第62話
アンリエッタ姫のお茶会!
参加した貴族の女生徒達はアンリエッタ姫が、ウェールズ皇太子狙いだと理解した。
現状、トリステインはトップが空位だ。
マリアンヌ様は、喪に服すと政治は放り投げっぱなしだ。
なので、嫌われ者のマザリーニ枢機卿が取り仕切っている!
それがトリステイン貴族の共通認識……
哀れ、マザリーニ枢機卿。
そして、現状一番王女に近いのはアンリエッタ姫。
その国のトップに一番近い彼女が、アルビオン王国と婚姻を望んでいる。
例えとは言え、バレバレな話をしてだ!
これは、実家に報告しなければ……
この情報は、アンリエッタ姫に取り入るには最高のネタだ!
実家を有利にする情報を掴んだ為、女生徒達はソワソワしだした。
「それで、先程の質問に対して皆様はどう考えますか?」
これはナイスアイデアを答えれば、アンリエッタ姫の心証が良くなる。
皆、真剣に考える。
しかし……
悲しいかな、貞淑を重んじるトリステイン貴族の子女達に、殿方を篭絡する手立ては考えつかない。
しかし、何かを言わなければ……
勇気の有る1人のモブ女生徒が、おずおずと発言する。
「何か、その殿方に贈り物をしてみては?」
「贈り物ですか?
具体的にはどの様な物を?」
女生徒は黙り込んでしまった。
アルビオンの皇太子が喜ぶ贈り物など、想像もつかない……
「てっ手紙で気持ちを伝えてみては?」
「手紙ですか?」
「そうです!
愛籠もった手紙を書いては?」
それは……
愛を……誓う?
私が……私達が……
誰に……誰が良い?
始祖ブリミル様なら?
逝ける!
対外的に、その様な手紙が有ると広まれば……
王家故に、始祖ブリミルは絶対だ。
一方的だろうと、呑まねばららぬ状況に、追い込めるのではないでしょうか?
後は、その手紙が何処に流れるかですね。
ロマリア?
ブリミル教の高位聖者?
はたまた他国の王家。
「くっくっくっくっく……
良いアイデアですね。
貴女のお名前は?」
苦し紛れなアイデアだったが、アンリエッタ姫はいたく気に入ったみたいだ。
黒化したアンリエッタ姫に怯えながらも、女生徒は慌てて名乗った!
SIDEルイズ&モンモランシー
「アンリエッタ姫……
絶対、良くない事を考えているわよ」
「でもルイズ。
手紙だけでしょ?
どうにもならないんじゃないの?」
2人は考え込んだ。
只の手紙で、どうやってウェールズ皇太子の心を射止めるのか?
そんな文面が有るなら、こっちがダメ押しに欲しいくらいだ!
2人が考え込んでいる間も、アンリエッタ姫と他の女生徒との話は進んでいる。そしてお茶会も一段落し、意見も出尽くした頃に
「少し疲れましたので、一旦休憩にしましょう」
と、アンリエッタの一声で一旦お開きとなり、休憩に入る。
アンリエッタ姫は、あてがわれた部屋へ。
他の女生徒達は、それぞれの実家に連絡する為に別れていった。
部屋に入り
「考え事が有るから!
暫く1人にさせて下さい」
と、人払いする。
アンリエッタは、先程考えついた謀略を考え直す。
先ずはウェールズ皇太子に、信用の出来る人物が手紙(恋文)を届ける!
そしてアンリエッタ姫の内緒のプランとは……
用心の為にと、幾つかのルートで手紙を届けさせる事。
しかし、本命以外は全て他へと流れてしまう。
ゲルマニア皇帝の手に渡れば、かの国との婚姻外交などブチ折れる!
ロマリアの聖職者関連なら、欲望深い糞坊主が礼金欲しさに結婚式を仕切りに乗り出す!
アルビオン王国のジェームズ現王なら……
息子のロマンスを応援する筈だ!
又は醜聞にならない様に、まとめに入るだろう。
トリステイン国内に流れたら……
別に困らないわね。
私が、ウェールズ皇太子狙いだと知られるだけ。
内容の方も考えましょう。
そうです!
