第十八夜:汝畏れよ悪の名を
ボクの目の前で、トライドはエヴァと模擬戦をしている。
「どうしたトライド、キレが悪いぞ」
二人とも剣で戦ってるけど、拮抗してるとは言い難い。トライドは技、エヴァはスペックで戦ってるのかな? でもエヴァは六百年の経験があるから剣の扱いも結構うまいし、状況的にはやっぱりエヴァの方が優勢だ。
魔力強化や魔法技能に関してはエヴァが一任してるからか、修行を付けられたみんなはメキメキ上達してる。
かく言うボクも、もう中級魔法まで使えるようになった。咸卦法も教えて貰ったし、当面はこれだけで大丈夫だと思う。
なにせ、ボクは真っ暗な部屋の中に幽閉されている事になっている。それでいきなり魔法が使えるようになったりしたら変だと思うし。
「……イラついておるのう、トライドの奴」
「あ、ワイズリー。どうしたの?」
「いや、千年公が夕飯の支度出来たから、って呼んでおったぞ。後アスナ、お主あの塔にいなくていいのか?」
「大丈夫だよ」
千年公は偶に自分で料理を作りたがる。趣味らしいけど、それにしては凄く美味しい。
ボクと一緒に、偶に旧世界の三ツ星レストラン、って言う所に行くけど、個人的にそれよりも美味しいと思う。
「今日の夕飯はなんだった?」
「ハンバーグ。千年公の得意料理じゃしのう。ここしばらくいろいろと動いてて作ってくれて無かったから、久しぶりに食べれる」
ハンバーグ。千年公のハンバーグは大好物だ。わくわく。
「おーい。其処の二人も、そろそろ止めて飯食べにいかんか?」
「む? もうそんなに時間が立ってたのか。ならトライド、今日はここまでにしよう」
「そうだな、ここまでだ。俺は軽くシャワー浴びてくる」
トライドは乱暴に剣を納め、エヴァも納める。トライドはそのまま別の扉に入ってシャワーを浴びに行って、エヴァはボク等と一緒に食事の為の部屋へ。
長い廊下を歩きつつ、エヴァはワイズリーの方へ顔を向ける。
「トライドの奴、何であんなにイラついてたんだ? 珍しく剣の扱いがぞんざいだったが」
「……あー、何だ。この間の事じゃろう」
「この間の事? ……ああ、あれか」
それって、ボクがアリカ王女とテオドラ王女の会談の場所へ送った後の事だと思う。というか、最近の事でそれ以外に思いつく事が無い。
あの時の事は悔しいよねぇ。後一歩だったのにさ。他の二人も手伝えば、逃す様な事は無かっただろうに。
「トライドは大分悔しがっておったからのう。イラつくのも分かると言うものだ」
クックッ、と笑いながら、目の前の扉を開ける。
其処には、既に殆ど集まってる家族 。配膳をするのはAKUMAだけど、作ったのは千年公だ。テーブルにはまだ食事は並べられていない。全員そろってから温かいのを出すつもりなんだろう。
スカルは仕事を取られた様な顔をしてるけど、別に減る分に関しては文句言わないよねぇ、普通。
「おや、意外と速かったね。エヴァ、アスナ。トライドは?」
「シャワーを浴びに行った。直ぐに来るだろうさ」
千年公は、基本的に方舟の中では普段の姿を取る。あっちはカモフラージュ用らしいけど、あのお腹のタプタプ感は好き。
「デザイアスは?」
「彼は仕事が一段落してからって言ってたよ。まぁ、心配しなくても直ぐ来るさ」
円卓に用意されている椅子に座りつつ、エヴァがそう聞いた。デザイアス、最近監視されてるみたいだって疲れた顔してた。今までの行動が怪しまれ始めたんだろう、って千年公は言ってたけど、二人とも特に気にした様子は無いみたい。
と、噂をすればって奴だね。
「悪いね、遅くなって」
扉を開き、デザイアスが入ってくる。それに合わせて、この場にまだ来て無かったフィードラとラースラが入ってくる。
「やほー。遅くなってごめーん」
「冷えて無いよな? 冷めたのは勘弁だぞ」
「ちゃんと保温してあるよ。全員そろってから配膳するから、少し待ってね。後トライドだけだからさ」
家族が揃って行く度にニコニコしていく千年公。
「まるでお母さんみたいだよねぇ、千年公って」
「それはワタシも思ったのう。まぁ、ある意味間違ってはおらんのだろうが」
