第63話
アニエス隊長の憂鬱
アンリエッタ姫の部屋の前で、立哨しながら考える……
先程、アンリエッタ様のお部屋に呼ばれたが、あの様な謀略話を聞かせられるとは!
結局、色仕掛け?
で、協力する約束をしてしまった。
しかし……
良く考えれば、あれ程嫌なウェールズ皇太子との婚姻の手伝いだ。
あの時、姫様の柔らかさと良い匂いに惑わされなければ……
あの様な謀略など、お止めしたのだが。
でも、断れば秘密を打ち明けてくれたアンリエッタ姫の信頼を裏切る事に……
難しい。
どちらにしても、協力する事は確定なのだ。
しかしだな……
この作戦は失敗しても、罪には問われまい。
失敗とは、重要書類を正確に正しい相手に届けるのだから。
全てウェールズ皇太子に届ければ良いだけだ!
私は平民なので、本当に手紙がバラまかれて内容が広まると、ウェールズ皇太子と結婚出来る!
と言う作戦が、成功するとは思えないのだが……
貴族のプライドや面子を考えると可能なのか?
んー悩む……
この様な謀(はかりごと)は苦手分野なのだ。
好きなら、押し倒せば確実だろうに。
現に私は、好みのおにゃの子を言葉巧みに部屋に連れ込み、酔わせて押し倒すのだが……
成功率は高いぞ。
勿論、私が攻めだ!
しかし、あのお優しいアンリエッタ姫には無理な作戦かな。
姫の期待に応えるのならば、作戦の修正案を出せば良いのだが……
そんな謀略に長けた人物など、知り合いに居ない。
元々私は、ダングルテールの虐殺を画策した相手を探す為に、王宮に近づく為に、銃士隊に志願したのだ。
しかし、そちらの調査は捗らない。
やはり、謀略の得意な腹黒い協力者を探した方が良いのだろうか?
思い当たる相手は居る。
あの忌々しい、ゲルマニアのおっぱい教祖だ!
奴の腹黒さは格別だろうし、姫様の考えなど足元にも及ばぬ悪知恵を働かせる筈だ!
しかし、助力を乞おうなどお断りだ!
隊の連中も基本的に肉体派ばかりだな。
くっ……
奴に助力して貰うしかないのか。あんな変態に頭を下げるなど、お断りなのだが……
「隊長?アニエス隊長?
交代のお時間ですが……」
呼ばれて、思考の海から脱出する!
「あっ……嗚呼、すまないな。
交代だな。
宜しく頼む」
いかんいかん!
任務に集中しなければ……
変態の件は保留にしよう。
元々の脳筋アニエスは、問題事を先送りにした!
SIDEツアイツ
イザベラ王女と会う為に、自室でミス・タバサを待つ。
既に本体ワルド殿と、少し不機嫌なシェフィールドさんが待機中。
紅茶を飲みながら雑談をしている。
シェフィールドさんはワルド殿から聞いたアニエス隊長について、良く思ってないみたいだ。
さらりと
「失礼な女ね。
では、処理しておきましょうか?」
とか、怖い事を笑顔で言われてしまった……
此方からは、手を出さない様に厳重に注意しておく。
普通にヤバい処理をしそうなので……
実際の所、手を出されても、この強力な守護神を擁する僕にどうこう出来ないだろうけど……
しかし、シェフィールドさん無双で、周りに物理的な被害が出るから大変だ。
最近、彼女の過保護振りも更に酷くなる一方だし。
ただヤンデレ化については、ヴァリエール公爵家の訪問以来、大人しくなっている。
一度倒れたからかな?
彼女を眺めならが、考えていると目が合った。
慈母の微笑みを浮かべてくれる。
ヤンデレがなければ、理想の姉なんだが……
「遅いですわね人形……
何をノロノロしているのかしら?」
優先度の低い相手には、ナチュラルに毒を吐くけど。
ムッとしたワルド殿が
「タバサ殿も大変なのだよ」
と、弁護しているが、この位の遣り取りならヤンデレ化はしなくなった。
笑って済ませられるレベルだ!
これは、彼らのコミュニケーションみたいな物だし。
そして何時も通りに、窓からミス・タバサが現れた!
シェフィールドさんとワルド殿を見てビックリしていたが、僕が
「2人は護衛で同行してもらうから」
と、言うと少し考えたが了解してくれた。
「……時間が無い。
急ぐ」
そう言って、フライで外に飛び出しt「待ちなさい」
ムンズと、シェフィールドさんがミス・タバサの首を掴むと、猫の様にぶら下がっている彼女に
「今は、アンリエッタ姫の護衛が沢山居るのよ。
見付かると面倒だわ。
私が外まで転移させるから」
と、言って例のマジックアイテムを取り出した。
流石だ!
確かに夜遅く、こんなメンバーで外に飛んでいったら、大問題だよね。
「流石です!
シェフィールドさん」
素直に誉めて、しまいました。
彼女は後ろから僕を抱きしめると、残りの2人にローブの端を持たせ転移した……
一瞬の浮遊感の後に、景色が変わり学院の外に転移する。
便利だよね。
ミス・タバサは暫く周りを見回して……
星の位置か、周りの景色で現在位置を確認出来たのか
「……こっち、急ぐ」
と、フライで飛んでいった!
「ツアイツ殿、追いましょう」
ワルド殿が慌てて、ミス・タバサを追いかける。
ワルド殿は、ミス・タバサに話し掛ける切欠を探しているみたいだ。
まだギクシャクしているのかな?
そう言えば、再教育後にまともに彼女と話すのは初めてだっけ……
母親の治療の件で、何とか仲直りさせよう。
「さて、我々も行きましょうか!」
今だに後ろから抱きついてる、シェフィールドさんに声を掛ける。
「そうですね」
彼女は、魔法が使えない……
しかし、懐から馬の彫刻を取り出し、何か呪文を言いながら放り投げた!
すると、ムクムクと大きくなり、全金属製の立派な馬が出来上がった!
「かっ格好良いですね」
素直に驚き、誉めた!
まるで、ドラゴンボールのホイポイカプセルだよ。
便利だよね。
ガリアのマジックアイテムってオーバーテクノロジーじゃない?
「さぁ乗って下さい。
ツアイツ様!」
彼女は僕を前に乗せると、颯爽と馬ゴーレム?
を走らせる……
制御は彼女任せとは言え、少し恥ずかしい。
暫く走ると、前方に開けた場所が見えてきた!
どうやらアレが、イザベラ王女との会見場所みたいだな……
さて、気を引き締めて行きますか!