ラグドリアン湖の遊園会で、私が水浴びをしているのをウェールズ様が目撃して……
そしてウェールズ様が、男のケジメとして責任を取ると言ってくれた。
私は、その男らしさに打たれ始祖に2人で永遠の愛を誓う……
と、センセーショナルな内容にしましょう。
実際は水浴びを盗み見した上に、もう少し乳が大きければ……
などと、暴言を吐いたのだが、恋する乙女の寛容さで許して差し上げますわ。
嗚呼……
ウェールズ様!
貴方の望み通りの胸を手に入れます。
なので、貴方を頂きます!
そこから暫くは妄想タイムとなり、姫はベッドで1人クネクネと悶えていた。
漸く、ウェールズ皇太子成分を補給する為の妄想を完了した。
さてと、それで……
アルビオンへの使者達は、誰にしましょうか?
そうだ!
私のお友達のルイズに、本命を託しましょう。
こちらの方が大切なのですが、他に流れてしまう手紙は銃士隊のみんなね!
くっくっくっくっく……
ツアイツ殿に教えて貰った、覚悟と決意!
素晴らしいわ!
彼にも、手紙が流れてしまう様に手配しましょう。
ヴァリエール公爵や、ツェルプストー辺境伯辺りに、情報が流れたら楽しいわね。
ウェールズ様……
後3ヶ月以内には、巨乳化してみせます!
ですから、作戦実行は3ヶ月後ですわ。
アンリエッタ姫は黒姫と化した!
しかも今回は慎重に事を運ぶ為に、自分の考えたプランを他の誰かに検討して貰うつもりだ。
自分の考えだけでは、穴が有るかもしれない。
けど、謀略を共に考えられる相手など……
誰か居ないだろうか?
ルイズは、お馬鹿そうだから無理。
ワルド隊長は厳しい人だし、国に忠誠が篤いから逆に止められてしまうわ。
有象無象の宮廷貴族は論外。
マザリーニ枢機卿……
も、無理ね。
残りはアニエス隊長か……
そうね!
銃士隊には手紙を横流しさせる役目が有るから、全てを話して協力をしてもらいましょう。
「誰か!
アニエス隊長を呼んで下さい」
悪巧みは、佳境に入る……
暫くして、アニエス隊長が部屋にやって来た。
「アニエス隊長。
貴女にしか相談出来ない事が有るのです」
ソファーを勧め、向かい合って座ったら直ぐに話を切り出す……
「私は、アンリエッタ姫直属の部下です。
何なりと申し付け下さい」
真剣な表情で、アニエス隊長は答えてくれた。
掴みはオーケーね!
「嗚呼……
この愚かな女を見捨てないで下さいね」
俯き加減で、小声で話す。
「見捨てるなどと!
その様な事はありません。
私の全てを賭けてアンリエッタ姫にお仕えしますので……」
くっくっくっ……
これなら信用しても大丈夫ね。
アニエス隊長の両手を握って、上目使いで見上げる……
「アニエス隊長……
貴女にしか、頼れる相手はいないの。
実は……」
考え付いた作戦を話す。
そして、何処か不備が有るかもしれないと、問題点を考えてもらった……
アニエス隊長は終始難しい顔をしていたが、私が彼女の膝の上に泣き崩れる様に倒れ込んだら……
一瞬ビクッとしたけど、背中を撫でてくれて
「分かりました。
微力ですが全面協力をします!」
と、言ってくれた。
作戦の内容については、まだ時間も有るので良く考えます。
と、持ち帰りとなってしまったが。
何故か真っ赤になっているアニエス隊長ですが、こんな秘密の謀略話を持ち掛けられたので動揺してるのでしょう。
これで、協力者も確保したわ!
この願い、必ず成功させてみせるわ!
完全にアンリエッタは色ボケしていた。
しかし、内容はアレだが決意を新たにキリリとした表情だ!
そんな彼女をヨダレが出そうな顔でアニエスは眺めていた。
姫さま、柔らかくて良い匂いだったなー、と。