第三十五話:警告
PM11:00。
女子達のいる部屋は静まり返っていた。不自然なほどに、異様なまでに。
新田は良い事だと思っていたが、同時に一つの懸念を持っていた。
──こういうときを、嵐の前の静けさというのか。と。
●
「修学旅行特別企画『唇争奪!! ネギ先生とラブラブキッス大作戦!!』!!」
朝倉は手に持ったマイクを使い、テレビを通して見ている3-Aの生徒に放送する。気分は既にテレビ番組の司会者であり、この辺りのスペックの高さは流石3-Aと言える。
『まずは選手紹介。一班からは鳴滝姉妹!』
「あわわ、お姉ちゃん。正座嫌ですー」
「大丈夫だって、楓姉から教わった忍術があるじゃんか」
「その楓姉と当たったらどうするですかー!」
両手に枕を持ち、半泣き状態の風香。対照的に自信満々で歩き続ける史香。本当に対照的な双子である。
『二班からは長瀬さんと龍宮さん! 身体能力では随一か!? 麻帆良四天王の異名は伊達じゃ無い!』
「何故私が……、」
「まぁまぁ、イベントでござるし、楽しむでござるよ」
とある理由から超と一緒の班になる必要があり、二班に入る予定だった春日と代わって貰い、二班に入った龍宮。
これなら別に私じゃ無くても、と思ったが、言っても無駄なので早々に抜けようと考える。余計な疲れは仕事には必要ない。
『三班からは委員長と村上! チームワークが問題だが、はまればいけるか!?』
「ネギ先生の唇は死守しますわ!!」
「うー。ちづ姉もザジさんも逃げちゃったし……何でこうなったんだろ」
やる気満々な雪広と違い、何故こうなったと頭を抱える村上。チームワークに問題があるが、雪広のネギへの愛でカバーされる事を願う。
『四班からはゆーなとまき絵! チームワークもバッチリな二人。運動部で安定感があります!』
「よーし、頑張っちゃうよー! 絶対勝つよ!」
「エへへー。ネギ君とキスかー」
運動部として能力は高い二人。チームワークもあり、安定感がある為、優勝候補としても取れるだろう。
『五班からはゆえと本屋! 大穴の図書館組だー』
「ゆ、ゆえー」
「全く、ウチのクラスはアホばかりです。のどかが告白した時にこんなイベントを……」
溜息をつきつつ、旅館の見取り図を用意する。ロビーにある見取り図を簡易的に写して来たのだ。
「ゆえゆえー、いいよ。これはゲームなんだし……」
「いいえ、ネギ先生は私の知る中でも最もまともな部類に入る男性です。のどか、あなたの選択は間違って無いと断言しますよ」
これが普通の子供で、普通に過ごせるのなら確かに大人になった時はまともな部類だろう。
だが、ネギは普通の子供では無いし、これからも普通に過ごせるという事は無い。
周りのねじ曲がった教育と
「絶対勝ってのどかにキスさせてあげます。行くですよ!」
「う、うん!」
頷き、拳を握って気合いを入れる二人。絶対に負けないという気迫が感じられるが、宮崎は連れ回されているだけと言う感じもする。
『なお、六班は参加してません』
「何やってんだか、こいつ等……」
「ネギ君とキスするんやろ? 優勝賞品てなんやろな」
テレビを見つつ、千雨と木乃香が雑談をする。その横では零が外を見ている。何を見ているかは分からないが、視線は当たりを見回す様に動いていた。
刹那は袋に入れたままの刀を持って壁に寄り掛かっており、アスナは携帯を弄っている。
「明日はどこ回るの?」
「明日の事は明日決めろ」
零はぞんざいにそう呟き、窓を閉めて外から見えなくする。
『では、ゲーム開始!!』
そして、夜は更けて行く。
●
壁を背に進むのは三班。雪広と村上。
眼が燃えてやる気が溢れている雪広とは対照的に、今すぐにでも部屋に戻りたいという気持ちが前面に出ている村上のペア。
「(もうちょっとやる気出してください! ネギ先生の唇は私が死守するんです!)」
