第48話
帰省三日目
こんにちは、ツアイツです。
自室のベッドでゴロゴロしながら今までの事を考える……
レコンキスタ対策も方針が決まり、明日にでも学院に戻れる。
当初は夏休みにテファの件を両親に話すつもりだったが、この機会に両親に話しました。
父上は一瞬だけ顔を顰めましたが
「お前が惚れた女なら守ってみせろ」
だけしか言いませんでした。
母上は、「だから?」だけで、何を言っているの?
と全然問題にしていませんでした。
逆に僕のほうが黙っていて悪かったけど本当にそれで良いのか?
と心配になる位です。
ただ、父上は防諜の強化、母上はテファの養子縁組先との立場について対応を進めるとの事です。
実際に配下の貴族と養子縁組をしましたが、先方とは顔合わせ程度しかしていないそうなのです。
この辺は流石は僕の両親と言うべきか……
なので心配事は全て片付いたので、スッキリとして学院に戻れm
コンコン「ツアイツ様、ツェルプストー辺境伯がおみえです」
しまった!
キュルケとルイズの実家はノーフォローだった……
テファの事は当然バレている筈だが、僕の帰省は知らないのにこのタイミングで来るとは。
「直ぐに行くと伝えておいて!」
さて、どこまで掴んでいるかが、心配だね。
応接室にて……
「お待たせしました。
ツェルプストー辺境伯、今日はどの様なご用件ですか?」
ツェルプストー辺境伯はソファーに座り出された紅茶にも手を付けず、目を閉じたまま黙っている。
「アンリエッタ姫に召喚された件では大変心配を掛けましたが、その後の交渉で問題なく処理出来そうです……」
「……そうだね。
君の素早い対応で我が娘に危害は無かった……」
「それともうご存知だと思いますが、故有って僕が保護した女性を父上が配下の貴族と養子縁組した件ですが……」
「別に本妻にしなければ問題はない。
それは君の家の問題だから私はどうこう言わないよ」
あーこれはどのルートか知らないけれどガリアの件がバレているな……
どの情報網で引っ掛かったのかな?
「…………」
「…………」
ツェルプストー辺境伯は一口、冷めた紅茶を飲むと静かに話し出した。
「ずばり聞こう!
ジョゼフ王から挑戦されたらしいね?」
「ええ、これは挑戦と言うよりは彼の目的達成の為の候補に上がったと言うのでしょうか」
「で?対抗馬は?勝算は有るのかい?」
「対抗馬はアルビオン転覆を狙うクロムウェル司教率いるレコンキスタ。
現在かの地の北方にて勢力を拡大中です」
「なっ……
そんな大物相手に何故、君が指名されたのだ?」
「僕が指名されたのは、ジョゼフ王の悲願に一番近い位置に居たからでしょう……」
「大国の王でも達成出来ぬ悲願に君が一番近い……
そう、言うのかい?」
「そうです。
しかしその手段は既に確保しています。
そしてレコンキスタへの対応ですが、其方も手は打ちました」
「正直に言おう。
この件は我が娘から聞いたのだ。
ガリアが君を戦乱に巻き込むつもりだ……と。
半信半疑だったが本当なんだね」
「此方にはジョゼフ王の腹心を既に協力者として迎えています。
彼女は僕を裏切らない。
僕達の目的が一緒の内は。
それにトリステイン王国には魔法衛士隊隊長のワルド子爵も協力してくれます」
「だが、ソレだけでは反乱軍に立ち向かえる訳が無いだろう?」
「僕は、アルビオン王国の為にレコンキスタ……
反乱軍を斃す心算は有りません。
影ながら協力はしますが、実際に戦うのは王党派とレコンキスタです」
「レコンキスタをどうにかする様に、ジョゼフ王に求められているのではないのかい?」
「オリヴァークロムウェル司教は美乳派として布教を始めています。
僕は巨乳派教祖として、父上の貧乳派と共闘し彼の布教を潰す事が今後の方針です」
「君は……アレか?
私とヴァリエールを和解させた方法で、又この難局を乗り切る心算なのかい?」
「そうです。おっぱいです」
ガン!
ツェルプストー辺境伯は机に突っ伏しながら唸った……
「君は……
何時も何時も私の想像の斜め上を行くよね。
その勝算を聞こうか、おっぱいの」
「そう、おっぱいです。
クロムウェル司教はジョゼフ王より我が親子に対抗し、美乳教を広めるとの約束で多大な援助を受けています。
僕らは乳を戦乱に利用する彼を許さない。
だから彼の布教を潰します」
「君達親子のおっぱいへの拘りは分かった。
が、それが戦局を変えられるのかい?」
「彼らは不当なる巨乳派として王党派を斃すと大義名分を掲げています。
誰よりも平等な美乳派として……
ではその大儀に賛同する貴族が取り込めないとすれば?」
「反乱貴族の取り込みは難しいだろうね」
「そうです。
思想で駄目なら金と利権で勧誘するしかないでしょう?
