第十四話:英雄派との接触
曹操と名乗った少年は、続いて後ろにいる少年を紹介した。
「こっちはゲオルク。名前で分かると思うが、俺は三国志の曹操の子孫。ちなみにゲオルクは大悪魔メフィスト・フェレスと契約したとされるゲオルク・ファウスト博士の子孫だ」
そんな奴は知らん、と思いつつ、一誠はオーフィスへと視線を向けた。
「お前が教えたのか、オーフィス?」
「……何か不味かった?」
首を傾げながら、不思議そうに聞くオーフィス。
そもそも、口止めを忘れていた自分にも非はあるのだ。オーフィスを責める事は出来ないだろう。
「……いや、いい。ある意味好都合だ」
曹操の属する『
天使は堕天するのだろうが、天界の知識を持つ事には変わりない。その知識は、一誠にとって有用なモノとなる可能性が高い。
「俺達の事は知っているのか?」
「オーフィスからある程度は聞いている。グレートレッドを倒す為に戦力を集めている、とな。まさかその派閥の一つから勧誘が来るとは思っていなかったが」
「赤龍帝の力を持っているんだ。引き入れようとするのは別段おかしな事じゃないだろう? それに、君の行動は悪魔側と協力しようとしているとは思えないからな」
「……見張っていたのか?」
「まぁ、一応。幾らオーフィスの口添えがあるからといっても、俺達に害があるかどうかは分からない訳だし……もっとも、オーフィスが口添えすること自体が殆ど無いと言っても良いが」
それは、オーフィスが他人と接触する機会が少ないと言う事に起因する。
赤龍帝であるが故に早期に会う事になったが、本来人間であれば一度も見る事無く死ぬものだ。興味の対象はグレートレッドのみに絞られ、グレートレッドをどうにかする為に戦力として人間や悪魔達に声をかけた。
英雄派の曹操やゲオルクといったメンバーに加え、旧魔王派と呼ばれる前魔王の血筋の派閥も存在する。戦力としては既に相当な物だろう。
しかし、それでもグレートレッドを倒すには至らない。
一誠の持つ右腕の力はオーフィスでさえ知らないものだし、一誠自身が"まだ不完全"という事をオーフィスに言っている。右腕が完成すればグレートレッドを倒せる可能性があると踏み、人間だからか英雄派の曹操へと声をかけた。
そして、今に至る。
「オーフィスから聞いているよ。君の"奥の手"って奴をね。──ゲオルク、『
「了解」
ゲオルクがふと立ち上がり、『
結界の中に移動する際には奇妙な感覚が身を包んだが、特に気にする様な事でも無い。
窓の外を見れば、街並みはそっくりそのまま映してあり、寸分違わず同じ景色という事に少々の驚きを見せる一誠。
「さて、君の"奥の手"とやらを見せて欲しい。赤龍帝としての力も出来れば見せて欲しいけどね」
「……そうだな。だが、不完全だと言う事は聞いているだろう?」
「構わないさ。現状での力が見たい」
そうか、と一言つぶやき、窓から外へと降りる。赤龍帝の力を使えば、二階から降りても大した衝撃は来ない。
地面に降り立ち、右腕を構える一誠。その対面には、槍を持った曹操が構えていた。
曹操の持つ槍は『
「こんな不出来なモノを見せるのはちょっとばかり気恥ずかしいモンがあるが、まぁ良い。──行くぞ」
一誠の右肩に不出来な巨人の腕の様な物が現れ、不気味な光を発し始める。
「へぇ、これが──『
構えた槍の先端が開き、光り輝く金色のオーラが刃を形作った。
「不完全だからな。まだ
ゲオルクとオーフィスは少し離れた所からこの状況を確認しており、一瞬の静寂が訪れた。
「その奇妙な腕がどれだけの力を持つのか──試させて貰う」
曹操が槍を構え、光の刃を振るった瞬間──全てが消失した。
