第十一夜:ノアとエクソシスト
その場所は、酷く寒い場所だ。
雪が降っている訳ではないが、家々は氷に閉ざされ、地面もまた凍りついている。
太陽の光を反射して淡く輝く大小様々な氷は、一つの美術品の様でさえある。
その場所を歩いているのは、傍から見ればかなり肌寒い格好をした三人組。内二人は黒いコートを着ており、仮面を被っていて表情は見えない。残りの一人は銀色を基調した十字架 の入っているコートを着ていた。
「やれやれ。ここまで派手に暴れるとはね。まぁ、多少手がかりがある分いいのかな?」
「軽口を叩かないで下さい。貴方には、AKUMAを殺すと言う"義務"があるのですから」
「はいはいっと。おっそろしいね、中央の奴ってのはさ」
ローズクロスの入ったコートを着ている青年は、軽口をたたきながら肩を竦める。端整な顔立ちをしているが、妙に幼さの残る顔立ちでもある。
辺りをキョロキョロと見回す度に、肩口まである紫色の髪が揺れていた。それも気にせず、周りの状態をハッキリ認識しようと見回していく。
辺りは酷い惨状だ。
分厚い氷に閉ざされた家々。巨大な、砲と呼ぶべき類の弾丸を受けて損壊したのであろう建物。更に言えば、乾ききって黒く染まった血痕や凍ったまま砕かれたであろう死体も存在している。何らかの争いがあった事は、一目で分かる様な状況だ。
AKUMAがやったことには変わりないだろうが、それにしては少々違和感を覚える。
Lv1の仕業とするのなら、こんな真似は出来ない。弾丸が氷を貫けていない辺り、誰かを守る為にこの氷を張ったと考える事も出来るのだろうが──それにしては、余りに規模が大き過ぎる。
それに、氷は砕かれて人々は殺されている。守る為、とは到底言えない。
街一つを氷で覆うなど、並程度どころか相当の魔法使いでもこれほどの事をやり遂げるのはかなり難しい。人数を揃えれば出来るかもしれないが、其処まで大規模なら連合や帝国が気付かない筈が無いのだ。
魔力量然り、技術然り。どう見た所で、明らかに人間業では無い。
即ち、これほどの事が出来ると言う事は、やった人物はそれなりに絞られる事になる。
「……Lv2以上のAKUMAの仕業でしょうか?」
「ところがどっこい。そうとも思えない」
AKUMAがやったという可能性は高いだろう。しかし、この氷からは微量ながら魔力が使われているのを感じられる。──つまり、これは魔法によっておこされた事なのだ。
「誰か魔法使いがこの街を襲い、その後、もしくはその最中にAKUMAが乱入したと見るのが、まぁ一連の流れじゃないかな?」
紫髪の青年は、顎に手をやりながらそんな事を言う。
しかし、自分で言っておきながらも、その言葉に得心が行っていない様でもあった。
顎に手をやりながら、更に思考をしていく。
(……もしくは、AKUMAが魔法を使う? そんな事は聞いていないが……いや、Lv3以上ならば十分あり得るか。Lv2は魔力が一般人より多少高い程度だ。まともに戦法に組み込むとも思えない。が、Lv3は相当な量の気と魔力がある。使おうと思えば使えるだろう……それに、考えたくは無いが……)
魔法使いの──人間もしくは亜人が、伯爵に手を貸している可能性があると言う事。
地面に散らばった氷の破片を足で踏み砕きながら、青年は一度だけ溜息をついた。
●
魔法世界、帝国領。連合から離れたのどかな村の一角。
夕闇から空は暗くなり始め、酒場には多くの者達が集まり、その日の疲れを吹き飛ばすかのように酒を飲んでいた。
だが、その中でも、働く男達とは違う雰囲気を纏った女性がいた。その雰囲気は王族や貴族といった高貴な人々のそれを連想させ、このむさ苦しい酒場には余りに場違いだと誰もが感じてるような、そんな雰囲気を持っていた。
美しい女性だ。
金色のウェーブがかかった髪は腰まで伸ばしており、肌は陶器の様に白く、屈強な男が掴めば折れてしまいそうなほどに細い肢体をしている。来ている服は白いドレスの様な服で、西洋人形を連想させる様な女性。
歳はニ十かそこらの様に見え、グラスに入れた酒を一口飲む度、その様子は絵画に描かれたかのように美しく感じる。
この村では、旅人は其処まで少なくない。帝国と連合の戦火に巻き込まれていないと言う事もあり、この辺りを訪れる事があるのだ。
そんな女性の隣に、一人の男が座る。
筋肉質で屈強な肉体の、如何にも傭兵といった類の男だ。
「一人かい? こんな綺麗なお嬢さんだってのに、勿体無い」
使い古された口説き文句を聞き、女性の口には笑みが浮かぶ。
「生憎と、私には待ち人がいるのでな」
「それは残念。男か?」
「いいや、女さ」
「なら、俺達と一緒に飲まないか? 他にも数人いるから、その待ち人が来ても楽しめるだろう」
