第四話:日常謳歌
小学校四年。
小学校の時期に一度だけあるクラス替えを体験し、晴れて千雨と同じクラスになれた。周りの連中はチョコチョコ叩き潰してはいたが、完全にいなくなった訳じゃ無かったからな。
クラスメイトは神楽坂、雪広、木乃香達。他にもいるにはいるが、紹介するほどではない。
千雨とはそこそこ仲良くやれているようで、俺としては願ったりかなったりな状況になりつつある。
そして今、俺はパソコンを前にいろいろとデータを打ち込んでいた。
何をやっているかと言われれば、『滞空回線(アンダーライン)』を学園都市中に散布している。五千万機以上だぞ? 作るのに滅茶苦茶な時間がかかった。
だがまぁ、これを使ってネットワークを張り、学園都市で起こっている事全てを知る事が出来る。
何があっても対処可能と言う訳だ。ついでに魔法使いの事も調べられるしな。
カタカタとパソコンをいじり、画面に映像を映す。
其処に映っているのは、金髪の少女と、少女と相対している男。
男は何やら叫びながら魔法を放ち、少女は気にすることなく避け、魔法薬を使った魔法で迎撃する。魔法に関してのデータは常に取っている。俺の反射が効くかどうかも分からないからな。
『魔力』だとか『気』だとかは、どうやればどんなデータが取れるのかも分からない。
だから、まずは麻帆良に侵入してきた魔法使いを捕まえる事にした。
洗脳して魔法に関する知識を手に入れた後魔法を使わせ、俺がそれを観測する事で魔法についての知識と能力が効くかの実験も出来た。
『未元物質(ダークマター)』で魔力を完全に絶つ事の出来る物質も作り出せた。コレを使えば、恐らく転移魔法でも侵入できないだろう建物を作れる。
『ベクトル操作』は出来た。精霊を使うという神秘の技法だが、ベクトルそのものは存在する訳だし、魔術のように別の界の物理法則と言う訳でも無い。
当然と言えば当然の結果だ。確信は持てなかったけどな。
生き残る為なら何でもやる。敵対した時の事も考えて、な。平和が一番というのは変わり様がないが。
●
そして今、俺はアメリカに居る。
『肉体変化(メタモルフォーゼ) 』の能力で肉体を変え、お気に入りの垣根帝督に変身する。ちなみに人が変身と言うのは間違いらしい。
まぁそれは置いとくとして、何故アメリカに居るかと言えば、資金調達の為だ。
アメリカ政府に科学技術の出張販売に来ている。いや、出張販売と行っていいのかどうかも分からないが。そもそも企業ですらない無名の個人に会ってくれること自体、例外中の例外なのだろうし。
と、そんな事を考えている間にノックがあった。
部屋に入って来たのは少し白髪が交じった男、そして痩せていて白衣を着ている男の二人。二人に対し、俺は礼儀正しく自己紹介をする。
「はじめまして、私の名前は垣根帝督です」
「どうも、ミスター垣根。それで、我々に見て欲しい物とは?」
「コレです。いい値で買っていただけるのならこれからも優遇しますよ」
そう言って差し出すのは一つのUSBメモリー。二人は白衣の男の持っていたパソコンでその中身を確認する。
「こ、これは……」
「どうした、博士?」
博士と呼ばれた男は、USBの中身のデータを見て驚愕の表情をあらわにしていた。重要な部分はブラックボックス化してあるとはいえ、基礎的な事だけでも十分高い技術が使われているので、ある意味当然ともいえる反応だろう。
「これは、現アメリカ軍の最新鋭のヘリよりもずっと凄いものですよ……しかし、どう見ても学生くらいのあなたに、こんなものが作れるとは思えないが……」
「見た目なんてたいした問題じゃありませんよ。それより、買っていただけますか?」
「ふむ、コレが本当に軍の所有するヘリよりも良いモノだと言うのならな。まだ完全には信用できない」
「でしょうね。ですから、別のモノを持ってきました」
そう言って、予め『王の財宝』から出しておいた
「これなら即物的ですし、必要なら解体して調べればあなた方の利にもなるでしょう」
「確かにそうだ、だが、念のために調べさせて貰っても構わんな?」
「ええ、信用できないでしょうからね」
そう言って白衣の男は駆動鎧を着用し始める。
この時代においてはまだ大した技術は出来て無い。だから俺の持つ駆動鎧を技術水準を何世代か落として販売している訳だ。
企業として存在させてもいいな。名前は思い浮かばないけど。
異常なまでの科学技術を持つ企業。世界中から技術を求められるってか。USBを見せたのも、「こういうモノが作れますよ」ってアピールしたに過ぎないし。
結局一時間程調べ、これは信用できると博士が念を押したため、アメリカにこの駆動鎧一台を売ることにした。
価格は日本円においておよそ三十兆程度。一応最新科学だし、売ってるのは技術だ。分解して中身を解析すれば、それ以外の部分も別途利用が可能な以上、これでも安い方だろう。
