第十七話:とある一日
いきなりで悪いと思うが、これにはみんな同調してくれると信じてる。
『リア充爆発しろ』
実際にリア充って見てるの嫌だよね。幸せそうだし、女がいるし、人生バラ色見たいな顔してるし、彼女がいるし、彼女出来てるし。
彼女と一緒に登校して来たりしてたら嫉妬どころじゃない。目線に質量があったら麻帆良が壊滅しているだろう、位のレベルの目線を向ける。
いちゃいちゃしやがって……と言いたいが、大抵その邪魔は出来ない。彼女が一緒にいると流石に……ねぇ?
最終的に何が言いたいって、潤也もげろって事なんだけどさ。
目の前の会話を聞いていて凄くそう思う。
「潤也、私疲れたよ……もうやだあの子」
「よしよし、頭を撫でてやろう。だから機嫌直せ」
とか言いながら頭を撫でてるんだぜ? 神楽坂の方はそれで満足って顔してるし、背中に抱きついてるし。
コレをリア充と呼ばざるして何と呼ぶ。
「護、悪いがコーヒーを淹れてくれねーか? アスナが離れない」
「ああ、構わねーよ」
そう言って俺は立ち上がり、キッチンでコーヒーを淹れる。コーヒーを淹れる機械のメーカーを見れば『SMG』と書いてある。
『SMG』は今度はこういうのまで売り始めたのか……最初は世界トップクラスの技術を持つ会社だから、もっとこう、凄いのを予想してたんだけどな。
実際には隠してるだけらしいが。
テーブルまで運び、三人分置く。神楽坂は未だに潤也に抱きついたまま。
「いい加減離れないか?」
「もうちょっと……今、充電中」
何のだよ。充電って何を充電してるんだこの娘。
「で、何が疲れたんだよ」
「うん……アレだよ。新しい先生。子供の」
ああ、確か有名になってたな。姉貴も騒いでたし。十才の子供が先生とか、世も末だな。
世も末って言葉で、実はこの部屋が三人部屋でもう一人いるけど不良で帰ってこない奴の事を思い出した。
潤也とは結構仲が良かった筈だけど。入寮の時もめてたしな。いろいろと。最終的には入れる事になったけど、たまにしか帰ってこねぇし。
まぁ、今はそんな事はどうでもいい。
「それがどうした?」
「あのこ魔法使いなんだけど、秘匿意識が異常なまでに低いのよ。何度バレかけた事か……その上、ウルスラの先輩に武装解除かけるし」
うっかり魔法の事を口走りやすいらしい。
「というか、武装解除を一般人に使っていいのか?」
「駄目だろ。常識的に考えて。ドッジボールっつースポーツでの事で態々魔法使うとか。精神が未熟過ぎるね」
「でも十才なんだろ?」
「あの餓鬼、公式的にはオックスフォードを飛び級で卒業した事になってるぞ」
うわぁ、随分と派手にやったんだな。というか、其処までの天才が麻帆良で教師をやるって時点で噂にならないのはおかしい。と言う事は、嘘か。まぁ普通に考えて嘘なんだろうけど。
「大学卒業できる程度なら、精神もある程度は成長してなきゃなぁ」
悪い笑みを浮かべてる。凄い悪人面だ。苛める気か? Sだよな。潤也って。
「潤也がドッジボールやったら相手が死ぬから駄目だね」
「んー? 流石にそんな事はしないよ。本気出せば数センチで空気摩擦でボールの方が燃え尽きるだろうから」
人外だよな、本格的に。どうやったら人間の腕でドッジボールのボールが数センチで空気摩擦で燃え尽きる様な球放れるんだよ。
ビックリ人間ショーか!
「ソレはともかく、魔法バレはして無いんだよな? その子供先生」
「頑張ったよ、私。一般常識が欠け過ぎてて驚いたけどね」
うん、俺は非常識の代名詞が同じ部屋だからそう言うのにはもう慣れた。でも常識がある分こっちがマシ……なのかね?
