第十七話:レーティングゲーム・中盤
轟々と炎が巻き起こり、黒い煙が空を覆う。
一瞬で爆破された体育館は、最早原形を留めずに焼けて崩れ落ちていた。爆発の所為というのが一番大きいのだろうが、火災の所為で今もなお崩れ落ちている。
その直ぐ傍。爆炎の熱が肌を焼く様な至近距離で、一誠と小猫は倒れていた。
「……あっぶねぇ……いきなりの奇襲かよ、ビビったぜ」
背後から来る熱に顔をしかめつつ、体育館から遠ざかって行く一誠。背中や腕にはガラスを割った際や、爆破で飛んだであろう破片で切り傷が出来ていたが、当人は気にもしていない。
小猫も多少なり切り傷を負っているものの、一誠のそれと比べれば無傷に近い。
恐らくは後者だろう。とはいえ、本当に偶然だが。
「……先輩、どうして奇襲に気付いたんですか?」
小猫が、体育館から離れて行く一誠の後を続きながら聞く。一誠は振り返らずに答えた。
「何かヤバいものを感じたんでな。俺の直感を舐めるなよ」
何せ、オーフィスの攻撃には基本的に敵意が無い。目で見て避ける事もそうだが、何かが起こると言う直感を頼りに動く事で攻撃を避ける事も多いのだ。
敵意自体を殆ど持つ事が無いからだろうが、おかげで妙に勘が鋭くなってしまった。便利なので別に良いが。
「……爆破したのは、恐らくあの黒い影だろうな」
一誠が見つめる先にいたのは、ローブを着た女性。翼を広げて浮遊していて、魔導師の格好をしているその女性には見覚えがある。
「……相手側の『
「ああ。野郎、初っ端から飛ばして来やがったぜ」
相手は空を飛んでいる。同じく悪魔の翼で空を飛べる小猫はともかく、一誠には空中を浮遊する様な真似は出来ない。
魔術が存在するのだし、撃墜魔術でも使えれば直ぐにでも叩き落としてやれるんだがな。と思いながらも、ゆっくりと距離を取って行く。今相手をするのは得策ではないと判断したのだ。
事実、相手は強力な魔力攻撃を使って疲弊しているとはいえ、独壇場である空にいる。爆破のいい標的だ。逃げるのがベストだろう。
「連絡は?」
「……今からします」
背後でリアスと小猫が会話するのを聞きながら、一誠は注意深くライザーの
魔力をそれなりに消費したのだろうが、疲弊の色はそれほどみられない……とは言っても、結構な距離があるのでそこまで詳しい事は分からないが。
小猫が背後で連絡し終わるのを確認し、動こうとした瞬間、空を飛ぶ敵の腕が動くのが見えた。
「──チッ!」
直ぐ様小猫を掴んで飛び退き、爆破の攻撃から逃れる。あんなものを生身に喰らえば、バラバラになってしまう可能性もあるのだ。そんな事は出来るだけ避けたい。
敵の腕が再度動き、一誠達に照準を合わせ、爆破の魔力を放とうとした瞬間──横から雷撃の魔力が襲う。
結構な量の魔力が使われているようで、その範囲は広大だ。強力な雷撃が空を
「小猫ちゃん、兵藤君! ……どうやら、無事の様ね」
「姫島先輩、助かりました。危うくやられる所だった」
実際、先程の攻撃を避けるには少々力を使う必要があった。爆破範囲が広ければ、それだけ避けるのが難しいのだから。
朱乃は敵の
「あの方は私が相手をします。ライザー・フェニックスさまの
「……その二つ名は、あまり好きでは無いわね。センスが無いもの」
ユーベルーナと朱乃が話している間に、一誠は素早く戦況を理解する。
基本的な戦闘は魔力による遠・中距離戦。となれば、近距離戦しか出来ない一誠と小猫は足手まといでしか無いだろう。
確実な勝利の為に
どの道介入できる戦闘でも無い為、潔く引くのがベストと言える。チェーンソーでは長さが足りないのだ。
「……負けないでくださいね、姫島先輩」
「ふふ、大丈夫よ、小猫ちゃん。兵藤君と一緒に木場君の所へ増援に行ってください──この方は、私が全霊を持って消し飛ばします」
金色の魔力が朱乃の体を包み込み、威圧感をひしひしと感じさせる。一誠は朱乃へと、一言だけ告げる。
「頑張ってください」
最低限、相打ちにでもして。
そう思ったが、士気に関わるので口には出さない。実質最強の駒である『
そして、彼女でも勝てないと言う事は、それだけ戦力の質にも差がある事を示す。無論、戦略的な意味でも実力に上下は出るものだが、一対一ともなればそうとも言えない。
