第31話
応接室にて
「オールドオスマン。
ルイズ達の話合いが長すぎませんか?」
「そうですな?
難航しておるのかの?」
「私の浅慮の所為で……
どう謝ってよいのか」
「してしまった事は仕方有るまい。
これからの対応ですな」
ぐふふ……
ワシ教育者としての株が鰻登りのハズじゃ……
これをミス・ロングビルに見せる事が出来ればのう……
SIDEアンリエッタ
女王としての覚悟……
こうしてオールドオスマンに諭されるとはやはり教育者なのですね。
ミス・エレオノールとルイズ……
ミスタ・ツアイツには素直に謝りましょう。
もうこの様な浅慮はしないと。
そしてこの件で学びました。
どの様な事をしても豊胸化する決意と必ずウェールズ様と添い遂げる覚悟が完了しました。
私の影響を考え周りに角が立たない様にウェールズ様を篭絡する事が大事な訳です。
先ずは豊胸化が肝心です。
そして豊胸出来なくても結婚まで持ち込む手段を準備しましょう。
それには私の影響力を高めねばなりません。
しかし……
王宮に跋扈する魑魅魍魎の様な貴族達と対等に渡り合うには力が足りません。
今の私に出来る事は新しい世代の協力者を作る事と民意の掌握くらいですね……
やはり学院には頻繁に行かねばならないでしょう。
在学するこれからのトリステインを支える貴族の子弟達を取り込まねば。
そして元々が国民の人気取りと言われてましたがこれからは更に強化し確固たる人気を掴みましょう。
あとは私の直接の手足となる者が必要です。
ワルド隊長は今回の一連の対応をみても信用できる数少ない貴族。
大切に扱わなければ。
他に平民から女性のみで構成する親衛隊を募りましょう。
出来れば剣士隊か銃士隊を結成し自らの直轄部隊として動かしたいのです。
あとはマザリーニ枢機卿をどう説得するかですね……
彼は私の胸の秘密は知らない……
知らせる必要も有りません。
しかし今回は王女の権限をもってゴリ押ししましょう。
成る程これが覚悟なのですね。
勉強させて頂いたので学院でのルイズの無礼はチャラにしましょう。
しかしルイズとミスタ・ツアイツにも協力して欲しいけど……
こちらのゴリ押しは無理ね。
先ずは信用を回復しましょう。
さてと……
彼らが戻って来たわね。
SIDEツアイツ
「アンリエッタ姫、お待たせしました」
「いえ、構いません。
元はと言えば私の浅慮故の事。
幾らでもお待ちしますわ」
あれ?
先程と雰囲気が違うな?
何か有ったのかな?
それにオールドオスマンがいやに得意げに此方を見ているんだけど?
「エレオノール様とも協議しましたが結論から言っても豊胸技術の公な研究は避けたいと思います。
今回の召喚については私が執筆し公開している演劇についてアンリエッタ姫が興味を持ち、トリステインの劇場にて公演を希望された。
そして私の演劇にはいつも魔法的な演出が有り、その辺の技術的な事をアカデミーのエレオノール様を交えて協議したと」
「まぁそれは魅力的な提案ですね」
「ルイズはアンリエッタ姫に私が学院に在学している事を報告し……
そして紹介者として同行した」
「成る程……
筋は通りますね」
「勿論例の(豊胸指導は)件はルイズが直接行います」
「それで其処までして頂く私に求める物はなんでしょうか?」
ん?
何だろうこの物分りの良さは?
それとご自分に求められている事を理解しているのか?
「そうですね。
1つ目はトリステインの劇場及びギルドにゲルマニアの私の劇団の公演を認めさせて頂きたい。
2つ目はトリステインの王宮に馴染みのある劇団を紹介して下さい。
両国の劇団による競演にしたいと思います」
「それが両国に配慮すると言う事なのですね。
わかりました。
劇場及び劇団の選出と既得権を持つギルドとの調整はトリステイン王宮が責任を持って行います」
「勿論この提案で保留又は却下になっても問題は無いと思います。
アンリエッタ王女が劇場や劇団の既得権を守ったとすれば断っても問題にはならないでしょう」
「大丈夫です。
勿論一度王宮に持ち帰りマザリーニ枢機卿にも相談してみますわ。
それと……」
「それと?」
「何故ミス・エレオノールとルイズは頬が真っ赤になっているのですか?」
「ああ……
麗しの姉妹愛ですよ。
僕は兄弟が居ないので羨ましいですね」
「あら?