こっちも偶にビックリするぐらい非常識な行動に出るけどな。主に千雨ちゃん関係。
「でもまぁ、アレだろ。口で言うだけなら誰でもできるし、魔法なんて非現実的なモノを信用する訳ねーだろうし」
「超能力なんて非現実的なモノを使う俺達が言っても、説得力なんてねぇだろうけどな」
まぁそうだけどさ。それ以前に魔法の事知ったのも一年くらい前だしさ。
俺は2001年、9.11事件の次の日、魔法について知った。
『能力者』の『原石』という立場で、望むなら同じ『原石』達の様にとある島で過ごすと言う方法もあると言われたが、俺は断った。
なんだかんだでこの学校居心地いいしな。
それに、大抵の『原石』はその異常性故に周りに拒絶されて、自ら島に行くのが殆どって話だったし。
……一番驚いたのは潤也が本当に『超能力者』だったって事だな。
『SMG』社長の『垣根帝督』に才能を見出された。とか言ってたけど、本当かどうかは知らない。
嘘だとしても、本当の事を俺に話すといろいろと不都合があるんだろう。
「それにしたって、一応魔法学校を首席で卒業とかじゃ無かったのか? 魔力コントロールくらい出来て当然じゃね?」
「魔力量が多いらしいからな。コントロールも難しいんだろ」
ま、関係無いしどうでもいいが。と続けながらコーヒーを飲む潤也。興味の無い事にはとことん興味ねーのな。
分かってた事だが。
「いや、でもそれで千雨がひんむかれたら目玉の一つや二つ位弾いても文句は言えないよな。四肢を弾いてもいいけどさ」
うわぁ……千雨ちゃんの事になるととことん思考回路が物騒だ……。
いや、コレも分かってた事だけどさ。
「もう少し加減しようぜ。流石に目玉とか四肢弾くとかは無いだろう」
「バカ野郎! 町中でそんな事になったら俺は見た奴全員の記憶から消してついでに目玉弾く必要があるんだぞ!」
「目玉弾くなっつー話だろうが!!」
常識で考えろ! いや、超能力者相手に常識語るってもどうかと思うが。
ソレにしたって目玉弾くはやり過ぎだろう。見た奴のまでってのは流石に冗談だろうが。
「それにしたって、記憶を消すなんて出来るのか?」
「俺に出来ない事は……多分あるだろうな」
無いとは言い切らないんだな。さっすが
「いや、でも……(勝てない)敵はいないし、記憶関係も処理できるし、科学方面も……うん、大抵の事は出来るな」
むしろできない事の方が少ないんだな。うん、分かってたよ。
括弧の中が俺には分かるよ。誰と敵対するつもりだテメェ。
「そういえば、何日もお風呂入ってないみたいだったし、お風呂にも入れたわよ……ああ、職員寮の奴に高畑先生がね。流石に子供だからって女子寮の大浴場に入れる訳にはいかないでしょ。千雨ちゃんとお風呂場で会ったら絶対潤也がキレるし」
「まーな。当然だよ。幾ら子供だからとて容赦はしない。手加減もしない。同情もしない」
「外道だな」
「超能力者ですから……妹の為なら人類半分消滅も仕方無い」
「待てコラ。超能力者って俺も含まれてるだろうが。それに何? 麻帆良でセカンドインパクトの予感!?」
流石にしないとは思うが……いや、本当にやりそうだなコイツ。
素手で地面陥没とか、地殻を一人でひっくり返したりとか、自転を止めたり……は、流石にできねぇだろ。実際、どんな能力を使うのか知らないけどな。
千雨ちゃんの為なら地雷原をタップダンスしそうだ。全部爆発させてもきっと無傷なんだろうけど。
「……そう言えば、もうすぐ期末テストだね」
露骨に話の路線変更。このまま続けると大変な事になりそうだと思ったんだろう。
「そーか、もうそんな時期か」
「テストは大嫌いだ、俺は」
「学生の敵だろう、テストは」
お前は全教科満点だろーがよ。嫌みか畜生!