更に言えば、
木場のいるであろう運動場へと走り出した後ろで、激しい雷撃と爆音が鳴り響く。
ゲームは、中盤戦へと移行しつつあった。
●
木場の待つであろう運動場へと行く途中、アナウンスが鳴り響いた。
『ライザー・フェニックス様の「
「
「……恐らくは」
朱乃は戦闘中。リアスとアーシアにはよっぽどじゃ無ければ出てくるなと言い含めてある。
とはいえ、かなり渋っていたが。戦力が絶対的に足りていない、自分も出なければ駄目だ、と。最終的に折れてくれたので良いが。
こうなると、残ったのは木場しかいないと言う訳だ。
相手は七名リタイヤ。こちらは未だ被害ゼロ。戦果では勝っているものの、六人中二人は戦闘に参加
敵の残りは九名。未だ油断する事の出来ない人数差だ。
と、そう考えながら移動していた時、一誠へと声をかける人物がいた。
「兵藤君」
声は小さかったものの、小猫がそれを聞き逃さない。考え事をしていて聞こえなかった一誠を引き留め、体育用具を入れる倉庫の物陰へと隠れる。
「木場か。状況は?」
「さっきのアナウンスで聞いたと思うけど、『
「奪った」
簡潔に告げた一誠は、周りを見渡して地形を確認する。
部室棟は重要な位置にある。其処を狙ってくるのは当然であり、だからこそ木場が配置されたのだ。
「ただ、ここを任せられているリーダーが挑発に乗って来ない。かなり冷静な人物だよ……いや、どちらかと言えば、みていたと言った方が近いのかな?
「なるほどね……」
考え込む一誠。出来るだけ自分達の陣地に誘いこんで倒したい所だが、
そして、その作戦は成功している。確実に倒せるだけの人数を持って、木場を撃破しにかかるだろう。増援が来た以上、そう簡単にやられる事も無いが。
「ここを仕切っているのは『
「……予想通りというか、何というか。えらく警戒されてるな」
「……多分、さっき体育館が爆破されたから、その分こっちに回したんでしょう」
よく無事だったね、と驚いた眼で木場が見てくるが、兵藤先輩の勘のおかげです、と小猫が答えていた。
それを無視し、一誠は次の一手を考える。
侵入ルートである体育館と運動場。その片方が潰されたのだから、もう片方に戦力を集めるのは至極当然だ。自分たちだってそうしているのだし。
「やれやれ、視界が良い所為で厄介だな。視界が悪ければ、奇襲なりなんなり出来たんだが」
「……兵藤君、君は、緊張していないのかい?」
溜息をつき、座りこんで考える一誠に、木場が声をかけた。
一誠は目線だけを木場へと向け、言う。
「して無い訳じゃねぇよ。ただ、重圧という点ではお前らよりも軽いのは確かだな。グレモリー先輩の事なんて正直関係無いし、個人的に売られたケンカを大衆の前で見せびらかされてるだけだ」
「……そう。まぁ、そうだよね。部長の事は関係無い。でも、このゲームの間、僕等は仲間だ。必要であれば、頼ってくれて構わないよ?」
「ああ、助かる」
既に計算に入れている、とは言わない。
「……私も」
コツン、と拳をあてると、小猫も手を差し出す。三人で拳を合わせた直後、声が響いた。
「私はライザーさまに仕える『
野球部のグラウンド。その中心に、声の主は居た。
甲冑を装備した豪胆な女性だ。遠距離武器が無いのが悔しい所だが、それは仕方が無い。
一誠の隣で木場が薄く笑う。
「あそこまで言われたら、同じ『騎士』として、剣士として、隠れている訳にもいかないね」
「……いやいやいや! 待て待て待て!! お前、何行こうとしてんの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
出て行こうとした木場の腕を掴み、強制的に引き戻す。その様子に、むしろキョトンとしたのは木場の方だった。
「放っとけばいいんだよ。これはゲームとはいえ、戦争だ。戦いに騎士道もクソもあるか。勝てばいいんだよ。相手の挑発に乗ってどうする」
「いや、だから、剣士として名乗られた以上は──」
「それが馬鹿だってんだよ。良いか、よく考えろ──この一戦。お前の主の結婚がかかってんだろ? 正直にいえ。お前、結婚に賛成か? 反対か?」
