第六話:駒王学園
大きく欠伸をして、学校への道程を憂鬱に思う。
家から徒歩で通える学校と言う事で、私立
修業は今でもちゃんと続けており、高校二年になった今では数秒とかからずに『
オーフィスとも偶に会っている。修行の事がほとんどだが、家に遊びに来てはチョコを食い荒らしている事が多い。それだけではと思い、出してみた紅茶も飲むようになった。
親にはばれていない。オーフィスは姿が変わらないのだから、不用意に合わせると色々と面倒な事になってしまう。
そんな事を思いながら、一誠は学園の校門をくぐった。
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私立駒王学園は、元女子校の共学校だ。その所為か、男女の比率が著しく偏っており、七割以上が女子と言う状況にある。多数決で男子に勝ち目は無い。
発言権も当然女子の方が強く、現生徒会長も女子だ。
そんな学校でも、一誠は特に関係は無い。いつも通り窓際の席に座り、図書室で借りてきた本を読み始める。
周りの者もそれが日常として受け取っており、一年の頃から変わらない一誠の環境だ。
視界の端では学校にAVを持ってくるような馬鹿もいたりするが、完全に関係無い空気を作り上げている。
運動関係に関しては相当出来る為か、一部女子の間では『ミステリアスでカッコイイ』などとも言われているのだが、当の本人は『龍の因子の所為だろう』とうんざりしている。現状は身を守る為に修行しなければならないので、わざわざ彼女を作って時間を減らすメリットは無い。
その所為か、ゲイだとかホモだとか言う噂もあったりする訳だが、男女等しく関わってないので今ではほとんどその噂も無くなっている。
(……眠い)
一誠は欠伸を噛み殺しながら、そんな事を思う。二年に上がってから、課題の量なども増えた為にそれを片付けるのに手間取っているのだ。
このままHRまで寝てしまおうか、と考えながら、ふとした拍子に窓の外へと目を向ける。
その視線の先には、鮮やかな紅の髪をした女性がいた。
スラリとした肢体。透き通るような碧眼をしており、白い肌も相まって日本人離れした容姿を映えさせる。北欧の出身という事になっているらしい。
(……ふん。リアス・グレモリーか)
『現魔王ルシファーの妹、だったか。この辺りも奴の領地だからな。下手をすれば悪魔側に俺達の存在がばれるぞ』
(分かってるよ。そんなヘマはしないつもりだ)
ドライグと会話を続けながらも、その視線はリアスへと釘づけになっていた。
学園のアイドルにして、ニ大お姉さまと呼ばれる内の片割れ。学園の三年生の為、先輩に当たる。
一誠の向ける視線は羨望の眼差し等と言う類では無く、物の値打ちを見定める様な、感情を排除した目だった。
「……上級悪魔にして魔王の妹。消滅の力を受け継ぐグレモリー家の長女、か」
誰に聞かせる訳でもなく、増して登校中のリアスになど聞こえる筈の無い音量で、一誠はぼそりと呟いた。
やはり、下らないな。と思いつつ、手に持った文庫本へと視線を落とす。
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放課後。どの部活にも入っていない一誠は、帰り支度をした後にそそくさと帰り始める。
入学当初こそ、体力測定などで相当な結果を出したからか、いろんな部活から勧誘されていたのだが、全て断っている。
部活などやっている暇も余裕もなく、一誠個人としてもスポーツなど興味の対象では無いのだ。
今日は何をするかなぁ、と考えながら帰る道の途中、公園の自販機でジュースを買っていた時だ。
「あの……駒王学園の兵藤一誠君、ですか?」
おずおずと不安げな顔のまま、一誠へと話しかける少女。
黒く艶のある髪は腰まで伸ばしており、駒王学園では無い、どこか別の高校の制服を着ていた。端的に言えば、相当な美少女だ。駒王学園でも、このレベルの女子はそういない。
そんな少女が、躊躇いがちに一誠へと話しかけて来たのだ。自販機で買ったジュースを取り出しながら、「そうだよ」と言う。
「それで、俺に何か用かな?」
ジュースの缶を片手に、その少女へと視線を向ける。ふくよかな胸と言い、恥ずかしがっている所為か、頬を紅潮させている様子と言い、同じクラスの変態達なら鼻血でも出しそうな状況だ。
当の本人である一誠は、そんな事を一切気にせず、軽く笑みを浮かべながらその少女を見ていた。
「えっと、あの……私、
恥ずかしがっているようで、顔を赤く染めているのが見て分かる。緊張している様子も見て取れた。
一世一代の告白、と言ったところだろう。別の学校と言う事もあって、会うこと自体は初めてでもある。緊張しない方がおかしい。
そんな、勇気を振り絞って言った言葉に対し、一誠の答えは──
「ゴメン。タイプじゃ無いんだ」
表面上は申し訳無さそうに、しかし内心では警戒をして、天野夕麻と言う少女を観察する。
一誠にとって、これは既知の状況だ。本来の史実であれば、この告白を受けて付き合う事になったであろう少女。しかし、一誠はこの告白を拒否した。
どうなるかは分からない。故に、警戒を緩めない。
「……そう」
紅潮していた頬が、急速に普段の色へと戻っている。やはり、先程の行動は芝居だったと言う事だろう。
