第四十九話:四日目
修学旅行四日目、早朝。
欠伸を噛み殺しつつ、潤也は自室へと向かう。
まだ朝早い。生徒は誰も起きておらず、教職員はまばらにいるだけで見つかる事は無い。
結局朝まで終わらず、ギリギリの時間帯に帰ってきた。出来れば仮眠を取りたいところだが、無理かなぁ。と眼を擦りながら思う。
ストリップショーを起こし始めた式神達は早々に始末し、今は旅館にいる全員を眠らせて違和感を無くしている。どうせ朝方になったら戻ってくるだろうと思っているし、戻って来ないなら適当に記憶の
眠い。取りあえず眠い。でも今日は千雨やアスナと京都の街を散策だから楽しみだ。と眠気を誤魔化しつつ、自室の扉を開ける。
流石にまだ寝ている様で、時間を見れば一時間位なら寝れそうなため、仮眠を取るため布団の中へもぐろうとした。
しかし、
「……んぁ? ……潤也。今帰って来たのか?」
椙咲が起きた。では無く、元々起きていたのだろう。妙に目がぱっちりと開いている。良く見れば護と濱面も起きている。仲芽黒を起こさない様に寝た振りをしていたらしい。
もぞもぞと動き、布団から起き上がって座り直す三人。欠伸をしたり背伸びをしたりと、本格的に起きる気満々の様子だ。
「おはよう。そしてお休み」
布団の中へと素早く潜り込み、頭までかぶって寝る事を決め込む。
「まぁ待て。今この時間帯に帰って来た理由を教えて貰おうか?」
護が布団を引き剥がし、潤也は仕方無く起きて座りなおした。
珈琲が飲みてぇ……と呟きつつ、濱面と椙咲の言葉を聞く。
「結局俺達が寝るまでには帰って来なかったよな。朝帰りか、羨ましいぞコノヤロー!」
「そう言うときはアレだろ? ……昨夜はお楽しみで──」
●
涸野と魔義流は、ロビーにて今日の予定と明日の予定について確認していた。
今日は一日自由行動。昨日と同じで全員が好きに動きまわる為、何か有事の際の連絡先などを確信し合っていた。
そこへ、派手な音を立てて転がって来た椙咲と遭遇した。音がした方を見れば、ドアが開き潤也が立っていて、何かしたと言う事はよく分かる。
「いってぇ!? 何すんだよ!?」
「いや、何か反射的にな……運、運が悪かったと思え。あ、先生おはようございます」
転がって来た椙咲は文句を言いつつ、潤也は椙咲の首を掴んで引き摺りながら目に入った先生達に挨拶する。
「……何してるんだ、お前達?」
「いや、何でもないっすよ。アレです、アレ。……そう、刺激。刺激ですよ」
適当な事を口走りながら部屋の方へ歩いて行き、建て付けが悪くなったドアを無理矢理締め直して、ロビーには静寂が戻る。
●
「まぁ、何だ。そう言う十八禁的な事はヤってねーの?」
部屋に戻り、布団の上に座りなおした潤也と椙咲。護と濱面は呆れた顔で戻ってきた二人を見つつ、部屋に用意してあるお茶を飲む。
睡魔が襲って来るものの、お茶を飲めば案外どうにかなる。カフェインを取るなら紅茶かコーヒーに限るのだが、生憎と無いので仕方が無い。
「やってねーよ。お前等と違って」
「何その俺たちならやりかねないよね、的な会話の流れ」
ポットで沸かした熱いお茶をすすりつつ、護が言う。
潤也は何をいまさらと言わんばかりに溜息をつき、お茶を飲み干して椙咲を指差した。
「その通りだろ? だってお前ら欲望が既に天元突破してるじゃん。特に椙咲」
「今凄く殴りたい気分だけど、良いか? 一発殴って良いか?」
「壁でも殴ってろ」
「チクショー!!」
ガンガンと壁を殴る……様な迷惑な真似は流石にせず、枕に向かって殴り始める。傍から見ると頭がおかしい奴の様だ。
呆れた表情でそれを見る三人。女好きにも困ったものだが、一種のムードメーカー的な存在だ。余り強く言うつもりも無いので、適当に話題を逸らす。
「ゲームでもやってろ。どうせ持って来てんだろ?」
「まぁな。確かに暇だし、時間もあるからギャルゲーの攻略でもしてるわ」
うわぁ、ギャルゲー持って来てるんだ。と潤也は若干引いた。
「何故引く。いいだろ、別に俺がどのゲームしようと。寮に帰ればエロゲもあるしな!」
「自慢できる事じゃねぇよ。というか、中学生がエロゲ買えんのか?」
「其処はアレだ、誤魔化す。ここ最近の楽しみは主人公の名前を変えられるタイプで、潤也の名前にしてバッドエンドを目指して──」
