第一話:平穏なる日常
「納得いかん」
『そう言われてもな。こちらとしても困るしかない』
脳内で響く渋い声に、俺はうーむと首を捻る。
兵藤一誠。現在小学一年生。自分の部屋にて、とある人物と会話を──って言うか、人って言って良いのか、お前。
『龍、と言った方が良いだろうな』
龍であるドライグと会話していた。
●
事の始まりは小学校入学直後の時。
資本は体だとばかりに走り込んだりして体力つけつつ、俺に宿っている『
対話と言っても、大昔に魂を封印された龍だ。ちなみに名前はドライグ。色々と心配な所はあったが、話してみると案外気があった。
補足説明。
『
先天的に神器を宿すのは人間、もしくは人間の血を引く者のみだが、持ち主から奪い自身に移植するなどして後天的に神器を手に入れることも可能となる。ただし、強制的に神器を抜き取られた者は大抵死亡するらしい。
『
現時点で十三種類確認されており、その殆どは二つ以上の能力を併せ持つ特性がある。
能力等に着いて雑談しながら歴代の赤龍帝の事を聞いてみると、ドライグは懐かしがる様にして口を開いた。
思い出の一つを話すドライグは、昔話をする爺さんにも思えた。年齢は相当だから、ある意味爺さんであっているのだろう。
『しかし、お前ほど早く俺の存在に気付く奴も珍しい。歴代の赤龍帝の中でも相当早い方だぞ』
そりゃ、俺はお前の事を知ってましたからねぇ。
と、こういう事を考えると、ドライグに考えが伝わるという可能性があったのだが、何だかわからんが雑音が混じった様になって聞こえないらしい。便利なのか不便なのか。いや、便利な方だろうな。理由は不明。
『
走り込んだとはいえ、肉体は小学一年生。体力にしても身体能力にしても、大人に近い高校生等とは比べるべくもない。
此処で冒頭の「納得いかん」という台詞に繋がる訳だが、『
下手をすれば肉体の方が耐えきれなくなる為、今はとにかく体力を付ける方向で頑張っている。ここで頑張らないと、高校時代には死亡フラグが乱立しているからな。
憑依の影響なのか、魔力などは今まで宿った赤龍帝の中でも高い方になっているらしく、そっちもドライグの指導の元で修行している。
ぶっちゃけ面倒臭い。
『そう言うな。今の内から鍛えておけば、今代の「白い奴」に負ける可能性は限りなく低いだろうさ』
いえ、今からやっても勝てるかどうか分かりません。
あっちは歴代最強の白龍皇で、才能も血筋も恵まれ過ぎてるからな。熱血根性を持たない俺じゃ、勝てない可能性も高い。嗚呼、憂鬱だ。
まぁ、魔力があるのは僥倖と言ったところだろう。ドライグ曰く、『厳密には魔力では無い』らしいが。
そりゃそうだろう。この世界じゃ、魔力は悪魔が使う物の筈だ。人間には使えないだろう。
……じゃあ、何なんだろうか。
『俺の知っている感覚で言えば、これは「天使」に近い力だな。何故人間のお前に宿っているかは分からないが、白いのと戦う時に役立つかも知れん』
少し驚いた様な口調で、ドライグはそんな事を言う。
天使? ……何故に天使? あれか、俺を憑依させたのが天使だからとか言う理由か? いや、知らないけども。
この世界、原作からして別世界の神(っぽい存在)とコンタクト取れたりするし、問題は無いのだろう。
……ちなみに、使えるのか、天使の力。
『さてな。それはお前次第だろう。俺もこんな事は初めてだ。どうなるかは分からん』
さいですか。
うだうだ考えていてもしょうがない。適当に走り込んで体力を付ける。筋トレは余り早いうちからやると身長伸びなくなるって言うから、本格的に筋肉を付けるのは中学入ってからだ。
チビなままと言うのも見栄えが悪いので勘弁してほしい。死ぬよりはマシだが、白い奴と必ず戦うと言う訳でも無いのだし。
『戦うんだよ。それが俺達の宿命って奴だ』
溜息でも吐きそうな声のドライグ。それはもう、因果的な意味で決められている様な事らしい。
面倒だなぁ……戦闘なんて。
ドライグ曰く、『毎晩違う女を抱いていた宿主もいた』らしい。ドラゴンを宿した者は大きな力や異性を惹きつける、と言う事だ。おかげで宿主は毎回短命らしいが。
