マチルダ&ティファニアルート第4話
これは願っても無いチャンスだね。
早々に坊ちゃんと2人きりになれるなんて…
ここで意識調査をさせて貰おうか。
しかしまだまだ甘いねぇ。
私の事を怪しいと踏んで監視まで付けていた割には態々両手の塞がる御者を買って出るなんて。
それじゃもしもの時に直ぐに対応出来ないんじゃないかい?
それとも自信が有るのかね?
何にしても猫を被って質問してみようか。
「ツアイツ様はゲルマニアからこのトリステインに来られてどう感じましたか?」
「ん?いきなりだね。
そう…
先ず最初に感じたのは活気が無い事と…」
「活気が無い事と?」
「街が臭い事ですね。
衛生面の管理が甘いのと公共に使うお金が少ないって事かな。」
「公共とは?
聞き慣れない言葉ですが。」
「公共とは税を納めて貰ったらそれで領地を良くする為に使う仕事の事だよ。」
「税は貴族様の生活やなにかに使うもので平民に還元などしませんよ普通。」
「そうだね。
この国はギリギリまで税を搾り取る。
だからそんな余裕は無い…
でも領主とは領民の安全と生活の保障と向上が義務だと思ってる。
勿論善意だけじゃないよ。
生活が向上すれば当然税収も上がるよ。」
「平民の生活が良くなってもまたその分を搾り取られるのでは?」
「同じ税率なら総所得の多いほうがより比率で高い税を納める事になるが同時に彼らも生活に余裕が出来ると購買力も上がるから生活品以外の商品も売れる。
そうすれば商人は儲かる。
子供も増えるだろう。
働き口が増えれば盗賊や物取りも減って治安も良くなる。
ね?良い事だらけだろ?」
「そんな考えを持つ貴族様はこの国には居ませんよ。」
「これは経営の基本だと思っている。
独り占めじゃ何時までたっても成長は見込めない。
だから…」
「だから?」
「そう遅くない時期に限界が来ると思うよこの国は。」
「他国の貴族である僕にはこの国を救う義務も力も無いけどせめて自分の周りだけは守るつもりだ。」
「そうですね。
あのお屋敷のメイド達を見れば分かります。
あんなに幸せそうなメイドなんて居ませんよ。」
「それは彼女らの努力の賜物さ。
みな自分に出来て必要な事を進んでしてくれる。
普通内政の事まで勉強してくれるメイドさんなんて居ないだろ?」
「普通はメイドにそんな事をさせませんよ!」
「逆に聞くけどロングビルさんはなぜ学院の秘書になったの?」
「没落貴族に職業選択の幅は殆ど無いんですよ。
前職は酒場で給仕をしていてオールドオスマンに声を掛けられたんです。」
「酒場でスカウトも…
普通は無いんじゃない?」
「ふふふ、そうですね。
まさか読み書きが出来るか?
って聞かれて即採用なんて変ですよね。」
「お尻を触られながら?」
「良く知ってますね。
その場であのジジィはシバいたんですけどしつこく頼まれて…
結局雇われましたけど。」
「あの爺さん本当に…
何と言うかしょうがないな。」
「話は変わりますけど…
亜人とかどう思います?」
「僕も其れなりに使い手ですから亜人討伐には参加してますよ。
でも言葉の通じる相手には先ずは交渉から入りますが。」
「言葉の通じる…ですか?」
「前に領地の隅の山林伐採の際に翼人と領民が揉めましてね」
「へぇ!でも彼らは先住魔法を使う危ない相手では?」
「原因はうやむやだった境界線を越えて伐採を始めた領民の方に有ったから…
価値観の違う相手でも言葉が通じれば妥協点が必ず有るから交渉がゼロじゃないんだよ。」
「で?どうしたんですか?」
「結局、新たに正式な境界を決めて伐採は中止、その代わり定期的な交流と商品の売買と知識の交流を頼んだんだ。」
「それはこちらが不利な取引では?」
「まさか!
情報がないから恐れられるんで定期的に交流が有れば理解はしあえなくても利害は調整できる。
それに彼らの知識は素晴らしい物も有ったよ。
採算はおつりがくる位だよ。」
「エ…エルフとかハーフエルフとかはどうなんですか?
恐ろしい相手ですよ?」
「どこが?
確かに長きに渡り戦い続けてこちらは全敗。
先住魔法の使い手で戦力比は10倍以上と言われているけど…」
「いるけど?」
「まだ会った事もないしブリミル教徒的には悪なんだろうけど…
坊主は嫌いだけどね。
あいつ等強欲過ぎるよ。」
「ふふふっ、そんな事を言ったら異端審問に掛けられてしまいますよ。」
「聖職者は清貧であれ!
