第49話
帰省三日目
こんにちは、ツアイツです。
僕は今、ツェルプストー辺境伯所属の竜騎士の操る風竜に乗り、首府ヴィンドボナに向かっています。
アルブレヒト3世に謁見する為です。
これからの僕の行動は、ゲルマニア一貴族の範疇では済まなくなる場合を考えて、詳細は伏せて取り敢えずこの国に有用な貴族で有る事を皇帝に思わせる為だそうです。
いくらゲルマニアの皇帝とは言え、一面識も無い貴族が他国で問題を起したら……
切り捨てますよね?
だが、人となりを知っていれば、皇帝に必要と思われる売込みに成功すれば、保険としては最良だとツェルプストー辺境伯に説かれて、現在移動中です。
彼の配慮なのか、この竜騎士さんは女性でキリリとした美人さんです。
しかし髪の毛が燃える様な赤で有り、目元がどうにもキュルケ似な感じがするのが何とも……
「ツアイツ様、まだ到着まで時間が掛かりますが平気ですか?」
「はい。大丈夫です……
貴女は、一族の方ですか?」
彼女はクスクスと笑いながら
「特徴有る一族ですから分かり易いでしょ?」
と肯定してくれた。
彼女は側室の娘さんだが、ツェルプストー辺境伯が一族で有能な者を集めて諸侯軍を再編成してる最中に、自らを売り込んだそうです。
このまま政略結婚を待つばかりなんてお断り、らしい……
この再編成は跡継ぎのキュルケがウチに嫁ぐ事が決まってからなされた事で、その辺については感謝された。
他にも自由を求めた一族の若き女性達が居るそうです。
今度紹介しましょうか?
と言われたが、これ以上問題を増やしたくないので丁重にお断りしました。
前にキュルケから部下とのコミュニケーションも良好だと聞いた事が有ったが、確実に僕からのアイデアを形として取り込んで成果を出している彼は、傑物なんだろう。
僕の周辺の大人の中で、一番まともなんだよなぁ……
彼女とそんな世間話をしながら目的地に向かっています。
そうそう。
今回の謁見には、ワルド殿もシェフィールドさんも我が家でお留守番です。
名の知れた二人が同行するのは、色々と各所に刺激を与え過ぎるので自粛して貰いました。
シェフィールドさんは僕に対し過保護になって来ているのか、3つのマジックアイテムを渡してくれました。
一つ目は、前回のテファとのデートの時に貸してくれたゴーレムを生み出す牙の腕輪。
二つ目は、自らの魔力を少し高めてくれる魔石の指輪。
三つ目は、本当に困った時にコレに向かって助けて!
と、念じろと木の札の様な物をくれました。
最後の札が気になるのですが、聞いても笑って答えてくれません。
しかし絶対に肌身離さず持っている様に念を押されました。
多分凄い威力の有るマジックアイテムなんでしょう……
そう信じて持っています。
SIDEワルド&シェフィールド
前回同様、ワルドとシェフィールドはソファーに並んで座りながら水晶球で、ツアイツの監視をしている。
「流石に今回は距離が有り過ぎるのではないか?」
「平気よ。
あの渡した指輪は、こちらに映像を送る増幅装置の役割も有るの。
それに中継用の鳥型ゴーレムも出しているから」
「彼を騙したのかい?」
「くすくす。
まさか、装備者の魔力もちゃんと増幅するわよ。
だから騙してはないわ」
「君は……
ツアイツ殿には過剰なまでにテコ入れするね。
確かに有り難いのだが……」
「そうよ!
ツアイツ様だけが私と主の幸せの協力者なの。
大切な私の協力者……
なにかしたら皇帝でも殺すわ」
嗚呼……
彼女の目が危険域に入りそうだ……
「きっ君が居れば問題なんて無いだろう……
彼の胃以外は……」
「嗚呼……
ツアイツ様が止めなければ、クロムウェルなど今すぐ殺して我が主の記憶を正しますのに……」
クネクネと身悶えだした妙齢の美女を見詰めてワルドは空恐ろしい思いに駆られた……
今すぐ離れたい、と。
「ツアイツ殿……
貴方の偉大さがこんな事でも理解できます。
僕にはこんな女性を御せる自身が有りません……」
「それで、最後の札は何なんだい?