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涸野と魔義流は、予定について話し合っていた所へ、またも派手な音を立てて転がって来た椙咲と遭遇した。
埃を舞い上げながら転がっていく椙咲をみて、二人は唖然とした表情を浮かべる。
「いってぇ! まだ言い終わってねぇだろうが! せめて最後までボケさせろ!」
「やかましい……あ、先生。すみません。でもこれも刺激っすよ!」
またも身勝手な言葉と共に椙咲を引き摺って部屋に戻り、ガタガタと建て付けの悪いドアを一度蹴って直し、閉めた。
●
「全く、もう少し堪えんしゃい。ボケだから突っこむのは良いけど、やり過ぎはいかんばい」
「何故博多弁」
気分だよ、と返す椙咲。
なにはともあれ、潤也も手加減というものをちゃんとわきまえているので怪我は無い。あれだけやって怪我が無いと言うのもある意味不気味ではあるが。
そんな事よりも、と言わんばかりに椙咲は話題を振る。
「まぁアレだ。潤也はバッドエンド用の名前で、護は男キャラ攻略用の名前」
「おぉい!? 俺は赤髪で強気な妹キャラ担当だろうが!」
「お前ウチの妹狙ってるよね。それもろにウチの妹の特徴捉えてるよね」
護に対し、潤也が半眼で睨みつけながらそう言う。シスコンもここに極まれり、である。分かっている事なので三人とも今更何も言わないが。
「俺は?」
濱面が興味津々とばかりにそう聞く。椙咲は「あ〜」と言いながら思い出し、右手の握りこぶしで左の掌をポン、と叩く。
そして濱面を指差し、言う。
「お前はヤンデレに殺されるキャラ担当」
「バッドエンドじゃねーか!!」
「違う。バッドエンドは誰にコクっても振られるのがバッドエンド。もしくは全員に振られるルートだ。今だエロゲでそんなルートは見た事無いが」
「俺は幼馴染か巨乳キャラ担当だと思ってたのに!」
「お前等ホントに欲望駄々漏れだな、おい」
この煩さなら仲芽黒の奴起きるんじゃねーの、と呟いて、そっちを見てみる。
クスクスと笑いながら、枕もとの眼鏡を探していた。
「起きてんじゃねーか。なんだよ、静かにしてた意味がねぇ」
「お前、自分がさっきまでやってたのが静かだと言えるなら、まずは耳の病院に行って来い。もしくは頭の病院」
潤也の呟きに護が返す。それを無視し、お茶を一口飲む。コーヒーが飲みたい、と思わず零してしまう潤也に微妙な顔の護である。
椙咲は仲芽黒の方を向き、布団の上に寝転がりながら聞く。
「いつから起きてたんだ?」
「潤也君が帰ってきて椙咲君が蹴り飛ばされるまで」
「あっれー!? それ最初からじゃね!?」
「そうだね。うん、最初から起きてたよ。寝たふりだもん」
何故寝たふりをしてたんだ。と聞けば、申し訳なさそうな顔で答えてくれた。
「椙咲君達が態々静かにしてくれてるなら、もう少し寝ていようかと思ってたんだけど……」
「五月蠅かったから起きた訳か。うん、やっぱりお前の所為じゃね?」
「俺だけじゃねーよ。そもそも寝て無かっただろーが」
携帯で時刻を確認すれば、まだ朝食にはかなり早い。着替えなどの準備がある為、もう寝直すのは不可能だろう。
あーあ、とがっかりした表情で立ち上がり、お茶を注ぎ直す。着替え自体はもう済ませてきたので、ここで着替える気は無い。
「ていうかさ、結局潤也は徹夜な訳? 千雨ちゃん達の所で寝たとかは流石にないよな?」
「寝てないな。いろいろやってたら朝になってたんだよ」
「いろいろって何だよ……」
「朝帰りだろ、やっぱり昨夜はお楽しみでしたね的な事が──」
「繰り返しネタは三度までって相場は決まってるよな」
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その日三度目の光景を、涸野と魔義流は見た。派手に転がる椙咲を尻目に、二人は達観した表情を見せる。
「ちょ、お前お約束だからって力入れ過ぎ!」
「知るかボケ……あ、先生……刺激刺激!」
椙咲を引き摺って、同じ様に建て付けの悪くなったドアを強制的に閉め、ロビーが静かになる。
もう呆れしか出てこない光景を尻目に、溜息を吐く二人だった。
●
結局、朝食まで同じ話がループする様な事になり、集合時刻ギリギリに食堂に集まった。