メモリーは千年公の手によって移植される。正確に言えば覚醒らしいけど、ボクにはあまり興味の無い事だ。
それよりも、お腹が空いた。足をパタパタさせると、エヴァに行儀が悪いって怒られた。
「遅くなった」
トライドが、湿ったままの髪をタオルで拭きながらそう言う。
「本当だよぉ。ボク、もうお腹空いて仕方無いんだから」
「フフ、なら食事を並べるとしようか」
千年公がそう言うと、AKUMA達が一斉に食事を配膳し始める。湯気が出てて温かそうで、美味しそうな匂いが充満する。
配膳は直ぐに終わり、各々好きなように食べ始める。久しぶりに食べる千年公の料理は美味しい。
幽閉されたままだと、豪勢なのは来ないし。大抵必要な栄養を取る為だけの食事で、あまり美味しくないから嫌い。
●
「……ところで、これから先はどう動くつもりなんだ? 紅き翼と言い、完全なる世界といい、何やら動き始めたみたいだが」
エヴァが千年公にそう聞く。食事は終わり、今は満腹で幸せな気分。
「……そうだね。特に何もするつもりは無いよ。戦争はしばらく続くだろうし、彼らは好きに動かしてやればいい。どの道、本格的に動き始めるのは戦争の後。AKUMAが補充し終わった後だよ」
しばらくはAKUMAを作って、戦争が終わったらエクソシスト狩りかな? どの道ボクは動けないけど。
ここから先が千年公のシナリオ通りなら──
「ボクの力が必要なんだよね? 千年公」
「そうだね。アスナがいなければ出来ない事だ」
千年公がやろうとしてる事は、造物主、って言うのを敵に回すらしいけど、知った事じゃ無い。
イノセンスを持たない上に、幻想を作り出すしか出来ない紛いものの神に、千年公が負ける筈ないから。
「デザイアスはどうする気じゃ? 怪しまれてるみたいじゃしのう。クーデターでも起こされるんじゃないのか?」
「そっちも予定通りだよ。正直、ちょっと早い気がするけどね」
「まぁ、特に問題は無いだろう。私も精々王位を追われるまで、出来る限りの事をやるさ」
ニヤリと笑いながら、デザイアス はそう言う。元から何の心配もして無いけど。
「元老院も帝国もフィードラが見張っててくれてるし。今のところは何の問題も無いよ」
「僕も頑張ってるからねー。あ、そう言えば例のセカンド。僕らの味方してるマフィアとか、ブローカーとか、元老院の連中とか皆殺しにして回ってるみたいだけど、どうする?」
それって結構重要なんじゃないの?
でも、別にノア以外の誰がどうなろうと知った事じゃない。やりたいようにやらせておけばいいと思うけど。
「彼はどの組織からも独立した様な状態だからね。元は連合所属だったけど、自身の真実を知って離反してる。今は何を目的にして戦ってるのか良く分からないし、今は保留しておこう」
イノセンスを持ってるから、いつか倒す必要はあるけどね。どの道、今は放っておいても大した被害は無いみたい。
「……真実、ね。良くやるよ、連合の奴等」
ラースラが溜息をつきつつ、そんな事を言う。
詳しい事はよく知らないけど、身内同士で殺し合ったらしい、って事は千年公から聞いてる。
「戦争に勝とうと必死なのさ。僕等ノアの事は知られて無かったけど、膨大な数のAKUMAを相手にしては、いかなエクソシストでも無力でしか無い」
元帥は多少強いけど、それだけ。人間である以上、膨大な数のAKUMAを相手にしたら、疲弊していつかは死ぬ。
「だからこそ、あんなモノ を作り出したんだ」
「……あんなモノ、ね。セカンドとは別の研究だったか。同類 としても気分が悪いね、アレは」
「厳密に言えば、あれはセカンドの前段階として作られたものだよ。セカンドの第一次製造計画 だ」
エヴァと千年公が良く分からない話をしている。あんなモノ、とか、同類、とか。
エヴァは吸血鬼でもあるし、そっち関係の事なのかな。
「帝国も連合も、同じだよ。裏側では非人道的な実験を腐るほどやってる。アスナのそれも似た様なものさ」
「寿命の事?」
「そう。正確に言えばオスティアの技術だけど、その技術は連合で流用されたからね」
でも、オスティアの上層部は大抵がAKUMAかブローカーだって言ってたと思うけど。何処かに保管してあったのが盗まれたとかしたのかな?
