第35話
イザベラ執務室
すっかり毒気の抜けた二人は応接セットに体を預けて溜息をついていた。
まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。
「で?
どうするんだい?
アンタにそのエロ本を渡したのは誰なんだい?」
「トリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵……」
「それは…大物だね。
でも何でアンタがそんな人物と知り合えたんだい?」
「……その
……抱かれた(お姫様抱っこ)時に……」
真っ赤になって俯きボソボソとトンでもない事を言いやがったよこの子は!
「ちょちょちょちょっと何だって!
アンタ抱かれたって……
どうなっているんだい。
アンタまさかそれを手に入れる為に体を……」
「ちょっと落ち着く」
「落ち着けるかー!
アンタねぇ女の操をそんな事で奪われたんだよ。
どうするんだい?
責任取れる相手なのかい?」
「責任?(私が)逃げちゃったし……」
「相手はどういうつもりなんだい……
しかし偽名を使っているアンタじゃ文句も……
どうするかね?」
「戻ったら相談してみる……」
「相談!
甘いよ、王族相手にヤリ逃げなんて許さないからね」
「ヤリ逃げ?」
「アンタはどうなんだい?
そいつが好きなのかい?」
あーまた真っ赤になって俯いたよ……
どうやら両想いか少なくともエレーヌは悪くは思ってないのか。
「取り敢えず学院に戻りな。
暫くは北花壇騎士団としての任務は除外してやるよ」
「では私は何をすれば良い?」
「その子爵をしっかり捕まえてな!
あとその本の作者について調べを進めておいておくれよ」
「ミスタ・ツアイツの事は大体調べた……」
「いやそいつ相当の変態だよ。
あんな本を書ける相手だ……
まだまだ秘密を持っている筈さ」
「分かった……」
「その任務は急がないから……
あれだ、母親に顔を見せてやりな」
「……ありがと」
「さぁさぁ早くお行き!」
……ワルド子爵か……
あんなに幼いエレーヌに手を出しやがって……
タダじゃおかないよ!
「誰か……元素の兄弟を呼びな」
SIDEタバサ
イザベラが優しい……
口は相変わらず悪いが思いやりを感じる。
……久し振りにお母様に会える。
この本は見せたらどうなるのだろうか?
イザベラには効果が有った……
お母様はどうだろうか……
「ベルスラン……
久し振り……」
「おおっ!
お久し振りで御座います。
どうなさいました?
突然お帰りになられて」
「イザベラが久し振りにお母様の顔を見て来いと許可をくれた……」
「イザベラ様が?」
「……ん。
お母様は何処?」
「今日は容態も良くテラスでお茶を楽しんでおられます」
「……そう。
暫らく2人だけにして欲しい」
「分かりました……
ではのち程、お茶のお代わりをお持ちします」
2階のベランダに急ぐ……
つい足が速くなる……
今日こそお母様の病気を……治す。
「……お母様」
「シャルロット、良い天気ですね。
今日は何をしましょうか?」
お母様は穏やかな表情で人形を抱き話しかけている……
「あら何方かしら?」
「見せたい本を持ってきた……」
「あら?絵本かしら?
シャルロットに読み聞かせましょう……」
お母様に本を渡す……
これでやっと病が治るかもしれない……
「さぁシャルロット……
読みましょうね……」
SIDEベルスラン
奥様は穏やかな澄んだ声で本を読み上げていく……
緑豊かな庭に面するベランダで妙齢の女性が椅子に座り人形を抱き側には美少女が不安げな表情で立つ……
非現実的なそれでいて美しい午後の情景……
しかし読み上げている内容が問題だ!
実の母親に不安げな表情でエロ本を音読させる娘……
ベルスランは扉の影で立ち尽くしてしまった……
まさかシャルロット様もシャルル様と同じく特殊な変態道を突き進んでいるとは……
彼が墓場まで持っていく心算の秘密……
シャルル様は女装を愛しあまつさえ実の兄に恋心を抱く変態だった。
しかも男女共に逝ける変態でも有り多くのシャルル派貴族の男女がその毒牙にかかった。
奥様もジョセフ王が毒を盛ったと思われているが、実は先にその事実を知らされ気の触れそうだった奥様に記憶を弄る薬をジョセフ王が飲ました……
と私は思っている。
正直言ってアレに言い寄られたジョセフ王には同情するし感染された変態を粛清した事には同意する。
あのまま彼らを放置すればガリアと言う国はエライ事になっていた筈だ。
しかし薬の副作用か奥様は人形とシャルロット様を取り違えてしまう様になってしまった……
あのまま発狂されるよりはマシなのだがどうにも後味の悪い結果だった。
どうやら朗読も終った様だ……
お茶をお持ちしよう。
SIDEタバサ
何故……
お母様には変化が見られない?
精神作用は既に精神が病に犯されているお母様には無効なの?
読み終わったお母様が本を差し出した。
「有難う。
シャルロットも喜んでいたわ」
「そう……良かった」
そう言うのが限界だ……
やっと治ると思っていたのに効果が無いなんて……
失意の内にベランダを離れようとしたらベルスランがお茶を持ってきた。
しかしお茶を楽しめる気分ではなく辞退して屋敷を去る。
まだ……
まだこの洗脳本には可能性は有る筈だ……
新作を手に入れよう。
帰りにベルスランから呼び止められた……
言い難そうな顔をしている?
「その……その本は何処で手に入れられたのですか?」
「……聞こえていたの?」
「はい、少しだけですが……」
「安心して、次はもっと効果の有る本を探してくるから」
「そうではなく……」
「これは駄目だった……
ジョセフに渡す……
新しい本を探してくるのが任務だから」
「ジョセフ王がその様な任務を……」
「ではベルスラン……
お母様を宜しく。
また来る」
激しく方向性が違ってしまったがタバサの母親を救う為の努力は続く……
タバサの受難ガリア編はこれで一段落。
次はツアイツ君頑張る!
修行編の挿話を2話挟み舞台をトリステインへと戻します。