多分それやったら委員長が奪うんだろうなぁ……等と半分呆れながら雪広の後ろをついて行く。
ネギのいる部屋に向かう途中、通路が交差している場所がある。注意しつつも先へ進み。
「「ん?」」
バッタリと。ネギのいる部屋へと向かうルートの間で、四班明石と佐々木が現れる。
「(委員長!?)」
「(まき絵さん、ここで会ったが百年目! 決着付けますわよ!)」
小声で戦闘を促す雪広。クロスカウンターの様に枕をぶつけ合い、互いに一瞬目の前が暗くなる。
「(良くやったまき絵! いいんちょ止めだ!)」
明石が佐々木の代わりに出て、雪広の代わりに出た村上と対峙し、枕同士でぶつけ合う。
「(お、獲物発見でござる! 真名、援護を……って、いない!?)」
既に逃走した龍宮。明日は用事がある為、疲れを残すなど以ての外であり。
「コラ!! 何をしている!!」
其処へ新田が現れ、場は更に
●
一方その頃、綾瀬と宮崎ペア。
中から行っても、敵と会うか新田と会うか。それなら外から行けばいいじゃない、とばかりに匍匐前進で進む二人。気分はちょっとした軍隊である。
「ゆ、ゆえー。何でこんな所を通るのー?」
ライトを口にはさみ、星明かりとライトの光を頼りに進み続け、非常口の前に降りた。周りをみて誰もいない事を確認した後、宮崎が下りるのを手伝う。
「このルートが安全かつ最も速いのです。非常口にしても先ほど開けておきましたし、絶対のどかが勝てます」
自信を持ってそう告げる。友人の恋を応援している為、これが何かのきっかけとなれば。そう思い。
宮崎はその言葉に安心し、綾瀬は笑みを浮かべながら非常口を開けようとする。
「……あ、あれ?」
ガチャガチャと何度回しても開く様子が無い。さっき開けておいた筈……と思考を巡らすも、今閉まっているのでは意味が無く。
ちなみにこの旅館。一般の人が使えるようになっている扉以外、全て
当然、非常口は中からしか開く様には出来ていない訳で。外から開けるには関係者の持つカギが必要だ。その関係者にしても、夜という事で中に数人しかおらず、外の状況に気付く筈も無い。
「あ、開けてくださいー!」
「どうなってるですかー!」
ドンドンと叩くも気付く人はおらず。綾瀬と宮崎は外に取り残される羽目になった……かと思われたが。
鍵が開く音が鳴り、中から非常口を開ける音が聞こえる。
「た、助かったです」
綾瀬はほっとして開けた人物を見た。宮崎にしても、その顔には安堵の表情がうかがえる。
「全く、何をやってるの君達」
瀬流彦である。監視カメラを見ていた時、あまりに不憫なので助けてあげようと動いた。辺りに仕掛けてあるトラップは魔力や気に反応して発動する物もあれば、範囲内に入った瞬間発動する物もある訳だが。
今回はこの二人が外でうろついてる時点でいくつかのトラップを解除して、中に入れようとして出てきた訳だ。
「今回は見逃してあげるけど、次は駄目だよ?」
「あ、ありがとうございます!」
それでも、瀬流彦の部屋はネギの隣なので、当然ながら今入ろうとすれば気付かれる。
そう思い、一端戻る振りをして戻ってこようとした二人だが、ふと目に入ったのは天井から降りてきた梯子。
それを辿って上を見る三人。其処には、鳴滝姉妹が忍者の格好をして降りて来ていた。
「……何やってるの、君達も?」
その表情には呆れしか無い。まさか屋根裏を通ってくるとは思っていなかったのだ。
そう言えば屋根裏の赤外線センサーと
明らかに動きが素人の上にガタゴト音を立てていたので生徒の一人だろうなーとは思っていたのだが。
取りあえずその二人も捕まえ、部屋に戻らせる事にした。
──小さく、ガラスが砕ける様な音を聞いてから。
●
「ん?」
朝倉はテレビに近寄る。
ビデオカメラの映像に所々砂嵐が映り、映像が見えなくなっていた。故障かな? と思うも、数秒後には戻っている為に問題は無いだろうと放置していた。