口説く事を諦める気は無さそうで、男は熱心にそう言う。声は其処まで大きくないが、聞いている女性は煩わしそうに、値踏みする様に目を細める。
男は陽気に笑みを浮かべていたが、彼女の表情は変わらない。
「残念だが、私達とお前たちでは釣り合わないよ。もっと賢くなってから来るんだな」
女性がそう言って、一口酒をあおった瞬間。
「そうか。なら──死ね」
無数の『魔法の射手』や中級魔法が雨の様に女性へと放たれた。話しかけていた男は直ぐ様飛び退いており、派手な爆発と衝撃が店の中を荒らしていく。
既にこの店の中にいる客も店主も、全て味方だ。多少家屋が壊れても文句は言わない約束をしている。
まともに攻撃魔法を喰らった女性は衝撃で吹き飛び、店の壁へと激突していた。煙が上がっている所為で良く見えないが、ダメージが通っている事は間違いない、と男は思っていた。
「さて、と。この程度で、かの『闇の福音』ことエヴァンジェリンが倒れるとも思えないが、多少はダメージが与えられ──」
「──全く。だから言っただろう。私達とお前たちでは、釣り合わないとな」
「ケケケケケ、全クダゼ」
グチャッ、という生々しい音が聞こえた。
先程までエヴァと話していた男の首が、床の上に落ちた音だった。
人形──チャチャゼロの持つ刃物は既に血に赤く濡れており、首から上が消えた男の足元から無傷のエヴァの元へと飛ぶ。
「案外遅かったな、チャチャゼロ」
「マァ、勘弁シテクレ御主人。コノ村、案外人数イタンダヨ」
よく見れば、チャチャゼロは刃物だけでなくボディも赤く染まっている。滴り落ちる雫の鉄臭いにおいも鑑みれば、血である事を否定する要素は無い。
この酒場にのみ結界を張っていたのか、外の悲鳴は一切聞こえていない。とはいえ、其処まで短時間で殺しきれるような人数の村ではない筈だ、とエヴァと相対している男達は思う。
しかし、甘い。
「こいつ一人でも十分だが、生憎と他にもいるのでな。この程度の規模が小さい村、小一時間もあれば殲滅は容易い」
クックッ、と笑みをこぼしながら、悪意のある口調で言うエヴァ。対し、激昂する様に言葉を吐きだす男。
「貴様……! そのようにして、一体どれだけの人数を屠 って来たのだ!」
「さぁな。お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」
どうでもいい事だとばかりに肩を竦め、右手を上げてフィンガースナップを鳴らす。
瞬間、銃声と悲鳴が酒場に響き渡った。
「私が相手をしても良いが、お前らでは不足だ。雑魚の相手は雑魚にやらせるとするよ」
球体の形をした、幾つもの砲門を備えた異形。AKUMAが、エヴァの指示に従う様に銃口を向けている。
その巨大な砲門から放たれる弾丸を持って、男達を撃ち殺しているのだ。AKUMAの弾丸は毒でもある。触れれば其処からウイルスが侵入し、僅か十数秒で死に至らしめる最悪の毒。
無慈悲な神を恨むかのように、悲惨な断末魔を上げる者達を見て、エヴァは愉悦の表情を浮かべた。
脆弱で貧弱な人間や亜人が、真祖の吸血鬼たる自分を殺せるなど、勘違いも甚だしい。
本来は女子供を殺す事を是としなかったエヴァだが、ノアとなってからそのような生温い考えは捨てた。
敵は敵。人間など、AKUMAが進化する為の餌であり糧でしか無いのだと。
「……ふむ。あらかた終わったか。守化縷 、此処の結界を解け」
死体さえ残らないその惨状を見た後、エヴァは念話で此処に結界を張っている守化縷 へと連絡した。千年伯爵から魔術を教えて貰っているので自力で出る事は可能だが、わざわざ無駄に力を使う必要もない。
『了解しました、ノア様──それと、一つ御報告が』
「何だ。手短に話せ」
『恐らくエクソシストと思しき者達が、この辺りをうろついています。結界へと攻撃を仕掛けている様ですが、如何なさいますか?』
「……エクソシスト、か。まぁ、問題は無いだろう。少々面倒ではあるがな」
元帥クラスでも無ければまともに戦う事すら出来ないと思っているエヴァだが、それでもイノセンスを持つエクソシストは殺意の対象となり得る。
「結界を解け。適当に殺しておいてやる」
『了解しました。直ぐにでも』
あちらからの返答を聞き、数秒。この異空間に閉じ込められていた酒場は、結界が解かれて外と繋がった刹那。
爆音が耳に響く。
それは、酒場の壁を無理矢理砕き壊して、何者かが侵入してきた音だった。
「やっと入れたぜ。どうなってんだよ、此処の壁は」
それは、白い騎士の様な姿をしていた。甲冑などが全てが真っ白に染まっている、みた事の無い鎧だ。
甲冑の男を見て、エヴァは髪を背中へとなびかせる。そして、甲冑の男へと静かに語りかけた。
