっ!
旗艦が特攻など最後の手段ですがね。
それに、この船にはガリア最新鋭の武装を施しています。
側面に127㎜(70ポンド)単装砲30門。
279㎜(300ポンド)単装砲8門。
風竜を40匹積める大容量のスペースも有ります」
これって、コルベール先生のオストラント号よりも凄くね?
もうジョゼフ王は、エルフと接触してる感じがする。
ビダーシャルだっけ?
この権力と財力と、エルフの知識・技術が合わせればエライ物が出来るよね。
ヨルムンガルドとか、アイデア次第では汎用人型決戦兵器だよ。
「チョッとした空中要塞ですね」
「気に入ったかい?
私の名前の船はさ?」
なっ?
イザベラ様……とシェフィールドさん?
「イザベラ様と、お姉ちゃん!
不味いですよ、戦場にガリアの王女が出向いちゃ国際問題だ!」
アレ?ちょっと不機嫌だぞ?
「ツアイツ?
今、シェフィールドの事を、お姉ちゃんってナチュラルに言ったね?
私の事は、イザベラと呼べってお願いしたのに様付なのに!
それに私はアンタのプロデュースしたツンデレアイドルとして行くんだ!
ずっと一緒って言ったのもツアイツだよね?
だから付いて行くよ」
どうするんだ、どう説明しようか?
ウェールズ皇太子に?
まさか他国の王女を同伴で応援に来たって、正気の沙汰じゃないぞ。
「大丈夫だよ。
替え玉も置いて来たし、周囲に護衛も多めに配している。
仕事も片付けてきたから半月位なら誤魔化せる」
これだから有能な姫様は……
反論の余地が無い、でも何故シェフィールドさんが同行してるの?
「分かりました。
僕も腹を括りましょう……
しかし何でお姉ちゃんが一緒だったの?」
何だろう……
素早く目線を合わせて笑ったけど?
「「女には女の付き合いがあるのよ(んだよ)」」
まぁ、仲良くしてくれるなら良いけどね。
「さぁ暫くは空の旅を楽しんで下さい。到着予定は……」
クラヴィル殿が、気を利かせて話題を変えてくれた。
到着まではやる事もそう無いからね。
ゆっくりと船旅を楽しもう。