第五話:覚醒
ゴッッ!!! と凄まじい爆音が耳に響く。
一誠はそれを確認する間もなく、左腕に装着された『
先程の不意打ち気味に撃たれた一撃はともかく、既に最大倍加──一誠が耐えられる最大の倍加状態──が可能な状態にある以上、それを使わないのは愚の骨頂だ。
「ッ! クソッ!!」
先程よりも広い範囲の攻撃が放たれ、辺り一帯を簡単に消し飛ばす。爆発の余波だけで凄まじい暴風が吹き荒れ、それを使って一誠は"敵"と距離を取る。
「……やっぱ強いなぁ」
『当たり前だ。だが、これを望んだのはお前だろう?』
「ま、そりゃそうなんだが」
昔に比べて随分伸びた身長。筋肉質な肉体は丹念に鍛え上げられた事を容易に連想させ、それを何倍にも上げた一誠の身体能力は凄まじいモノとなっていた。
一誠は黒い髪を右手でかきあげて、先程攻撃してきた人物を見やる。
「……容赦ねぇなぁ、オーフィス」
「やれって言ったの、イッセー」
いや、確かにそうだがよ。と言うが、オーフィスの事を攻めている様な口調では無い。
『「
幾らなんでも荒療治過ぎないか、と思うドライグ。
中学に上がり、身体能力も相当上がった。体力もつき、筋力もついて倍加も相当耐えられる様になったため、一誠はそろそろ『
そもそも、『
数多の経験を積み、『
もっとも、その過程をすっ飛ばす方法が無い訳ではない。それが、現在一誠がやっている方法だ。
"龍に連なる者と戦い、その経験を得る"
龍に限らず、多種多様な種族の者と──それこそ、特殊な力を持っているものであれば人間でさえも──戦う事によって、通常とは異なる進化を遂げる事が可能となると、一誠は考えている。
知識の中にもそれらしき事があった様な気もするし、余り時間をかけたい事でも無い為、オーフィスと共に"次元の狭間"で特訓しているのだ。
ちなみに、普通"次元の狭間"にいると、その中の"無"に当てられて消滅すると言われているのだが──聖なる右を持っている影響か、問題無いらしい。
この案は、カリバーンを持ったアーサーが素の状態で"次元の狭間"を渡っていたのだから、同じ"聖なる力"を持つ聖なる右がある事で行動できるのではないか? と言う疑問から生まれたものだ。
案の定無事だったので、都合良く"次元の狭間"を使わせて貰っている。偶におかしなものが流れ着いていたりするが、オーフィスの攻撃で消し飛んでいる。
聖なる右は使わない。
あれの調整は(現状、出来得る限りとはいえ)済んでいるし、アレを使ったところで『
そんな訳で、世界最強の龍と戦闘して生き残れば、割と速く『
『……この修行を始めて二週間。案外成れない物だな』
「才能なくて悪かったなッ!」
ダンッ! と飛んでオーフィスのビーム攻撃を避ける。あんな物に当たっては、人間の体など簡単に消し飛んでしまう。
手元が光ったかと思えば、けたたましい音と共に爆発が起こるのだ。本当に当たって死にそうなモノこそ聖なる右で相殺しているが、出来る限りは避けている。使っても空中分解を起こしそうになっている辺り、威力の高さを窺えるだろう。
殆ど逃げ回っているに近い状況だが、時たま近接戦闘を仕掛けている。それにしたって、流石は"
聖なる右を使いたい衝動に駆られるが、アレを使ったところで『
「ッらァッ!!」
ビームを掻い潜って近くまで踏み込み、フック気味の右パンチを喰らわせようとする。
「遅い」
が、あっさりと避けられた上に片手で投げ飛ばされ、連続してビームが放たれる。
「クソッ! 本当に殺す気だなぁ、おい!」
空中では何も出来ない。『
故に、聖なる右を使うのは必然だと言える。
ゴバッッ!!! と言う、力と力の衝突による衝撃波が辺りに散る。爆風で浮いた身体が投げ飛ばされるも、何とか体勢を立て直して着地出来た。
「……らちがあかねぇな」
右肩に現れた第三の腕を消しながら、一誠は呟く。
そもそもオーフィスには避ける理由も無い筈なのだ。ブーストしているとはいえ、唯の人間の拳を喰らったところでオーフィスには傷一つ入らない。
無限を体現するオーフィスは、その程度では削れない。
……筈なのだが、何故か避けている。戦闘訓練である以上、簡単に当たって貰っても困るのだが。