椙咲は朝から何度も蹴り飛ばされたが、あくまで演出の様な物なので怪我やら痛みは殆ど無い。
「あー、ねみぃ……」
欠伸を噛み殺しつつ机の上に突っ伏す潤也。朝食が運ばれてくる前に先生達の話がある為、面倒臭くても聞かなくてはならない。
席に座る前に3-Aの席についていた千雨達と手を振って挨拶したら、椙咲達がまたもなんかいろいろな感情がごちゃまぜになった様な顔で人外の言葉を発していたので、処置を施した。
被害者である椙咲達は頭から煙を吹きながら、潤也と同じ様に机と突っ伏している。意味合いは違っているのだが。
ネギ達は一時的に戻ってきているようだが、やはり疲労の色がうかがえる。特に桜咲は疲労の色が強い。
隠蔽作業などはSMGの手も借りていた為、其処まで関西は人員を裂いてはいない筈だが、他の事に人員を使ったのだろう。
「……まぁ、関係無いか」
『何が関係無いんだ? 話聞いてない上に朝暴れてたから、お前と椙咲は説教だ』
あの教師、鼻にワサビでも突っこんでやろうか……と思ったのはここだけの話である。
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結局、説教と言っても旅館の人に迷惑かけるなと言う程度のもので、殆ど時間を取られずに済んだ。
部屋に戻って腕時計等を付け、必要なモノを持って昨日と同じ場所に集合する予定である。
朝倉が何やら写真を取って回っているようだが、千雨達には至って普通に頼み込んで来たらしい。危険度のレベルを考えたら当然なのだろう。
朝倉も成長した、と言う事だろう。いい方向に変わったのかは頭を捻るのだが。
それはともかく、待ち合わせに遅れない様一足早く来た潤也達。やはり二度目の風景なので特に何か感じる訳でも無く、各々地図を見て何処へ行こうか話し合っている最中だ。
「潤也はどこ行きたいんだ?」
「俺はどこでもいいんだが……っと、来たか」
晴れ渡った空を見ながら、ウトウトしつつ買って来たコーヒーを飲んでいた潤也。声をかけられて視線を落とせば、その先に千雨達の姿があり。
「よし、眠気も取れたし、千雨達も来たから出発する事にしようかね」
「お前は千雨ちゃん達が来ると眠気が飛ぶのか」
そう言う意味じゃねーよ、と護に返し、千雨達と合流した。
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三日目で大体回っていた為、四日目である今日は土産物を中心に回る事にしている。
京都人の木乃香と桜咲は何やら別用で……というか、関西絡みの事で別行動。いい店教えて貰おうと思っていたのに。と、ちょっと残念に思っていたが、よくよく考えれば木乃香は小学校の時点で麻帆良に来ており、桜咲は修業に明け暮れていて美味しい店とか知っているかは疑問である。
つまり、居ても対して変わらねーんじゃねーの? と完結してしまったので、特に何も思う事は無い。
京都と言えば何か、そう問いかけると、
「舞妓」
「ぶれないな、お前」
「吉原」
「そりゃ東京だバカ。そして中学生のお前が入れると思ってんのか」
「ぶぶ漬けを出されたら帰れ」
「それは比喩表現。実際にそんな事言う京都人はほとんどいないらしいぞ」
「椙咲君」
「良かったな、目の前にいるじゃないか」
「いや、何で俺!? ちょっと待とうか仲芽黒!」
何と言うか、前二つは欲望駄々漏れだった。ちなみに椙咲、濱面、護、仲芽黒の順である。当然ながら、その話をした後、椙咲と濱面の印象は悪い方に傾いたというのは言うまでもあるまい。
潤也は土産物を売っている店を探し、時折店内に入って色々と眺めていた。
「この店は……生八つ橋か。土産物には最適と言うか、京都と言えばこれだろうな」
「まぁ、大抵八つ橋だもんな、京都の土産って。他に何があるんだ?」
千雨が潤也に問いかける。
ん〜、と数秒考え、いくつか候補を上げる。
「例えば、和菓子。大抵が賞味期限的な問題で知られてないが、味は逸品だと言う所も少なくないらしい。漬物とかも有名と言えば有名だし、黒七味とかもありだろう」
後は焼き物とか扇子とかお茶とかもあるな、と締めくくる。
それを聞いていた護は、唖然とした表情で潤也を見ている。何か驚くような事があったのかと問えば、今のお前の言動だと返した。
