挿話43・シェフィーとジョゼフ甘々日記(薔薇色の未来編)
初めての王族の食卓に戸惑う私をジョゼフ様は、ただ笑って見ているだけ。
只でさえ広い部屋に長い机。
そして手の届かない所にまで並べられた料理……
壁際に並ぶ使用人の方々。
まさに別世界……
私、宮廷マナーなんて殆ど知らないのに。
料理人の方が、ワインをグラスに注いでくれる……
食前酒だろうけど、何やら甘口の飲みやすいお酒。
次に前菜の器が運ばれるが、マナーばかり気になって味が全然分からない。
スープが出てサラダ、主菜はお肉……
気が付けば、食後の紅茶が目の前に有るし。
「上の空だったが、料理は全て食べたな。
どうだったかな?」
「はっ、はい!
とても美味しかったです」
いきなり話し掛けられて、テンパってしまう。
見上げれば、口をナプキンで拭いているジョゼフ様……
庶民の食卓と違い話ながら食べるなんて事は無いと思い無言だったけど、違ったのかな?
「そうか。
では後でな……」
後で?ナニを?
そう言うなり立ち去ってしまう……
1人大食堂に残されるが、直ぐにメイドさん達が客間に誘導してくれる。
そしてまたお風呂と着替え……
流石にのぼせる。
バスローブのままで部屋の方に移動。
そこにも複数のメイドさんが手に色々な衣服を……
「なっ何ですか?
そのフリフリな服やスケスケの下着は?」
ついさっき入ったお風呂にもう一度入らされ、肌を丹念に磨かれて、のぼせた体を拭いて貰い……
いざ着替えと言う時に、トンデモナイ服?が!
「夜伽用の衣装ですわ」
「さぁさぁジョゼフ様がお待ちですわ」
「早くお召し替えを……」
急かされて着替えはしたが、トンでもなく恥ずかしい。
スケスケだけど肌触りの良い下着。
何だか簡単に脱げてしまいそうなフリフリなドレス。
流石にアクセサリーは付けないが、香水を軽く吹き掛けられた。
「「「お似合いですわ!
では此方へ」」」
そう言って奥の部屋に押し込まれた……
「あっあの?」
目の前には巨大な天蓋付きのベッド!
何故かを聞こうとメイドさん達に声を掛けるも、お辞儀をしながら扉を閉める途中だった。
「えっ?あのっ?」
私、ジョゼフ様の夜伽をしなければならないの?
今日会って、これから直ぐなの?
部屋の真ん中で立ち尽くしていると、扉が開いてジョゼフ様が入って来た……
随分とラフな格好だ。
「おお!
我がミューズよ。
先程とはまた違った魅力だな。
さぁ此方に来い」
そう言うなり私の腕を掴み、力強く自分の方に引き寄せた!
当然の様にジョゼフ様の腕の中に抱かれる……
「あっあの、その……」
突然の事に私は抵抗出来ずに、ベッドに押し倒されてしまう。
嗚呼、私の運命や如何に?
◇◇◇◇◇◇
よっしゃー!
これで私達の初めての夜が始まるわ。
この流れはジョゼフ様が私を見初めて城に連れ帰り、強引にモノにした……
これからが本番よ。
次は私の虜となったジョゼフ様が、恐縮し断る私を強引に後妻にと話を進めるの……
これで、出会いから初めての夜。
そして結婚へ……
「うふっ……
うふふふふふ、あーっはっはははっはー!
私達の幸せは直ぐそこよー!」
◇◇◇◇◇◇
嵐の様な官能の世界が終わった……
豪奢なベッドでジョゼフ様に腕枕をされながら、並んで寝ている。
何故か目から涙が……
「お前、泣いているのか?
何故だ?
俺はお前が気に入ったのだぞ」
私の涙を見て、何故か焦った感じで聞いてくる。
「いえ……
これは、その……」
しかし何故かを説明する言葉は出なかった。
「お前、そう言えば名前を聞いていなかったな。
何と言うのだ?」
そうだった!
