第179話
レコンキスタの乱……
後に人々がそう呼んだ、ロマリア司教オリヴァー・クロムウェルを盟主とした武装集団は壊滅した。
盟主オリヴァー・クロムウェルには、ロマリアからブリミル教の司教ゆえ、此方で処罰をすると言う虫の良い問い合わせが来た様だが、アルビオン王党派はキッパリと断った。
オリヴァー・クロムウェルは、始祖の血を引く王家に刃向かった罪人として処理された……
アルビオン大陸でのブリミル教は地に落ちたと同義語だ。
数少ない良心的な聖職者を除き、不正腐敗の認められた連中は捕縛されていく。
僕はプリンセス・イザベラ号の甲板で沈みゆく夕日を眺めている……
やっと終わった。
後はジョゼフ王と対面するだけだ。
甲板に寝転び空を見上げる。
周りを見ると高さを確認出来るから……
僕のトラウマは高所だ。
そして高度三千メートルに有るアルビオンから徐々に高度を下げて飛んでいるが、まだ二百メートルは有るだろうか?
「ツアイツ、そろそろ王都リュティスが見えてきた。
ヴェルサルテイル宮殿には直接行けないから……
此処からは竜籠だよ」
見渡せば、大分人工的な建物が増えている。
あの前方に見える城塞都市が王都リュティスか……
「イザベラ様が同行している事がバレない様に、途中から別行動ですか?」彼女はプチトロアに居る事になっている。
僕と一緒はマズいかな。
クルクルと自分の蒼い髪を弄びながら、彼女は僕を見ている。
「メイド達はさ、お父様から送られた人材なんだよ。
王族専用の護衛を兼ねているんだ。
つまり私達の行動はお父様に筒抜けだったのさ。
さっき彼女達が教えてくれたよ」
彼女の後ろに控えているメイドさん達を見る。
確かにそうだよね。
「では一緒に行きましょうか。
それなら今更だ。
別に隠す事もないですね」
イザベラ様の手を取り立ち上がる。
遂に此処まで来た。
前方の白亜の王城を見詰めて……
高さを確認してしまい、腰が引く。
「ちょツアイツ、何故立ち上がったのに又座るんだい?
ほら行くよ」
足腰に力を入れて再度立ち上がる。
眼下に見下ろすヴェルサルテイル宮殿にジョゼフ王が居る。
いよいよだ!
イザベラ様に案内されながら、ヴェルサルテイル宮殿の廊下を歩く。
後ろにはシェフィールドさんが、前にはメイドさん達が歩いている。
しかし、無駄にデカい廊下だ……
コレだけの大理石を積み上げるだけでも大変だ。
そして前方に高さ6メートル幅4メートルの両開きの扉が!
前には衛士隊の方々が並んでいますね。
イザベラ様を認めると、六人係りで扉を開ける……
暗い廊下に光が射してくる。
目が慣れると、巨大なホールが!
扉から30メートル以上離れた場所に王座が見える。
遂にジョゼフ王と対面だ!
「ツアイツ、惚けてないで行くよ」
彼女が背中を叩いてくれる。
前に一歩、部屋の中に入ると一斉に近衛兵士やら侍従やらが此方を見る。
ここはやせ我慢でも前を向いて真っ直ぐ歩く。
不機嫌そうに王座に片方の肘を付いていたジョゼフ王だが、僕を見詰めるとニヤリと笑う。
「これはこれは、巷で噂の巨乳派の教祖殿ではないか?
歓迎するぞ、ツアイツよ。
よくぞ我が試練を乗り越えたな!
しかし、シェフィールドとイザベラを籠絡するとは、俺の味方が誰もいないではないか?」
そう言って豪快に笑う。
まだ礼もとってないのに型破りなのは本当なんだな。
ジョゼフ王の前に跪いて礼節に則った貴族的挨拶をする。
「お初にお目にかかります。
ゲルマニア貴族、サムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツです。
お見知りおきを……
それと恐れながら、彼女達のジョゼフ王を思う気持ちは本物かと存じます」
そう言って顔を上げる。
「そうかそうか!
レコンキスタの討伐ご苦労だったな。
謀略だけの男かと思えば、最終決戦では自らが一万の敵を倒すとはな。
恐るべき使い手よの」
無言で頭を下げる。
「さて、俺はお前と2人きりで話がしたい。
ここは周りが五月蠅くて堪らん。
見栄を張らねばならぬ王族ゆえ仕方ないがな。
我が執務室に招待しよう」
そう言うとマントを翻してさっさと歩き出す。
しかし僕は見た。
あのマント……
僕が蒼髭のジェイさんに贈った、花咲き乱れるシェフィールドさんのウェディングドレスバージョンだ。
愛用しているのか?
イザベラ様が心配そうに此方を見ている。
安心させる様に頷いてから、ジョゼフ王の後を追う。
王座の後ろに有る扉を潜り抜け、彼の後を小走りに追いかける。
意外と足が速い。
流石は虚無の加速使いか?
開け広げられた扉を潜ると、こじんまり……
はしてないが、10メートル四方の豪奢な執務室だ。
窓が無いのは暗殺防止か盗聴防止か……
しかし魔法の灯りが煌々と点いている。
「まぁ座れ」
此方も豪華なソファーを勧められる。
座ると体が沈み込み座り心地は最高だ……
しかし、咄嗟の行動は出来ないかな。
などと考えていると、シェフィールドさんが現れ紅茶を淹れてくれた。
「ここは周りの五月蝿い奴らは居ない。
さて、これでゆっくりと話せるな」
目の前の美丈夫を見詰める。
「そう睨むな。
俺はお前を認めているぞ。
誰よりもな。
このハルケギニアで異端な漢、ツアイツ。
お前は本当に何者だ?」
手元のカップに目を落とし、何気ない様に聞いてくる。
「普通より、スケベで欲張りで自分の欲望に忠実な男ですよ」
「ふん、正直だな。
確かにその通りだから、良く自分を理解しているとしか言えんわ」
がはははっと豪快に笑う。
そんなジョゼフ王を舐める様に見詰めるシェフィールドさん……
想い人の前で、ヤンデレ化が徐々に始まっているのかな?
「ジョゼフ様、僕は与えられた試練を乗り越えて此処まで来ました。
先ずは言いたい事が有ります」
ふと何かを考える様に視線をさ迷わせたジョゼフ王が、僕と視線を合わせる。
「何だ?
一介の貴族でしかないお前が、俺の挑戦に勝ったんだ。
望みが有るなら言ってみろ?
出来る限りの事なら聞いてやる」
僕は深呼吸をして落ち着いてから、ジョゼフ王に言い放った……
「有難う御座います!
この試練を与えてくれて……」
「はぁ?」
ああ、この顔が見たかったんだ。
何を言われたか解らない、何を言っているんだコイツは?
みたいな顔が……
大国ガリアのジョゼフ王にこんな顔をさせたのは、僕が初めてだろう!