第二十六話:交渉
学園長室。
潤也と学園長はソファに座り、周りを魔法先生が囲んでいる。警備に支障が出ない程度に、だが。
この状態でも潤也は余裕の表情を浮かべている。どの道大した実力を持たないのなら、数など揃えた所で無駄なのだ。
中には、雇われたのであろう龍宮の姿もある。
ネギは未だ眠っている。輸血と魔法薬を受けているが、精神的ショックと失血による魔力の一時的な低下が原因だろう。それでも恐らく明日の朝には目覚めるだろうが。
「さて、取りあえずは自己紹介をしましょうか。『セブンスミストグループ』社長。垣根帝督です」
「麻帆良学園学園長、近衛近右衛門じゃ」
互いに自分の事を紹介し、本題に入る。余計な問答は
「さて。今回の件、どう始末をつけるつもりですか?」
潤也は問う。
現在は凍結されているとはいえ、六百万ドルの賞金首。それが復活し、なおかつ誰かを殺す計画を立てていたとなれば、学園の責任問題を問われかねない。
「どう、とは?」
「あなた方の責任問題ですよ。学園の生徒は既に襲われ、かの英雄がかけたという呪いは自力で解かれている。それを許すほど、学園は人手不足ですか」
問い詰める様な口調では無い。唯、事実を淡々と述べる。
正直に言えば、千雨達には魔法関係の事件など寄せ付けたくは無い。だが、今の潤也の立場では学園に対しての影響力は少ないのだ。
その為に行動を起こす事が出来なかった。故に、これは一つの転機であり、チャンスでもある。
「狙われていると分かっている筈なのに、何の対処もしていない。しかも、狙われていた英雄の息子は魔法を知らない一般人と暮しているそうですね。それも女子寮。職員寮は空いていないのですか? 準備をしていない場所に教育実習生を送ると言うのもおかしな話ですが」
「話の核はそこでは無いかろう。エヴァンジェリンの事の筈じゃ」
ネギの事はこの際関係無い。お前が聞きたいの別の事だろう、余計な事にまで口出しをするな──と、まぁこんなところだろうと潤也は辺りを付ける。
そしてそれは、組織を纏める者としては確かに正しい。外部からの余計な干渉は自分の首を絞める事に繋がりかねない上、現在の学園長は引くに引けない状況なのだから。
「ああ、そうでしたね。──単刀直入に言えば、彼女は犯罪者でしょう。何か躊躇する理由でもあったのですか?」
「彼女は力を封印されておった。ワシと高畑君がいれば押さえつける事も出来た筈じゃ」
「『筈』では駄目でしょう。勘違いをしている様ですが、この規模はあなたが思っているよりずっと大きいですよ。少なくとも、まともに戦闘をしようものなら麻帆良を焦土に変えようとさえしたでしょうね」
その話に学園長が眉をひそめる。
彼女の性格は、十五年の時を共にしている為に在る程度は理解しているつもりだ。だからこそ、潤也の放った言葉が解せない。
「エヴァンジェリンが、そんな事をするとは思えんが」
「他人の思っている事など、基本的には誰にも分からないものでしょう。分かったつもりで何かしようとしてたなら、それは愚行と言うほかありません」
他人の心境など分からないモノだ。それこそ、思考を覗く事の出来る魔法や超能力、魔法具を使わない限りは。
学園を利用しようとしていたエヴァンジェリン。エヴァンジェリンを利用しようとしていた学園長。
思惑など互いに知らないだろう。それが歪な形で歪んだ結果、エヴァンジェリンは死ぬ事になった。
「彼女は強い。新旧両方の世界を合わせて魔法使いの中で一、二を争うほどに。まともな戦闘をして、麻帆良が焦土になるのはこちらとしても望む所では無いのでね。対吸血鬼用の武器を用意していたんですよ」
「それが、あの時お主に噛みついた時に発動した訳か」
「ええ、そう言う事です。灰になり、もう蘇る事も無い」
「何故殺す必要があった?」
その言葉に、今度は潤也が眉を顰める。