重要視はして無いみたいだし、大丈夫なんだろうけど。
「さて、そろそろ行こうかな」
「また仕事か? 熱心だな、千年公」
ラースラが笑いながらそう言う。いつも出掛けてて居ないんだよね。偶には遊んで欲しいのに。
良くて週一位で会えるか会えないか、って感じなんだよね。今は。戦争で人が死んでるから、AKUMAを増やすには絶好の機会だって言うのは分かるけど。
「戦争の間は忙しいさ。その後も、だけどね。行くよ、エコー」
「了解しました、伯爵様」
千年公の後に続き、白銀の髪をショートボブにしている女の子が歩いて行く。扉の前で僕らに一度礼をして、千年公について行った。
「……あのAKUMA、千年公のお気に入りなんだよね。何でなのかな?」
「さぁな。少なくとも、作られたのは大分前だった筈だ。第二次世界大戦前だったからな」
「珍しい、というか、これからの時代だからこそ使える能力と言っておったな。詳しい事は知らんが」
みんな興味はあるけど特に聞こうとは思わないみたい。ボクも気にはなるけど、良く忘れるんだよね。
「それじゃ、私達も解散と行こうか」
エヴァはそう言って、席を立つ。ノアの中でも最古参であるエヴァは、皆の中でリーダー的な立ち位置にいる。
それに続いて、方舟から戻っていくデザイアス。抜けて来たみたいだし、まだ仕事があったりするんだろう。もう夜なのに仕事なんて大変だよね、デザイアス。
他のメンバーは適当に何処かへ行ったり、方舟の中で好きな事をやってる。
「じゃ、ボクも戻るね」
「おう。バレん様に気を付けるんじゃぞ、アスナ」
「分かってるよ、ワイズリー」
目の前に扉を出現させ、その中へと入る。扉の中はボクの世界だ。
この世界を介す事で、ボクはノアの中で唯一方舟を使わずに長距離移動が出来る。とっても便利。
ボクが普段いる塔は、薄暗くて何も無い。凄く暇だから偶に出てるけど、バレ無い様にするのが面倒なんだよね。
でも、今日は千年公のハンバーグを食べて機嫌が良いからキッチリやろう。
ボクの目の前で、トライドはエヴァと模擬戦をしている。
「どうしたトライド、キレが悪いぞ」
二人とも剣で戦ってるけど、拮抗してるとは言い難い。トライドは技、エヴァはスペックで戦ってるのかな? でもエヴァは六百年の経験があるから剣の扱いも結構うまいし、状況的にはやっぱりエヴァの方が優勢だ。
魔力強化や魔法技能に関してはエヴァが一任してるからか、修行を付けられたみんなはメキメキ上達してる。
かく言うボクも、もう中級魔法まで使えるようになった。咸卦法も教えて貰ったし、当面はこれだけで大丈夫だと思う。
なにせ、ボクは真っ暗な部屋の中に幽閉されている事になっている。それでいきなり魔法が使えるようになったりしたら変だと思うし。
「……イラついておるのう、トライドの奴」
「あ、ワイズリー。どうしたの?」
「いや、千年公が夕飯の支度出来たから、って呼んでおったぞ。後アスナ、お主あの塔にいなくていいのか?」
「大丈夫だよ」
千年公は偶に自分で料理を作りたがる。趣味らしいけど、それにしては凄く美味しい。
ボクと一緒に、偶に旧世界の三ツ星レストラン、って言う所に行くけど、個人的にそれよりも美味しいと思う。
「今日の夕飯はなんだった?」
「ハンバーグ。千年公の得意料理じゃしのう。ここしばらくいろいろと動いてて作ってくれて無かったから、久しぶりに食べれる」
ハンバーグ。千年公のハンバーグは大好物だ。わくわく。
「おーい。其処の二人も、そろそろ止めて飯食べにいかんか?」
「む? もうそんなに時間が立ってたのか。ならトライド、今日はここまでにしよう」
「そうだな、ここまでだ。俺は軽くシャワー浴びてくる」
トライドは乱暴に剣を納め、エヴァも納める。トライドはそのまま別の扉に入ってシャワーを浴びに行って、エヴァはボク等と一緒に食事の為の部屋へ。
長い廊下を歩きつつ、エヴァはワイズリーの方へ顔を向ける。
「トライドの奴、何であんなにイラついてたんだ? 珍しく剣の扱いがぞんざいだったが」
「……あー、何だ。この間の事じゃろう」
「この間の事? ……ああ、あれか」
