第183話
おはようございます。
ツアイツです。
プチトロアの中庭に設えた東屋に座っています。
四季の花々をあしらった花壇が素晴らしい。
花に詳しくはないので、何が咲いているのか分かりませんが兎に角綺麗です。
さて、これからシャルロット様の実家のオルレアン邸に行って夫人の治療を……
行いたいのですが、軽く虚無った遍在を生み出すワルド殿(本体)を呼び寄せるのに時間が掛かりました。
此処まで漕ぎ着けるのに4日のロス……
その間はイザベラ様とガリア観光が出来たので良かったのかな?
そして久し振りにワルド殿に会ってみれば……
「ツアイツ殿、私はタバサ殿にどの面下げて会えば良いのでしょうか?
ジョゼットとは両想いになれました。
しかし、彼女は実の母と姉に会う気は無いと。
その気持ちは尊重したい、しかし……」
相当悩んだのか、目の下に隈を作って向かいに座って俯いている。
真の漢と書いて変態紳士ワルド殿だが、振られた彼女でも秘密を持つのは辛いのか……
妹と良い仲になったのが気まずいのか?
それとも、実の母と姉に会わせた方が良いのか悩んでいるのか?
彼は意外と優しすぎる面が有る。
「これはミス・ジョゼットの気持ちを優先すべきですよ。
言葉は悪いが、会う会わないは捨てられた方に決定権が有ると思います。
ワルド殿は堂々とシャルロット様に会えば良い。
なんたって、ハルケギニア広しと言えども、オルレアン夫人を治せるのはシェフィールドさんと
ワルド殿しか居ないんですよ」
そう言って彼の肩を叩く!
バンバン恩を売って下さい。
「ではお姉ちゃん指輪渡してあげて……」
ゆらりと僕の後ろに現れるシェフィールドさん。
僕の首に両手を絡めてきますが……
もう驚きません。
移転出来るマジックアイテムが本気で欲しいです。
「ほら、大切に扱いなさいな」
そう言ってアンドバリの指輪と水の指輪をワルド殿に渡す。
最初よりも彼に対する態度が軟化しているかな?
僕はワルド殿の漢力を増幅する為に男の浪漫本の新刊を渡す。
2つの指輪を握り締めて本を開く。
フンフンと鼻息を荒くしていくワルド殿……
目に見えて、何か分からないオーラが彼を包む。
端から見れば、エロ本をみて興奮している人だ!
「きっキタキタキター!
内なる力を発現するのだー!
ユビキタス・デル・ウィンデ、風は変態する」
アレ?
何かスペルが違う様な……
そして遍在が現れる。
「本体、最後のスペルは良かったぞ。
我は性癖に特化した遍在となった」
「ふっ……
褒めるな分身よ。
我らは全て紳士たれ、だ」
僕はテーブルに突っ伏した。
何故か新しい遍在殿は……
武装錬金のチョーな人の様な全身タイツに仮面を付けている。
「ワルド殿、彼の格好は……
その随分とアレな感じが……」
ワルド殿と遍在殿を見つめ合って頷くと
「確かに我等ながら素晴らしい衣装だ!
しかし、その格好でジョゼット殿を襲ったんだった……
それは封印だ」
不穏な台詞を聞いたよ?
襲撃って報告で知っていたが、あの格好でロマリアに罪を押し付けたのか?
それはジョゼット殿がロマリアを嫌うのが分かる。
アレに襲われたなんてトラウマになってない?
僕の周りはトラウマ持ちが多くないか?
ワルド殿がもう一度スペルを唱えると、普通の衣装に戻った。
「では指輪はお渡しする。
私は此処で待機ですな。
ジョゼット殿の件も有るし同じ顔が2人も居るとオルレアン夫人を刺激してしまうだろう……」
遍在とは言え、双子を連想させてしまうからか。
「ではオルレアン邸に行きましょう」
SIDEベルスラン
イザベラ様から通達の有った奥様を治療して下さる方々がいらっしゃいました。
初めてお会いしましたが、シャルロット様が奥様に読ませていたアノ本の著者……
また随分と若い御仁で御座いますな。
多分十代半ばかと……
しかし、あの黒衣の魔女と隣国の魔法衛士隊隊長まで従えています。
心なしかシャルロット様も普段の無表情でなく、僅かですが微笑まれている気がします。
もしかして好意を抱かれているのでしょうか?
考えれば、あの様な艶本を譲る程の仲なのですから。
かなり進んだ仲に?
などと考えていましたが、ちゃんとお客様を応接室にお通しして紅茶を煎れています。
「ミスタ・ツアイツ。
お母様をお願い」
ソファーに座ると直ぐにシャルロット様が懇願していますが……
それは縋る様に抱き付いています。
やはりお二人は?
「シャルロット様、落ち着いて下さい。
今回の治療に関して僕は殆ど何も出来ません。
ワルド殿とシェフィールドさんの力を借りなければ不可能でしたから……」
「ワルド様?
……ありがとう。
私、貴方に……」
「良いんだ、その事は……
オルレアン夫人の治療には全身全霊協力する」
何やらこちらも怪しい雰囲気で御座いますな。
シャルロット様の友好関係は一体?
「先ずはオルレアン夫人を呼ぶ前にお話が有ります。
ジョセフ王にも了解を貰ってますが、治療法は彼女の精神を……
心を蝕んでいる原因の記憶を書き換える事です。
原因の記憶は教えられません。
それは……
お互いに真実を知ってしまうと取り返しがつかない事になるから。
しかし治る事は保証します。
そしてお二人には、新しい身分と環境で暮らして頂きます。
旧オルレアン派は完全には復権を諦めてはいないでしょう。
だから偽装死をして彼らの反乱の口実を無くします。
これが治療の条件です」
ツアイツ様は、とてもお辛そうな顔をされています。
奥様は正気を失っていた為に、旧オルレアン派から御輿としての利用を逃れてきました。
しかし快癒し、シャルロット様とお暮らしになれば利用しようと動き出す。
「構わない。
お母様が治るなら……
その条件を受け入れる」
シャルロット様!
お仕えする姫様が覚悟を決めているなら、私は従うまでで御座います。
「分かった。
では治療を始めましょう。
オルレアン夫人の元に案内して下さい」
直ぐにでも治療をして欲しいシャルロット様がツアイツ様の手をお取りになって……
ちょーっと待ったー!
あの忌まわしき旦那様の女装癖&近親相姦ホモ野郎の記憶が無くなり正気を取り戻しても、自分の娘が実の母親にエロ本を朗読させる記憶が……
正気を取り戻しても、更なる悩みを生んでしまう。
「ちょ一寸お待ち下さい。
ツアイツ様……
少し私とお話をさせて頂けないでしょうか?
出来れば、オルレアン家の機密に関わりますので2人きりで……」
「……ベルスラン?」
シャルロット様には言えません。
まさか父親だけでなく娘も変な性癖を持っている事を奥様から忘れさせて頂きたいのです、なんて……
でなければ、また奥様は病んでしまわれます!
父娘が共に変態道を歩んでいるなんて……
この世に神は居ないのでしょうか?