エヴァを利用しようとしていたのは分かっている。だが、余り彼女を庇えば学園長は現在の立場さえ危うくなると理解している筈だ。
なのに、何故未だに彼女を庇うような発言をするのか。死んだ以上は利用する事も出来ない筈なのに。
「相手が殺すつもりで来た。なら、こちらが殺しても問題は無いでしょう?」
「『SMG』の関係者が狙われたと言っていたじゃろう。なら、当人たちで話し合いをさせれば良かったのではないかの?」
綺麗事だ。事はそんな単純な話じゃ無い。
話し合いで終わる様な事なら、そもそも殺しあいに発展することなど無い。
「……そもそもの事を言ってしまえば、学園が彼女を押さえつける事が出来ていれば、こんなことにはならなかったでしょうね」
学園の管理能力の問題。押さえつける事が出来ないなら、総戦力を持って早めに消して置くべきだったのだ。
真祖の吸血鬼とはいえ、魔力は有限。しかも、学園結界で力は落ちている。
利用しようとしていたのか、友人だからと私情を挟んだのか。
そんな事をするなら、それ相応の準備をするべきだ。逃がさず、力を封じ、反逆の機会を与えず、縛り付ける。
非道と呼ばれようと、悪逆と呼ばれようと、それほどに危険な存在なのだ。『闇の福音』という『
超能力者とて、潤也が特別に強いだけ。それ以外は軍と戦える力があろうと、ソレを軽々と越える力を使う。
「今回は私が居たから良かったものの、いなければ一人の生徒と殺し合いをしていたでしょうね」
「……それは、誰じゃ?」
「長谷川潤也。あなたが『良く知っている』長谷川千雨の兄ですよ」
良く知っている、の所で少し反応した。どういう事だと言いたげに。
「彼の妹は3-Aのクラスに属していますからね。学園長なら、その意味は分かっているでしょう」
言い方は悪いが、いうなれば『生贄』だ。
ネギ・スプリングフィールドという、『英雄の息子』の為の。
「『闇の福音』があのクラスに属していたのも、何かしらの理由があるのでしょうが」
それは生徒と教師としてエヴァンジェリンを使いやすくしようとしたのか、または師としてエヴァンジェリンを仰がせるつもりだったのか。
まぁ、それはもう今更だろう。
彼女は死に、尚且つその所為で学園にダメージが入る。手綱を取り切れなかった学園長は内側から非難される。態々外から叩く必要も無い。
「まぁ、こんな所ですか。……ああ、エヴァンジェリンが生き返ると言った事はありませんよ。吸血鬼の再生力は恐ろしい所がありますが、もうそんな物は意味を成しませんから」
「そう、か。……それ以外に、何かあるのかの?」
「通達が四つほど、それと最終的な責任の追及ですね。ああ、通達に関しては要求ではありませんし、どう取るかは勝手にしてくださって構いません」
「……聞こう」
だが、これを呑まないと言う選択肢は無い。
理由としては、エヴァンジェリンレベルの魔法使いを下せる者を『敵』に回さない為。
呑まざるを得ないほどに、敵対した時のリスクが大き過ぎる。
実体がどうあれ、エヴァンジェリンは封印された状態でも強い。彼女は警備の仕事も請け負っていた為、必然的に麻帆良の戦力は低下する事になる。
余程の酷いもので無ければ、学園長は要求を呑むつもりだ。
「一つ目。麻帆良学園内にいる『SMG』関係者には接触しない。下手に学園側から干渉するなら敵対したとみなしますので」
「……関係者が誰かは、教えるのかの?」
「『原石』と呼ばれる者を知っているでしょう。ここに残ると言った二人がいましてね。誰かは追って伝えます」
元々仲良くするつもりも無く、エヴァンジェリンの件で明確になった。
あのレベルの敵を抑えれるのに抑えれない。否、抑えるつもりの無い連中と手を組んだ所で何の利も無く、実力も足りない。
「二つ目。『SMG』関係者の親類、及び指定した者には同様に干渉不可とさせていただきます」
「それは、誰じゃ?」
