幸せワルド計画最終章挿話37・第五部(完結)
アンニュイな午後、ダッシュとハーナウ家の廊下を私室に向かい歩いて行く。
ダッシュ曰わく
「我に秘策有り!」
と自信満々だが、具体的な事は教えてはくれぬ。
微かに漏れる思考は、誰かに任せた的な感じなのだが……
「なぁダッシュ?
どんな秘策で私とジョゼットがラブラブになるのだ?
そろそろ教えてはくれないか?」
気持ちが急くのだよ!
「落ち着け本体。
もう直ぐ効果が有るとおもうぞ。
もう直ぐだ……」
全く埒があかんな。
廊下の曲がり角で、小さな物にぶつかってしまった……
「あれ?
ジョゼットではないか。
どうしたんだい?
前を見てないと危ないぞ」
弾かれて倒れそうな彼女を支える。
「ワルド様……」
そう言って走って行くジョゼットは真っ赤?
「どうしたんだろうな……
ダッシュ?」
ダッシュはジョゼットが走り去った方でなく、走って来た方を見ている。
「コッチはサムエル殿やアデーレ様達の私室の方だな……
そうか?
本体よ、ジョゼットはアデーレ様からお前の嫁になる様に言われたのだろう。
私がアデーレ様に頼んだんだ。
ハーナウ一族最強の美少女人妻に」
何を得意げに
「どやっ?」
みたいにえばってるのだ?
「お前、それはどういう……」
問い詰め様とするが
「早く追わないか!
さっさと行け」
そう尻を蹴飛ばされた。
何なんだ、全く……
昔もタバサ殿を激を入れられて追って行った様な気がするぞ。
しかし今回はフライで逃げ出した訳でもない。
ただ廊下を走って逃げたジョゼットを捕まえられた。
追い付いてから、彼女の肩を掴んで引き留める。
当然強くは掴んでいない。
あくまでも優しくだ。
「ジョゼット……
何故、逃げたんだい?
私は何か知らない内に、君に嫌われる様な事をしたのかい?」
SIDEジョゼット
ワルド様と結婚して、ハーナウ家の養女となる?
まさか、私が?
頭の中がグチャグチャで、何も考えが纏まらないでボーッと歩いていたら……
当の本人にぶつかってしまった。
ワルド様の顔を見ただけで、カーッと血が上ってしまう……
「あぅあぅ……」
何も言えずに走って逃げてしまう。
まだ自分の気持ちが、分からないから……
もう少し考えたいと逃げたが捕まってしまう。
強引では有ったが、私の体を思ってくれる様な優しい捕まえ方で……
「ジョゼット……
何故、逃げたんだい?
私は何か知らない内に、君に嫌われる様な事をしたのかい?」
悲しそうかな顔のワルド様……
貴男は本当に私を好きなんですか?
彼の手に抱かれている。
やはりワルド様の近くに居るのは落ち着くわ。
試しに正面から抱き付き、ワルド様の胸に顔を埋めてみる。
少し、いやかなりドキドキするけと嫌じゃない。
彼は、あの童話の……
ツアイツ様が書かれたシンデレラの様に、私を幸せにしてくれるのかしら?
「ワルド様……」
「何だい、ジョゼット?」
彼は軽く抱きしめてくれている。
「アデーレ様に聞きました。
わ、わわ私の事が好きだって……
本当ですか?」
実の親にも捨てられた私を必要としてくれるの?
ワルド様みたいな、立派な貴族様が?
「少し話そうか……」
そう言ってワルド様は、私室に招いてくれた。
ワルド様とダッシュ様が使っている客間。
私のより広いが2人で使っているからだろう。
自ら紅茶を用意してくれる……
それと焼き菓子ね。
やっぱり妹か娘みたいな扱い?
ソファーに向かい合って座り、先ずはお茶を飲む。
セント・マルガリタ修道院時代では飲めないような美味しいお茶とお菓子……
思わずパクついてしまう。
焼き菓子を殆ど食べ尽くしてから我に帰る……
やっちゃった!
私って色気より食い気なのかしら?
「ジョゼット、落ち着いたかい?
私は確かに君が好きだよ。
暫く一緒に行動して分かった。
趣味も嗜好も似ているし、話していて楽しい。
しかし私は貴族で有り、家の維持が必要だ……
だからアデーレ様に相談したんだ。
まさか君を養女にすると言い出すなんて思わなかったがね。
アデーレ様もジョゼットを気に入っているんだろう……」
そう言って微笑まれた。
なる程、ただ助けてくれた平民となんら変わらない私がワルド様と結ばれるには、それ相応の立場が必要なんだ。
今のままで結ばれても……
良くて側室か、普通は妾さんだよね?
ツアイツ様がマチルダさんを囲ったのは、そういう訳なのか……
ダッシュ様も貴族はハーレム普通だって言ってた。
でもワルド様は、他からのお見合いは私の為に断っているって。
普通なら立派なお家のお嬢様と結婚出来るのに。
私の事なら妾にすれば良いのに。
もしかして、ワルド様って誠実で一途な方なのかな?
そうだわ!