だが、今度は違う。テレビにしても、携帯にしても、正常に使えなくなっている。
何やら、機械の不調だろうか。そんな事を思いながら通信機器を見直す。配線も間違っていないし、電気もちゃんと通ってる。
携帯に関しては電源を切り、後で電源付けておこうと思い、仕舞う。
でも、何で動かないんだろうか。そんな事を思っていた時。
ふとノックが鳴り、機械の調子を見ていた朝倉は面倒そうにドアへと向かう。
「はーい、誰──?」
ドアを開けた先にいたのは、銀のトレンチコートを着た人物。
フードを目深に被っている為、顔は見えず。
「
ドンッ! と右手を出し、デコピンで朝倉が弾き飛ばされる。
当たったのは胸だが、ベクトルを操作された為に威力は弾丸にも匹敵する。気絶はしない様、最低限の配慮はした。威力は拡散した為、内臓を傷つけることも無い。
「──
「あ、姉さん!?」
カモが驚いて飛び出すが、不可視の何かに容易く吹き飛ばされ、地面へと縫いつけられたように動かなくなる。
出していた右手を下げ、部屋の中へと入る。当然、ドアを閉めるのは忘れない。
朝倉は、畳とはいえ背中を打ちつけて肺の中の空気を出してしまい、せき込んでいた。酸素が足らず、突発的には動けないようだ。
「ゲホッ、ゲホッ! い、一体何が──?」
せき込みながらも、何が起こったのか、事態を把握する為にと顔を上げようとした。
だが、それは叶わない。横から顔を踏みつけられ、動かす事が出来ないからだ。そのまま銃が向けられ、余計な動きをすれば直ぐに撃たれる事は容易に想像できる。
「朝倉ァ。お前、この事態を正しく把握してンのか?」
朝倉は眼だけを動かして自身を踏みつけている人物を見る。
フードの合間から赤い髪が揺れ、黒の瞳がこちらを見据えている。顔の輪郭や形なども、ハッキリとはしないが分かる。
其処まで分かれば、知っている人物なら辿りつける。人の顔は覚えるのは得意な方だ。
だが、踏みつけている人物を知っている筈なのに分からない。いや、正確に言うならば、この人物がだれか。其処まで思考が辿りつかない。
知っている筈で、聞いた事のある声で、見た事のある顔で。でも、誰か認識できない。
そんな、不可解な状況に陥っていた。
「だ、誰よ。アンタ……?」
「誰でもいいだろ? まァ、強いて言うならオマエらに警告しに来た関係者だ」
ふざけた様子で言葉を返す。
足で顔を抑えられているだけにも関わらず、指一本動かせない。不可解な状況が続いていて、頭はパンクしそうになっていた。
「警、告……?」
「そォだ、警告。其処に転がってる食肉類にもな」
畳に縫いつけられたように動かないカモは、上からの謎の圧力で動く事が出来ないだけだ。状況を理解出来ずに混乱し、言葉は発していない様だが。
「一体、何をする、つもりなの?」
落ち着いて、呼吸を整えながら質問をする。自分でも不思議なほどに落ち着く事が出来た。そう感じる。
「人の話聞いてるか? 警告だっつってンだろ?」
呆れた様子で言葉を返し、そのまま続ける。
「オマエ等は一般人を裏の世界へ踏み込ませようとしたんだ」
だから、と一拍置き。
「裏の世界。魔法使い達が跋扈し、死と危険に満ち溢れたこの世界を紹介してやろうと思っただけさ」
口元が歪んだのが見えた。笑っている様にも見えるし、憐れんでる様にも見える。
「どういう、事?」
「まさか、本当に魔法はファンタジーな力で、魔法使いは皆人助けをするイイ奴で、悪い奴はみんな魔法使いに退治される。なんて馬鹿げた考えは持ってねェよな?」
実際、魔法使いについて説明したのはネギとカモだ。
『
それ自体は別に構わない。自分で決めた意見に対してとやかくは言わない。が、その偏った考えを広めさせる事はさせない。