「親類は把握出来るでしょうから言いませんが、指定する人物は『神楽坂明日菜』です」
明らかに高畑と学園長の顔色が変わる。
魔法の世界のお姫様。御伽噺の住人の様なものだが、事実。魔法世界で起こった二十年前の大分裂戦争で世界を破滅させる為の礎として『造物主』に使われた存在。
だが、逆に言えば彼女は『SMG』の庇護を与えられたと言う事。生半可な敵では相手にならず、『造物主』の使徒であるアーウェルンクス達でさえ相手になるかは怪しい。
守るつもりがあるのならむしろこれは学園。いや、高畑や学園長などの『事情を知っている者』にとっては好都合。
しかし、それは彼女の『正体』を知っていると言う事に他ならない。もし利用しようとしているのなら、高畑達からすればそれだけは避けたく。
「……干渉は不可、か。それでも部屋を変えろとは言わぬのじゃろう?」
「彼女は学園長のお孫さんと同室で満足しているようですしね。この要望をした『彼』も私も、その辺は特に口を挟むつもりはありませんよ」
気になる事があるのなら、木乃香から聞けば良い。小学校からの長い付き合いだ。違和感があれば直ぐに分かるだろうと判断し。
「三つ目。3-Aに一人、転校生を入れて貰いたい」
「転校生、とな?」
「資料はこちらを見てください」
手元に用意しておいた資料を渡し、学園長に見せる。
中身は『零』の資料だ。もちろん全て偽装。何があろうと潤也はいつでも駆けつけるが、ずっと一緒にいる方が安全ではある。少なくとも麻帆良ではそうだ。
名を『
彼女達の護衛、そしてネギ及び学園の監視と言う態勢だ。
「もちろん学園からの干渉は不可。今後このような事が起こらない様、こちらから掛けさせて頂く有事の際の保険です」
「……うむ、分かった。ここは学校じゃし、学ぼうと言うのなら拒否はしない。こちらの関係者に危害を与えるつもりは無いのじゃろう?」
「当然です。こちらとしても好き好んで敵対したい訳では無いので」
「ちなみに、守るのはそちらの関係者のみかの?」
「一般生徒なら守る様に言っておきましょう。関係者は自分で自分の身を守れるでしょうから」
そして、潤也にとっては現状最も看過できない問題である少年──ネギの事について触れた。
「四つ目。これは通達と言うより要求になりますが、英雄の息子が女子寮に住んでいる様ですね。教師と生徒と言う立場からしてそれはありえないでしょう。直ぐにでも職員寮に移る様に要求しておきます」
当然と言えば当然。
庇護対象となるべきアスナが同室にいる。それはつまり『魔法に関係性を持たせたい』と言っている様なものだ。
それは、許さない。
自身を好いてくれている彼女を、危険に巻き込む事はしない。否、させない。
今後争い火種となる可能性が非常に高いネギ・スプリングフィールドと一緒にいれば、いずれ必ず面倒事が来る。それだけは避けたく。
まぁ、それを言ってしまえば木乃香とて『英雄の娘』で在ることには違いない。面倒事なら今後無いとも言い切れない。
しかし、彼女に関してはそもそも魔法と言う存在を知らない上、父親が健在だ。関西のトップである以上、下手に外部から手を出す様な真似も出来ないだろうと判断できた。
「しかし、職員寮は空きがのう……」
「なら、これで文句は無いでしょう」
取り出すのは一つの資料。学園長はそれを受け取り、目を通す。
「……これは、一体……?」
資料に書いてあったのは、一人の教員のデータ。麻帆良内で好き勝手にやっている『犯罪者』
誰も知らない。潤也の事を知っている全ての関係者でさえ、『
「とある教師の犯罪記録ですよ。これで一人空きが出ましたね」
「……分かった。ネギ君は職員寮に移って貰おう。同室が誰にするかじゃが……まぁそれは後でいいじゃろう」
「其処まではこちらでは指定しませんよ。お好きなように」
候補としては高畑や源教員が向いているだろうが、その辺は学園長が決める事だ。