何時も一緒にいてくれたワルド様は、優しくて強くて平民からも慕われる立派な貴族様。
ただ助けるだけでなく、孤児達の将来の事まで考えている素晴らしい人。
この人なら信じて良いのかな?
この人の傍に私が居てもいいのかな?
今度こそ、私も幸せになって良いですよね……
SIDEワルド
アデーレ様とのやりとりをダッシュが確認して思念を送ってくれたお陰で、辻褄の合った話が出来た筈だ……
しかし、この娘は前に助けた時も、こうやって思考の海に沈んでいたな……
百面相みたいに表情をクルクル変えて、考え込んでいる姿は可愛いものだ。
勿論、本来の姿も可愛いがフェイスチェンジの魔法の仮の姿も素敵だ!
ぐふふっ……
一粒で二度美味しい?
すっかり冷えてしまった紅茶を入れ替えて、焼き菓子を補充しても気が付かないとは……
しかし無意識なのか焼き菓子はパクついている。
タバサ殿もそうだったが、オルレアンの血筋とは大食い?
ツアイツ殿的に言えば、フードファイターか……
このチッコい体の何処に入るのだ?
などとジョゼットを見ながら考えていたが、長いぞ。
もう十分以上はは経つな……。
「ワルド様……
本当に私で良いの?
私、ガリア王家の血を引く悪しき双子の捨てられた片割れ……」
何か泣き出しそうに言う彼女の言葉を抱き締めて止める。
「良いんだ。
そんな物は関係ない。
私はジョゼットが好きだ!」
そう言うとジョゼットも抱き返してくれた。
「ワルド様、有難う……
私、幸せに。
今度こそ幸せになれるかな?」
「ああ……
誰よりも幸せにしてm」
甘々な空間に突然ノックが鳴り響く。
パッと離れてソファーに座る。
だっ誰だ?
最高潮に盛り上がった瞬間に無粋な!
「ワルド殿、いらっしゃいますか?
アデーレ様が至急お部屋の方に来て頂きたいと申しております。
ああ、ジョゼット様も呼ばれております」
ナディーネが、扉の所に控えていた。
「アデーレ様が?」
「そうです。
大変に急がれています。
さぁ此方へ」
そう言って歩き出してしまう。
「……ジョゼット、なんだろうか?
取り敢えず行こうか」
彼女も顔を真っ赤にしているが、小さく頷いた。
折角両想いになった瞬間なのに……
それは無いですよ、アデーレ様。
愛しのジョゼットを伴い、ナディーネに付いて行く。
「何なのだ?
急ぎの用件とは……」
急ぎ足の彼女に聞く。
「ツアイツ様から手紙が来ました。
その件だと思われます。
後は奥様から聞いて下さいませ」
そう言って、アデーレ様の私室に案内された。
挨拶もそこそこに、アデーレ様から話を切り出された。
「ワルド殿。
レコンキスタ討伐は完了し、犯罪人オリヴァー・クロムウェルも捕縛したそうです。
ツアイツはガリア王ジョゼフと面会し目的は達成した、と……
故に貴方の協力を求めています。
オルレアン夫人とカトレア嬢を先に治療する為に貴方が必要だそうです。
直ぐにツアイツの下へ向かって下さい」
何だってー?
そんな、折角ジョゼットと両想いになったのに……
これからニャンニャンなのに……
「まっ待って下さい。
私はジョゼットと漸く両想いに……
これからが……」
「ジョゼットについては、私が花嫁修行をさせておきます。
だから早く出発なさい!
それとジョゼット」
「はっはい!」
いきなり名前を呼ばれたジョゼットがビクッとした。
アデーレ様は、ジョゼットを抱き締めながら
「オルレアン夫人……
心の病が治るそうです。
貴女の実の母親……
でも私は彼女に貴女を渡すつもりはないのよ。
貴女は私の娘……
良いわね?」
そう言った。
既に貴女は私の娘なのだから渡さないわよ、と……
「……はい。
お母様」
涙を流しながら抱き付くジョゼットの髪を優しく梳いているアデーレ様。
感動的な母娘の姿……
これでジョゼットは幸せになれるだろうし、するつもりだ。
しかし、しかしだ!
ツアイツ殿、何故あと1日待ってはくれなかったのですか……
私の、この溢れる想いは何処にぶつけたら良いのですか!
もしかして、総てが解決するまで……
おあずけ、なのか?
ワルドさんの幸せは、暫くお預けです(笑)
しかしロリっ子を何とか射止めた訳ですし、敬愛するサムエルとツアイツと義理でも家族になれた訳ですから……
ワルドさんの幸せは此処に補完されました!
この後ダッシュとサードは、普通にマイハーレムを作って幸せに(笑)
サードはトリステインから引上げないと仕事に追われ、今は大変なのですが。
この次はシャルロットとオルレアン夫人の補完。
その後にカトレアさんの治療。
挿話は三人娘とヴァリエールさんちの長女次女コンビの思惑。
サムエル達オヤジ達の愚痴話。
あとはシェフィールドさんの甘々洗脳日記。
そしてジョゼフ王の治療からエピローグへと続きます!