まだ名前も伝えてないのに、こんな関係になるなんて……
「シェフィールドです」
名乗ると腕枕をしている手で器用に髪を梳いてくれる。
「シェフィールドか……
良い名前だな。
俺は自分の弟を手に掛けた。
王位簒奪を企てた取り巻き達と共にな。
それからは空虚感だけが心を占めていたよ。
血の繋がった相手が欲望に身を任せて襲って来たのだ……
しかし俺は禍根を残さぬ為に捕らえた奴を殺した。
血塗られた王。
そんな俺が今日はどうだ?
お前に一目惚れをして強引にモノにした。
お前を俺を恨むか?」
いきなり身の上話を聞かせられた。
普通なら兄弟とは助け合うものだ。
それが欲望の為に牙をむく……
この人は誰も、誰にも信じる事が出来ないのだろうか?
「私は……
今はまだ自分の気持ちも分かりません。
しかしジョゼフ様を恨んではいません。
本当に嫌だったら、こうなる前に命を絶っていますから……」
その言葉に一瞬だけピクッと反応したが……
彼は深い安堵の様な溜め息をした。
「そうか……
そんな正直な言葉を聞いたのは久し振りだ。
でも俺は短気でな。
お前が自分の気持ちを分かる前に、俺の気持ちを知って欲しいんだ」
そう言うなり腕枕をしてくれていた手を使い、私を抱き寄せた。
顔と顔が近い……
「シェフィールド……
お前は俺のモノだ!
俺はお前を後妻に、このガリアの王妃に向かえる。
この気持ちは変わらない。
お前の気持ちを変えるだけだ……」
そう言って、私が返事を言う前に唇を奪われた。
力強い口づけ……
しかし彼の優しい気持ちが伝わってくる。
息継ぎの合間に
「私は東方の出身です。
ハルケギニアの貴族でも、何でもない只の娘。
王妃など恐れ多い事ですわ。
どうか考え直して下さい。
でも、お側にはいさせて下さい」
彼を独りにする事は出来ないから……
「そう言って何時でも俺から離れられる様にか?
ガリアの王妃は嫌なのか?」
ああ、彼は裏切られたくないから楔が欲しいのね……
「私は貴方の側に居るわ……
別に王妃なんかじゃなくても。
それが信じられないならば……
使い魔の契約をしましょう。
人間にした事は聞いた事がないけれども、使い魔と主人は一心同体。
これほど確かな絆は無いはずですわ」
考え込むジョゼフ様……
「俺はな……
魔法が苦手なのだ。
だから成功するか失敗するかも分からん。
そもそも召喚すらしていないミューズに使い魔の契約など効くとも思わない」
ジョゼフ様は無能王と蔑まれているのは私でも聞いた事が有る。
「それで……
どうなろうとも私は構いません。
さぁ使い魔契約の儀式を……」
そう言って私達は使い魔契約の儀式を行った……
そして私の額には、ルーンが刻まれる。
「ジョゼフ様……
成功ですわ。
私達は一心同体!
これからずっと一緒です。
もう離れる事など有りませんわ」
この契約を切欠にジョゼフ様は虚無に目覚められ、簡単なコモンマジックは使える様になる……
◇◇◇◇◇◇
ヨシ!
この流れなら私が使い魔でジョゼフ様が虚無使いになるわ。
序でにシャルルは抹殺し、家族の愛情も全て私に向けられる。
身を挺して愛情を示した私にジョゼフ様はゾッコンね……
最初はコレ位かしら?
ツアイツも一度に沢山の書き換えは脳に負担が掛かるって言っていたし……
先ずはコレ位で、暫くしたら辻褄を少しずつ合わせていく記憶操作ね!
「ジョゼフ様……
私の全てを貴方に!
ですから、貴方の全ても私だけに下さいませ」
何故かシェフィールドの脳裏に変な赤白の玉を構えて
「ジョゼフ王、ゲットだぜ!」
と決めセリフを言うツアイツが思い浮かんだ。
ヤンデレさんに捕まってしまうジョゼフ王の未来は……
きっと薔薇色だと思いたい。