挿話41・長女と次女の思惑……
ヴァリエール公爵家の三姉妹は何かと話題になる事が多い。
長女エレオノール。
トリステイン王立魔法研究所の評議会議長であるゴンドランが失脚した今、アカデミーの実質的なトップは彼女だ。
才女で有るが故に、自分と目線が同じであり更にタフネスな相手にしか興味が無いお姉様。
性格は母親似で有り、胸もそっくりだ。
ちっパイでツンデレな彼女は、ナイスバデーに変貌してしまったルイズの代わりを務めている?
次女カトレア。
生まれつき体が弱く、天寿を全う出来ないと言われていた。
せめて美しい景色の有るラ・フォンティーヌ領で安静に暮らして欲しい。
そんな願いで子爵として父親から領地を与えてもらった。
ポワポワとして笑顔を絶やさないお姉様。
しかし押しが強くカンが鋭い。
常に沢山の動物を侍らす、ハルケギニア版ムツゴロウさんだ!
しかし不治の病と思われていたが、ツアイツにより完治した。
母親からは髪の色しか受け継いでいない、優しい巨乳さんだ!
彼女達はカトレアの治療が終わった後で、なんとなく2人きりでお茶を飲む流れになった。
エレオノールの私室で……
女性の部屋とは思えない程、本やメモに埋もれた部屋。
しかし整理整頓は出来ずとも清掃は行き届いている。
設えた応接セットに腰を下ろし、先ずは治療の成功を喜び合った。
「カトレア、本当に良かったわね。
でも貴女を治せる程の指輪か……
研究したかったわ」
研究者として、あの2つの指輪は諦め切れないみたいだ。
「ダメよ、エレオノール姉さん。
ツアイツ君も私の為に、危ない橋を渡ってくれたのよ。
これ以上の迷惑は掛けたくないわ」
やんわりと窘める。
「しかし、聞けば聞く程無茶をしたわね。
軍人でもないのに、レコンキスタ軍傭兵一万と戦うなんて……
話を聞いてる途中で心臓が止まる位驚いたわ」
ツアイツは見た目は華奢な優男だ。
それに戦いを好む性格ではない。
「ツアイツ君……
それだけ私の為に無理をしたのよ。
後二〜三年しか生きられないと思っていたのにね。
延命じゃなくて完治したなんて驚きだわ」
そう言った後、沈黙が流れる……
冷えた紅茶を入れ替えて、一息つく。
「ねぇ?
ツアイツ……
ルイズを連れてガリアに行くそうね。
寂しくなるわね。
まさかイザベラ姫を籠絡するって何よ!
胸なのね?
私には胸が足りないのね?」
何処からか怒りが沸々と湧き上がってくる。
何でルイズなのよ!
「そうね。
ツアイツ君、色々と浮気してるしエッチだし……
でも不思議な子。
私ね、彼から警戒されていたの。
私のカンの良さに、何か秘密を嗅ぎ付けられるかも知れないって……
そう思っているみたいだったわ。
そんな子が私を治療した。
何故かしらね?」
カップを弄びながら、独り言の様に呟く……
「警戒?カトレアを?
何かしら?
確かに隠し事の多い子だけど悪意は無いわよね?」
流石に転生の秘密には辿り着かないが……
「エレオノール姉さん。
私達が、あの子と結ばれるのにはどうしたら良いと思う?
命の恩人に何か恩返しがしたいわ」
「今となっては無理ね。
ガリアの王女と正式に結ばれるのよ。
もうゴリ押しも出来ない。
ルイズの場合はイザベラ姫が受け入れたからよ。
私達はどうこう出来ないわよ。
それに完治した貴女には、ヴァリエール公爵家を受け継いで欲しいわ。
まだギリギリ適齢期よね、ア・ナ・タ・は!」
少し、イヤかなり恨みの籠もった目でカトレアを見詰める。
「あらあら?
長子が継ぐのが、貴族の習わしよ。
私は子爵位を拝していますし……
エレオノール姉さんも頑張れば旦那様を見付けられるわよ」
ニコニコと微笑んでいるが、言ってる内容は酷い?
「ちょ、なんで私が!
私の恋人は研究で良いわ。
あの子よりマシな男なんて居ないじゃないこの国。
それに跡取りならお母様が頑張ってもう1人産めば良いのよ。
この家の存続の為に、適当な男と結婚なんてイヤ!
カトレアが継ぎなさいよ」
この話を両親が聞いたら微妙だろう……
なにせ、もう一人子供を作れって内容だし。
「エレオノール姉さん……
私の考えに乗る?」
ニコニコと微笑んでいるのは同じだが、何か黒く渦巻く物が見える。
「か、カトレアさん?
何か背負ってるわよ」
実はここ一番で押しが弱いエレオノール……
そして怖がりな一面を持つ可愛いお姉さんだ!
「私ね……
ツアイツ君が良いわ。
でも普通に考えれば、結ばれるのは無理よね。
それこそガリア王国と戦争になるわよ。
次期ガリア王になるツアイツのお嫁さんになりたいなんて……
でも私は側室やお妾さんになりたい訳じゃないの。
ツアイツ君の傍に居れば良いのよ。
だからツアイツ君の教団で働くわ。
恩返しを込めて……
それで男女のゴニョゴニョになっても責任を取れとは言わないわ。
あの子は押しに弱く、優しいから……
私はそれだけで良いのよ」
聖母の微笑みで、のたまった!
「きっ汚いわよ!
近くで恩返しの為に働く健気さを見せて、あらあら・まぁまぁ!
で男女の関係に……
でも身を引くわ!
って言えば、あの子は優しいから何とかするって事?
でも、それは根本的には変わらないわ、駄目よ。
ツアイツに迷惑が掛かるから……」
途中経過が変わっただけで、結果は同じ。
ヴァリエール公爵家から男女の関係を持った娘が、ツアイツの下へ行くだけだ。
「エレオノール姉さん、違うわ。
別に関係を公表しろなんて言ってないわ。
ただ結ばれるだけで良いのよ。
周りには秘めたる恋人よ」
つまりアレか?
ツアイツにとって、都合の良い女になる訳か……
でも、とうの昔に結婚なんて諦めている。
今更、他の男となんてお断りだ!
なら秘密の恋人でも……
良くね?
仮に子供が出来ても、貴族なら御落胤なんて普通だ。
育てる自信も有るし、お母様の養子にしてヴァリェール家を継がせても良いし。
「なる程ね……
その案に乗るわ。
でもヴァリエール公爵家の事も考えなければいけないし、私達だって直ぐには自由に動けない。
なら、どうする?」
聖母の微笑みを浮かべるカトレア。
対するは邪悪な笑みを浮かべるエレオノール。
「簡単なのは、ツアイツ君の教団で働く事ね。
接触は容易よ。
またはルイズが妊娠して里帰り。
付き添いにくるツアイツ君……
とか色々よ。
何かの用事で会える機会を探せば良いの」
「「くすくすくす……
なる程ね、色々ね」」
妙に仲が良くなった2人姉妹……
「いっそトリステイン王国が、ガリアに併合されたりしたら……
同じ国内だし良くないかしら?」
「あら?
トリステイン王国のトップに立って、ガリアに属国化されるのも良くないかしら?」
ドンドンと妖しい打ち合わせに発展していった。
翌日、ガリアに向かうツアイツを送り出す時に妙にエレオノールとカトレアはくっ付いて妖しい笑みを浮かべていた。
ツアイツが悪寒を感じる位に妖しい2人姉妹……
ツアイツ、君は狙われている!