挿話38・オヤジ達の哀歌
祖国に帰る空中船の中でツェルプストー辺境伯と差し向かいに座り、出された紅茶を飲む。
そして一連の騒動について考える。
レコンキスタの乱。
ブリミル教の司教がおこした武力による反乱軍。
蓋を開けてみれば、最後まで我が子の掌で踊っていた美乳派なとと言う戯言を錦の御旗に掲げていた男。
最後は逃走中に捕まえた。
理由は荷馬車に積んだ金貨が重過ぎて逃走の速度が遅かったからだ。
金と権力に固執した小者、オリヴァー・クロムウェル……
愚かで哀れな男だったな。
「実に間抜けな司教だったな。
美乳派とほざいていたが、最後は金貨を捨て切れずに捕まるとはな」
向かいに座っているツェルプストー辺境伯は吐き捨てる様に言う。
「確かにな……
無理に乳に拘るから、浅はかさが際立つ。
乳の偉大さを語れる漢なら、或いは苦戦したかもしれん」
自身が貧乳教祖として、また幼女愛好家のトップに君臨する漢でも苦戦すると言うのか?
「苦戦?
お前とお前の息子がか?」
何やら眉間に皺を寄せながら語り出す。
「美乳派……
それは貧巨乳派としても認めなければならない意義が有るんだよ。
バインバイン、ペタンペタン……
それはそれで素晴らしい。
しかし、乳の大小に関わらす形や肌のきめ細かさ。
造形美や全体とのバランス等、語り出せば幾らでも支持を集める事が出来ると思わないか?
特に女性ならば、現状で一番美しく魅せる手立てを構築出来るのだ。
息子と2人、目からウロコが落ちる思いだったよ……」
なる程、確かに真にオッパイを愛する漢だったなら簡単には勝てなかったか。
「だから我らの新しい教義には盛り込んだよ。
今までは信者の比率は圧倒的に男が多かった。
しかしツアイツと、この教訓をもとにエステなる美容に関する新たな試みを考えているのだ。
最初は貴族の子女らに試して、徐々に広げていく。
女性向けの商売だな……」
これは新しい商売だな。
今までも美容に関する秘薬等は有ったが、画一的な物ではないし……
効果が有れば、当事者は秘匿して広まらない。
これに、アヤツのバストアッパー神話を組み込めば……
ハルケギニア中の女性の美が底上げされるな。
「ウチも噛ませろよ。
これからアルブレヒト閣下に報告に行くのだからな。
助力はしてやる。
お前達はこれからが大変だからな」
「当然だ。
我々だけでは手が足りん。
それにな、もっと大きな問題も有るんだよ」
未だに眉間の皺は取れない……
手に持ったカップを一気に煽り、息を吐く。
「最近になってツアイツが何処からか1人の女性を連れてきた。
今はウチの諜報部隊で働いている。
中々どうして有能だ。
一国の戦闘部隊の隊長が務まる位にな……
そして他国から来るスパイ達の捕縛率が上がった。
結果的に我が領地に一番スパイを送っているのは……
ロマリアだ」
苦々しく吐き捨てる。
「なっロマリアのスパイだと?
それはロマリア教皇直属の密偵団か?」
ロマリアと言う国は代々諜報に力を入れている。
異端を探し出し処罰する為に……
後はサハラ砂漠で何やら捜索をしているらしいが。
「捕まえた奴を尋問、いや拷問かな。
その女はラウラと言って火のトライアングルだが、荒事に馴れている。
拷問も大した物だったぞ。
そして聞き出せた事は、貧巨乳派とアイドルは教皇にとって、またブリミル教にとって都合が悪いとさ」
「つまりブリミル教と言うか現教皇はお前たち父子と、その嫁を排斥する気か?
ホモ教皇がトチ狂いやがって!
しかしブリミル教はマズいな……
どうするつもりだ?」
宗教戦争など双方が疲弊するだけだし、異端審問など奴らが一方的に出来るのだ。
「ブリミル教と敵対と言うか、現教皇と敵対する事は事前に分かっていたさ。
201人分の男の娘用の衣装をタカってきた時からな。
対策は講じているよ。
問題はツアイツの立場だな。
ゲルマニアの一貴族の跡取りが、隣国の次期王になるかも知れないのだ。
閣下の気持ちを考えれば、面白くはないだろう?」
確かに家臣が他国の、それも最大国家の次期王となれば思う所も有るだろう……
「イザベラ姫が親書を届ける前に、我らは閣下と謁見せねばならぬ。
どうする?
アルビオン王国の件は上手くいった。
しかし、ガリアの件は何の予備知識も無いはずだ……」
胃を押さえる2人。
「くっ……
しかし悩んでも仕方ないだろう。
腹を割って正直に話すしかあるまい。
閣下は疑り深いから無用な画策は返って反感を買うだろう」
しかしアルビオン王家からは正式な国交に加え、かなりの優遇措置を得られた。
アルブレヒト閣下の念願の始祖の血を帝室に入れる件については……
「なぁ?
ウチの閣下がもしトリステイン王国との政治的な問題でアンリエッタ姫と婚姻を結びだいと言ったら……
どうする?」
凄く嫌な顔で聞いてくる。
「止めるのが家臣の務めだと思うな。
しかし、その件については心配なかろう?
ウェールズ皇太子との謁見を思い出せ。
彼はゲルマニアと婚姻外交を結んでも良いと言っていたな。
条件は巨乳でお淑やかな美少女が良いと……
アルブレヒト閣下には、該当する娘が何人か居る。
帝室に始祖の血を入れる事は可能だ。
ご自身の子供にと言われればアルビオン王国には薄い血ならば、王家に連なる娘が居るらしいな。
適齢期の娘が……
これに掛けるしかあるまい」
「確かに成果はデカいな……
これを材料に交渉するしかあるまいな」
「「全く面倒ばかり押し付けおって……」」
此処には居ない息子に愚痴の一つも言いたくなる。
悩みはしても、船は順調にヴィンドボナに向かっている……
SIDEオヤジズ
昼夜を問わず急いだ為に割と早く着いてしまった……
「着いたな……」
「ああ、早かったな……」
背中が煤けたオヤジが2人、閣下の居城を見上げている。
ゲルマニアでも有力な貴族であり親アルブレヒト派である2人は、問題無く謁見を許された。
勿論、援軍の報告と言う本来の目的が有るのだから取次がスムーズなのは当たり前だ。
気持ちを落ち着けているウチにアルブレヒト閣下が謁見の間に入ってくる。
「ご苦労だったな!
バカなブリミル教の司教の捕縛は我らゲルマニアの手柄か。
連絡は既に入っているぞ」
ご機嫌なアルブレヒト閣下を目の前に暗い表情のオヤジ達だった……