挿話8
ツアイツ君頑張る2
1回戦ギトー先生戦
僕はギトー先生と向かい合っている。
自身の戦闘能力に疑問を感じた為にギトー先生に訓練をお願いした。
僕らは真面目に取り組んでいるのだが……
何故かお茶を楽しみながら声援を送ってくれる観客が居る。
「ミスタ・ツアイツ……
何故エンターテイメント扱いなのだ?」
「いえ……僕に聞かれても」
何故か1年生と先生方そしてその後方にはメイドさん達も控えていますね。
「ギトー先生が授業の終わりに今日の午後に特訓すると言われたからでは?」
「む。そうか……
では始めよう……
ユキビダス・デル・ウィンデ!
風は遍在する」
ギトー先生を中心とし左右に2体ずつ計4体の遍在が現れる。
流石は風サイコーな元軍属だけは有る……
「「「では始めよう」」」
ギトー先生ズが僕を中心に円を描くように死角へと潜り込んでいく。
「くっ……錬金」
材質を木製にしたブーメランを30枚練成し右側に回りこんでくる遍在にあらゆる角度で投擲しバックステップで円の外周に出ようとする。
遍在はエアハンマーで正面のブーメランは防いだが楕円を描き投擲した残りを喰らい ボッ と煙の様に消えた。
「まだ甘いぞ!」
ギトー先生本体が前進して距離を詰め左の1体、右の1体も円を狭める様に距離を詰める。
不味い。左の残りの1体は完全に視界から消えた……
左右から本体を庇う様に前に出てきた遍在2体を360度効果範囲のクレイモア発動……
同時に右側にフライで移動する。
振り向き様に確認するがこちらは完全に消滅するダメージは与えられなかった……
そして一瞬だが視界から全て外れてしまった為にもう本体がどれだか判らなくなった。
「「「次は此方からいくぞ!」」」
計4体のギトー先生がエアハンマーを連発!
また扇状の様に展開する。
地面に転がる様に避けながら錬金で土塁を盾として練成し一息ついた所でゴーレムを練成する。
「クリエイトゴーレム!」
全長2mの鋼鉄の人形が4体現れる。
イメージはダイの大冒険のハドラー親衛隊のヒム(兵士)だ。
コレを構わず特攻させる。
数の上では同じだ!
更にクリエイトゴーレムで4体を練成し第2陣として特攻させる。
風の魔法と相性の良い質量を持った鋼鉄の人形達。
ギトー先生ズが単発では効果が薄いと集中攻撃で壊していた第1陣の4体を乗り越えて第2陣が肉薄し遍在2体を撃破!
しかし反撃はそこまで……
第2陣のゴーレムを抑えきれぬと判断したギトー先生が遍在2体を囮とし残りの遍在と左右に別れ土塁を迂回して接近。
僕もブリッドで反撃するも難なくかわされエアハンマーで吹き飛ばされた。
「くっ……完敗です」
「フフフッハーッハッハー!
風は最強が証明された瞬間だ!」
「流石としか言えませんね。
有難う御座いました」
服に付いた汚れを払いお礼を述べる。
しかしギトー先生はこう評価してくれた。
「遍在と言えど風のスクエアメイジの5人がかりの猛攻を耐えたのだ。
しかも本体に怪我をさせまいと常に本体を確認し正面を向いていた。
途中で見失ったみたいだがそれでは駄目だ。
君は本体に注意を向けすぎて視界から外れようとする遍在に注意が行き届かなかった。
あとは手加減し過ぎたな。
最初のブーメランを木では無く金属にすれば風で軌道を逸らすのは難しかっただろう。
それとゴーレムに武器を持たせれば第2陣の突撃では武器の間合いに入られていた。
私も危なかったよ」
「そうですね。
どうも本体を意識しすぎてしまいました。
それでも完敗ですね」
「風は最強だ!
しかし大質量のゴーレムとは相性が悪い。
2m程度のゴーレムでも2体掛かりで破壊出来なかった。
あのゴーレムは何だ?