「お前がエクソシストか? 見た所、その鎧がイノセンスの様だが」
「……お前、何モンだよ。血の臭いやAKUMAの毒でやられた腐臭はするのに、死体が無い。それはまだいい──だがよ、何でアンタの後ろにAKUMAが控えてんだ?」
甲冑を着ている所為で表情は読めない。だが、AKUMAが大人しく背後で控えているという状況に困惑している様子は、声からでも分かる。
その疑問に、笑みを浮かべながら答えを返すエヴァ。
「簡単だ。私がこいつ等を使役しているからだよ」
瞬間、爆音とともに複数のAKUMAから一斉に弾丸が射出される。
弾丸の一つ一つが点攻撃となっているにも関わらず、余りの弾丸の多さに点では無く面へと攻撃範囲が変わってしまう程の攻撃だ。
結界を解いたことで、方舟から新たにAKUMAを呼び出したのだろう。相当数からの弾丸の壁は、唯の鎧ならば壁となる事すら敵わずに壊れるだろう。
しかし、この鎧は唯の鎧では無い──イノセンスの力で形作られた鎧だ。
「なめんじゃ、ねぇぇぇぇぇぇッ!!」
全身を覆うイノセンスという特性故か、その身体能力には相当の補助がある。その為、かなりの速度で動く事が出来、それ相応の力を引き出す事が出来る。
空気を踏みつけるかの如く空中を走り出した鎧の男は、AKUMAの弾丸をものともせずに攻撃を仕掛けて行く。
その姿たるや、神の徒として戦うエクソシストというよりも、悪鬼の如く戦う狂戦士といった方がしっくりくるだろうか。
「中々にやるじゃないか」
口笛をしながら、AKUMAを破壊する姿を見続けるエヴァ。邪魔しようと言う気は無いらしい。
瞬く間にAKUMAを殲滅した男は、エヴァへと向き直る。
「さぁ、アンタが使役してたっていうAKUMAは、俺が壊したぜ。どうする? 降伏するか?」
「ククッ、まさか。久方ぶりのエクソシストだ。満足いくまで遊んでやるさ──もっとも、イノセンスだけは確実に破壊しておいてやるがな」
ビリビリとした殺気が、鎧越しに男へと伝わる。
「──エルギュロイ・ステロイト。それが俺の名だ。イノセンスの名は『白壊の鎧 』。覚えとけ、協力者 」
「──エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。残念だが、私は協力者 では無い。ノア、というのだ」
エヴァの名を聞き、エルギュロイは眼を見開く。
当然だろう。エヴァの名は、魔法を知っている人間にとってはなまはげにも近い存在だ。
「……あの800万ドルの賞金首が、AKUMAを使役して村一つを壊滅させたってのかよ」
女子供を殺そうとせず、能動的に各地で被害を出そうとしなければ、600万ドル程度に収まった可能性はある。
だが、事実としてエヴァンジェリンは大量虐殺を何度もやっている。それでも未だ討伐出来ないと言う事は、それだけ強大な力を持つと言う事の証拠でもあるのだ。
「私自身が戦っても良いんだがな。生憎と、雑魚の相手は雑魚にやらせる事にしている。程度の低いそこらの村人など、私が戦うには弱すぎるからな」
人間を見下しきった態度と言動。衝動的に襲いかかりそうになるが、冷静になる様自分に言い聞かせるエルギュロイ。
「お前を倒した後で、"ノア"って存在に関しても全部話して貰うぜッ!!」
地面を蹴り、エヴァへと肉薄するエルギュロイ。魔力とイノセンスによる二重強化で、相当身体能力が上がっているのだ。並みの相手では反応さえ出来ないだろう。
しかし、エヴァは吸血鬼でノア。基礎的なスペックが違いすぎた。
エルギュロイの高速の体当たりに対し、来たから避けると言う余りにも当たり前の動作を、簡単に行う。
更には、エルギュロイが横を通ろうとした瞬間にカウンターとして蹴りを喰らわせる。まともに攻撃が入った所為で、エルギュロイは酒場の壁を壊しながら外へと出た。
チッ、と軽く舌打ちをし、イノセンスの能力である『透明化』を発現させる。これにより、エヴァはエルギュロイを視覚的に認識する事は出来ない。
但し、視覚 に限るが。
「まだ甘いな。インセンスを完全に使いこなせていない」
ククッ、と笑みを浮かべながら、エヴァの魔力が高まっていく。
「リク・ラクラ・ラック・ライラック」
うねる魔力は詠唱によって形を成し、その姿を現した。
「『氷神の戦鎚』」
巨大な氷の塊が、さながら隕石の様に落下する。圧倒的質量をもって広範囲を押し潰さんと迫るそれを、エルギュロイは高速で移動し、範囲から逃れる事を選ぶ。
氷塊が地面に落ち、大質量からなる巨大な衝撃が大地を揺らした。
「クッソがァッ!!」
空に佇むエヴァへと肉薄する。見えていない筈の攻撃はしかし、見えているかのようにエヴァの手に現れた『断罪の剣』によって防がれる。
