第十六話:レーティングゲーム・序盤
時刻は午後十時を回っていた。
一誠は自室にて駒王学園の制服へと着替えており、二時間弱後に控えたレーティングゲームへと集中していた。
一誠としては、夜にやると眠くて頭が働かない可能性があるのだが、普段は飲まないコーヒーを飲んで目を覚まさせる。
「フェニックスとレーティングゲームか。こういう面白そうな事に巻き込まれるのは、龍の因果ゆえかな?」
「うるせぇよ。こっちは大迷惑だっての」
ベッドの上に座っている曹操へと、一誠は適当に言葉を投げ返す。
曹操は笑みを含んだ表情のまま、言葉を続けた。
「いやいや、それでも良い経験だと思うよ。不死身の悪魔。正に人間が倒すべき敵の様で良いじゃないか」
「ハッ。俺はお前みたいな思想は持ってないんだよ。正直言えば、グレートレッドだってどうでもいいしな」
「イッセー、グレートレッドと戦うの、嫌?」
一誠の言葉に、お茶を飲んでいたオーフィスが反応する。首を傾げながら質問するオーフィスから目を逸らしつつ、一誠は答えた。
「……お前との約束がなきゃ、手を出そうとは思わないさ。あんなバカでかい龍なんてよ」
大きさだけの問題ならどうにでもなったのだが、オーフィスでさえ手を出しかねるような怪物なのだ。普通、自分から戦いを挑もうとは思わない。
自分から手を出すのは、自殺志願者か本気で世界最強と思える様な実力者くらいだろう。その最強がオーフィスな訳だが。
「約束、か。君が其処まで律儀に約束を守ろうとしている辺り、やっぱりお人好しなんだと思うよ」
もしくは、根っからの善人なんだろう。という曹操。
自覚はあるのか、頭をガリガリとかきながら困った様な表情を浮かべる一誠。
「まぁ、友達少ないしな、俺。ガキの頃からずっと修行やったり話相手になったりしてたのは、オーフィスくらいのもんだし」
だからこそ、オーフィスの頼みならある程度は聞くつもりでいる。グレートレッドを倒すのは最初にあった時からの契約なので、今更どうこう言う気も無いが。
「そうか……ま、頑張りなよ、赤龍帝。俺達もグレートレッドを倒す為に協力してるんだし」
「分かってるよ。さしあたっては、今回のレーティングゲームだな」
「
「分かってるだろ、お前。悪魔側に知れたら、どうやっても味方陣営に引き入れようとするだろうからな。……そうなると、後々面倒臭い」
万が一バレた場合、魔王に頼み込んででも不干渉を約束させようと思っている一誠。実質の所、英雄派と協力関係にあるので、バレるのは余り好ましくない。
最悪、この家に戻ってこれなくなる可能性があるのだから。
「此処にいられなくなったら、我達の所に来ればいい。イッセー、歓迎する」
「まぁ、その申し出はありがたいんだが……本当にここに居られなくなったら、ありがたく頼らせて貰うよ」
生まれてからずっと住んでいた家だ。いきなりいなくなると親にも心配をかけるし、離れる事は出来る限りしたくない、というのが一誠の本音だろう。
「君は今の所、英雄派というよりも独立状態と言った方が近い。オーフィス直属の戦闘員……それが、俺達英雄派の下に着いてる連中の、"フィアンマ"の評価だ」
「妥当なところだろうな。俺は英雄の子孫でも、魂を受け継いでる訳でも無い。そんな奴が英雄派の幹部やってたら、下の奴等に示しがつかねぇだろ」
それでも、一誠にとっては動き易くもある。組織に入っても、コミュニケーションが低い上に勝手な行動をするのなら、どこかの派閥よりも独立状態の方がやり易い。
組織の規律などに縛られるのは好まないのだから、尚更だ。
「今度は白龍皇の方に声をかけて見ようと思ってる所だけど……面識は?」
「無いな。興味も無い」
即答する一誠を見て、曹操は口元を押さえながら笑いだす。
「ははは、君らしいな。じゃあ、こっちは終わった後で報告するとしよう。……さて、頼まれていた道具と、神と悪魔の大戦が終わった時期だったな」
懐からメモ帳らしきものを出すと、一誠に投げ渡して来た。
「具体的には百五十程度昔の様だ。日本で言うと、江戸時代辺りかな?」
「……なるほど。ほぼ同時期に神が死んだと考えても、魔術が普及する時間は多少なり有った訳か」