「テストかー……」
「……? どうしたの?」
「いや、胸糞悪い事思い出した」
「胸糞悪い事?」
「昔、小学校高学年の頃だったかな? 俺は毎回全教科満点。千雨は平均点。さて、一部の
ハァ? 一部の
「……千雨ちゃん、不憫な目にあった?」
「正解。『出来の良い兄』と『出来の悪い妹』だとさ。平均点取ってる時点で出来が悪いってのもどうかと思うが、それを聞いた時は一瞬で沸点突破してブチ切れたね」
……ああ、そういやそんな事もあったな。
そんな噂が一時期流れて、潤也常に鬼神モードだったからな。迂闊な事話すと犬神家の刑に処されてたし。
それに何より……
「ま、そんな事を言ってた教師は汚職やら何やら私生活含めネットに全部ぶちまけたけどな」
数人の教師は社会的に殺され、後ろ指を差される様な事になって、自主的に辞めて行ったらしい。
今は何処かの田舎の村で暮らしてるとか言う噂だ。
犯人は捕まって無いと言ってたが、コイツだったのか。
「まぁ、アレだ。過ぎた才能は周りからうとまれるんだよ。その時の捌け口が一番近しい千雨だったってだけで」
自分で言うのはどうかと思うが、確かに的を得てる。
確かにコイツ毎回テスト満点だしな。うとまれてもおかしくないし、比較するには双子の妹の千雨ちゃんが一番都合がよかったんだろ。
「今後満点とって目立つ様な真似は避けるかとも思ったが、ソレをやったらやったで妹が足を引っ張ったとかいうバカが出て殲滅したし」
懐かしいな。そんな事もあった。
犬神家よろしく、頭から公園に埋まってたからな。アレには驚いた。
むしろそれで外傷は擦り傷だけ、頭には異常が無いと言うのが不思議でならなかったよ。
窒息はしかけたらしいけどな。
というか、犬神家シリーズやめろって話だよ。怖いんだよ! 昔の話だけどさ。
「こんなことなら初めから平均点を計算して丁度やる。見たいな縛りプレイでもやってりゃよかった」
テストが簡単過ぎて笑ったわー、等と言っていやがる。
「随分と上から目線ですねこの野郎」
「実際上ですからねこの野郎。俺からすれば唯のぬるゲーなんだよ」
「本当に縛ってあげようか?」
「勘弁してくれ。言葉のあやだぞ」
神楽坂ってさらっと変な事を言い出すよな、偶に。
縛りプレイの意味を履き違えてるし。
「むしろ俺が縛りたい」
「いいよ?」
『え、いいの?』
ビックリした。この上なくビックリした。
まさか縛っていいよとか言われるとは思わなかった。いや、言われたのは潤也だけどさ。
神楽坂ってマゾ?
「潤也になら……」
顔をちょっと赤くしている。……リア充滅べ。いや割とガチで滅べ。
当の本人はちょっと頭を抱えている。何でだよ。
「……アスナ、そう言うのは他に人がいないときに言えよ。護がいるだろう?」
「俺は邪魔だって言外に言ってんのか?」
邪魔したろーかこの野郎!
「冗談よ」
カラカラと笑う。……いや、まぁ確かにそうなんだろうけどさ。さっきの反応割とガチじゃ無かったか?
深くは詮索しない。きっと危ないんだ。俺の本能がそう言ってる。
「で、テストの話だったか」
「うん、また勉強会開く? 最下位脱出でも目指してみる?」
「バカレンジャーだっけ。成績悪い五人組。毎回毎回教えてるのに最下位脱出しないよな、お前等」
「私の代わりに桜咲さんが入ったの。バカホワイトって呼ばれてる。みんなやる気がありませんから」
ご愁傷さま。桜咲って人。そんな言われてんだね。というか、万年最下位なんだっけ。麻帆良女子中の3-A。
ウチのクラスは潤也の影響もあって毎回一位を取れる。やる気の無い奴も一部いるが。
「ああ、桜咲か……ならしょうが無いよなぁ。四六時中ストーカーしてるんだし。勉強してる時間なんて無いだろ」
え? ストーカーしてんの? 誰を?
俺の疑問は解決される事無く、次の話へ移っていた。
「で、どこで勉強すんの?」
「また図書館島じゃ無い? タカミ……高畑先生の時は出張が多くてテスト勉強は自分たちの教室でやってたけど」
「俺が教えるようになってから図書館島になったんだっけ……別に場所の変更はいらないだろ。来たい奴だけ来るよーにって伝えといてくれ」
「ん、分かった」
この時点で神楽坂は漸く潤也から離れた。
アグレッシブだよなぁ……行動力があると言うか、潤也の事好きなんだなって普通に分かる。潤也は気付いてて放ってるんだろうけど。あいつが気付かない筈が無い。俺でさえ分かるんだし。
「それじゃ、私そろそろ帰る」
「おー、じゃあな。気をつけて帰れよ」
「其処は『送って行ってやる』とか言うべきじゃないの?」
「お前に勝てる一般人を見てみたいわ」
確かに身体能力ならトップレベルだよな。喧嘩になっても負けるのか? 神楽坂。
「それにまだ明るい。暗くなってるならまだしも、明るいうちから送ったらあの触覚とパイナップルが嗅ぎ付けるだろうが」
「むー、しょうが無い。愚痴とか聞いてくれただけでありがたいし。じゃあね」
バタン、とドアが閉められ、帰って行った。
「さて、俺は俺でやる事があるんだ。晩飯作るのはちょっと遅れるぞ」
「ああ、構わないけど、何するんだ?」
「ん? まぁ大した事じゃねえよ。念の為にな」
「ハァ?」
そう言うと、潤也もドアから出て何処かへ行った。
……何しに行ったんだろうな。というかどこに。