第178話
レコンキスタの盟主オリヴァー・クロムウェルを捕縛した父上達が、漸くサウスゴータに到着した。
元とは言えブリミル教の司教だ……
どうでるかな、ロマリアの教皇よ?
父上とツェルプストー辺境伯はウェールズ殿と謁見してから僕の部屋に来る手筈になっています。
そして……
「ツアイツ、義父様遅いね?
何をしてるんだい、全く……」
ナチュラルにイザベラ様とメイドさん達がいらっしゃいます。
ソファーに陣取り、後ろにメイドさん達が並んでいます。
優雅に紅茶を飲んでますね。
ああ、すみません。
僕にまで淹れて頂いて……
渡された紅茶を一気に飲んでからお願いする。
「あの……
そろそろ戻られた方が宜しいかと」
これからイザベラ様の事を話し合うのに、本人が居ては話し辛いかと……
「ツアイツの事だから、折衷案とか飲まされそうだからね。
それに義父様には早めに会っておかないと」
そんな彼女の衣装は、気合いが入っている。
シンプルなロングドレスだが、髪の色に合わせた青色のグラデーションで胸元の淡い青から裾にかけて色が濃くなっている。
髪飾りはダイヤモンドをあしらった銀色のティアラ。
両腕に大粒のサファイアが付いた腕輪をしている。
胸元を飾る宝石は最高純度の風石じゃないかな?
多分だが正装だ……
父上との対面に気合いを入れているのが分かる。
「凄く似合ってますが……
その飾り、国宝では?」
彼女はニッコリ笑って胸元の風石を弄ぶ。
「似合うかい?
めったに付けないんだけど、今日は特別だよ」
王族に正装で迎えられては、父上やツェルプストー辺境伯でも躊躇するだろう。
全て計算している?
などと考えていたら、いきなり扉が開いて父上が突撃して来た!
「ツアイツ!
お前、出掛けにイザベラ姫とは何でもないと言いながら……
こっこれはイザベラ様?」
ノック無しで突っ込んで来た父上が、イザベラ様を見て固まる。
「義息子よ。
流石に大国の姫君は無理があるぞ!
もう少し自重してくれ……
なっイサベラ姫か?」
続いて入ってきたツェルプストー辺境伯もイザベラ様を確認して固まる。
オッサン2人の視線が彼女を見詰めて僕の方へと移動し、またイザベラ様へと戻る。
ニヤリと笑うイサベラ様……
「義父様、ガリアのイサベラです。
末永く宜しくお願いします」
そう言ってスカートの裾を摘まんで優雅に一礼する。
慌てる父上!
「いや、その義父様?
いやいやいや、それは無理が有りますぞ!
ツアイツはゲルマニア貴族で有り我がハーナウ家の跡取り息子ですから」
ツェルプストー辺境伯も、一般論で諭そう?とする。
「お初にお目にかかります、イザベラ姫。
多国間の貴族同士の結婚とは準備が掛かります。
それにツアイツは、私の娘と既に結婚の儀を済ませてます。
ですから……」
しどろもどろに説得にかかる。
キッっと僕の方をシンクロして振り返ると
「「ツアイツ!
まさか節度有る関係であろうな?」」
そして、取り返しのつかない関係ではないだろ?
と確認するが……
「もっ勿論です。
やましい事などしていまs」
イザベラ様が僕の腕を組んで言葉を遮る。
胸が肘に当たってます。
見下ろせば、なかなかのお宝が……
「義父様、安心して下さい。
貴族として他国の殿方を我が国に迎える為の協議はアルブレヒト閣下と進めるつもりです。
正式な調印を結びます。
私達には時間が有りますから……
ツェルプストー辺境伯。
私はツアイツを独占するつもりはありません。
婚約者が居る事も承知しています。
それは受け入れますよ」
そう言い放ってニッコリ笑う。
王族に此処まで言われては黙るしかない。
意気消沈してうつむくオッサンズ……
気まずい空気が流れる。
「父上、すみません。
苦労を掛けます」
取り敢えず頭を下げる。
本当にすみませんです。
やがて顔を上げた父上とツェルプストー辺境伯が
「分かった。
アルブレヒト閣下には一報を入れておく。
くれぐれも早まった行為はするんじゃないぞ?
分かってるな!」
「義息子よ。
キュルケを泣かせる事だけはしないでくれよ。
本人には直接説明してくれ。
一旦我らはゲルマニアに帰るぞ」
物凄く念を押された……
何もかも諦めた様な、そんな表情をしている。
父上など一気に五歳は老け込んだ感じだ。
確かにガリアの狂王と親戚になるんだもんな。
色々考える事や悩み事も有るだろう……
しかしイザベラ様はご機嫌だ。
いつも以上にニコニコしている。
「ツアイツ。
これでガリアに向かう事が出来るね!
さぁアンリエッタ姫が騒ぎ出す前に出掛けよう。
メイド、出発の準備を……
では義父様、ツェルプストー辺境伯。
失礼しますわ」
そう言って、僕の腕を掴んで部屋の外に出る。
それを生気の無い目で見送るオッサンズ……
確かにアンリエッタ姫に見付かる前に出発しよう。
SIDEオッサンズ
部屋を出る2人を呆然と見送る。
「…………おい?」
「ええ……
流石はガリアを表で仕切る姫だけの事は有りますね」
扉を見詰めながら溜め息をつく。
「あの調子なら、正規の手順で攻めてくるな。
もう回避は不可能だろう……
後はどれだけ有利な条件を上乗せするかだな」
「アルブレヒト閣下と対等以上に交渉出来るのは、ハルケギニアでは大国ガリアだけ、か。
悪い様にはしないと言っているが……」
ツアイツの部屋のソファーに座る。
「息子がガリアの入り婿か……
ある意味では最高に孝行息子だが」
「貴族たる者、一夫多妻は常識だ。
そして夫は、妻達を養わねばならない。
それを考えれば、確かに悪い話しではないな」
もうイザベラ姫と引き離すのは不可能だ。
ならば、より良い条件を引き出すしかない。
「しかし、あの狂王ジョゼフと親戚か……
大変だなサムエル殿は」
ポンポンと彼の肩を叩く。
「お前の娘もイザベラ様が仕切るハーレムの一員なんだぞ。
大変だな、派閥争いの親族は……」
ポンポンと彼の肩を叩く。
虚しい言い合いを続けるオッサンズであった……