『取りあえず、少し休憩を入れろ。何時間戦いっ放しだと思っているんだ』
「……そうだな。そろそろ休憩を入れておくか」
無理をし過ぎても仕方が無い。そう考え、一誠はオーフィスへと声をかけた。
「オーフィス、ちょっと休憩にしよう」
「分かった」
コクン、と頷き、攻撃を止めて一誠の元へ歩いていくオーフィス。スポーツ飲料の入っているペットボトルは、安全面の理由でオーフィスが持っているのだ。
チョコを食べてエネルギー補給をしつつ、座りこんで辺りを見回す。
「……しかし、いつ来ても
『そりゃ"次元の狭間"だからな。オーフィスやグレートレッドが生まれた場所ともされているし、神の作った神造兵器が流れ着く場所とも言われている』
ちょっと視線を向けた先には、巨人の様な姿をした岩っぽい物が捨ておかれていた。背景には砂漠の様な光景が広がっており、オーフィスの暴れた痕跡以外には本当に何も無いとしか言いようがない場所だ。
ゴグマゴク、と呼ばれるものだ。
神によって作られた破壊兵器だが、偶に"次元の狭間"に漂っている所を発見される。全機機能停止しており、動く気配は微塵も無い。
「我、あれの動きそうなの、感知した事ある」
「え、あれの動きそうなのをか?」
コクン、と頷くオーフィス。少し昔の話らしいが、少なくとも感知自体は何度かした事があるようだ。
「ふぅん……神の作った兵器、ね。一片戦ってみたいモノだが」
主に聖なる右の出力実験で、と心の中で付けくわえつつ、チョコを口へ運ぶ。
何か視線を感じると思ってみれば、オーフィスが一誠の方をジッと見ていた。詳しく言うなら、一誠の手にあるチョコを。
「……食べるか?」
素直に頷くオーフィス。体力を使ったので、少量でエネルギーを回復出来るチョコは割と重宝していたのだが……まぁ、家に幾つかあるし、一つ食べられたからと言って困る訳でも無い。
パキッ、と板チョコを半分に割り、大きめに割れた方をオーフィスへと手渡す。
受け取ってから数秒ほど観察していたようだが、やがて口へ運び、一口かじって咀嚼し始めた。
「どうだ?」
「……美味しい」
顔は相変わらず無表情だが、チョコを気に入ったようで、あっと言う間に食べ終えてしまった。今度は一誠の持つチョコへと視線を向けている。
チョコを動かすと、オーフィスの目がそれにつられて動く。小さく溜息をついた後、残っていた一誠のチョコを差し出した。
無表情のまま、上機嫌でそれを食べるオーフィス。それを見ていると、一誠も特に怒る気は無くなったようで、いつでも修行を開始できるようにストレッチを始めていた。
「さて、そろそろ『
『あれはそう簡単に成れるものじゃないんだがな。まぁ、歴代の赤龍帝達はお前よりずっと早く発現した奴もいるんだが』
「それは肉体年齢が俺より上だから、だろ。小学生に期待してたのかよ、お前は」
『そう言う訳じゃない。唯、お前と同じくらいの年で至った者もいると言うだけだ。──「
「…………」
ドライグの言葉に、黙る一誠。
『
『
生命力を著しく消費する代わりに、修羅の如き力を発する。歴代のニ天龍の中でも、先にこれに目覚めた方が勝つと言う位に強力な力だ。
但し、暴走がつきものとなる。生命力を著しく削る為、寿命が減るのもリスクの一つだろう。
以前ドライグから説明されて、一誠はそれについて自分なりに考えていた。
「……俺は、それに頼る事はしないよ」
少なくとも現時点では、それに頼る意味も無い。リスクが余りに大き過ぎる。それを使う位なら、聖なる右を使った方が余程強力でリスクが少ない。
そう答える事が分かっていた様に、ドライグの返事はあっさりとしたものだった。伊達に六年位付き合っている訳ではないらしい。
『まぁ、そうだな。ただ、言っておきたかっただけだ──お前の様に特別な右腕も無いが、俺の力だけで白いのに勝てる程の、前赤龍帝の事をな』
「そうか……じゃ、いっちょやりますかね」
左手に現れた赤い籠手を使い、身体能力を一気にブーストする。やる気は十分、体力も回復している。
先程のドライグの言葉で少しだけ発破をかけられた一誠は、ギラギラとした視線をオーフィスに向けていた。
「イッセー、さっきよりやる気ある?」