物事に対して必要なのは、常に客観的に考える事の出来る思考力とそれを見極める観察眼。
だが、測るべき物差しが間違っていては、幾ら優れた思考力や観察眼を持っていても無駄にしかならない。
危険を知らず、良い部分しか知らない一般人が、『魔法』というファンタジーな力を幻想的な何かと間違う事は多々ある。
科学にしても同じだ。
原子力などがそのいい例だろう。原子力発電は多量の電気を供給するが、同時に悪用すれば放射能をばら撒く兵器となる。
どんなものにも正と負の面というモノがあり、どちらか片方だけという事は無いのだ。
「……ま、子供先生はそう思ってるみてェだがな」
ハァ、とため息をつき、話を続ける。
「往々にして、正義の味方とかヒーローとかを信じる奴はいるもンだな。悪い事とはいわねェが」
何かあったら誰かが助けてくれる。そんな考えじゃ生き残れない世界にいる者としては、甘いとしか言いようがない。
もっとも、魔法使い達のいる裏の世界だって『深さ』はある。潤也達のいる場所が、その最下層であるというだけだ。
「アンタは、何で警告しに来たの……?」
それは一つの疑問。
朝倉からすれば、知り合いかもしれないが分からない。デコピンで人間一人吹き飛ばせる知り合いなんていない筈だと。そう思っている。
もし、自分の知り合いが全て魔法使いでは無いとしたら。の話ではあるが。
桜咲が護衛をやっているなんて、今まで思いもしなかった。ネギが魔法使いなんて、今まで知りもしなかった。
なら、こういう事が出来る知り合いがいても不思議ではないというのに。
「……何で、か。そうだな。俺としては、出来るだけ巻き込みたくないだけだ。知る必要の無い、知る意味の無い世界。今までの平穏で楽しい表の世界にいられる事が幸せだと、オマエはしらねェだろうからな」
知らなければ対処できない。知っておかなければ分からない事もある
その考えの下、潤也は動いている。
だが、知らなければ巻き込まれる事は無かっただろう事もあるし、知る必要の無い事もあった。
唯一つの平穏を守るためには、自身がやるしかない。麻帆良の魔法先生を当てにしていない訳じゃない。唯、より確実に、より堅実に。物事に対処する必要があった。
何かが起こる事は分かっていたのだ。麻帆良から離れる事も考えてはいた。不必要な争いに巻き込まれる事は、避けたかった。
だが、友達と笑っている千雨を見て、その考えは薄れていった。
経緯はどうあれ、千雨は麻帆良にいても笑顔でいられるのだ。なら、無理に麻帆良から引き離す必要も無く。
何か起これば、自分が何とかすればいい。その為の科学だ。超能力だ。この時に使わずしていつ使う。
「アンタ……唯悪い奴って訳じゃ、なさそうだね」
「いいや、悪党さ。必要なら人を殺す事を躊躇わない、壊れた
ずっと殺し続ける訳でもないし、誰かの操り人形でもねェがな。と続ける。
「それでも、人の命がどうでもいいと思ってる奴が、一々警告なんてしに来ないでしょ?」
「……そォだな。だから、警告しに来たンだよ。一度だけだがな。二度目はねェ」
鋭い眼光で朝倉を睨みつけ、黙らせる。
「こっちの事に関わるってのは、命がけだ。特にネギ。アイツの父親は『英雄』って呼ばれてる。つまり、ネギは英雄の息子で敵は多い。従者になれば狙われるって事を考えなかったのか?」
「狙われる? そんなの、ネギ先生が守ってくれる筈……」
「オマエ等が仕掛けたこの仮契約の陣。これでもし仮契約をしたとしよう」
朝倉の話を無視し、続ける。これは例えばの話。だが、可能性としては高すぎる話。
「ネギの従者となった少女は何も知らない。これがある程度戦闘できる連中や頭の回る連中ならまだイイ。だが、運動能力も低い上にあまり頭が良くない生徒がいたとして」
一拍置き、核心を話す。
「ネギの従者。英雄の息子の従者だから、という理由で襲われたら。オマエ、責任とれンのか?」
