第69話
アルヴィーズの食堂。
まだ何時ものメンバーは来ていない。
1人食卓で考える。
何か見落としや、考え違いは無いだろうか?
アンリエッタ姫とウェールズ皇太子の婚姻は、トリステイン参戦の鍵だ!
しかし、既に女生徒に広まっているからには、学院の外に……
彼女達の家族たる貴族連中に広がったと思って、間違いない。
すなわち、マザリーニやリッシュモンも何れはアンリエッタ姫の気持ちが伝わる……
善悪を別にして、彼らがノーアクションの訳は無いだろう。
リッシュモンは売国奴だから同然反対だろうし。
レコンキスタとしては、アルビオンとトリステインは、各個撃破が理想だ。
マザリーニは……
あの苦労人の考えは分からない。
アルビオンの反乱が始まれば、加勢するか見限ってゲルマニアと繋がりを持とうとするか……
それは、アルビオンの頑張り次第だな。
優勢なら、勝てる見込み有りと思えば加勢する。
敗戦濃厚なら、ゲルマニアにアンリエッタ姫を差し出す位はするな。
彼はトリステインの為を思ってるから、王族個人の感情など考慮しない。
元々、王族の婚姻なんで政略的な行事だ!
自由恋愛など無い。
それが、王族の義務だろう……
その辺の覚悟が、イザベラ姫は凄かった!
見習って欲しいものだ。
今朝は生徒達に囲まれず、オールドオスマンや教師陣と談笑するアンリエッタ姫を見る。
呑気だよな、この姫は。
兎に角、ワルド殿と相談が必要だ。
手紙を届けるのは誰なのか?
時期や内容も確認したい。
しかし……
真摯な気持ちで綴った手紙だったとしたら?
本当に、そこまで外道な事をしなければならないのかな?
現代と違い、ポストに投函すればハイ終わり!
って訳にいかないから、それなりの人物が届けなければならない。
多分、銃士隊かワルド殿か……
学院の生徒をけしかけるしか、彼女の駒は居ないのだから。
罪悪感を覚えながら、しかし今更何をと思い気を引き締める。
最初に決めた方針が、一番被害が少ないのだから……
何でもかんでも、助けられるなんて傲慢な考えは、平和呆けした現代人の感覚が残ってるのかな?
すっかり冷えてしまった朝食を食べると、一旦私室に戻る。
私室にて………
ワルド殿、ソフィアそしてシェフィールドさんが、食後の紅茶を飲んで寛いでいる。
ワルド殿は、ナチュラルに本体が入り浸ってる事は……
もう諦めた。
そして毒を吐くシェフィールドさんと、拗ねるワルド殿。
間に挟まれてワタワタするソフィア……
僕には、現実に大切にしなければならない仲間が居るじゃないか。
どちらが優先なんて分かり切った事だ!
ソフィアは、僕を見つけると、今朝は彼女の手料理を食べなかった事を残念そうにしていた。
しかし、週2は学院で用意された食事をする。
周りが色々五月蠅いし、今日の様な情報も入るから……
「いきなりですが、相談です……」
「これは、ツアイツ殿。
夕べはお疲れ様でした。
あのカステルモールと言う人物は中々の漢!
きっとツアイツ殿のお役に立ちますよ」
「ツアイツ様。
イザベラ姫も、まぁガリアの事を考えてますし許容しましょう義理の娘として……
あら?
彼女はツアイツ様の姪になるのかしら?」
「貴方達は……
何を話し合っていたのですか?」
「「昨夜の会合の反省点とかですわ(よ)」」
「こほん……
それは、コッチに置いておいて。
アンリエッタ姫が、アルビオンのウェールズ皇太子宛てに手紙を出すそうです。
しかし恋文だが、内容が怪しい。
僕達の計画に支障をきたすかも知れません……」
ワルド殿が、神妙な顔で考えている。
良かった。
この顔の時は、有能な時だ。
「それは、何故知ったのですか?」
「いや、今アルヴィーズの食堂はその話題で持ち切りですから……」
僕は朝に盗み聞きした、女生徒達の会話の内容を思い出しながら話す。
「なる程、アンリエッタ姫に取り入りたい連中が煩くなりますな。
しかし、今そんな手紙を出すとなると問題ですね」
「我らのプランでも、アンリエッタ姫をアルビオンに嫁がせる予定だったけど……
反乱が始まる前だと、レコンキスタの動きがどうなるか?」
ワルド殿は、難しい顔をして……
「アルビオンは今は平穏です。
この時期に婚姻話が出るとなると……
2人は王位継承権のトップですから、下手をするとトリステインがアルビオンに併合されると思われますな」
「我らがプランでは、アンリエッタ姫はアルビオンの危機を救う聖女だが……
今の段階では、トリステイン王国を売るって事と思われる」
「始祖の血を引く3王家の中でトリステインは最弱ですから、力関係を考えても妥当です。
だから、アルビオンの危機迄は待たないとタイミングが悪いですな」
同じ行動でも、アルビオンが危機にならないと対等以上の婚姻にはならないよね。
「アンリエッタ姫が、先走った行動を取るとマズいですね……」
ワルド殿と2人、頭を抱えて打開策を考える。
隣では、すっかり仲良くなったシェフィールドさんとソフィアが、僕のマトモな著書を見ながら、ジョゼフとシェフィールドの愛の記憶操作の内容を煮詰めている……
2人共、恋する乙女の表情だし邪魔をすると怖いので、放っておく。
ワルド殿も、そんなシェフィールドさんにヤレヤレな感じだが、見守っている。
意外と我々って良いチームかもしれない。
さて、もう少しワルド殿と話を詰めようかな!
「ワルド殿、それでどうしますか?
……ワルド殿?」
「ツアイツ殿、実は最近タバサ殿がそよそよしいのです……
昨夜も余り話も出来ず、折角学院に来ていても接点を取れていない」
……ワルド殿。
さっきまでの有能な顔でなく、情け無い顔になってますよ。
「なので、彼女を誘いたいのですが……
次の虚無の日に。
そしてコレが手紙です。
渡して下さい」
「……ワルド殿。
多分、僕がコレをミス・タバサに渡すと、色んな意味で誤解を生じる筈。
いえ、生じます間違いなく。
これは、ソフィアに渡して貰って下さい」
「なる程、確かに……
手紙とは、恋文とは大変な物なのですね。
どうしました?
ツアイツ殿、しゃがみこんで?」
僕らは今、アンリエッタ姫の恋文で悩んでたのに、何でワルド殿の恋文でも悩まなければならないのでしょうか?
「……いえ。
何処も春だなぁ、と」
「……?
もう初夏ですよツアイツ殿。
平気ですか?」
最近、シリアスが続かない気がする。
「では、ワルド殿の手紙はソフィアがミス・タバサに渡す。
アンリエッタ姫の手紙はワルド殿が探す。
これで、良いですね?」
「ええ……
構いません。
ツアイツ殿、お疲れなら今日は休まれた方が良いですよ」
「……暫くは大人しくしてますから」
ワルド殿は、居住まいを正して……
「さて、そろそろアンリエッタ姫のお守りに戻ります。
手紙の件は、それとなく探りをいれましょう。
では!」
そう言ってワルド殿は部屋を出て行った。
そして、気がつけば既に遅刻……
今日は、体調不良で自主休講にしよう。