「甘いんだよ。戦闘経験が足りて無い。姿を消せても、お前自身の殺気は消せてないだろう?」
しかも、当たったとしても、障壁で防がれている。これでは攻撃するだけ居場所を教えている様なものだ。
圧倒的な経験値の差。そして実力の差。何を取っても、エルギュロイがエヴァに敵う要素は無い。
それでも、AKUMAを使役するエヴァを放ってはおけないのだ。それがエルギュロイの思いであり、AKUMAを破壊すると言う願いの為でもある。
「イノセンスが使えても、使い手が雑魚なら所詮は雑魚、か」
ドンッ!! と右手で地面へ叩きつけ、左手に魔力を集中させる。
詠唱は済ませている。後は、左手に集めた魔力を解放するだけでいい。
「『闇の吹雪』」
遅延魔法 による至近距離からの中級魔法を喰らい、衝撃を殺し切れずに血反吐を吐くエルギュロイ。そして左手を一度引き、鋭く突きだす。
まるで障子を破く様に。
まるで硝子を壊す様に。
あっさりと引き裂かれたイノセンスの鎧は、核を残してバラバラに破壊された。
貫手として放った一撃は正確にエルギュロイの心臓を捕え、肋骨をいとも容易く貫いて殺しにかかる。
地面へと降り立ち、身体が倒れる。立ったままのエヴァの手の中には、一つのイノセンスの"核"が存在していた。
それは球形の何かで、周りには帯の様な物がイノセンスを守る様に展開されている。AKUMAが触れば、その剥き出しのイノセンスはAKUMAの皮膚を焼き焦がそうとするだろう。
今もまた、エヴァの手を焼こうと拒絶反応を示している。
だが、そんな事は気にも留めず。エルギュロイが未だ意識を持ってエヴァを見ている前で──イノセンスの"核"を、握り潰した。
ノアとしての、イノセンスと対極に位置する力。
それを持って、イノセンスを破壊して見せた。
「……ふむ。ハートじゃ無い、か。まぁ、こんなものがハートだとしても興醒めなだけだが」
潰されたイノセンスは粒子となってエヴァの掌から零れ落ち、風に乗ってまき散らされていく。
最後にエルギュロイの首を落とした後、エヴァの元へと一人の人物が寄って来た。
「やれやれ。派手にやったものだね、ラストル」
「……ふん。お前には関係の無い事だろう? どの道、此処も私の悪行として記録されるだけだろうさ」
もしくは、AKUMAがやった事として歴史の闇に葬られるか。こんなものを残すほど、元老院は馬鹿では無いだろう。
「近くに潜んでいた中央の人間は殺して置いたよ。まぁ、もう一人の方は彼女に取られたんだけど」
「ケケケ。イイジャネェカヨ、一人クライ。千年公トイルト殺シガ出来テイイゼ」
「出来るだけAKUMAに殺させた方が、経験値が溜まってレベルアップ出来ていいんだろうけどね」
くすくすと笑う"彼女"は、チャチャゼロへとそう言う。
「……それで、態々私をここまで呼びつけた理由はなんだ? まさか、本気でここの殲滅という訳でもなかろう?」
訝しげに聞くエヴァは、彼女の事を信用していない様に見える。
銀色で艶 やかな、腰まである長い髪。身長は低く、一般的な小学生ほども無いだろうか。声からしても、年相応の見た目だと分かる。
腰にさした一振りの剣が異様な雰囲気を出しているが、それ以上に整った美貌に眼を奪われる。そんな少女。
少女は、黒いワンピースを着た姿で、ゆっくり腕を動かす。
「せいかーい。私の目的は、あの遺跡だよ」
少女が指差した先にあるのは、一片五十メートルも無い小さな遺跡。
「あの遺跡の地下、いろんなものがあるんだよね。私も行ってみたいんだけど、私一人じゃ危ないって千年公が言うんだよ」
「……それで私、か。こういった事は私よりも向いている奴がいるだろうに」
ジョイドにでも頼めば、目的の物は直ぐにでも持ってきてくれるだろう。何の被害も無く、あっと言う間に。
それを告げると、少女は起こった様に頬を膨らませる。年相応の可愛い動作だが、エヴァには不快にしか映らなかった。
「私が行ってから見てみたいんだよぅ。いいじゃない、ちょっと探検する位」
自分の身の安全は自分で守るから、と駄々をこねられ、溜息をつきながらも渋々付き合う事にしたエヴァ。
「……やれやれ。こんな事なら暇していたラースラ辺りにやらせれば良かったな」
「駄目。ラースラは遺跡ごと壊しかねないもの。私は探検がしたいんだってば」
まるで親子の様に手を繋ぎ、笑顔で歩く少女と疲れた様な顔をしているエヴァ。
「その腰にさしてる魔剣だけじゃ飽き足らず、といったところか。一体何本目 だ? 剣帝 」
剣帝と呼ばれた少女はエヴァの問いに答えず、紅い瞳をエヴァに向けて妖しく微笑むだけだった。
あとがき
遅くなりまして(え
熱意が失われつつあるのは、やっぱりかき続けて無いからかなぁとか、他に並行して別作品書いてるからかなぁとか思いつつやってます。