「……お前、それ確か京都旅行の際の情報収集って名目で調べてた奴だろ。全部覚えてたのか?」
「流石に全部は覚えきれないっての。選別して読んだのを大抵覚えてるだけだ」
どんな記憶力してんだよコイツ……と護が呟く。
それで結局、とアスナが引き継ぎ、潤也に聞く。
「で、ここは美味しいの?」
「生八つ橋なら大本の会社が変わらなきゃ味は同じの筈だぞ」
アスナが近くの店を指差し、興味津々に聞いて来たので答える。試食もできる様なので、一口ずつ食べてみる事になった。
「……ん、美味いな、これ」
潤也が抹茶味の緑色の生八つ橋を食べ、咀嚼する。甘みがあって好きな部類の味だ。
零は物珍しそうに見ているが、味が分からない為、食べようとはして無い。
「ほれ、食べてみろ千雨」
爪楊枝で一つ持ち上げ、千雨に食べさせる。往来と言う事もあって躊躇いはしたものの、潤也が引かないと分かり、食べる。若干顔が赤く、恥ずかしがっているのが分かる。
アスナにも同じ様に食べさせ、当然のごとく椙咲達から呪詛と共に嫉妬の視線が送られる。
「クルーシオ、クルーシオォォォ!」
「磔の呪文やめい!」
「ザキ」
「レベルアップすなっ! 死の呪文とか致命的すぎるわ!」
そして脈絡が無さ過ぎる。せめて同じ世界観からやれよ、と思っていると、
「ならばアバダ・ケダブラで──」
「しつけぇ!」
護が空気を読んだのか心を読んだのか、劇画チックな顔で死の呪文を唱えていた。
「仲いいねぇ、君等」
「いつもこんなんでして……あ、これとこれ、二つずつ下さい」
「あいよ」
一切合財を無視して千雨達は買い物を続けていた。ひな鳥の如く食べさせられると言う事をやられた千雨は、その直後こそ赤面していた物の、潤也が護達と話し始めた為、既に調子を取り戻している。
土産を買い、潤也達の方を見れば、まだ何かやっていた。
「形成──」
「創造──」
「流出──」
上から濱面、護、椙咲の順である。ネタが不発すればかなり恥ずかしい状況になるのだが、
「お前等は聖遺物でも持ってんのか……」
潤也にはそれが通じていた。ある意味凄いよな、と千雨が変な関心をしている。
「か、体は剣で出来ている──」
「いや、仲芽黒お前それ違う。それ全然別のゲームの奴」
一人だけ全く違う事を言っていた。というか、仲芽黒が分かるネタと言うのも少ないよなぁ、と潤也は考える。
「おい、そろそろ行こうぜ。変な目で見られてるしさ、お前等」
「ああ、うん。だろうと思ってた」
ネタに走り過ぎなんだよね。と潤也は言う。
分からないと唯ひたすら意味不明な事言ってるだけだもんな。と千雨は納得する。
手に持った土産を見て、既に生八つ橋を買った事が分かる。潤也達もグズグズしてないでさっさと買おうと店頭へ足を運び、十分程度で全員買い終えた。
京都の街を散策しつつ、時折店に入って土産物を探す。それが今日の予定だ。
詰まる所、適当にぶらつこうぜ、と言う事なのだが。
「アスナ、ちょっとコッチ来てみろ」
とある店で土産をあさくっていた時、潤也から声がかかる。そちらへ行ってみると、潤也が何か買っていた。
「口開けてみろ」
頭の上にハテナマークを浮かべながら、口を開く。すると、口の中に何か入れられた。
舌で触れてみれば、何やら甘い味がする。
「潤也、これなに?」
「飴だよ。大粒の飴。容れ物として巾着もあるらしいな」
入れて貰ったよ、と右手に持った巾着を見せる。潤也は巾着に入っている袋から左手で一つ取り出し、自分の口に飴を放り込んで舐める。
「うん、美味い。小さめの奴を試食したんだが、中々美味かったんでな。買ってみた」
コロコロと口の中で飴を転がしながら店を出て、他の店を見ているであろう千雨達の所へ行く。
零と共に
「何買ったんだ? その巾着」
「飴だよ、飴。美味いぞ、食べてみるか?」
「一つくれ」
ほれ、あーん。とやると、周りを見て、人が少ない事を確認して口を開ける。その中に飴玉を一つ入れてやり、舐め始めた。
ころころと口内で飴玉を転がす千雨を見て笑みを浮かべつつ、潤也は味の程を聞いてみる。
「どうだ?」
「……美味い」
「なら良かったよ。買った意味があったってもんだ」
零は椙咲達とウインドウショッピングをしているらしい。服を見ているようだ。……店の名前はユニ○ロだったが。