これなら、百五十年の間に魔術を見つけ、それを研究した魔術師が存在するかもしれない。探す価値はありそうだな、と呟く一誠。
「俺達の方でも魔術師は探している。とはいえ、今まで殆ど存在を知らなかったような連中だ。そう簡単に見つかるとも思えないが……」
「黄金の夜明け団だ」
曹操の言葉を遮るように、メモ帳を返しながら伝える。
「『黄金の夜明け団』……有名どころではアレイスター・クロウリーだな。ああいう有名な連中の事を調べてみると、案外尻尾が掴めるかも知れねぇぞ」
「なるほど。確かに、あの組織は魔法使いの世界でも中々有名だったようだ。可能性はあるかもしれない」
腕を組んで考え込む曹操。魔法使いの事に関してはゲオルクが詳しいらしいが、今は居ないらしい。
時計を見ると、既に結構な時間、話し込んでいたことが分かる。三十分前には集合しなければならない筈なので、そろそろ出なければならない。
「まぁ、その辺は適当に探してくれればいい。じゃ、俺は出掛けてくる」
「イッセー」
荷物であるバックを持ち、部屋を出ようとした一誠へと、背後から声がかかる。オーフィスの声だ。
ドアノブに手をかけたまま振り向いた一誠へと、オーフィスは声をかけた。
「……頑張って?」
「何で疑問形なんだよ。応援の仕方が分からないとか、そう言う理由か」
軽く頭をかかえる様な動作をした後、溜息をついてオーフィスへと告げる。
「心配しなくても、死にやしねぇよ。出来るだけ上手くやってくる。曹操もちゃんと用意してくれたしな」
「ジークに頼んで、出来る限り高純度に精製して貰った。悪魔に対しては効果が高いと思うよ」
それでも、上級悪魔に使ったところで大して意味は無い──だが、逆に言えば、下級悪魔には意味があると言う事だ。
「ああ、サンキューな、曹操。ジークフリートにも礼を言っておいてくれ」
ドアノブを回し、一誠は部屋から出て行った。
●
深夜十一時四十分を過ぎる頃──
一誠を含め、今回のレーティングゲームにグレモリー眷属として出るメンバーは、旧校舎のオカルト研究部に集まっていた。
各々がリラックスできる方法で待機しており、何故かアーシアだけがシスター服で、それ以外の全員が駒王学園の制服だった。
開始十分前となり、部室の魔法陣が輝いてグレイフィアが現れる。
「みなさん、準備はお済みになりましたか? 開始十分前です」
グレイフィアの確認に対し、全員ゆっくりと立ち上がる。それを確認したグレイフィアは、説明を始めた。
「開始時間になりましたら、ここの魔方陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんなに派手なことをしても構いません。使い捨ての空間なので存分にどうぞ」
暗に「好きなだけ暴れて良し」という事を告げているのだろうか、と一誠は思うが、好都合なので余計な口は挟まない。
グレイフィアから両家の者──加えて、魔王ルシファーもこの一戦を見ていると聞いて、皆一様に緊張の色をあらわにした。
リアスの兄である為か、やはりこの一戦は気になるらしい。
「そろそろお時間です。皆さま、魔法陣の方へ」
グレイフィアの言葉通り、全員が魔法陣の上へと移動する。それを確認してから、更に言葉を紡いだ。
「なお、一度あちらへ移動しますと、終了するまで魔法陣での転送は不可能となります」
勝つか負けるか。そのどちらかがはっきりするまでは、戻ってくることが出来ない。
それを再確認して、一誠達は魔法陣の光に呑まれて転移した。
●
目を開けると、光景が変わっていなかった。いや、違う所があるとすれば、一瞬前まで居た筈のグレイフィアが居ない事だろうか。後、窓の外を見ると空が白い。
一誠がリアス達へと視線を向けて見れば、戸惑っているのはアーシアのみで、他の面々は落ち付いたものだった。
教えておいてやれよ、と思いながらも、自分も教えて貰っていない事に気付く。知っていたので驚きも何も無いが。
校内放送らしき声が聞こえ、説明がなされる。説明しているのはグレイフィアだ。
今回のレーティングゲームの舞台は駒王学園。その校舎を忠実に再現した結果が、この場所ということらしい。