にじファンでの話数までどの位で届くのやら。夏休みに期待(おい
剣帝と呼ばれる少女が登場。本来大戦編で出す予定は無かったのですが、ちょっと遅れたりなんたりしてるんでサービスです(え
この子がどんな立ち位置になるのか、それは修学旅行後辺りで分かる事でしょう……若干前倒しになる可能性はありますが。
その場所は、酷く寒い場所だ。
雪が降っている訳ではないが、家々は氷に閉ざされ、地面もまた凍りついている。
太陽の光を反射して淡く輝く大小様々な氷は、一つの美術品の様でさえある。
その場所を歩いているのは、傍から見ればかなり肌寒い格好をした三人組。内二人は黒いコートを着ており、仮面を被っていて表情は見えない。残りの一人は
「やれやれ。ここまで派手に暴れるとはね。まぁ、多少手がかりがある分いいのかな?」
「軽口を叩かないで下さい。貴方には、AKUMAを殺すと言う"義務"があるのですから」
「はいはいっと。おっそろしいね、中央の奴ってのはさ」
ローズクロスの入ったコートを着ている青年は、軽口をたたきながら肩を竦める。端整な顔立ちをしているが、妙に幼さの残る顔立ちでもある。
辺りをキョロキョロと見回す度に、肩口まである紫色の髪が揺れていた。それも気にせず、周りの状態をハッキリ認識しようと見回していく。
辺りは酷い惨状だ。
分厚い氷に閉ざされた家々。巨大な、砲と呼ぶべき類の弾丸を受けて損壊したのであろう建物。更に言えば、乾ききって黒く染まった血痕や凍ったまま砕かれたであろう死体も存在している。何らかの争いがあった事は、一目で分かる様な状況だ。
AKUMAがやったことには変わりないだろうが、それにしては少々違和感を覚える。
Lv1の仕業とするのなら、こんな真似は出来ない。弾丸が氷を貫けていない辺り、誰かを守る為にこの氷を張ったと考える事も出来るのだろうが──それにしては、余りに規模が大き過ぎる。
それに、氷は砕かれて人々は殺されている。守る為、とは到底言えない。
街一つを氷で覆うなど、並程度どころか相当の魔法使いでもこれほどの事をやり遂げるのはかなり難しい。人数を揃えれば出来るかもしれないが、其処まで大規模なら連合や帝国が気付かない筈が無いのだ。
魔力量然り、技術然り。どう見た所で、明らかに人間業では無い。
即ち、これほどの事が出来ると言う事は、やった人物はそれなりに絞られる事になる。
「……Lv2以上のAKUMAの仕業でしょうか?」
「ところがどっこい。そうとも思えない」
AKUMAがやったという可能性は高いだろう。しかし、この氷からは微量ながら魔力が使われているのを感じられる。──つまり、これは魔法によっておこされた事なのだ。
「誰か魔法使いがこの街を襲い、その後、もしくはその最中にAKUMAが乱入したと見るのが、まぁ一連の流れじゃないかな?」
紫髪の青年は、顎に手をやりながらそんな事を言う。
しかし、自分で言っておきながらも、その言葉に得心が行っていない様でもあった。
顎に手をやりながら、更に思考をしていく。
(……もしくは、AKUMAが魔法を使う? そんな事は聞いていないが……いや、Lv3以上ならば十分あり得るか。Lv2は魔力が一般人より多少高い程度だ。まともに戦法に組み込むとも思えない。が、Lv3は相当な量の気と魔力がある。使おうと思えば使えるだろう……それに、考えたくは無いが……)
魔法使いの──人間もしくは亜人が、伯爵に手を貸している可能性があると言う事。
地面に散らばった氷の破片を足で踏み砕きながら、青年は一度だけ溜息をついた。
●
魔法世界、帝国領。連合から離れたのどかな村の一角。
夕闇から空は暗くなり始め、酒場には多くの者達が集まり、その日の疲れを吹き飛ばすかのように酒を飲んでいた。
だが、その中でも、働く男達とは違う雰囲気を纏った女性がいた。その雰囲気は王族や貴族といった高貴な人々のそれを連想させ、このむさ苦しい酒場には余りに場違いだと誰もが感じてるような、そんな雰囲気を持っていた。
美しい女性だ。
金色のウェーブがかかった髪は腰まで伸ばしており、肌は陶器の様に白く、屈強な男が掴めば折れてしまいそうなほどに細い肢体をしている。来ている服は白いドレスの様な服で、西洋人形を連想させる様な女性。
歳はニ十かそこらの様に見え、グラスに入れた酒を一口飲む度、その様子は絵画に描かれたかのように美しく感じる。
この村では、旅人は其処まで少なくない。帝国と連合の戦火に巻き込まれていないと言う事もあり、この辺りを訪れる事があるのだ。
そんな女性の隣に、一人の男が座る。
筋肉質で屈強な肉体の、如何にも傭兵といった類の男だ。
「一人かい? こんな綺麗なお嬢さんだってのに、勿体無い」
