第53話
先程の衝撃の告白から皆が固まり少したった……
もう諦めていた愛娘の治療に希望が持てたからか?
少しプレッシャーを抑えたカリーヌ様が再起動した。
「この場逃れの嘘ではないのでしょう。
貴方ならば……
中でゆっくり説明して下さい」
カリーヌ様は少しお怒りが緩まったみたいで、屋敷内に招いてくれた。
しかし……
正面のプレッシャーは弱まったが、背後のプレッシャーは上昇中だ!
僕は、恐る恐る振り返る。
良かった。
シェフィールドさんは穏やかな笑みを浮かべt……
「ツアイツ様が、わざわざ治療法を見つけ出してくれたのに……
くすくす。
この無礼な年増は何なんでしょう?」
うわっ!
僕の為に怒ってくれてるのに、全然嬉しくない。
「シェフィールドさん、落ち着いて。
これは何時ものコミュニケーションみたいな物だから……ね?」
「ツアイツ殿?
こちらの黒ずくめは誰でしょう?」
あらゆる意味で規格外な美女2人……
ルイズとアンリエッタの喧嘩なんかじゃ済まないレベルの睨み合いだ!
「シェフィールドさん、落ち着いて下さい。
カリーヌ様……
彼女がカトレア様の治療の可能性を見出してくれた……
ガリアのジョゼフ王の寵妃です」
驚いた顔で、しかし僕が嘘を言ってるとは思わなかったのだろう。
「……分かりました。
無礼をお許し下さい。
では此方に……」
カリーヌ様が能面の様な表情で、しかし素直に謝罪してくれた……
くっ!
胃が、胃が凄く痛い。
アレ?何だろう?
目の前が真っ暗に……
僕はそのまま、シェフィールドさんに寄り掛かる様に倒れ込んだ。
「「ツアイツ様(殿)?」」
ヴァリエール公爵邸内、客室にて
あれから、あの女との睨み合いを止めて直ぐにツアイツ様を客室に運ばせ、治療させた。
治療を行った水のメイジによれば、胃に多大なダメージを負っていたそうだ。
私は魔法は使えない。
水の指輪もアンドバリの指輪もツアイツ様から、他人に見せないで!
と、頼まれていたので治療は任せてしまったが……
治療後に又、あの女と睨み合っていたらツアイツ殿が魘されだした。
その時、あの女の旦那があの女を叱りつけ部屋から連れ出していった……
出る時に、此方に頭を下げて。
つまり、ツアイツ様が倒れたのは私達の所為だ。
この年若い協力者を見る。
この一回りも年下の彼に、甘え過ぎていたのか……
最初は、我が野望の為に必要な男と思っていた。
彼も私が試練を越える為に必要だったし、ギブアンドテイクな関係だと。
元々、我が主に使い魔として召喚されてから、周りは私を得体の知れない女。
貴族でもない、平民の妾程度の扱いをされた。
我が主を慕う者は私だけ……
しかし、主は私を必要としてくれているのか?
愛していてくれているのかも分からない。
周りから孤立していた2人の主従。
そんな私に、彼は仲間として接してくれた。
そして彼の周りに集まる変態達やその他の連中も、基本的にいがみ合っても、仲間として受け入れてくれた。
此処には私の居場所が有った。
私は主の事を考えると、思考がグルグル回ってしまい、主を侮辱する者は殺してしまう。
今迄は止められなかった感情も、彼だけは止めてくれる。
やはり私達に、ツアイツ様は必要だ!
あの女の娘など治さずに、ツアイツ様を治した方が有効なのだが、それだと確実に悲しまれてしまう。
人間ならもっと、自分の欲望に忠実に行動する筈なのに、彼は人の為ばかりに……
まぁ良いわ。
私が主の寵愛を受けて王妃になったら、彼をガリアに呼んで礼を尽くせば良いでしょう。
私達と彼に逆らう者は、始末すれば良いのだから……
くすくすくす。
楽しみだわ。
主と私、それと彼で新しい国を興すのね。
あら?
また苦しそうに、魘されだしたわ。
「誰か?水メイジを呼んで!
また魘されだしたわ」
SIDEツアイツ
夢を見た……
ジョゼフ王とシェフィールドさんが玉座に座り、僕が横に控えている。
宰相の様な感じだ……
ジョゼフ王はゲッソリと痩せている。
対してシェフィールドさんはツヤツヤだ……
何なんだろう?