転移された先が"本陣"となり、リアスの本陣は旧校舎のオカルト研究部。ライザーの本陣は新校舎の生徒会室。
「皆さん、これを付けてください」
朱乃から渡されたのは、イヤホンマイク式の通信機器。戦場ではこれを使ってやり取りをするらしい。
制限時間は日の出まで。春の時期という事を考えても、六時間弱くらいしかないだろうか。
『開始のお時間となりました。それでは、ゲームスタート』
響く学校のチャイム音。これが、ゲーム開始の合図だ。
そして、レーティングゲームが幕を開けた。
●
ゲーム開始から二十分。
両陣営とも罠を張り終え、それぞれが動いていた。
一誠は小猫と共に体育館へ。木場は正面玄関前で牽制。朱乃、アーシア、リアスは部室にて待機。
眷属の絶対数が少ない為、必然的に少人数で撃破していく事になる。この辺りは仕方のない事だろう。
役に立たない奴だ、と小さく呟く一誠。
正面からでは侵入がばれてしまう為、体育館の裏側からコソコソと侵入する二人。裏口からは演壇に繋がっていたようで、幕がかかっていないので丸見えだ。
「……気配、敵です」
それに何か反応を返す間もなく、大声で声が響いて来た。
「そこにいるのは分かっているわよ、グレモリーの下僕さん達! あなた達が此処へ入り込むのを監視していたんだから」
下僕じゃねぇよ、と心の中で突っ込みつつ、溜息をつく。
ばれているならコソコソする必要も無い為、演壇の上に立って姿をさらす。体育館のコートには四人の女性がいた。
チャイナドレスを来た子、双子らしき子、
「……倍か。面倒クセェな」
「……私は
「あー、はいはい。分かってるって」
溜息をつきつつ、一誠は
チャイナドレスの子は中国拳法の様に構え、小猫と正面からやりあっている。一誠が正面にいる
「……うわぁ」
気付かない内に、一誠は引きつった顔でそれを見ていた。刀やナイフはあると思っていたが、まさかチェーンソーを持ってくるとは思わない。知っていても、やはり驚きはある。
ヒュン──と風切り音を鳴らしながら根を振る少女。顔面へと狙った一撃を首を動かして避け、一歩踏み込む動作をする。
それだけで相手は一歩引き。再度根を構える。棍を使うよりも近い接近戦は、余り得意とする所では無いのだろう。
「バラバラバラバラバラ!」
双子がチェーンソーを床に当てながら同時に直進してくる。高速回転する刃がうねりを上げ、一誠の体を引き裂かんと迫る。
それを巧みにかわしつつ、双子の動きを観察する。チェーンソーを使っているとはいえ、その動きは其処まで速くないらしい。
「おっと、危ない」
背後から寄って来た棍を使う少女の一撃をかわし、服の内側から一本の試験管を出した。
「てれれてってれー」
ふざけた様に声を出しながら、試験管の栓を抜く。そして、そのまま至近距離にいた双子の一人へと中身の液体を引っかけた。
瞬間、何かが焼けつくような音がする。
「あああぁぁああぁっ!?」
何か液体をかけられた少女の腕から、煙が出ていた。まるで、水が蒸発するかのように。
「お姉ちゃん!?」
「隙あり」
双子の片割れの視線が一誠から離れた事を確認し、背後から再度来た棍の攻撃を交わし、もう一人の双子へと同じ様に液体をひっかける。
先程と同じ様に焼けつく音がした後、チェーンソーを取り落とす。それを拾いに行く一誠へ、隙ありと棍での一撃をお見舞いする少女。
身体を捻ってその一撃を避け、一歩踏み込んで床に落ちたチェーンソーを右手で振りまわし、棍を真っ二つに切り裂く。
棍の有利性はそのリーチの長さにある。チェーンソーで切ったことで断面が鋭くなってしまった物の、リーチが短くなっては唯でさえ当たらなかった攻撃が余計に当たらなくなる。
「ゲームオーバー」
右手でチェーンソーを振りまわした勢いのまま、左手でもチェーンソーを掴んで振り上げる。
咄嗟に避けようと身を引くも、攻撃のモーションに入っていたせいで、咄嗟に方向転換する事が出来ない。
チェーンソーが人肉を引き裂く、奇妙な音がした。
激痛が少女を襲い、悲鳴が体育館内に木霊する。斜めに大きく斬られた少女は、一誠の体勢もあってそこまで深くは無い物の、明らかに戦闘を続けられるような傷では無かった。
『ライザー様の「
「まず一人、っと」