若いうちに死ぬのなんて御免だぞ、俺は。
●
日暮れの時刻、俺は学校から帰っていた。
小学校の友人数名と共に、公園へ寄って遊んで帰ろうと言う事になり、ランドセルをベンチに置いて遊んでいた時、その人物は来た。
──そう、紙芝居をやっているおじさんだ。
チリンチリンと開始のベルを鳴らし、おっさんは紙芝居を読み始める。
お客は俺を含めて数名の子供のみ。しかも、全員が同い年くらいの小さい子だ。
……そして、俺はこの状況に激しく心当たりがある。嫌な予感しかしないのは、俺が原作を知っているからだろうか。
そんな事を思っている間に、おっさんは紙芝居をゆっくり読み始めた。
「昔々、ある所におじいさんとおばあさんが住んでおったそうなぁ。ある日、おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯をしに行きましたぁ。おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上流から──」
おっさんが話しているのは、何の変哲もない紙芝居。ありふれたもので、普遍的なチョイスだ。
桃太郎なんて、いまどき幼稚園児でも内容を知ってるだろう。それでも、この年頃の子どもなら読んでくれると言うだけで集まるものだ。
見た感じ、周りの子供達も次の展開をワクワクしながら見ている。おっさんは、その様子を微笑ましそうにみていた。
俺の心配は杞憂だったか、と安堵した次の瞬間。
「おっぱいが流れて来たのです」
…………。
画用紙一杯に描かれた、無駄だと思えるほどリアルタッチなその絵を見て、俺は一瞬で脳内回線がショートし、驚きの表情で染まる。
何よりも、余りに絵がうま過ぎた。他に使い道があるだろう、と思うべきだろうが、この時俺は酷く狼狽して思考回路がこんがらがっていた。
とにかく、俺はこの時点で無意識に『
「どんぶらこ、ばいんばいん。どんぶらこ、ばいんばいん。それはどうみても──」
おっさんは、次の展開を続ける事は出来なかった。
何故なら、俺の中では明らかに犯罪行為である子供に十八禁な絵を見せるという事をやってのけたおっさんに対し、『
ゴンッ!! という音と共に後ろへ倒れるおっさん。
明らかに投げた石が当たった時に血が出ていたが、俺は変態の行動をと止めると言う事を成し遂げて、正直おっさんの事がどうでも良かった。
と言うか、マジでどうにでもなれ。あんなモンを小学生に見せんなよ。
そんな事を思っていた時、むくりとおっさんが起き上がった。
──なん、だと……!?
『
明らかに病院行った方が良い怪我の仕方だ。やった俺が言える義理じゃないが、警察に捕まって病院に連れて行かれろ。
フラフラとした足取りでこちらへと歩いてくるおっさん。目をみると、焦点が微妙にあって無い。……あれ、割と本気で不味い事になってたりする?
そして、近くに来たおっさんを見ながら、俺は思う。
「ふふふ、君。何を恥ずかしがっているんだい? 男は皆獣。おっぱいは人類にとって平等な物だよ! 恥ずかしがる事は無い!」
俺の攻撃で頭のネジが更に外れただけだった。
支離滅裂で意味のわからない言葉を発し始めたおっさんは、唐突にまた紙芝居の所へ戻って音読し始める。
他の子供達は、おっさんの様子にドン引きしつつも大人しく紙芝居を見ているらしい。……何故だ。
『…………』
ドライグも唖然として黙っちゃったじゃないか。
原作イッセーの性格形成には大いに関係していたおっさんだが、こんなおっさんに影響された原作イッセーもどうなんだか……。
まぁ、取りあえず。
「お巡りさーん! こっちに変質者がいまーす!!」
公園の近くの派出所にいるお巡りさんに通報しておいた。
おっちゃんを通報。二度と出てこないでしょう(え
いや、出す機会も無いでしょうし、俺も何で書いたのかわかりませんw
ストックなんて作って無いので、基本的に休日か休み明け辺りに更新していく予定です。
感想とか頂けると嬉しいです。