何故京都に来てまでユニ○ロ、と思うものの、以外と掘り出し物があるのだと椙咲は後に語る。
「……折角京都に来たんだし、和服でも買うか?」
「高いだろ、和服って。一着数万とかそんなイメージあるけど」
「んー……良くは知らないけど、ブランドものだともうちょっと行くんじゃないかな」
別に値段は対して問題じゃないが、どう見ても中学生の潤也が数十万の買い物をすると怪しまれる事は必然だろう。
千雨とアスナが遠慮した事もあり、和服を買うと言う事は無くなった。
その後、昼食として京料理を楽しもうかと思ったが、椙咲曰く大阪の方が美味いもんあるじゃね? という発言によって、京都に近い大阪のとある店でお好み焼きやたこ焼きを食べた。
「たこ焼きってこんなうまかったのか……」
「いやいやいや、お前食べた事あるだろ、大阪のたこ焼き。冷凍だけど」
「やっぱ冷凍より作って食べた方が美味いよな。最近は冷凍物も結構うまくなって来たが」
等と雑談を交わしながら、電車に乗って京都に戻る。
途中で何度か寝そうになり、窓に頭をぶつけて護や椙咲達に盛大に笑われた。電車内は静かにしろ、という意味も込めて睨みつけると直ぐに黙ったが。
千雨とアスナは心配そうな目で見ていたが、特に何も言う事は無く。
夕方まで歩き通し、土産も大量に買い込んで荷物が増えた。
潤也は怪しまれない程度に『王の財宝』に荷物を入れ込み、千雨とアスナの荷物も同じ様にした。
零はそもそも何も買わず、機械で疲労も無いので荷物持ちをやらせたりしていたが、土産には特に興味は無いらしい。見ているだけで欲しいとは一度も言いださなかった。
「あー、疲れた」
「お前だらけ過ぎだろう」
旅館に戻り、部屋に入って畳の上に寝そべる。ちなみに言っておくと、千雨達の部屋だ。
最初は笑っていた千雨も、段々と笑みを消して真剣な表情になって行く。聞きたい事があるのだろう。
「……昨日、結局どうなったんだ?」
「全部終わらせて来たよ。面倒な事になりそうなのは種から潰して来たし、育つ事は無いだろ」
フェイトは死亡。第三勢力は既に情報を得ている。京都の反乱分子は昨日の一戦で大半が処罰された。もう何か面倒事が起こる事は無い筈だ。
それを聞いて、千雨は安堵の息を漏らす。
「その結果が徹夜だったのか。えらく眠そうにしてたしな」
「まーな。これも修学旅行を楽しむためと思えば安いもんよ」
早い段階で千草達を潰せばよかったのだろうが、それだとバックについていた者たちが分からない。雑草は根っこから引き抜くものだ。
関西には何の思い入れも無いが、木乃香がおかしな事になるとアスナや千雨が悲しむだろう、と判断した。桜咲は割とついでだったが。
「……桜咲と言えば、アイツ血が半分烏族だったんだよな」
「ウゾク?」
「
「それが、何で桜咲さんに半分烏族の血が流れてるって分かったの?」
アスナが疑問を浮かべながらそう言う。
あー、と潤也は眠そうな目を擦りつつ、昨日の光景を思い出す。あっと言う間の出来事だったので、どちらかと言えば書類地獄の方が時間としては長い。記憶のインパクトとしては戦闘の方が大きいが。
「まぁアレだ。実際に翼を見たしな。真っ白な翼で、俺の奴と似てた。細部に違いはあるけど」
「おい、私はそんなの知らないぞ」
「私は知ってる。一度見せてくれたもんね」
千雨は知らないが、アスナは知っている。見せた事があるか無いかの違いだ。機会があったか無かったかもあるが。
アスナはニコニコ笑い、千雨はちょっと不機嫌になったのが肌で感じられる。
「俺の事は置いといて。……それが原因で、桜咲は木乃香を避けてた部分もあるみたいだったしな。チキンな奴だ」
鳥だけに。等と続け、面白くねーよ、と千雨に突っ込まれた。そもそもチキンでは鶏になってしまうのだし。
「まぁどうでもいいけどな。それより、千雨もアスナも楽しかったか? 今回の修学旅行」
「……まぁ、楽しかったと言えば、楽しかったな」
「うん。私も楽しかったよ」
道中邪魔や妨害などおかしな事をして来た連中もいるが、それももういない。今日は特に、純粋に楽しめたのだろう。
「なら良かった。余計な事で折角の修学旅行を台無しにされちゃ困るからな」
頑張ったかいがあったぜ、と続ける。
修学旅行四日目。終了──