使い古された口説き文句を聞き、女性の口には笑みが浮かぶ。
「生憎と、私には待ち人がいるのでな」
「それは残念。男か?」
「いいや、女さ」
「なら、俺達と一緒に飲まないか? 他にも数人いるから、その待ち人が来ても楽しめるだろう」
口説く事を諦める気は無さそうで、男は熱心にそう言う。声は其処まで大きくないが、聞いている女性は煩わしそうに、値踏みする様に目を細める。
男は陽気に笑みを浮かべていたが、彼女の表情は変わらない。
「残念だが、私達とお前たちでは釣り合わないよ。もっと賢くなってから来るんだな」
女性がそう言って、一口酒をあおった瞬間。
「そうか。なら──死ね」
無数の『魔法の射手』や中級魔法が雨の様に女性へと放たれた。話しかけていた男は直ぐ様飛び退いており、派手な爆発と衝撃が店の中を荒らしていく。
既にこの店の中にいる客も店主も、全て味方だ。多少家屋が壊れても文句は言わない約束をしている。
まともに攻撃魔法を喰らった女性は衝撃で吹き飛び、店の壁へと激突していた。煙が上がっている所為で良く見えないが、ダメージが通っている事は間違いない、と男は思っていた。
「さて、と。この程度で、かの『闇の福音』ことエヴァンジェリンが倒れるとも思えないが、多少はダメージが与えられ──」
「──全く。だから言っただろう。私達とお前たちでは、釣り合わないとな」
「ケケケケケ、全クダゼ」
グチャッ、という生々しい音が聞こえた。
先程までエヴァと話していた男の首が、床の上に落ちた音だった。
人形──チャチャゼロの持つ刃物は既に血に赤く濡れており、首から上が消えた男の足元から無傷のエヴァの元へと飛ぶ。
「案外遅かったな、チャチャゼロ」
「マァ、勘弁シテクレ御主人。コノ村、案外人数イタンダヨ」
よく見れば、チャチャゼロは刃物だけでなくボディも赤く染まっている。滴り落ちる雫の鉄臭いにおいも鑑みれば、血である事を否定する要素は無い。
この酒場にのみ結界を張っていたのか、外の悲鳴は一切聞こえていない。とはいえ、其処まで短時間で殺しきれるような人数の村ではない筈だ、とエヴァと相対している男達は思う。
しかし、甘い。
「こいつ一人でも十分だが、生憎と他にもいるのでな。この程度の規模が小さい村、小一時間もあれば殲滅は容易い」
クックッ、と笑みをこぼしながら、悪意のある口調で言うエヴァ。対し、激昂する様に言葉を吐きだす男。
「貴様……! そのようにして、一体どれだけの人数を
「さぁな。お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」
どうでもいい事だとばかりに肩を竦め、右手を上げてフィンガースナップを鳴らす。
瞬間、銃声と悲鳴が酒場に響き渡った。
「私が相手をしても良いが、お前らでは不足だ。雑魚の相手は雑魚にやらせるとするよ」
球体の形をした、幾つもの砲門を備えた異形。AKUMAが、エヴァの指示に従う様に銃口を向けている。
その巨大な砲門から放たれる弾丸を持って、男達を撃ち殺しているのだ。AKUMAの弾丸は毒でもある。触れれば其処からウイルスが侵入し、僅か十数秒で死に至らしめる最悪の毒。
無慈悲な神を恨むかのように、悲惨な断末魔を上げる者達を見て、エヴァは愉悦の表情を浮かべた。
脆弱で貧弱な人間や亜人が、真祖の吸血鬼たる自分を殺せるなど、勘違いも甚だしい。
本来は女子供を殺す事を是としなかったエヴァだが、ノアとなってからそのような生温い考えは捨てた。
敵は敵。人間など、AKUMAが進化する為の餌であり糧でしか無いのだと。
「……ふむ。あらかた終わったか。
死体さえ残らないその惨状を見た後、エヴァは念話で此処に結界を張っている
『了解しました、ノア様──それと、一つ御報告が』
「何だ。手短に話せ」
『恐らくエクソシストと思しき者達が、この辺りをうろついています。結界へと攻撃を仕掛けている様ですが、如何なさいますか?』
「……エクソシスト、か。まぁ、問題は無いだろう。少々面倒ではあるがな」
元帥クラスでも無ければまともに戦う事すら出来ないと思っているエヴァだが、それでもイノセンスを持つエクソシストは殺意の対象となり得る。
「結界を解け。適当に殺しておいてやる」
『了解しました。直ぐにでも』
あちらからの返答を聞き、数秒。この異空間に閉じ込められていた酒場は、結界が解かれて外と繋がった刹那。
爆音が耳に響く。
それは、酒場の壁を無理矢理砕き壊して、何者かが侵入してきた音だった。
「やっと入れたぜ。どうなってんだよ、此処の壁は」
それは、白い騎士の様な姿をしていた。甲冑などが全てが真っ白に染まっている、みた事の無い鎧だ。
甲冑の男を見て、エヴァは髪を背中へとなびかせる。そして、甲冑の男へと静かに語りかけた。