ならば唯の大儀なき反乱です。
民衆も付いてこない。
王党派でも鎮圧可能でしょう」
「だが油断は出来ないのではないか?
資金が潤沢なら傭兵とか金に飽かせた戦力増強は可能だよ」
「それには増援としてアンリエッタ姫とウェールズ皇太子の婚姻を進め、トリステイン王国も巻き込みます」「うまくトリステイン王国が動くかい?
あの国は末期だから余程の事が無いと動かないぞ」
「個人的にアンリエッタ姫と伝が出来まして……
彼女はウェールズ皇太子に並々ならぬ執着をお持ちです。
そして今までの甘ったれな箱入り姫でなく、積極的に動こうと努力を始めました……
近くにはワルド殿とミス・ルイズが居ますから」
「廻りの王宮貴族が抑えているアルビオン王国の危機がリアルタイムで耳に入る訳か……」
「色に狂った女性は怖い……
そして国民に人気のあるアンリエッタ姫が、聖なるブリミルの血を受け継ぐアルビオンの危機を訴えて、自ら立ち上がり増援を送ろうとしたら……
止められますか?」
「君は……
一連の話を聞くとジョゼフ王が接触する前から、レコンキスタは詰みの状態に聞こえるね」
「トリステイン王国にも利益は有りますよ。
アルビオン王家との婚姻が纏れば2国間の絆は強固になります。
マリアンヌ様が女王となり、アンリエッタ姫に子供が生まれる迄はしっかりとトリステイン王国を治めてくれれば……
なお良し」
「駄目ならヴァリエール公爵家でも立てるかい?」
「まさか、そんな面倒は御免ですよ」
「しかしトリステイン王国参戦に、アンリエッタ姫と魔法衛士隊隊長だけでは……
他の貴族を動かすのには弱くないか?」
「ヴァリエール公爵家及びド・モンモランシ伯爵家も後押しをしてくれる予定です。
あとは上手くすればグラモン元帥かな」
「魔法学院繋がりか……
しかしド・モンモランシ家は近年の事業失敗とラグドリアン湖の精霊との仲違いの件が有り、力が弱いのではないのかい?」
「ラグドリアン湖の精霊については、交渉材料を確保したので問題ないです。
これからド・モンモランシ家には、ウチがテコ入れしますから力を取り戻すのも早いですよ」
「ミス・モンモランシを落としたのも計画の内かい?」
「いえ、彼女は……
口説き落とされたのは僕の方だと思います。
ただ、惚れた女の実家の危機位は何とかするのが男ですよね」
「で?私とキュルケが協力出来る事は?
まさか蚊帳の外って訳はないよね?」
「出来ればアルビオンに、ある物を流通させる手伝い、それとド・モンモランシ家との貿易をお願いします。
キュルケには僕から説明します」
「娘は君に内緒にされる事を酷く悲しんでいる。
宜しく頼むよ。
それと、この件が解決したら学生でも直ぐに娘と結婚して貰う。
コレは決定事項だ!」
「……はい」
「それで、ジョゼフ王は君に何を求めたんだい?」
「トラウマを排除し男の機能を回復する事です」
ガン!
ツェルプストー辺境伯は再度、机に突っ伏しながら唸った……
「大国の王がそんな己の粗t「ストーップ駄目ですそれ以上言っては駄目ー」……何故だい?」
「ジョゼフ王の腹心とは彼の寵妃なのです。
だからその手の言葉を言うと僕でも止められない女傑になります。
多分、烈風のカリンと正面切って戦っても勝てるかも知れないレベルです」
「そっそんな危険人物を君は御しているのかい?」
「彼女は一途で可愛い女性なのです。
僕は彼女の悲願達成の為に全力を尽くすのです。
だから……だから……」
ツェルプストー辺境伯の背後からユラリと、禍々しいナイフを彼の首に当てたシェフィールドさんが現れた。
「……命拾いしましたわね、ツェルプストー辺境伯。
ツアイツ様が居なければ殺す所ですよ。
次は命が無いと思いなさい」
そして僕にニッコリと微笑んでからユラリと闇に同化して消えていった。
ヘナヘナと2人ともソファーに座り込んだ。
「すまない。
命拾いしたよ……
あれがジョゼフ王の腹心か。
確かに凄い女性だね。
私が全く反応出来ないなんて……
自信を無くすよ」
ヤンデレ……
胃がキリキリと痛い。
何時か僕の胃は味方に壊されるかも知れない。
今はまだ良い。
恋愛要素を抜いて僕に対してこの威力だ。
ジョゼフ王は愛を上乗せした状態でシェフィールドさんに尽くされるんだぞ。
退屈なんて言っていられない筈だ!
しかも僕らの計画では彼女を王妃にする……
良かったですね、ジョゼフ王!
貴方の望み通り、退屈が懐かしく思う程のバラ色の世界が待ってますよ。