空洞ではないのか?」
「あのゴーレムの中身は唯の土です。
本番では油や火薬を詰めて特攻し爆破させます」
「それは……
聞いてしまえば今度からは接近させない様に斃さないと駄目だな。
しかし物騒な人形だ」
総評が終ったところで廻りから拍手がおこり最終オッズが発表された。
6:4でギトー先生。
配当は1.2倍だった。
胴元はギーシュだった。
顧客名簿にはオールドオスマンの名前も有り、しかもギトー先生に賭けていた。
女性陣は僕に男性陣はギトー先生に賭けるという無言の僕に対する感情を理解した……
2回戦ワルド子爵戦
ギトー先生戦も踏まえ此方は僕の屋敷に訪問する時にワルド子爵とも手合せをお願いした。
ワルド子爵は最大5体の遍在を生み出せるが2体は例の本を維持する為と王宮の居残りとして遍在3体との模擬戦となった。
「「「ツアイツ殿、全員遍在だから遠慮なくそして侮らず戦ってくれ」」」
横一列に並ぶ遍在ワルド子爵ズ……
先手を譲ってくれる気なのだろう。
構えるだけで動く気配がない。
当初は敵対するであろうワルド殿対策でギトー先生に模擬戦をして貰ったのだが……
今では乳の大きさを超えた友になっている。
正直ギトー先生より更に使い手のワルド殿だ。
胸を借りるつもりで全力でやってみよう……
「いきます!」
最初から僕の最大攻撃力の鋼鉄製ブーメランを制御限界50枚を練成し投擲する。
上左右から弧を描くように殺到するブーメランを剣杖で軌道を逸らされ避けられていく……
「ならばっ!」
黒色火薬ブーメランを10枚追加練成し投擲する……
剣杖に触れても大地に触れても爆発するソレに気付いたワルド殿は左右に散開したが中心の遍在が場所取りの関係か後ろに下がった為、全てのブーメランを注ぎ込みなんとか当てる事に成功し消滅させた。
しかし中心の一体に集中した為に左右に分かれた遍在には対応出来ず見失う。
そこで水メイジとしてのオリジナル呪文「濃霧」を唱え自分の周辺8m程度に濃い霧を発生させる。
この霧は今回は唯の水だが水の秘薬を混ぜる事も出来る。
刺激物を混入すれば目や喉がやられる危険な呪文だが所詮は霧なので風で吹き飛ばされたら終わりだ。
主に密室で効果の有る呪文だね。
案の定エアハンマーを連発し吹き飛ばす遍在ズ。
しかしこの霧は足元にクレイモアを設置する目隠しの役目……
そのまま後方にバックステップし効果範囲に遍在ズが入るのを……
あっさり左右から迂回され剣杖を付き付けられて負けました。
「なかなかですぞ。
ツアイツ殿!
遍在とは言え1体破壊されましたし残りも2体も嫌な予感がして迂回させなければやられていたでしょう。
その辺の戦場の感という奴は実戦経験で磨かれていくものなのでまだまだ甘いですね。
「ツアイツ殿は敵に視認される場所での戦闘は控えた方がより効果的ですよ。
あのブーメランなど投擲のタイミングを見て避けれましたがいきなり来れば回避は難しい。
確か視認性を悪くするタイプや爆発するのも有りますから混ぜ合わせれば効果は有るでしょう。
体捌きは残念ながら年相応ですね。
これは訓練である程度は良くなります。
魔法衛士隊の訓練教本を渡しますので日々の努力です」
やはり風は戦闘では有利だな。
カリン様・ワルド殿・ギトー先生……
風のスクエアには一度も勝てなかった。
やはり「濃霧」を改良しよう。
シビレ効果とか目潰しとか霧なら口に入れない様に警戒されても目や鼻などの粘膜や皮膚から浸透するタイプも考えてみよう。
風が使えれば粉薬とか舞わせられるんだけど……
爆風ならいける?
薬品を固めたブーメランを作って衝撃で散布……
いやこれ絶対悪役の武器だなぁ。
今度エレオノール様と相談しよう。
ヴァリエール公爵邸
「と言う訳でご相談なのですが……」
「何ですかいきなり話が飛びましたよ」
「いえ霧状の煙幕に何を混ぜたら効果的かな……と?」
「貴方は……
貴族として余り自慢出来る方法では有りません」
「……生き残る手段に綺麗も汚いも」
「駄目です!
貴方はこのヴァリエール家に入る予定なのですよ。
この様な卑怯な方法など要りません」
「僕は入り婿にはなりませn」
「お黙りなさい!
良いですか。
そもそも貴族とは……」
エレオノールの中でツアイツはヴァリエール家に婿として貰ってあげるのが当たり前と認識されていた。
彼女の教育は続く……
これにてツアイツ君の修業は終わり本編に戻ります。
ガリアから元素の兄弟とシェフィールドさんが彼とワルドの所へ……