十才で一人暮らし、と言うのも中々無い経験だろう。少なくとも当分は他の教員が世話を焼く事になるのだろうが。
「最後に、責任ですが。どうしますか? 麻帆良に展開されている結界にしても、今回破られた様ですしね」
「ワシが責任を取ろう。襲われかけた生徒に関しては、ワシが直に謝罪をする所存じゃ。そして、学園結界に関しては次のメンテナンス時にプロテクトのレベルを上げる事とする」
「そうですか。もう『闇の福音』はいませんから、今後懸念とされる大停電は心配無いでしょうね」
「……其処まで把握しておるのか」
「二人は一応『
その言葉に学園長は疑心を抱く。一体、どの会話の事なのか、と。
「『桜通りの吸血鬼』の件ですよ。もう出す必要も無いでしょうがね」
これ以上は興味も無く、話は終わりとばかりに立ち上がり、帰ろうとする。
そして、扉の前で立ち止まる。
「ああ、忘れていました。夕刻、女子寮に侵入しようとしていたオコジョ妖精の事ですが」
其処まで知っているのか、と高畑は目を見張る。
ポケットから取り出したのは一通の手紙。宛先はネギ・スプリングフィールド。送ったのはネカネ・スプリングフィールドだ。
「この手紙。英雄の息子の同居人──神楽坂さんが開けたらしいのですが、中身を読んでみれば犯罪者がこちらに来ているとの事では無いですか」
夕刻、普段から侵入者対策として『オジギソウ』を散布しているのだが、それに引っかかった者がいた。それがオコジョ妖精、アルベール・カモミール。
手紙の中身は下着二千枚の泥棒。下らないと思うかもしれないが、実際に犯罪である為、投獄は免れられない。
「『警告』はしましたが、どうするつもりで?」
「……連絡を取る。事と次第によっては送り返す所存じゃ」
「そうですか。分かりました」
そして、潤也は学園長室を後にする。
●
翌日。
子供先生は体調は良く、問題無しとして職務に勤しむ事になる。もちろん、桜通りで襲われたことなど覚えていない。
と言うよりも、事件があまりにも早く解決し過ぎたのだ。今回の件に関してはネギは何もやっていないし、何も関係していない。
あえて言うならば対処が遅れた学園が悪い、と言うだけだ。
そして、職員室で体調を心配する言葉聞きつつ授業やその日の連絡事項を確認。其処で気になる事を見つける。
『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。絡繰茶々丸の転校。及び御上零の転入』
当然ながら寝ていた為、何も聞いておらず、近くにいた高畑へと質問をする。
「ああ、エヴァンジェリンは急に決まった事でね。御上君に関しては本来三年生に上がると同時に転入予定だったんだけど、家の事情で遅れたらしい」
少しばかり悲哀を込めた口調でそう話す。友人であったエヴァンジェリンが死んだ事は、高畑にとってもショックだったのだ。
零に関しては一応幾らかの資料を用意してあるようで、ネギは軽くそれに目を通した後、高畑へと礼を告げる。
「そうなんだ。分かった、ありがとうタカミチ」
「どういたしまして。ネギ君も貧血で倒れたんだから張り切り過ぎてまた倒れないようにね」
「うん!」
そう言って教室へ向かうネギ。
カモは未だ療養中だ。全身に切り傷の様なものが隈なく出来ており、全て治るまで数日はいるだろうとの事。
そして、学園長が手を回し、『釈放』されている。
その所為で、また面倒事が巻き起こる事になるなど、誰も思っていない。唯、ネギに従者を集め、力を蓄えさせ、英雄として育てる為に──
●
3-Aの教室。扉の外にはネギ、零が既に来ていた。
「では、僕の後に続いて入ってください」
「うむ……いや、はい。分かりました」
若干口調を修正しながら答える。機械的にプログラムとして動作させれば問題は無いのだろうが、零の『自己』とも呼べる部分はそもそも潤也の知らないイレギュラーな部分も存在する。