それって、ボクがアリカ王女とテオドラ王女の会談の場所へ送った後の事だと思う。というか、最近の事でそれ以外に思いつく事が無い。
あの時の事は悔しいよねぇ。後一歩だったのにさ。他の二人も手伝えば、逃す様な事は無かっただろうに。
「トライドは大分悔しがっておったからのう。イラつくのも分かると言うものだ」
クックッ、と笑いながら、目の前の扉を開ける。
其処には、既に殆ど集まってる
スカルは仕事を取られた様な顔をしてるけど、別に減る分に関しては文句言わないよねぇ、普通。
「おや、意外と速かったね。エヴァ、アスナ。トライドは?」
「シャワーを浴びに行った。直ぐに来るだろうさ」
千年公は、基本的に方舟の中では普段の姿を取る。あっちはカモフラージュ用らしいけど、あのお腹のタプタプ感は好き。
「デザイアスは?」
「彼は仕事が一段落してからって言ってたよ。まぁ、心配しなくても直ぐ来るさ」
円卓に用意されている椅子に座りつつ、エヴァがそう聞いた。デザイアス、最近監視されてるみたいだって疲れた顔してた。今までの行動が怪しまれ始めたんだろう、って千年公は言ってたけど、二人とも特に気にした様子は無いみたい。
と、噂をすればって奴だね。
「悪いね、遅くなって」
扉を開き、デザイアスが入ってくる。それに合わせて、この場にまだ来て無かったフィードラとラースラが入ってくる。
「やほー。遅くなってごめーん」
「冷えて無いよな? 冷めたのは勘弁だぞ」
「ちゃんと保温してあるよ。全員そろってから配膳するから、少し待ってね。後トライドだけだからさ」
家族が揃って行く度にニコニコしていく千年公。
「まるでお母さんみたいだよねぇ、千年公って」
「それはワタシも思ったのう。まぁ、ある意味間違ってはおらんのだろうが」
メモリーは千年公の手によって移植される。正確に言えば覚醒らしいけど、ボクにはあまり興味の無い事だ。
それよりも、お腹が空いた。足をパタパタさせると、エヴァに行儀が悪いって怒られた。
「遅くなった」
トライドが、湿ったままの髪をタオルで拭きながらそう言う。
「本当だよぉ。ボク、もうお腹空いて仕方無いんだから」
「フフ、なら食事を並べるとしようか」
千年公がそう言うと、AKUMA達が一斉に食事を配膳し始める。湯気が出てて温かそうで、美味しそうな匂いが充満する。
配膳は直ぐに終わり、各々好きなように食べ始める。久しぶりに食べる千年公の料理は美味しい。
幽閉されたままだと、豪勢なのは来ないし。大抵必要な栄養を取る為だけの食事で、あまり美味しくないから嫌い。
●
「……ところで、これから先はどう動くつもりなんだ? 紅き翼と言い、完全なる世界といい、何やら動き始めたみたいだが」
エヴァが千年公にそう聞く。食事は終わり、今は満腹で幸せな気分。
「……そうだね。特に何もするつもりは無いよ。戦争はしばらく続くだろうし、彼らは好きに動かしてやればいい。どの道、本格的に動き始めるのは戦争の後。AKUMAが補充し終わった後だよ」
しばらくはAKUMAを作って、戦争が終わったらエクソシスト狩りかな? どの道ボクは動けないけど。
ここから先が千年公のシナリオ通りなら──
「ボクの力が必要なんだよね? 千年公」
「そうだね。アスナがいなければ出来ない事だ」
千年公がやろうとしてる事は、造物主、って言うのを敵に回すらしいけど、知った事じゃ無い。
イノセンスを持たない上に、幻想を作り出すしか出来ない紛いものの神に、千年公が負ける筈ないから。
「デザイアスはどうする気じゃ? 怪しまれてるみたいじゃしのう。クーデターでも起こされるんじゃないのか?」
「そっちも予定通りだよ。正直、ちょっと早い気がするけどね」
「まぁ、特に問題は無いだろう。私も精々王位を追われるまで、出来る限りの事をやるさ」
ニヤリと笑いながら、
「元老院も帝国もフィードラが見張っててくれてるし。今のところは何の問題も無いよ」
「僕も頑張ってるからねー。あ、そう言えば例のセカンド。僕らの味方してるマフィアとか、ブローカーとか、元老院の連中とか皆殺しにして回ってるみたいだけど、どうする?」
それって結構重要なんじゃないの?