突然の質問に、木場は困惑した様子で答える。
「それは……部長自身は反対の様だし、そりゃ僕だって反対だよ」
「なら、尚更駄目だ。勝手な行動をするな。お前の騎士道精神とグレモリー先輩の婚約のかかったこの勝負の行方。どっちが大事だ?」
そこまで問い詰めた所で、木場は返す言葉に詰まる。正論故か、反論が出来ない。
そう、自分勝手な行動で戦力を減らし、負けてしまったら──そう考えたのだ。
「……分かったよ。遺憾ではあるけど、部長の為だと思えば耐えられる」
「よし。……所で、お前
「? どうしたの? 藪から棒に」
「良いから答えろ。戦力の把握だ」
むしろ今まで教え無かった方が問題なのだが、この際それは置いておく。
「僕の
なるほど、と呟き、思考する様に手を顎へとやる。そのまま数秒した後、木場へと再度問いかけた。
「じゃあさ、お前
「カラドボルグ? ……いや、アレは魔剣じゃないし、多分無理だと思うよ」
多分木場の言っているカラドボルグは原典の方だが、それは別にどうでもいい。
「別に本物じゃなくて良いんだよ。こう、矢の形に近い感じの奴。後、弓も作れねぇ? 適当にやれば射抜けると思うんだが」
「無茶を言わないで欲しいな……矢に近い形状の刀なんて作った事無いから」
「……じゃあ、アレだ。
「だから無茶を言わないで……」
木場が頭を抱え始めた。そんな物を作った事は無い為、やり方が分からないと言う。
それならまぁ、仕方が無いので他の案を考える事にする一誠。というかそもそも、弓の腕前自体大したものではない筈なのだが、何故撃ち抜く事に拘ったのだろうか。
それはともかく、木場の
恐らく、火や氷といった類の能力を生みだす事は簡単なのだろう。だが、形状が剣を逸脱していたり、概念的な意味での能力に近いものは作り出せない。
それならそれでやり様がある。多少時間はかかってしまうが。
「──よし、行くぞ」
一つの案を考え、一誠は二人へと告げた。
●
「……ふむ。やはり出てこないか」
鞘に入った剣を持てあましつつ、ライザーの
「当然でしょう。あんなので出てくるのは余程の馬鹿位ですわよ?」
その横には金髪の縦ロールという、今時珍しい位の典型的なお嬢様タイプの
「……どうやら、相手はその馬鹿みたいだけど」
仮面で顔の半分を覆った、ライザーの
三人は新校舎へと入る正面玄関の防衛を任されている。他に
そして今、その木場が一人で三人の正面に現れたのだ。
三人はそれぞれ警戒の色を強めながらも、少しばかり呆れた感情が出ている。
当然だろう。何せ、カーラマインの呼びかけにこたえて、たった一人で出て来たのだから。馬鹿としか言いようが無い。
「リアス・グレモリー眷属『
威風堂々と、剣を携えた状態で現れる木場。
「なるほど……嬉しいぞ。お前の様な戦士がいて。先程の挑発に乗るのは正気の沙汰ではないが、堂々と正面から来てくれるのはありがたい」
「僕も、個人的には尋常じゃ無い斬り合いを演じて見たいものでね──『
互いに笑みを浮かべ、鋭い眼光を浮かべ、殺意と敵意を混ぜ込んだ気迫が場を満たす。
これは一対一の勝負だ。手を出すなと、目を向けて他の二人へ伝える。不本意ではあるようだが、どの道一人なのだ。手を出す気は無いらしい。
「さぁ、これで思う存分斬り合える──行くぞ」
地面を蹴り、姿勢を低くして斬り込むカーラマイン。完全に反応した木場は、その刃を手に持つ刀で受け止める。
「……やるな。流石はリアス・グレモリーの
「光栄だよ。ライザー・フェニックスさまの
つばぜり合いから一転、距離を取って再度刀を構える。
「これは私も出し惜しみをする必要は無さそうだ」
そう言って、カーラマインは刀に魔力を纏わせ、纏わせた場所から炎が現出した。フェニックスの眷属だからこその技法だろう。
「へぇ。それじゃ、こっちも手札を切るとしよう!」
木場は右手に、今まで持っていた刀とは別の刀を現出させる。
「──本当なら、こんな手は使いたく無かったんだけどね」
ぽつりと呟いたその言葉に不信感を抱きながら、カーラマインは警戒心を高めた。