閃光が辺り一帯を覆い、爆音とともに曹操は百メートル程度後方へと吹き飛ばされていた。
強烈な衝撃波が辺りを襲い、一誠を中心に数百メートルの距離が瓦礫の山と化していた。ゲオルクは咄嗟に結界を張ったおかげで凌いだものの、それで防げるだけの距離を置いていたことが幸運だったとしか言いようが無い。
ちなみにオーフィスは無傷で凌いでいる。
「……チッ。一撃で空中分解するのか。あの槍がそれだけの力を持ってたのか、それとも『神を殺す槍』という概念がこの腕に影響を与えたのか……まぁ、それは追々調べるとしよう」
舌打ちしながら、聖槍とぶつかりあった第三の腕を確認する一誠。
不格好な五本指を備えた巨人の腕の様なそれは、先の一撃を放っただけで存在自体が揺らぎ始めている。
瓦礫の山を吹き飛ばし、無傷とは言わないものの、状況の割に怪我が少ない曹操は純粋に驚いたように声を上げる。
「……驚いたな。まさか、この聖槍の一撃を持ってしても相殺さえ出来ないとは」
万が一殺してしまわない様、曹操が手加減をしていた事もある。しかし、出力に換算すれば上級悪魔さえ殺してもおかしくない威力だった。
それを難無く打ち消したどころか、逆に曹操を百メートル以上吹き飛ばした。これだけで威力の途方も無さが分かると言うものだ。
「今の最大出力なら町一つを瓦礫の山に変えるのは難しくない。が、時間制限がある上に、最大出力はそれに伴う"敵"が必要だ」
相手によって力が上下する聖なる右は、最大出力を発揮するならそれ相応の敵を用意する必要がある。今回は曹操の力を上回るレベルに設定した為、ほぼ最大出力に近いものが出たが、不完全なモノにしては良い方と言える。
完全な状態なら、星を砕く事さえも可能なのだから。
「なるほど……もう少し出力を上げてみたいが、どうだい?」
曹操は考え込むようにして言うが、蛇の様にのた打ち回り、空中に融けようとしている第三の腕を見て「時間切れだ」と一誠が言う。
「元々人間が扱える代物じゃないんだ。ハイビジョンの映像をモノクロのテレビで見てるようなもんさ。──その気になれば神仏を相手取れるだけの力があるんだろうが、生憎とそれを十全に発揮する為の出力端子が存在しない」
「出力端子、か。
「無駄だろうな。
更に言えば、力の"質"の点でも問題が生じる。
神の作った物とはいえ、右腕の力は"
イギリスにあるであろうカーテナは使えそうな気もするが、元の世界でもそうであったように耐えられないと判断した方が無難だろう。
「もっとも、"使い方"だけなら他にも模索してはいるが」
「へぇ? そいつは是非見てみたいね」
「こっちもまだ未完成だ。危なっかしくてどうしようもない」
赤龍帝としての力に使えないかと模索してはいるものの、現状では未だ完成に至っていない。使うのは寿命を縮めかねない為、慎重になっているのだ。
「此処までやっておいて何だが、英雄派に入ってくれるか? 俺としては赤龍帝は大歓迎だ。英雄の子孫でこそ無いが、ドラゴンなら説得できるだろう」
「ああ、良いぞ。こっちとしても色々利用できそうだからな」
互いに笑みを浮かべ、一度だけ握手を交わす。
「さて、俺達としても君のその右腕を完成させたい。相当な戦力になるだろうからね。……どうすればいいかは分かっているのか?」
「まずは知識を集めたい。特に天使に関する情報をな……それと、魔法に関しても」
一誠の言葉に、ゲオルクが眉をひそめる。
「魔法? その右腕の力、まさか魔法によるものなのか?」
「いや、厳密に言えば"魔術"だが──」
そこでふと、疑問が生じた。
──この世界において、本来"魔術"とは行使が可能なのか?