単純にプログラムを追加しただけでは、ちゃんと実行出来ないのだ。それこそ、潤也が強制的に『自己』を塗りつぶさない限りは。
扉を開け、生徒達はネギの元気な姿を見て安堵し、見知らぬ零の事を見て騒いで喋り始める。
千雨は零の姿を見て顔は驚きに染まり、後で潤也を問い詰めようと決めた。ちなみにアスナは未だ見た事は無いので知らない。
「え、えっと、静かにしてください! 連絡がありますので!」
その言葉に若干落ち着く3-Aの面々。雪広が睨みつけた事が大きいだろうか。
「エヴァンジェリンさんと絡繰さんが転校する事になりました」
一拍置いて、驚き。
超と葉加瀬はこの件について知っていたが、それに対して何か言う事は無く。アスナと千雨はまた何かあったと勘ぐる。
「そして、新しくこのクラスで勉強する仲間が増えます。御上さん、自己紹介を」
「御上零です。どうぞよろしく」
簡潔に、それでいてハッキリとした口調で言い切る。抜けたエヴァンジェリンと似たタイプである、とクラスの面々からは判断された様だ。
「それじゃネギ先生、質問コーナーと行っていいかな?」
その言葉に、ネギは零の方を向いて目で問いかける。
「私は構いませんよ」
「えっと、それじゃあどうぞ」
朝倉は笑い、メモ帳を持って質問を開始する。
「それじゃあまず、どこから来たの?」
「神奈川県。ここからそう遠くは無いんだけど、親の事情って奴で全寮制のここに来たの」
「趣味と特技は?」
「本を読む。そして知識の収集をすることね。特技は……機械関係に強いわ」
「彼氏はいる?」
「いないわよ。男友達もほとんどいないし」
その後数分程続き、漸く質問の嵐が収まる。頃合いを見計らって、ネギは零の席を指差した。
「それでは、御上さんは一番後ろの席になります」
その指示に従い、教室の一番後ろにある机へと移動する。一番後ろは全て空いているのでどこでもいいと言われ、千雨の後ろに座る。
「オイ、何で零がいるんだよ」
「潤也の指示。何が起こっても対処できるようにとの事だ。詳しい事は潤也から聞いてくれ」
口調を戻し、面倒臭そうに千雨に言う。
何が起きようと、『千の雷』レベルの魔法を奇襲で使われない限りは壊れる事も無い。護衛には十分すぎる力だろう。
授業を受けるのも面倒そうにしていたが、元々寝るということ自体しない為、退屈な時間だ。
寮では千雨の同室。アスナに何かあった場合は『
取りあえず、授業と言う暇な時間を潰す事から始めようと決めた零だった。
●
夕刻。学園長室。其処には制服を着た一人の少年、そして学園長がいた。
「さて、長谷川潤也君。君に言わなければならない事がある」
おもむろに立ち上がり、潤也に対して頭を下げた。
「エヴァンジェリンの件。迷惑をかけた様じゃな、済まなかった」
「いえ、別に気にしてませんから」
特に気にする必要も無く、そう答える。要は『謝った』という事実があればそれで十分なのだ。
「……しかし気になるのじゃが、何故エヴァと対立したのかの?」
不干渉、となっている筈だが、原因を知りたい学園長にとっては聞くべき事でもある。
故に、答える。
「去年の夏。最初の桜通りの吸血鬼事件ですか。あの時に思いっきり顔面殴りつけただけですよ」
去年の夏。その時、潤也はエヴァンジェリンの顔面を殴りつけて顔面の骨を陥没、背骨の骨折と言う怪我を負った。
「襲われた生徒がいた様なのでね。隠れていたら見つかり、記憶を消される所だったので抵抗しただけです」
事も無げにそう告げる。罪悪感など無い。当然だろう、罰されるべきは襲いかかったエヴァンジェリンなのだから。
「……そうか、分かった。重ね重ね済まなかった」
ソレを聞きながら、潤也は学園長室を後にする。
なお、未だ学校に残っていたアスナと千雨に今回の事について問い詰められたのは余談である。