返り血で赤く染まった制服をみて顔をしかめながら、焼けつく痛みに耐えている双子の少女へと視線を向ける。
そして、戦闘不能と判断されないと見るや、チェーンソーの刃を肩口へと当てた。
絶叫が響き渡り、先程の棍使いの少女に続けて双子も転送された。
チェーンソーを見て見れば、刃が脂肪と血で切れ味が悪くなっている。もう一つ残っていたチェーンソーを使う事にして、血塗れの方のチェーンソーは体育館のコートへ投げ捨てる。
「さて、手助けは居るか? 塔城」
「……必要ありません」
「貴様……動けない者へと攻撃するなど、どういう事だ!」
チャイナドレスの子は、一誠へと怒気を向けて叫ぶ。対する一誠は、チェーンソーを肩に担いで溜息をつく。
「それは俺じゃ無くて、あの時点で戦闘不能と判断しなかった審判を恨んでくれよ。チェーンソーにしたって、お前んとこの
立場が違えば、一誠がこの電動の刃で引き裂かれていたかもしれないのだ。文句は言えない。
「ほら、よく言うだろ。『殴って良いのは殴られる覚悟のある奴だけ』って」
要するに自業自得なので怒りの矛先こっちに向けんな、という事だろう。
「貴様──ッ!」
チャイナドレスの子が一誠へと駆けだそうとした瞬間、小猫のストレートがまともに腹部へと当たる。
「ここは制圧か。吹き飛ばす前に潰しちまったな」
「……先輩、あの液体はなんだったんですか?」
「あ? これ? 聖水だよ。聖水。悪魔にとっては最高の武器だからな。十字架も一応用意してるし」
ライザーには通用しないだろうが、ライザーの眷属には通用する。必要最低限の武器として、曹操に用意して貰ったのだ。
(これで攻撃力に関しての問題もクリアだな。チェーンソーという武器も手に入れたし)
『……何と言うか、赤龍帝が武器か』
(文句言うんじゃねぇよ。今回殆ど出番ねぇんだから)
『いや、それは分かっているが……うーむ』
ぶつくさ言いだしたドライグは放って、エンジンを止めたチェーンソーを肩に担ぎながら小猫へと向き直る。
「どうする? グレモリー先輩には報告するとして、制圧したとなるとここに防衛ラインを築く必要が──ッ!!」
ゾッ! と背筋に嫌な汗が流れ、右手にチェーンソーを抱えたまま左手に
左腕に小猫を抱きかかえ、体育館の窓をぶち破って外へと転がり出る。困惑した様子の小猫は声を上げたが、全てを言う事は出来なかった。
「一体何を──」
──外に出た直後、体育館が轟音と共に爆破された。
思いついたネタ。
「ラァァァイザァァァくゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
窓のガラスを蹴り破り、赤い鎧の少年──兵藤一誠が、ライザー陣営の本陣である生徒会室へと乗り込んだ。
直後、ライザーへと放たれた魔力弾。ミカエルの力が混ざっている所為か、悪魔にとっては毒に等しい攻撃だ。
それを、ライザーは手近に居た眷属の一人を盾にして自分の身を守る。アレを受ければ、幾ら不死と言っても精神的に大きなダメージを受ける。ある意味では当然の行動だ。
「ちゃーんと狙って撃てよぉ! じゃねーと皆の迷惑だぜぇ!」
あからさまな挑発を無視し、一誠は周りにいるライザーの眷属へと視線を移す。
(邪魔っクセェ盾だな。……良いぜ、お前等も自分でこいつを主に選んだんだ。盾にされて本望だよなァ!)
直ぐ様周りにいる眷属達へと殴りかかり、次々に戦闘不能にしていく一誠。
ブーストされている身体能力のおかげか、ものの数秒で使い物にならなくなる。
「カッコイーッ! 一皮剥けやがって、惚れちゃいそうだぜ兵藤一誠!!」
「スクラップの時間だぜェ!! クッソ野郎がァあああッ!!」
……以上。パロネタ(おい
……大丈夫だろうか、ここまで書いて。ヤバそうなら消しますが。
そんな訳で、思いついたのでこの一誠を一方通行っぽくしてみたり。理由は十二巻のアジュカ。あれって絶対ベクトル操作だよな、とか思いつつ読んでました。まだ十二巻読んで無い方、すみません。ネタバレしました。
未元物質でも面白そうですが、何故クロスには禁書ネタしか浮かばないのか、俺。
おまけだと思って読んでください。……パロだし、大丈夫ですよね?