「お前がエクソシストか? 見た所、その鎧がイノセンスの様だが」
「……お前、何モンだよ。血の臭いやAKUMAの毒でやられた腐臭はするのに、死体が無い。それはまだいい──だがよ、何でアンタの後ろにAKUMAが控えてんだ?」
甲冑を着ている所為で表情は読めない。だが、AKUMAが大人しく背後で控えているという状況に困惑している様子は、声からでも分かる。
その疑問に、笑みを浮かべながら答えを返すエヴァ。
「簡単だ。私がこいつ等を使役しているからだよ」
瞬間、爆音とともに複数のAKUMAから一斉に弾丸が射出される。
弾丸の一つ一つが点攻撃となっているにも関わらず、余りの弾丸の多さに点では無く面へと攻撃範囲が変わってしまう程の攻撃だ。
結界を解いたことで、方舟から新たにAKUMAを呼び出したのだろう。相当数からの弾丸の壁は、唯の鎧ならば壁となる事すら敵わずに壊れるだろう。
しかし、この鎧は唯の鎧では無い──イノセンスの力で形作られた鎧だ。
「なめんじゃ、ねぇぇぇぇぇぇッ!!」
全身を覆うイノセンスという特性故か、その身体能力には相当の補助がある。その為、かなりの速度で動く事が出来、それ相応の力を引き出す事が出来る。
空気を踏みつけるかの如く空中を走り出した鎧の男は、AKUMAの弾丸をものともせずに攻撃を仕掛けて行く。
その姿たるや、神の徒として戦うエクソシストというよりも、悪鬼の如く戦う狂戦士といった方がしっくりくるだろうか。
「中々にやるじゃないか」
口笛をしながら、AKUMAを破壊する姿を見続けるエヴァ。邪魔しようと言う気は無いらしい。
瞬く間にAKUMAを殲滅した男は、エヴァへと向き直る。
「さぁ、アンタが使役してたっていうAKUMAは、俺が壊したぜ。どうする? 降伏するか?」
「ククッ、まさか。久方ぶりのエクソシストだ。満足いくまで遊んでやるさ──もっとも、イノセンスだけは確実に破壊しておいてやるがな」
ビリビリとした殺気が、鎧越しに男へと伝わる。
「──エルギュロイ・ステロイト。それが俺の名だ。イノセンスの名は『
「──エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。残念だが、私は
エヴァの名を聞き、エルギュロイは眼を見開く。
当然だろう。エヴァの名は、魔法を知っている人間にとってはなまはげにも近い存在だ。
「……あの800万ドルの賞金首が、AKUMAを使役して村一つを壊滅させたってのかよ」
女子供を殺そうとせず、能動的に各地で被害を出そうとしなければ、600万ドル程度に収まった可能性はある。
だが、事実としてエヴァンジェリンは大量虐殺を何度もやっている。それでも未だ討伐出来ないと言う事は、それだけ強大な力を持つと言う事の証拠でもあるのだ。
「私自身が戦っても良いんだがな。生憎と、雑魚の相手は雑魚にやらせる事にしている。程度の低いそこらの村人など、私が戦うには弱すぎるからな」
人間を見下しきった態度と言動。衝動的に襲いかかりそうになるが、冷静になる様自分に言い聞かせるエルギュロイ。
「お前を倒した後で、"ノア"って存在に関しても全部話して貰うぜッ!!」
地面を蹴り、エヴァへと肉薄するエルギュロイ。魔力とイノセンスによる二重強化で、相当身体能力が上がっているのだ。並みの相手では反応さえ出来ないだろう。
しかし、エヴァは吸血鬼でノア。基礎的なスペックが違いすぎた。
エルギュロイの高速の体当たりに対し、来たから避けると言う余りにも当たり前の動作を、簡単に行う。
更には、エルギュロイが横を通ろうとした瞬間にカウンターとして蹴りを喰らわせる。まともに攻撃が入った所為で、エルギュロイは酒場の壁を壊しながら外へと出た。
チッ、と軽く舌打ちをし、イノセンスの能力である『透明化』を発現させる。これにより、エヴァはエルギュロイを視覚的に認識する事は出来ない。
但し、
「まだ甘いな。インセンスを完全に使いこなせていない」
ククッ、と笑みを浮かべながら、エヴァの魔力が高まっていく。
「リク・ラクラ・ラック・ライラック」
うねる魔力は詠唱によって形を成し、その姿を現した。
「『氷神の戦鎚』」
巨大な氷の塊が、さながら隕石の様に落下する。圧倒的質量をもって広範囲を押し潰さんと迫るそれを、エルギュロイは高速で移動し、範囲から逃れる事を選ぶ。
氷塊が地面に落ち、大質量からなる巨大な衝撃が大地を揺らした。
「クッソがァッ!!」
空に佇むエヴァへと肉薄する。見えていない筈の攻撃はしかし、見えているかのようにエヴァの手に現れた『断罪の剣』によって防がれる。
「甘いんだよ。戦闘経験が足りて無い。姿を消せても、お前自身の殺気は消せてないだろう?」
