第164話
蒼い髪の美少女と黄昏時の空を並んで見る。
地平線に沈む夕陽を眺める……
色白の彼女の肌に夕陽の赤い光が映りこみ、いつもと違う感じに美しい。
シュチュは大変宜しいのですが、体がいう事を聞きません。
具体的に言うと、高所恐怖症のトラウマ発動!
現在、脂汗をたらしながらイザベラ様に腕を組まれてます。
「綺麗だよね……
プチトロアから見る夕日も好きだけどさ。
こう、高い所から見るのも格別さね。
ツアイツ、何で固くなってるんだい?」
普段は絶対見せない、柔らかい笑顔で僕を見上げている……
しかし僕の視線は地平線の遥か上を見ている。
下を見ると高さを実感して駄目だから!
「はははは……
確かに綺麗デスネ。
サァ部屋に戻りまショウ?
ここハ冷えマスよ……」
駄目だ!
言葉使いが変になってる!
「…………?
そうかい?
じゃ船内に戻ろうか。
ツアイツ!
脂汗かいてるけど、傷が痛むんじゃ無いだろうね?」
ガッチリと腕を抱え込んで心配そうに見上げている彼女から腕を抜き取り、腰に回して船内に誘導する……
「大丈夫でスヨ。
サァサァ中に戻りまショウ!」
やはり変なイントネーションで話し掛けながら船内に入る。
扉を閉めて、ホッと一息……
「イザベラ様。
ラウンジでお茶でも飲みませんか?
体が少し冷えました」
彼女は、未だに様付の僕をキッと睨む。
「ツアイツ?
戦艦に何を期待してるんだい。
ラウンジなんか無いよ、この船には。
有るのは大食堂だが部下の憩いの場に我々が行っちゃ奴らが気を使う。
お茶が飲みたいなら私の部屋に行くよ」
再度腕を組まれて、強引に部屋に向かう。
「いや、しかし、拙いですよ!
年頃の女性の部屋に行くなんて……」
いらん噂がたってしまう!
イザベラ様はニッコリと微笑んで
「何を期待してるか知らないけど、部屋にはメイドが居るんだよ。
何かい?
2人きりで個室に籠もりたいのかい?」
完全に遊ばれている……
「…………お邪魔します」
取り敢えず、外が見えなければそれで良い。
そう思ってました。
「お入りよ。
メイド、お茶を入れてくれ。
窓際の席が良いかね?」
流石は特別室!
この時代の船室なのに、窓が有りやがる。
しかもデカい!
「ん?
窓が気になるのかい。
普通は無いけど、コレは特注さ。
内側から塞げるから戦闘中は安全だよ。
さぁ座りなよ」
僕のトラウマとの戦いは続く……
結局、夕食を一緒にとクラヴィル殿からお誘いがかかるまで、僕の孤独な戦いは続いた。
しかしプライドに賭けて、船乗り達とイザベラ様に高い所が怖いなどとは言えない……
夕食後にイザベラ様に挨拶をして自室に戻る。
簡単に治療を終えると、僕はベッドに潜り込んだ。
SIDEイザベラ
メイド達に、夜のお手入れをさせながら考える。
思わず頬が緩んでしまう……
こんなに楽しい時を過ごしたのは初めてだ。
ツアイツは抱きつくと、たまに体を固くするけど……
やはり傷が痛むのだろうか?
変な言葉使いだし、相変わらず呼び捨てにはしてくれない。
これは立場的な物も有るのだろう。
存在が奇天烈な癖に真面目なんだよね……
でも基本的に座って話すだけだから、体に負担は無いだろう。
「イザベラ様……」
ゆらりと影から滲み出る様にシェフィールドが現れる。
メイド達が一瞬怯えるが、彼女だと確認すると、また肌の手入れにうつる。
「なんだい!
脅かさないでおくれよ」
黒衣の魔女……
しかし今は協力関係にある心強い味方。
「ツアイツですが……
添い寝が好きなんですよ!
知ってましたか?」
「なっなななな、何でアンタが知ってるんだい?」
コイツ、何を上から目線でニヤリとしやがって……
「先日、ツアイツの専属メイド達とお茶会をしまして……
何でも小さい頃から、メイド達と添い寝をして貰っていたとか。
私も昨日、してみましたが……
勿論、姉弟としてですよ」
添い寝……
若い男女が、添い寝?
「ちょおま、それで何故私に教えるのさ?」
何だい?
そのニヤニヤは……
まさか、私に添い寝をさせようt
「いえ。
今晩も私が、護衛を兼ねて添い寝しますので……
邪魔しに来ない様に忠告を……
では、明日会いましょう」
そう言って、闇に溶け込んでいった……
「まっ待て、待ちなよ……
それって、どういう事なんだい?」
メイド達が、期待に満ちた目で私を見ている。
「お前ら……
私に夜這いに逝けって言うのかい?
駄目だ!
あのタイプは此方から逝っては周りと同格扱いになるんだ。
向こうから押し倒す位じゃないと、この先他の連中と渡り合うのが難しい。
だから……
明日は昼寝をするから準備しときな。
勿論、枕は2つだよ。
お前達も一緒でも良い。
本当に寝るだけだし、4人掛かりでお願いすればチョロいよ!
ツアイツは女には甘いからね。
さて、寝るかい」
まだまだ此からが勝負だ!
この船に女は、私とメイド達とシェフィールドだけ……
がっつく必要も無い。
それに今迄は、王女の私が恋愛を楽しめるなんて思ってなかった。
国の為なら、誰でも受け入れるつもりだったのに……
好きなヤツが出来るってのは、楽しいね。
逆に据え膳喰らったツアイツが悶々として、私を意識すれば上等だね。
シェフィールドも、案外可愛いね。
あんな挑発をするなんてさ!
しかし謀で、後れをとるつもりはないんだよ。
SIDEツアイツ
夜中に目が覚める。
何で僕の腕が動かないのだろう?
金縛りか?
なにやら昨日も嗅いだ良い匂いもするし……
動く首を回して横を見る!
薄暗い中に、黒い髪の毛が見える。
視線を下げれば……
お姉ちゃんが、気持ちよさそうに寝ていた。
アレかな?
添い寝癖がついたのかな……
でも姉弟だから良いか。
何か今日は精神的にも肉体的にも疲れたから……
このまま寝てしまおう。
寝ぼけていて、思考がちゃんとしていなかったのか?
この選択肢を後悔したのは、翌朝になってからだ。
まさかイザベラ様が、起こしに来てくれるとは思わなかったから……