ルイズと結婚すればミス・エレオノールは義姉になりますよね」
「うふふ……
アンリエッタ姫?
ルイズが義妹かもしれませんわよ」
「まぁミス・エレオノールもツアイツ殿をお好きなのですか?」
「いいいいいえその様な事では有りませんが……
ヴァリエール家の存続を考えてのもしもの時です」
「ふふふっミス・エレオノールの婚約破談の原因の一部はツアイツ殿かも知れませんね?」
当初は緊迫していたのに終ってみればほのぼのした雰囲気での解散となった……
帰りの馬車の中
「オールドオスマン。
アンリエッタ姫は途中から随分雰囲気が変わりましたが何かありましたか?」
「ん?
ワシが教育的指導をしたのじゃよ……
ふふふ見直したかの?」
「ええ、正直見直しました。
あの甘ったれ姫様を短時間で変えたのですから」
「これでミス・ロングビルもワシを見捨てないかのう?」
「それは……
その……
セクハラを止めて給金を上げてみれば或いは……」
「なんでそんなに歯切れが悪いのじゃ?」
「いえ別に……」
言えない……
僕が引き抜いて僕の家に仕える事になったなんて。
「兎に角帰ったら関係各所に今日の詳細を報告しないといけませんね」
「そうじゃトリステイン側の報告はワシが対応するがヴァリエール家とゲルマニアの両家にはミスタ・ツアイツが報告してくれ」
「そうですね。
でも今回のアンリエッタ姫の対応は試金石になりますね。
どこまで既得権の有る者達を説得出来るのか?」
「お主も人が悪いのう……
どちらになっても問題ないのじゃろ?」
「そうです。
僕が断ったのではなくアンリエッタ姫、又はトリステイン王家が断ったなら何も問題は有りません」
「断られてもアンリエッタ姫には貸しが出来るし上手く行っても僕には利益が入るだけですからね」
「実際に戦争になってもゲルマニアは負けませんよ。
負ける理由が無い。
ただ戦後にこの疲弊したトリステインと言う国の建て直しが面倒なだけです」
「そこまで読んでいたのかの?」
「ええ……
僕の屋敷に攻め入ったら即ツェルプストー辺境伯と我がハーナウ家が侵攻します。
ウチの常備軍は400
ツェルプストー辺境泊は600
そして融和政策の緩衝都市の警備兵は200……
しかも緩衝都市には戦略物資が溢れてます。
これが即戦力です。
ヴァリエール家は色々な関係で動きが鈍いはずです」
僕は疲れて肩に寄り添い眠っているルイズを優しく眺めてその色々が何かを諭させる。
「確かにご息女を人質に取られては行動も鈍るわな」
「まさか人質などと……
しかし尊き王家の血は此処にも有りますよね。
いざ攻め込めば王宮までは一直線です。
王宮を抑えれば押っ取り刀で攻めてきたトリステイン軍など……
わが国の常備軍ですらトリステインの正規軍に勝る数ですから、増援を考えても時間が経つ程こちらが有利。
そしてアルブレヒト閣下は始祖の血を欲している。
アンリエッタ姫の身柄を抑えていると言えば開戦もやむなしと思いますよ。
むしろ積極的に動くでしょう。
属国化するなり占領するなりは別として」
それに魔法衛士隊隊長のワルド子爵はこちらの味方なんですよ。
「それがお主の最悪のストーリー……
開戦しても勝つ自信が有ると言う事か」
「自分もこの国に個人的な友人や守りたい物も有りますから其処までの無茶はしたくないです……
全てが思い通りにとも行かないでしょうが、そう説明して思い止まる人も居るでしょ?」
「ワシ本当に同行して良かった。
アンリエッタ姫を改心させたワシの功績って大きくない?」
「そうですね。
オールドオスマンには感謝しています。
流石ですね教育者の鏡です」
「ふぉふぉふぉ、そうかそうか!
ワシ最高か!」
学院に到着するまでオールドオスマンはご機嫌だった。
しかし学院長室の机の上には少し早いですがお暇を頂きます!
と言うロングビルの辞表が置いてあったりした。