この回避しなければならない、新たな試練の様な情景は……
地位や名誉は有りそうだけど、こんな未来を僕は望んでいない。
「いっいやだー!」
あれ?
「知らない天井だ……」
取り敢えず、お約束の台詞を言おう。
「目が覚めましたか?
魘されていましたよ。
今、水メイジを呼びましたから……」
シェフィールドさんが、慈母の様な微笑みで僕を見ている。
「看病してくれてたんですか?」
「いきなりお腹を押さえて倒れたので驚きました。
水メイジの言うには重度のストレスが原因だと……」
「僕も、まだまだですね」
自虐的に笑ってしまう。
「ツアイツ様のストレスの原因は私ですか?」
えっ?と、彼女を見る。
確かにその通りなんだが、自覚が有るのか?
シェフィールドさんは申し訳なさそうにしている。
「いえ……違います。
やはり一介の学生が、国家間紛争に関わるのですから。
自分では分からない内に、ストレスが凄かったんですね」
彼女の所為だが、男として彼女の所為とは言わない。
「良いのです。
自分でも理解しています。
今は……もう少し、お休みなさい」
彼女は、そのヒンヤリとした手のひらを僕の額に当てて寝かしつける。
「冷たくて気持ち良いです……」
言ってしまった後、彼女は一度ビクッとしたけど、そのまま頭を撫でてくれた……
ヤンデレさんに撫でられて落ち着くとはね。
今はもう少し寝よう。
SIDEヴァリエール夫妻
ツアイツ達の様子をそっと伺う。
また魘されたと聞かされ様子を見に来れば、何やら良い雰囲気だし……
「貴方が私を連れ出すから……
見なさい!
妖しい雰囲気です」
「いや、愛情よりも友愛な雰囲気ではないのか?」
「しかし……
あんなに安心して寝てしまうとはツアイツ殿は年上狙い?」
「落ち着けカリーヌよ。
大国の寵妃と姉弟の様に仲良くなるとは……
俄には信じられないが」
「仕方が有りません。
暫くは、休ませてあげましょう」
「そうだな。
話を聞くのは、明日でも良いだろう」
ヴァリエール公爵邸内食堂にて……
ヴァリエール公爵夫妻とシェフィールドさんと4人で食卓を囲む。
何故か昨日とは変わり、カリーヌ様もシェフィールドさんも表面上は穏やかだ。
食事も終わり、食後の紅茶を飲み終わってから話を切り出す。
「では、昨日の話の続きをして宜しいですか?」
ヴァリエール公爵夫妻が頷いたのを確認して、話し出す……
此までの経緯、此からの対策、そして協力して欲しい事。
2人は黙って聞いていた……
「つまり、ジョゼフ王の試練を越えれば、カトレアの治療は可能だと言うのね?」
「そして、その試練を越える為には、トリステインを戦禍に巻き込むのか……」
2人共、自国を巻き込んでの作戦に難しい顔をしている。
「お二人が悩まれるのも当然です。
しかし……
自らの手を汚さず、アルビオンを見殺しにしても次のターゲットは、トリステインです。
ならば……」
「他人の庭で火遊びをしている内に終わらせろ、と?」
「言い辛いですが、この末期の国は荒療治をしないと崩壊します」
「ああ……
それは我々の責任でも有る」
「言い難いのですが、既にこの国にもレコンキスタの魔の手が伸びています。
それは……」
「まさか、彼が?」
「そうです。
彼はトリステインの参戦を拒否し続けるでしょう」
ヴァリエール公爵は押し黙ってしまった。
カリーヌ様は一点を見詰めたまま動かない。
やがて、覚悟を決めたのか答えてくれた。
「この国を巻き込もうとも、君の話に乗ろう」
「ええ、この国と私達の娘の為に……」
「有難う御座います」
これで、残すはド・モンモランシ家の再生のみだ……
よし、勝機が見えてきた。
しかし、今回はシリアスだったな。
オッパイ話をすると、カリーヌ様が怒り出すから。
「「そうだ(でした)!
ツアイツ殿?」」
「はい?」
「そのジョゼフ王が、君に求めた事とは何なのだ?」
「それは……
僕にしか出来ない治療法で治したい事が有るのです」
「そうか……
彼も、色者関係者なんだな」
「三度目なので、詳しくは……」
「……………」
「それとツアイツ殿。
大切な話が有るのだが……」
あれ?何だろう?
ヴァリエール公爵夫妻が満面の笑みで近づいてくるんだけど……?