今後取引相手になってくれるようでもあるし、初回という事で多少なり安く売っておくのがベターだろう。
取りあえず資金は手に入れた。
●
そして日本へと戻って来た。
ある程度の広さの土地を買い、ビルを建てる為に建築確認申請をする。麻帆良内だからか、意外と簡単に通った。
そして、ここで俺の超能力の出番だ。
前から創る為に用意していた設計図を持ち、『王の財宝』内から『
光学系の能力で周りから見えない様に隠蔽し、『
日中は常に能力で隠蔽。夜になったら作業開始。それをおよそ一週間程度続けた。
常に能力を使うように演算を組み、毎日時間通りに進める。
基本的に夜中の間にやった作業だが、何とか完成。死ぬかと思った。
いきなり出来た事に疑問を持った人たちも居ただろうが、ある程度は『
寝不足で能力使用を間違える事の無いように予め睡眠をたっぷりと取っておいた為、失敗する事は無かった。
念の為に説明をする。
『窓のないビル』と言うのは、その名の通り窓が無い。
何故かと言えば、建物内で酸素を含む生活に必要なもの全てを生産できるため、窓もドアも廊下も階段も通気口も設けられていないからだ。
ちなみに必要な電力は俺が自分で発電し、バッテリーに溜めている。
侵入をさせない為でもある。ちなみに『未元物質』を用いてるから魔法でも入れない。魔力を遮断するからな。
入れるのは現段階で俺のみ。『空間移動系』の能力を使わなきゃ入れない訳だしな。
実際、原作では一方通行の地球の自転のベクトルを利用した砲撃でも傷一つ付かず、 内部に対する振動もほとんど無かったというトンデモ建造物だ。
『千の雷』とか『燃える天空』とかでも多分壊せないだろう。
内部には『
無人島から発射したいくつかの衛星との通信や『
『
何にせよ、コレで俺の隠れ家が出来上がった。何があってもここに逃げ込めば万事OKだ。
隠れ家と言うには、些か悪目立ちし過ぎている嫌いはあるがな。
●
ゴン! と鈍い音が響く。
その衝撃で目が覚め、顔を上げる。視界は少しぼやけているが、誰が叩いたのかを確認する事位は出来る。
「やっと起きたか、長谷川?」
目を擦りながら見て見れば、こめかみに青筋を浮かべた白髪交じりで強面の教師が、辞書を片手に笑顔で俺の方を見ている。
「さーて、長谷川ぁ。君は俺の授業で寝たのは何度目かなぁ? 俺ちょっとど忘れしちゃってね、教えてくれないか?」
「ヤダなぁ、先生。ボケが始まって来たんじゃないですか? まだ二度目ですよ」
またもや鈍い音。『窒素装甲』はしっかり働いているらしい。痛みは無かった。多分先生も手加減してるんだろうけど。
「バカな事を言うんじゃない。コレで六回目だろうが」
そう言いながら教壇の方へ歩いて行く。
そのまま授業終了のチャイム、礼を掛けて今日の授業は終わった。
周りのみんなが帰り支度をし始め、俺も同じ様に片付けて千雨を待つ。その間に、隣の席の
「お前、今日も寝てたな」
呆れた表情で俺にそんな事を言うが、眠いモノは眠いので仕方がない。
企業の仕事が割と大変だと身をもって知った。図書館島の本であらかじめ勉強しておいたとはいえ、実践するのとはやはり感覚が違うモノだ。
有能な部下が欲しい所だが、残念ながらスカウトできるほどの人脈は無いし、募集しても入社試験をやる暇がない。主に俺の都合で。
「大変なんだ、いろいろと」
「大変、ねぇ。家で何やってるんだ、お前。本を読んだりしてるだけだろ? そこまで大変だとは思えないけど」
「本を読んでるだけな訳ねーだろ。色々とやってるんですー」
コイツについては何時か紹介する時が来るだろう、と俺は判断し、教室の入り口でこっちを見て待っている千雨の方へと歩いていく。
そのまま一緒に下校しながら、今後の事を思索する。
本格的に企業として動かす必要性がある以上、やはり部下は必要不可欠だ。というか、俺一人で切り盛りしてる方がおかしい。
「おい、聞いてるのか?」
「ん? ああ、ゴメン。聞いて無かった。何?」
「……偶に人の話を聞かないよな、潤也って。今度の休みに出かけるって話だよ」
「ああ、麻帆良の郊外に行くんだっけか。俺は行く気無いんだけどな」
「それは私も一緒だっての。でも、服を買いに行けるなら行くつもりだ」
いろんな服を見るのが好きだからなぁ、千雨は。こういう機会は逃したくないんだろう。もうじき夏休みだから、どこかに出かける機会は幾らでもあると思うんだけどな。
ちなみに、俺もちょっと国外へと出かける事にしている。友達の家に泊まると言う名目で、ちょっとした外泊だ。
目的はいろいろあるが、取りあえずは裏の世界でそれなりに有名な情報屋の所を当たるつもりだ。今後の事も考えて。
「俺は家でゆっくりとしているよ。寝る」
忙し過ぎるというのも、考えモノだな。