でも、別にノア以外の誰がどうなろうと知った事じゃない。やりたいようにやらせておけばいいと思うけど。
「彼はどの組織からも独立した様な状態だからね。元は連合所属だったけど、自身の真実を知って離反してる。今は何を目的にして戦ってるのか良く分からないし、今は保留しておこう」
イノセンスを持ってるから、いつか倒す必要はあるけどね。どの道、今は放っておいても大した被害は無いみたい。
「……真実、ね。良くやるよ、連合の奴等」
ラースラが溜息をつきつつ、そんな事を言う。
詳しい事はよく知らないけど、身内同士で殺し合ったらしい、って事は千年公から聞いてる。
「戦争に勝とうと必死なのさ。僕等ノアの事は知られて無かったけど、膨大な数のAKUMAを相手にしては、いかなエクソシストでも無力でしか無い」
元帥は多少強いけど、それだけ。人間である以上、膨大な数のAKUMAを相手にしたら、疲弊していつかは死ぬ。
「だからこそ、
「……あんなモノ、ね。セカンドとは別の研究だったか。
「厳密に言えば、あれはセカンドの前段階として作られたものだよ。セカンドの
エヴァと千年公が良く分からない話をしている。あんなモノ、とか、同類、とか。
エヴァは吸血鬼でもあるし、そっち関係の事なのかな。
「帝国も連合も、同じだよ。裏側では非人道的な実験を腐るほどやってる。アスナのそれも似た様なものさ」
「寿命の事?」
「そう。正確に言えばオスティアの技術だけど、その技術は連合で流用されたからね」
でも、オスティアの上層部は大抵がAKUMAかブローカーだって言ってたと思うけど。何処かに保管してあったのが盗まれたとかしたのかな?
重要視はして無いみたいだし、大丈夫なんだろうけど。
「さて、そろそろ行こうかな」
「また仕事か? 熱心だな、千年公」
ラースラが笑いながらそう言う。いつも出掛けてて居ないんだよね。偶には遊んで欲しいのに。
良くて週一位で会えるか会えないか、って感じなんだよね。今は。戦争で人が死んでるから、AKUMAを増やすには絶好の機会だって言うのは分かるけど。
「戦争の間は忙しいさ。その後も、だけどね。行くよ、エコー」
「了解しました、伯爵様」
千年公の後に続き、白銀の髪をショートボブにしている女の子が歩いて行く。扉の前で僕らに一度礼をして、千年公について行った。
「……あのAKUMA、千年公のお気に入りなんだよね。何でなのかな?」
「さぁな。少なくとも、作られたのは大分前だった筈だ。第二次世界大戦前だったからな」
「珍しい、というか、これからの時代だからこそ使える能力と言っておったな。詳しい事は知らんが」
みんな興味はあるけど特に聞こうとは思わないみたい。ボクも気にはなるけど、良く忘れるんだよね。
「それじゃ、私達も解散と行こうか」
エヴァはそう言って、席を立つ。ノアの中でも最古参であるエヴァは、皆の中でリーダー的な立ち位置にいる。
それに続いて、方舟から戻っていくデザイアス。抜けて来たみたいだし、まだ仕事があったりするんだろう。もう夜なのに仕事なんて大変だよね、デザイアス。
他のメンバーは適当に何処かへ行ったり、方舟の中で好きな事をやってる。
「じゃ、ボクも戻るね」
「おう。バレん様に気を付けるんじゃぞ、アスナ」
「分かってるよ、ワイズリー」
目の前に扉を出現させ、その中へと入る。扉の中はボクの世界だ。
この世界を介す事で、ボクはノアの中で唯一方舟を使わずに長距離移動が出来る。とっても便利。
ボクが普段いる塔は、薄暗くて何も無い。凄く暇だから偶に出てるけど、バレ無い様にするのが面倒なんだよね。
でも、今日は千年公のハンバーグを食べて機嫌が良いからキッチリやろう。