オーフィスが不思議そうに見つめるのに対し、ドライグは笑いながら答えた。
『ハハハ! コイツはこれでも、中々の負けず嫌いでな! 少しばかり発破をかけてやればこの通りだ』
聖なる右と赤い龍の左。
神に属するモノと神に敵対するモノ。
相反する存在にも関わらず、漏れだしたオーラは混じり合い、オーフィスに対してピリピリとした圧力を肌で感じさせていた。
無論、それだけで表情が変わる様な事も無いのだが、少なくとも今までの一誠とは少し違う。
オーフィスと言う世界最強の龍と戦闘し、本来混じり合う筈の無い力を混ぜ、心の底から"進化"を願った──結果、
「──『
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
ゴッ!! という音と共に、一誠を中心に爆風が発生した。
真っ赤なオーラが噴出し、籠手の宝玉に莫大な光が灯った。オーラはそのまま一誠の身体を覆い尽くし、オーラの影響で一誠を中心としてクレーターが生まれていた。
クレーターの中心で佇むのは、一人の姿。
一誠は赤を基調とした鎧──
全体的に鋭角なフォルムをしている。左手の籠手にあった宝玉は両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも存在し、背中にはロケットブースターの様な推進装置も付いている。
一誠は、調子を確かめるように右手を握ったり開いたりしている。
『相棒、やったじゃないか。まさか戦闘前に至るとは俺も思わなかったぞ。経験は十分だったと言う事だろう』
一誠に足りなかったのは、心意気。と言ったところだろうか。
本気で強くなろうとしていなかった。聖なる右がある以上、強くなれなくても良いと。それが、一誠が『
『まぁ、それはともかく──現状、この鎧が持つのは一時間と言ったところだろうな』
そして、一日一回の制限付き。更には最大までブーストさせれば、時間はさらに減る。この状態になるまでに二分ほどいるが、今後の修行で縮める事が出来るとドライグは言う。
時間が長いのは、一誠が基礎から鍛え直していたおかげか。六年と言う年月は無駄ではなかったらしい。
「……これが、『
「これで、もう修行しなくていい?」
オーフィスが疑問をぶつけている。軽く身体を動かし、身体の状態を確認する。概ね良好だ。
「いや、修行しなくていいって訳でもないだろう。少なくとも、今度はこれを使いこなす修業が必要だ」
「そう、分かった」
オーフィスが納得すると同時に、ドライグが一誠へと言う。
『相棒、周りのオーラを集めて撃ってみろ』
ドライグの言葉に疑問を持ちながら、言われたとおりにやってみる。
すると、凝縮された力の塊の様な物が掌へと集まり、放たれた先では大きく地面が抉れていた。──まるで、大規模なクレーターだ。
「……すげ」
『相棒には天使の力の様な物があるからな。それも漏れ出て、オーラと共に使えるらしい……さっきのでも本気じゃ無いぞ』
「……此処までになるのか。赤龍帝ってのはすげえな」
『使って行けば、段々とコントロールが効く様になるさ。しかし、俺も此処までの力を見たのは前回の「
それほどの力を備えていると言う事だろう。聖なる右が使えなくても、一誠自身の中にある力の元からオーラに混じって漏れ出ているらしく、魔力切れの心配はいらないと言う。
「さて、と。『
『ああ。時間はたっぷりあるんだ。白いのといつ会うかは分からないが、既に十分なほど力を手に入れている。ゆっくり着実に、強くなっていけばいい』
「分かってるよ、ドライグ」
「我、役に立った?」
「ああ。お前のおかげだ、オーフィス。今度チョコを大量に食わせてやる」
近くに来たオーフィスの言葉に対し、頭を撫でながら答える一誠。
オーフィスには頭が上がらないな、と呟いた。
何か割と簡単に禁手に至ってる気もしますが……まぁ、オーフィスと戦えばこうなるよね、と(え
仮にも世界最強のドラゴンですし、殺し合いともなればプレッシャーは凄まじいでしょうから。聖なる右は自重してる訳ですし。
さて、次回から原作時間軸に入ります。修行パートなんてつまらんですし、俺もネタが無い(え
……レイナーレ、この時点で既に敵じゃないんだよなぁwww