しかし、攻撃に使うと思われたその刀を中心に、爆風が巻き起こる。それは砂を巻き上げ、此処にいる全員の視界を遮った。
「視界を遮るだと? 卑怯だとは言わんが、こんなやり方で私が倒せるとでも──」
カーラマインが風の音に負けない様な大声を張り上げる。そして、まるでその声を頼りに動いたかのように、カーラマインの背後に一つの影が現れる。
ブロロロロォォォン!! と、ひどく耳障りなエンジンの駆動音の様な物が聞こえてきた。
カーラマインの聞き覚えがある、チェーンソーの駆動音。
「取ったりィ──ッ!」
チェーンソーを振り上げ、今にも振り下ろそうとしている一誠。どの道チェーンソーの爆音で場所も目的もばれている。ならば、いっその事派手にやらかそうと言う事になったのだ。
左手に出現している籠手が光っており、能力が倍加されていることが分かる。──但し、倍加されているのが一誠とは限らないが。
咄嗟の事とはいえ、仮にも
ギャリギャリギャリ!! と金属が擦れる不快な音が響き、カーラマインが顔をしかめた。砂ぼこりが撒き上がっている所為で、直ぐ傍にいる筈の一誠の表情すら満足に見えない状況だ。
そして、チェーンソーの駆動音と金属が擦れる音の所為で、この視界の中でも二人の場所は丸分かりだった。
「──済まない。だが、僕らも負けられない理由があるんだ」
一閃。鋭く振るわれた一撃の下、カーラマインは倒れ伏す。背中に傷を負っているものの、致命傷になる様な傷では無い。
『ライザー・フェニックスさまの「
チェーンソーの所為でアナウンスさえ満足に聞こえない。だが、木場の顔は険しかった。
木場が剣を振るい、風が止む。
「……こっちも、上手くいきました」
砂埃が晴れ、二人が見たのは、多少なり傷ついているものの、勝利した小猫の姿だった。
作戦は簡単だ。
まず木場が視線を惹きつけ、二人が最大限隠れながら近くまで寄る。その後、タイミングを見計らって木場が砂埃を起こし、一誠が派手に突進。
それに合わせて、
一誠達の方はともかくとして、小猫は一人で相手にしなければならなかった。戦力の偏りが出てきてしまうのだ。それも、近くには
その為、一誠はチェーンソーの駆動音に紛れて小猫へとブーストをかけていた。ほんの一瞬だけなので、瞬間的に、無意識に自身の力を使ったとでも思わせる事は出来るだろう。
何せ、小猫は元"猫又"だ。仙術を扱える妖怪の一種。ならば、無意識に使っても不思議ではあるまい。
「まぁ、その辺は賭けになる訳だが」
チェーンソーを構えたまま、一誠は小さく呟く。どの道何時までも隠しておけるとも思っていない。この先の事を考えれば、力がバレるのは仕方が無いだろう。
だが、『
「……さて、後は君だけだ。どうする?」
「私、やりませんわよ?」
木場が刀を構え、小猫が拳を構え、一誠がチェーンソーのエンジンを切った所で、レイヴェルがさも当然の様に言う。
「別に信用出来ないなら見張りでも何でもおいて構いませんけど、私に戦う気が無い事だけは承知しておいて欲しいですわね」
つまり、此処にいれば戦力に成れない、という事。
当然、後ろから不意打ちをされる様な事になるのは不味い。その為、必然的に監視を残すかここで倒すかの二択に絞られる。
「じゃあ、自分からリタイヤ宣言をしろ」
一誠はチェーンソーを肩に担ぎ直し、レイヴェルへと告げる。
ここに居座られても邪魔なだけだ。例え邪魔をしないと分かっていても、居るのといないのでは精神的な意味合いが違う。
その事を告げてやると、溜息をつきながらも従った。
「……分かりましたわ。其処まで言うなら──審判! 私、ここでリタイヤ宣言をしますわ!」
会話を聞いているであろうグレイフィアへと語りかける。数秒後、アナウンスと共にレイヴェルが光に包まれて消えた。
妙に長くなった今回。原作からの引用は出来るだけ内容にしていますが、状況はくりそつ(何
……まぁ、三人称で書いてるので幾らでも改変の使用はあるのですが。
戦力は現在六対六。一応同数になってますが、まぁ女王は負けるので実質五対六……どころか、アーシアもリアスも戦わないというか戦わせないので、実質三対六ですなw
まぁ、展開をひっくり返す可能性なんて幾らも残っている訳ですが。