と思うけどね。
傲慢 嫉妬 暴食 色欲 怠惰 強欲 憤怒 七つの大罪の殆どを犯している。」
「七つの大罪…聞き慣れない言葉ですね?
それは東方の諺か何かですか?」
「いや…
僕の思っている人の罪の種類かな…
結局亜人なんかより人間と宗教の方が僕は怖いよ。」
「もし…
もしもですけどエルフが仲良くしたいって…
言ってきたらどうします?」
「国と国としてなら現実では有り得ないだろうね…
宗教絡みだしどちらかが上位に立たないと交渉なんてないと思う。」
「先程は話が通じる相手なら交渉すると言いましたよね?」
「たとえば個人が亡命とかなら話し合いで保護とか支援とかバレないように出来るかもしれない。
でも公の立場でそれを言うのは僕がもっと出世するか…
そう皇帝位になれれば可能かもしれないけど今の立場で言ったら僕だけの処分ではすない。
最悪実家は取り潰し一族郎党粛清されるよ。」
「そうですか…
では貴方を頼って保護を求めて来たらどうします?」
「エルフを保護する場合って事?
例えば噂ではアルビオンのモード大公はエルフを妾として囲い粛清されたと聞くけど。」
「そっそんな噂が有るなんて…」
「うちもそれなりに諜報機関が有るからね。
ジェームズ一世が弟を粛清するなんて普通でも怪しむだろ?」
「仮に本当にエルフを囲っていたならモード大公は大馬鹿者だったね。」
「エルフを妾にした事がですか?」
「違うよ。
恋愛は個人の自由だしそういう関係になれるって事は先の話の様に十分交渉出来る相手なんだろうね。
でもリスクを抱えたのに何も対処をしていなかったし対応も不味かった。」
「それはどんな?」「調べたところではエルフを囲っている事が発覚しても頑なに引渡しを拒否したらしい。
もう既にダメダメだ。
幾ら秘密にしても人一人を囲うって事は罪人みたく牢に閉じ込めでもしない限りいずれバレる。
その時の対応として直ぐに逃がせる体制を整えておくか偽装でも殺してしまう位の対処が出来た筈だ。
ただ頑なに引渡しを拒否するのではなく既に存在がバレているなら引渡しに応じた振りをして館ごと燃してしまうとか逃げられたと言って違う方向に追っ手を差し向けるとか…
僕なら偽装死だね。
スキルニルを使ってもいいし同じ年恰好の死体を用意するなりして館ごど燃してしまう。
後は現王の弟って立場ならどうとでも言えるはずだ。
反省して引き渡そうとしたら軟禁してる館ごと火を付けて自殺したんだ…と。」
「確かにモード大公ほどの人に追及出来るのは兄であるジェームズ一世くらい…
それも引き渡しに応じていたのだから自殺されても文句は言えても処罰までは…。」
「王族なんだし疑わしきは罰せず…だよ。
完璧を求めるなら相手側の目撃者を作るね。」
「そんな…
防げたなんて…
どうして…」
「あとは囲っている時もマジックアイテムのフェイスチェンジとかを使い…
出来れば重ねがけで…
耳を隠しある程度外と交流させていれば良かった。情報は公開していれば普通はそれを信じるから深くは追求されないものだよ。
しかも王族とは言え妾だからある程度情報を隠しても疑われない。
余り醜聞の良いものでもないから隠すのは当たり前だと周りも思う。
精々が身分違いの娘を囲ったなエロ爺くらいじゃない?」
「でもモード大公ってうちの父上みたいな趣味だったんだね。」
「へ?どういう事?」
「エルフってスラっとした儚げな種族なんでしょ?
ウチの母上みたいな。
父上だったら確実に保護出来たかもね。」
※ハーフは兎も角、ツアイツは現代ファンタジーのエルフをイメージしていた。
ディードリットとか(笑)
「ツアイツ様では不可能なのですか?」
「ほら!
僕は大きい乳の娘が好きだから…
小さい乳の娘にはそこまで全てを賭けてまでは保護出来るか分からないから。」
「巨乳なら全てを賭けてでも守る…
あの子の胸なら…
でもまだクォーターエルフは早いし…
しかし対応は早めに…」
その後、ロングビルは学院に帰っても悩み続けた。
テファに会わせれば保護は確実…
でも直ぐクォーターエルフが生まれてしまう。
下手したら複数…
でも安全には変えられない…
あの子には自由な恋愛をして欲しいけど現実的に守れもしない相手を好きになっても不幸なだけ…
でもエルフでも守れると言う変人は今のところツアイツだけ。
あーもうすっきりしないねぇ。胸の奥もモヤモヤするし…
何でだろうね。