聖なる右も魔術の一つである事には変わりなく、その力は圧倒的の一言に尽きる。
しかし、魔術とは本来"この世界とは別の世界における法則"を、この世界で無理矢理使っている術の事だ。
この世界とは別の世界とは"天界"であり、異界の法則とは、一誠の予想では恐らく"天界の法則"である。
今まで聖なる右を調整する事や赤龍帝としての力を上げる事に目が行き過ぎて、考えが及ばなかった。
魔術が存在すると言う事は即ち──
つまり、天界の
そこまで考えた所で、矛盾が生じる。
オーフィスやドライグは聖なる右を天使に“近い”モノだと言った。だが、天界が同一であると言うのならば、天使と“同じ”ものでなくてはおかしい。
しかし、ゲオルクの一言でこの仮定が崩れさる。
「魔術? 大昔に『聖書の神』が追放したと言う、太古の技術の事か?」
「……太古の技術? 大昔にそんなモノが存在したのか、ゲオルク?」
曹操が疑問をぶつけ、ゲオルクは一度頷いてから答えた。
「俺も魔法使いとして修行している時に聞いた話だからよく分からないが、少なくともそういう技術があったらしい」
『真の奇跡に人の手で追いつこうとすること』を目的としているが故に、神の怒りを買って滅ぼされた技術。
なるほど、それが原因で魔術の行使が不可能になっていると言うのなら、確かに"システム"の機能不全で魔術が使えるようになっている事にも説明がつく。
これならば、"天界"の存在が同一だと言う仮定は成り立たない。
『聖書の神』が存在した天界と、別の法則で成り立っている天界が同時に存在していると言う事になるのだから。
そして、その事は一つの可能性がある事を示した。
「……天界や冥界の古い文献を探せば、もしかすると魔術についての記述がある魔道書が存在するかもしれねぇな」
「それを使えば、君の右腕は完成するのか?」
「少なくとも、今よりは安定させられるだろう。だが、完全に扱うにはまだ足りない。──まぁ、それは追々何とかするさ」
「期待しているよ。魔術についても、何か分かれば『
「それは構わないが……」
少なくとも、懸念事項は存在する。
魔術を使うにあたって、本来ならば"宗教防壁"という物が必要な筈なのだ。
しかし、魔術の一つである聖なる右を使っている一誠には何ら異常は無い。これを鑑みれば、聖なる右が防壁の役割を果たしていると考えられる。悪魔対策に聖書の序文を暗唱できる事も要因かもしれないが。
だが、聖なる右を持たない他のメンバーが魔術を使うには、何らかの宗教防壁が必要になる。
それは別にキリスト教の神でもいいし、それ以外──例えば、北欧神話や日本神話などでも、極論を言えば外宇宙の邪神でも悪魔崇拝でもいい訳だ。
もっとも、其処さえクリアできれば『正規の手順を踏めば素人でも使える』ために簡単に戦力として使えるようになる。
……まぁ、天使や堕天使、悪魔に魔術が使えるかどうかは謎ではあるが。
「よし、今回はそれなりの収穫があった。俺とゲオルクは帰るが、何か用事はあるかい?」
「三つほど頼みがあるが、いいか?」
「俺達に出来る範囲であれば」
「一つ目、神と悪魔の大戦が終わった詳しい時期が知りたい。二つ目、今度レーティングゲームに参加する事になったから、ちょっと用意して欲しいものがある」
「一つ目に関しては了解した。直ぐに調べておこう。……それで、二つ目だが、何を用意すればいいんだ?」
会話しつつ結界の中から戻ってきた一誠達は、部屋の中で立ったまま会話をしていた。
そんな中で一誠はメモ帳を取り出し、必要なモノを書いて曹操へと渡す。曹操はそれを見て頷き、「大丈夫だ」と告げる。
「こんなもので良ければ、直ぐに用意できるだろう」
「ありがたい。それと三つ目……魔術に関する情報が入ったら、俺の所へ直ぐにでも流して欲しい。多少は力に成れるだろう」
一誠の持つ知識があれば、魔術に関して多少なり分かる事があるかもしれない。何分昔の記憶なので多少は劣化しているだろうが、覚えている事だけでも役に立つ事はある筈だと判断し。
「そっちも了解した。それじゃ、俺達は御暇するとしよう。ゲオルク」
「ああ。邪魔をした、赤龍帝」
「一誠でかまわねぇよ。これからは味方なんだしな──いや、英雄派として活動するときはフィアンマと呼んでくれ。バレると面倒だ」
他人行儀なままの二人を傍目に、ひらひらと手を振りながらそう言う一誠。オーフィスは曹操達と共に移動した為、部屋の中には静寂が戻った。
何にせよ、今日はひどく密度の濃い一日だった、と実感する一誠だった。
そんな訳で魔術はこの世界に存在しましたフラグ(え
……どっか間違ってたりここおかしいってところがあったら教えてください。
神と悪魔の戦争がいつ終わったのかわからないと言う。……本当、何時なんでしょうか。それによって今後が変わってくるんですが……。
アレイスターが活動する前の時代に終わってたら僥倖なんですけどねぇ。終わって無くても捏造する気ですが(おい