一般人が一般人だと証明するのは簡単だ。魔法に関係する類の物を持たず、尚且つ知識を持たせなければいい。
だが、仮契約カードは存在するだけで関係者と認識され、問答無用で魔法を行使される事もある。
大戦の英雄。それは味方も多いが、敵も多いという事。
朝倉は金が目的の様だが、人の命と代えられるモノかといえばそうではないだろう。其処まで愚かなら、ある程度の人格洗脳さえ行う事も辞さない。
「だが、アーティファクトの力がありゃあ何とかなる筈だぜ!」
今まで黙っていたカモが声を上げる。
黙らせる為に圧力を無言で上げ、カモは気持ち悪い唸り声を出す。カモよりも畳の方が軋んでいる位だ。
「アーティファクト、ね。使えるかどうかもわからねェモンに頼るか。余程運が悪いんだな、ソイツ」
アーティファクト。それは仮契約時に従者のカードに出る固有の魔法具。
その質は主の魔力等に左右され、少ない者の場合はアーティファクトが出ない可能性さえある。
ネギの場合は魔力量から言って出るだろうが、それが戦闘に使えるものかさえ分からない。
「最初に言ったよな。これは警告だ。これ以上魔法に関わるようなら、次は無い。オマエが知った事に関してはネギの責任でオマエは被害者だが、今回の件はオマエは加害者だ。自分の所為でクラスメイトが襲われるかも知れねェな」
圧力、殺気を込めてそう告げる。
一言一言を聞く度に顔が青ざめて行く朝倉とカモ。
特に、朝倉はそんな背景など知らない。唯、カモが金を儲ける為に仮契約をしているだけだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
今回の事で仮契約者は出ていない。ここへ来る途中で陣を破壊してきたのだ。遅くなったが、星を見ていたらいつのまにか寝ていたらしい。
もっとも、直ぐに起きてここへ来たし、それ以前にヘマをして誰か仮契約させる事は無いだろう。その為に八重が待機しているのだから。
「今なら記憶を消して、今まで通り楽しい楽しい学園生活を送れるぜ?」
「……そんなの、拒否するに、決まってんじゃん」
眼だけを動かし、潤也を睨みつける。まるで、異論は聞かないとでもいう様に。
ジャーナリストとしての執念か。記憶を弄られるのが嫌なだけか。
「そォか。まァ別にかまわねェが、気をつけろ。特に修学旅行中はな。死体さえ上がらなきゃ、『行方不明』で通せるンだからな」
今回動いているのは、何も関西とSMGだけでは無いのだ。
第三者機関、漁夫の利を狙う組織も当然ながら存在する。内輪揉めしている間に関西そのものが落とされたら笑い話にさえならない。
関東は恐らく何もしてこない。というより、何も出来ないだろう。
修学旅行で各地に魔法先生も散っている上、学園の警備も考えなくてはならない。この状況なら、少なくとも今回は出張って来ないだろうと考え。
今はまだ動かないだろう。動く可能性が高いのは、関西の過激派が行動を起こした時。もしくはその過激派との戦闘で疲弊した時。そのどちらかが可能性としては一番高い。
「さて、改めて。──ようこそ、この死と危険に満ち溢れた世界へ。精々死なない様に必死に生き残れ」
そう言った後、潤也はその場から消えた。
朝倉は手足が動く事を確認し、テレビに映っている映像に眼を移す。
途中で目に入ったカモは潰れていて、瀕死の状態だった。
其処には捕まったであろう他のメンバー達が正座させられていた。つまり、優勝者無しという事。
「……ヤバ……」
見つかる前にさっさとずらかろう。そう考えて部屋を出ようとした朝倉だが。
「……なるほど。朝倉、お前が主犯か」
部屋の前には、新田が立っていた。一瞬硬直し、そのままドアを閉めようとする。
だが、そんな事で止められる筈も無く。あえなく捕まり、正座させられる羽目になったのであった。