辺りを見れば、人っ子一人いない。人払いまで済ませて、この状況に対応していたらしい。
「残念。……仕方が無いから、死んで」
一度瞬きをした瞬間、夕麻の背には黒い翼が生えていた。
一誠は知っている。この翼を持っている者を、今までに見た事がある。──堕天使だ。
夕暮れの時刻に、夕闇をバックに黒い翼をはためかせる夕麻。その姿はハッキリ美しいと表現できる物だが、一誠にはてんで興味の無い物だ。
「折角付き合ってから色々調べようと思ったのに……まぁ、良いわ。貴方には此処で死んでもらう。怨むなら、その身に『
先程とは打って変わって冷たい目をした夕麻は、掌に集めた光を使って一本の槍を作り出す。大した威力の無いものだが、人一人殺すには十分な代物だ。
それが、一誠の腹部へと放たれる。
「よっと」
それを見て、対して驚きも焦りもせずに紙一重でかわす一誠。オーフィスとの戦闘訓練は伊達では無い。あれに比べれば、先程の槍など児戯に等しい。
簡単に避けた一誠を見て、驚く夕麻。相手は唯の人間だと思っていたのだろう。続けて放つ槍も簡単に避けられ、次第にその表情には焦りの色が浮かぶ。
「あんた、何者よ! 本当に人間!?」
「残念ながら、本当に人間だよ」
ちょっとだけ特別な、な。と付け加え、左腕に『
それを見て、夕麻の表情に安堵の色が少しだけ見えた。
「な、なんだ。『
『Boost!!』
身体能力がニ倍になる。この程度の相手に、わざわざ目立つ『
一誠が何を話すでもなく、夕麻は勝手に一人で話し続ける。時間を稼ぐ必要が無くて楽だな、と思う一誠。
「──アザゼル様やシェムハザ様の為に、アンタを殺してやるわ!」
夕麻の長ったらしい話が終わった段階で、最初の倍加から既に四十秒が経過していた。ニの五乗──つまり、三十二倍。
槍を構えて振るってくるが、当たらない事で焦りを生み、攻撃が更に単調になる。
そろそろか、と思い始めた時、背後からも槍が飛んできた。しかし、それさえ避けて見せる一誠。
オーフィスは戦闘の際、敵意も悪意も──ましてや、殺意など存在せずに攻撃をしていたのだ。自身に対する攻撃への第六感は相当なまでに鍛え上げられている。
「いつまでかかっている、レイナーレ」
「五月蠅いわね、ドーナシーク」
声がした方へと目を向けて見れば、スーツを着た男──こちらも黒い羽根を生やしている──がいた。レイナーレと言うのは夕麻の本名だ。
二体一。状況的に見れば不味い。
「攻撃が中々当たらないのよ。何か護身術をやっていると言う情報なんて無かった筈だけど」
「……そうか。まぁいい。早めに済ませるぞ。ここからは俺も加わる」
単純に言って、倍の数の光の槍が展開される。これを避けきるのは、現状の一誠では無理だろう。
しかし、──堕天使達の誤算と言えば、一誠に時間を与え過ぎた事だった。
『
一瞬でレイナーレ達の能力を超える一誠。この状態になれば、最早負ける理由が存在しない。油断なく構え、レイナーレ達が槍を放つと同時に、動く。
「──ッ!?」
凄まじい速度で動いた一誠は、光で作られた槍を簡単に避けてレイナーレ達の近くへと肉薄する。
槍を手に相対する事を選んだ二人だが、そんな事を気にせずに一誠はドーナシークと呼ばれたスーツの男の顔面を殴り飛ばす。
「ドーナシーク!?」
派手に吹き飛んだ味方に一瞬気を取られ、腕を掴まれて腹部へと強烈な一撃を喰らわされる。
「が、はっ……!」
流石は堕天使と言ったところで、単純に打撃を与えただけでは倒れない。数歩後ずさり、レイナーレは怒りの表情を見せた。
「ぐ……この、私が……堕天使であるこの私が、人間如きに負けるものですか──!」
最大出力だろう。二メートル以上の長い槍がレイナーレの掌の上に現れる。それを構えて、一誠を見据える。
対する一誠は、先程のレイナーレの言葉を聞いて笑っていた。
「人間如きに、か……だったら、まずはその幻想をぶち殺す──!」
レイナーレの槍捌きを見切り、懐へ入って強烈な右ストレートを顔面に直撃させる。『
一誠は聖なる右を手に入れてから言いたかった台詞を言って、羞恥半分愉悦半分と言った様子だった。
聖なる右の持ち主ではないが、特別な右手の持ち主つながりと言う事で言いたかったらしい。
ドーナシークもまだ戦えるようだが、分が悪いと判断したのだろう。レイナーレの近くへ寄ったかと思えば、そのままレイナーレを連れて何処かへと飛んで行ってしまった。
「……やれやれ。マジモンの堕天使を相手にしたのは初めてだぜ」
『普段からオーフィスを相手にしているが、アレとは別次元の存在だからな』
「そりゃまぁ……どう見積もったって、ありゃ中級堕天使だろう。オーフィスとは比べ物にならないほどの弱さだ」
正直、『
放り捨てて置いたバッグとジュースを回収し、ジュースの缶を開けて一口煽る。
「……ぬるい」
すっかりぬるくなっていたジュースを顔をしかめながら飲み干し、ごみ箱に捨てた後に帰路に着く。
そろそろ、世界が動き始めるな、と一人ごちた。
レイナーレ撃☆沈(え
上条さんみたいな事になってましたが、単純にやってみたかっただけで他意は無いです。禁書を混ぜたら一度はやりたいネタですから。
この時点で原作(笑)な状況になってる訳ですが、そろそろグレモリー卷属と邂逅させたい所。
しかし、オーフィスの人気に嫉妬(何
少しの間は出番はありませんが、偶に出て来るのでしばしお待ちくださいw