第186話
おはようございます。
ツアイツです。
オルレアン夫人の件が一段落したので、今はカトレア様の治療をする為にトリステインに向かっています。
秘密裏に……
だって公にしてアンリエッタ姫に捕まるとか嫌ですから。
魔法衛士隊隊長のワルド殿も同行しているけど……
国境警備もザルだから普通に入国出来ました。
今は馬車にゆられてヴァリエール領内を移動しています。
秋が近いせいか、畑の作物も順調に収穫に向けて育ってますね。
長閑な田園風景です……
「ツアイツ殿、ヴァリエール公爵邸が見えましたぞ。何時見ても大きいですな」
ワルド殿がノンビリと何度か訪れた屋敷の感想を言っている……
「確かに屋敷は見えるけど、それに向かう道も延々と見えるよね……」
ヴァリエール公爵には先に手紙を出している。
だからカトレア様も領地から実家に戻っている筈だしルイズも当然帰省中だ。
一波乱有るかな?
「お姉ちゃん、冷静にね。
カリーヌ様を刺激しない様に……
今回は治療に来ただけだよ」
隣に座るシェフィールドさんの横顔は穏やかだ。
「ツアイツ平気よ。
最高純度の火石や風石を持ってきたし、各種マジックアイテムも用意したわ。
次に失礼な事をするなら、この領地を更地にするだけよ。
今度は負けないわ」
穏やかな表情だが、何か決意を秘めた瞳で見詰められました。
決着をつけるつもりなのか?
「その……
穏便に行こうよ、向こうだってお姉ちゃんしかカトレア様の治療が出来ないんだし無茶はしないと思うよ。
だから治療だけしたら帰ろうね」
彼女は穏やかに頷いたが、本当に大丈夫なのだろうか……
烈風VS神の頭脳!
城塞都市を破壊出来る連中なんですよ。
無理だ、僕には止める事は出来ない……
一抹どころじゃない不安を抱えながらヴァリエール公爵邸に着いた。
そして屋敷の前にはヴァリエール一族が全員整列しています。
アカデミーに居る筈のエレオノール様まで居ますね。
「ご無沙汰しております。
ヴァリエール公爵、カリーヌ様……
そしてエレオノール様、お久し振りです。
カトレア様、治療任せて下さい。
ルイズ、色々ごめんなさい」
一族全てが集まっているってどんだけ?
「良く来てくれた婿殿。
あれからイザベラ姫より正式な申し出が有った。
ルイズの立場は側室としてガリアへ嫁入りだ。
トリステイン王宮への交渉も始まっている。
全く、ウチの姫とは大違いだよ。
正攻法で攻めてきた。
今トリステイン王宮は蜂の巣を突っついた状態だよ。
因みにウェールズ皇太子との婚姻外交は流れたらしい。
アンリエッタ姫が暴れて大変だよ」
げっそりと目の下に隈を作っているヴァリエール公爵。
本当に大変だったんだな。
「ツアイツ、後でゆっくりとお話しましょ。
私ね……
お父様達がアルビオン大陸に行っている間、独りで寂しかったの。
お母様から出掛けちゃ駄目だって言われたから。
だから手紙を出して友達を呼んだのよ。
みんな来るわよ」
正面から抱きつかれて、こんな台詞を言われました。
みんな?
モンモランシーとキュルケか?
「あらあら……
ツアイツ君、さぁお入りになって。
アルビオンでの活躍を聞きたいわ」
「そうね、ツアイツ。
色々お話しましょうか……
イロイロね」
長女と次女に両腕を捕まれ連行されそうになる。
「ミス・カトレア、お久振りね」
シェフィールドさん参戦?
後ろから首に手を回し抱きしめられた……
前はルイズ、左右にエレオノール様・カトレア様。
後ろはお姉ちゃん。
視界には額に井形を浮かべたカリーヌ様……
「あらあら……
ツアイツ君、人気者ね。
先ずはお家に入りましょう。
さぁ早く、ここではゆっくり話も聞けないわ」
相変わらずポヤポヤしているが、手は離してくれません!
「……取り敢えず、一旦離れましょう」
エレオノール様が、そう言って手を離す。
渋々周りも離れていく。
僕のライフは既にレッドゾーンだ……
「でっではカトレア様の治療法の説明を……
先ずは落ち着ける所へ行きましょう」
無言でプレッシャーを掛けるヴァリエール夫妻にお願いする。
一応、次女の治療に来たのだが……
「そうね。
ツアイツがどうしてもってお願いするから……
仕方なく治療するのよ。
そこを弁えなさい」
シェフィールドさんが、微ヤンデレ化しながら僕への対応の悪さを指摘する。
そして、やっと応接室に入れた。
ずっと無言のワルド殿も胃の辺りを押さえている。
彼も聞いたんだろう。
アルビオン大陸での彼女らの戦いを……
広い応接室に此方は三人、向かい側にヴァリエール一族が座っている。
顔見知りの執事さんとメイドさん達がお茶の用意をしてくれている。
紅茶の芳醇な香りが室内を満たしていく……
カトレア様を治療したら、さっさとルイズをガリアに攫って行こう!
嫁の実家とは、こんなにも居辛い物なのか?
世の中の夫達よ……
半端ない姑・小姑が揃っているからか?
修行と言う名のシゴキで、何年も家族然として暮らしていたからね。
これも愛情の裏返しか……
独り煤けていても仕方ないので話を進める。
「先ずはカトレア様の治療ですが……
魔力の籠もった指輪を使います。
それをマジックアイテムの制御に優れたシェフィールドさんが治療に使います。
尚、指輪自体は治療で内包する全ての魔力を失う為、壊れます。
借り受けている物なので、ワルド殿が遍在魔法で既にコピーを用意してくれました。
此処までで、何か質問は有りませんか?」
一気に話してから、ヴァリエール一族を見渡す。
事前説明は大切だ!
「その指輪の出所は?
私が研究出来るかしら?
つまりその凄い指輪借りられるかしら?」
ああ、研究者の目になってる。
「家宝と祭事用の指輪を借りてますので研究対象として貸し出すのは無理です。
因みに遍在でコピー出来るのも、ハルケギニアではワルド殿だけでしょう。
それでも短期制御しか出来ないので、こうして同行して貰ってます。
この指輪、漢力が最上位まで高まって初めて遍在でコピーが可能なのです」
あれ?
嫌な顔されたぞ!
「そんな力でコピーした物をちい姉様に使って平気なの?
変な病気うつされない?」
ルイズの言葉にワルド殿が胸をおさえてうずくまる……
僕が持ち上げた後に、叩き落とされたからか?
「変な病気などうつらないから安心して。
それに何人か既に難病で治療不可と言われた人を治しているんだ」
ちゃんと実例が有ると伝える。
「ルイズ、良いのよ。
後何年も生きられないと言われた私の為に、ツアイツ君が治療法を探してくれたの……
だから、どんな事でも受け入れるわ」
当人のこの一言で、治療が始まった。