ツアイツ殿には内緒にしていたが?」
「アレはね。
簡易転移札よ。
勿論、ツアイツ様に危害を加える輩を殺す為に私が転移するの」
まっ魔神召喚……
ツアイツ殿、貴方には魔神が魅入られてしまいました。
僕にはどうにも出来ない……
しっしかし安全は確実に保障されますので許して下さい。
ワルドは胃を抑えて応接室から音も無く立ち去った。
シェフィールドの隣に嫌がる遍在を座らせて……
SIDEツアイツ
ハーナウ領から丸一日余りで首府、ヴィンドボナに到着した。
伝令は先に飛ばしているが即、謁見が適う訳もなく今夜はツェルプストー辺境伯の所有する屋敷に滞在する。
明日以降で許可が取れたら連絡が入る筈だ。
ツェルプストー辺境伯のヴィンドボナ屋敷に到着した。
流石は辺境伯と言う所か……
豪奢な屋敷だ。
そして連絡は行き届いていたのだろう。
持て成しの夕食は素晴らしい物だった。
食後の紅茶を楽しみながら暫し雑談をする……
「疲れたかな?
ツアイツ殿、明日には謁見は叶う筈だ」
「流石はツェルプストー辺境伯と言う事ですね。
しかし強行軍でしたね。
体が痛いです」
「ふむ。
君には風竜の扱いの上手い綺麗どころを宛がった心算だが?」
「ええ、彼女の風竜の扱いは素晴らしかったです。
それに興味深い話も聞けましたし……」
ツェルプストー辺境伯は目を細めながら紅茶を飲んでいる……
機嫌は良さそうだ。
「ついに君もアルブレヒト閣下と謁見だ。
これまでの成果だけでも十分だし、例の超々ジェラルミンの装甲馬車も好評で良く利用しているとの事だ」
「そうですか……
でも今回の謁見では表の顔、真面目な部分だけでいきましょう」
「そうだな……
閣下も英雄色を好むで、数多の女性を囲っている。
が、いきなりおっぱいは無理だろう」
「そうですよね……
搦め手は色々有りますが、先ずは信を得る事ですね」
「搦め手?
気になるけど今は聞くのはよそう……」
「それと側室に生ませた我が娘達はどうだ?
流石にキュルケの手前、側室にはやれんが輿入れの際には同行させるからな」
「随分と強力な家臣団ですが……
宜しいので?」
「君のお陰で待望の男子にも恵まれた。
キュルケには領地も爵位もやれん。
ならば家臣団位は付けてやるのは親心だよ」
「僕の監視ではないですよね?」
「くっくっく……
どうかな?
ヴァリエールの小娘には負けないつもりなのでね」
「しかし本当に宜しいのですか?
貴方の血を受け継ぐ者達が僕の手の内に来るんですよ?」
「君は基本的に有能だが貴族としての欲が薄い。
そして身内には甘過ぎる。
それに私にも敵は多いので安心出来る所に集めておきたいのだよ」
「僕が彼女らに手を出したら?」
「別に我が家とハーナウ家の結束が高まるだけで問題あるまい?
君が苦労するだけだし」
「苦労ですか?」
「そうだ!
身内に甘い君だ。
身内が増えれば増える程、君は努力する。
それに私も君の言う身内なのだろ?」
負けた……
そこまで信頼され身内とまで言われれば、何としてもキュルケと彼女達を守るしかない。
「所詮は僕もまだまだ若造なのですね……
参りました」
「ふふふ……
幼い頃から君らは婚約者なのだ。
最早、身内と言うか家族も同然!
ヴァリエールの小娘も加えてやるが、三家が集えば……
ああ、ド・モンモランシ家もか。
四家が集えば大抵の事は可能だろう。
今はまだ其々の当主が居るが何れは君がその中心となるのだよ。
宮廷には海千山千の魑魅魍魎の如き貴族連中が沢山居る……
まだまだ学ぶ事は多いよ」
「はぁ……
本当にまだまだですね。僕は」
「15歳やそこらで一人前になられては僕ら父親の立つ瀬が無いだろう。
まぁ頑張れ。
応援してやるよ」
謁見の前にこの人と話が出来て本当に良かった。
これなら落ち着いてアルブレヒト閣下と謁見出来るだろう……
SIDE覗き見シェフィールドさん
ふん。
殺し損ねた相手だけど、ツアイツ様には必要な相手なのね……
まぁ謁見が失敗しても、最悪ツアイツ様がゲルマニアを追われても、ガリアで引き取るから問題は無いわね。
うん。
彼に危害を加えるようなら殺しても問題は無いわ。
寧ろその場合は、殺して彼をガリアに連れ込みましょう。
あと少しです我が主……
あと少しで我が悲願は達成され、私達の薔薇色の生活が始まるのです。
シェフィールドのヤンデレ節は最高潮に達していた……
そしてワルドの遍在は任務を放棄し、逃走した。
遍在なのに胃を抑えながら……