しかも、当たったとしても、障壁で防がれている。これでは攻撃するだけ居場所を教えている様なものだ。
圧倒的な経験値の差。そして実力の差。何を取っても、エルギュロイがエヴァに敵う要素は無い。
それでも、AKUMAを使役するエヴァを放ってはおけないのだ。それがエルギュロイの思いであり、AKUMAを破壊すると言う願いの為でもある。
「イノセンスが使えても、使い手が雑魚なら所詮は雑魚、か」
ドンッ!! と右手で地面へ叩きつけ、左手に魔力を集中させる。
詠唱は済ませている。後は、左手に集めた魔力を解放するだけでいい。
「『闇の吹雪』」
まるで障子を破く様に。
まるで硝子を壊す様に。
あっさりと引き裂かれたイノセンスの鎧は、核を残してバラバラに破壊された。
貫手として放った一撃は正確にエルギュロイの心臓を捕え、肋骨をいとも容易く貫いて殺しにかかる。
地面へと降り立ち、身体が倒れる。立ったままのエヴァの手の中には、一つのイノセンスの"核"が存在していた。
それは球形の何かで、周りには帯の様な物がイノセンスを守る様に展開されている。AKUMAが触れば、その剥き出しのイノセンスはAKUMAの皮膚を焼き焦がそうとするだろう。
今もまた、エヴァの手を焼こうと拒絶反応を示している。
だが、そんな事は気にも留めず。エルギュロイが未だ意識を持ってエヴァを見ている前で──イノセンスの"核"を、握り潰した。
ノアとしての、イノセンスと対極に位置する力。
それを持って、イノセンスを破壊して見せた。
「……ふむ。ハートじゃ無い、か。まぁ、こんなものがハートだとしても興醒めなだけだが」
潰されたイノセンスは粒子となってエヴァの掌から零れ落ち、風に乗ってまき散らされていく。
最後にエルギュロイの首を落とした後、エヴァの元へと一人の人物が寄って来た。
「やれやれ。派手にやったものだね、ラストル」
「……ふん。お前には関係の無い事だろう? どの道、此処も私の悪行として記録されるだけだろうさ」
もしくは、AKUMAがやった事として歴史の闇に葬られるか。こんなものを残すほど、元老院は馬鹿では無いだろう。
「近くに潜んでいた中央の人間は殺して置いたよ。まぁ、もう一人の方は彼女に取られたんだけど」
「ケケケ。イイジャネェカヨ、一人クライ。千年公トイルト殺シガ出来テイイゼ」
「出来るだけAKUMAに殺させた方が、経験値が溜まってレベルアップ出来ていいんだろうけどね」
くすくすと笑う"彼女"は、チャチャゼロへとそう言う。
「……それで、態々私をここまで呼びつけた理由はなんだ? まさか、本気でここの殲滅という訳でもなかろう?」
訝しげに聞くエヴァは、彼女の事を信用していない様に見える。
銀色で
腰にさした一振りの剣が異様な雰囲気を出しているが、それ以上に整った美貌に眼を奪われる。そんな少女。
少女は、黒いワンピースを着た姿で、ゆっくり腕を動かす。
「せいかーい。私の目的は、あの遺跡だよ」
少女が指差した先にあるのは、一片五十メートルも無い小さな遺跡。
「あの遺跡の地下、いろんなものがあるんだよね。私も行ってみたいんだけど、私一人じゃ危ないって千年公が言うんだよ」
「……それで私、か。こういった事は私よりも向いている奴がいるだろうに」
ジョイドにでも頼めば、目的の物は直ぐにでも持ってきてくれるだろう。何の被害も無く、あっと言う間に。
それを告げると、少女は起こった様に頬を膨らませる。年相応の可愛い動作だが、エヴァには不快にしか映らなかった。
「私が行ってから見てみたいんだよぅ。いいじゃない、ちょっと探検する位」
自分の身の安全は自分で守るから、と駄々をこねられ、溜息をつきながらも渋々付き合う事にしたエヴァ。
「……やれやれ。こんな事なら暇していたラースラ辺りにやらせれば良かったな」
「駄目。ラースラは遺跡ごと壊しかねないもの。私は探検がしたいんだってば」
まるで親子の様に手を繋ぎ、笑顔で歩く少女と疲れた様な顔をしているエヴァ。
「その腰にさしてる魔剣だけじゃ飽き足らず、といったところか。一体
剣帝と呼ばれた少女はエヴァの問いに答えず、紅い瞳をエヴァに向けて妖しく微笑むだけだった。
あとがき
遅くなりまして(え
熱意が失われつつあるのは、やっぱりかき続けて無いからかなぁとか、他に並行して別作品書いてるからかなぁとか思いつつやってます。
にじファンでの話数までどの位で届くのやら。夏休みに期待(おい
剣帝と呼ばれる少女が登場。本来大戦編で出す予定は無かったのですが、ちょっと遅れたりなんたりしてるんでサービスです(え
この子がどんな立ち位置になるのか、それは修学旅行後辺りで分かる事でしょう……若干前倒しになる可能性はありますが。