終盤であっても終幕では無いです(え
第十八話:レーティングゲーム・終盤
「さて、と。後六人だな」
一誠が正面玄関で、呟くように言う。
「しかも、敵の陣地での戦闘だ。
「……強敵です」
圧倒的に不利。文句のつけようがない位、一誠達には不利な要素が揃っている。
「まぁ、俺達の陣地に攻め込ませれば、トラップがある分幾らかやり易いんだが……」
「そうもいかないだろうね。敵も警戒しているだろうし、何より部長達に危険が及びかねない」
最悪の場合は出て貰う事になるかもしれないが、出来得る限りは出さない。チェスをやる上での当然の行動だ。
とはいえ、現在進行形でライザーが侵入しようとしている可能性もある。警戒心を持っておかなければ、やられる可能性は十分にある。
「塔城、お前、最悪の場合はキャスリングが出来るように準備しておけよ」
「……分かりました」
キャスリング。
上手く使えば、リアスがやられそうになった瞬間に入れ替えて守ることが出来る。無論、その場合はこちらの戦場に放り込まれる事になるが、一誠と木場がいれば逃げ道位作る事は出来る筈だと思っている。
「──っと、早速敵さんのお出ましかよ」
踏み出そうとした一歩を踏み止め、チェーンソーを構えて敵を見据える。
敵は五人。ライザーとユーベルーナを除く全員が、この場に集まっていた。
「みーつけた」
「校舎の中を捜し回る羽目にならなくて良かったね」
「そうなると面倒だしね」
くすくすと笑いあうライザーの眷属達。自陣だと言う事と、人数差。この二つがあるせいか、余裕を持っているように感じる──いや、最早余裕では無く、慢心と言い変えても差し支えはあるまい。
『
『
しかし、ライザーは頭が悪いのだろうか、と一誠は思う。
普通、敵陣営に乗り込んだなら真っ先に伏兵と罠を使って翻弄し、散り散りにさせた所で一気に叩くのが定石の筈だ。
加えて、一誠達は他のライザーの眷属を倒して来ている。四人をポンと放っただけで勝てる相手でない事は明白である筈。
それでもなお余裕を失わないのは、ライザー自身が不死で上級悪魔だからか。それとも唯の慢心故か。
「ま、関係無いわな」
チェーンソーを床に置き、片手に幾つもの試験管を用意する。指の間に挟み込むようにして計四本持ち、木場と小猫は一誠を挟んで背中合わせになっている。
「木場、動きを止めろ」
「了解」
一誠の指示に従い、直ぐ様木場が
動きを止める為に最適な能力は何かを判断し、必要な魔力を込めて手の中へと現出させる。
「──凍えよ」
木場の手の内に現れる一振りの剣。純白の刀は雪を思わせ、その刀身から発される魔力が周囲を凍りつかせ始めた。
「
小猫の構えている側にいる
冷気がある所為で少々肌寒いが、試験管の中身はこの気温の中でも凍っていない。それでも、若干凍り始めている。急いだ方が良い。
「シーリス、そっちの
シーリスが背中から幅の大きい剣──クレイモアを手にし、ニィと共に木場へと迫る。
一撃が重い大剣の攻撃は、防御力の低い木場にとって致命的だ。しかし、それは現在の一誠とて同じ事。
要は、どれだけパワーがあっても当てられなければ同じなのだ。だが、それをカバーする様に獣人であるニィが素早く動く。
「くっ、兵藤君、小猫ちゃん!
二振りの刀で応戦する木場だが、
そして、
何せ、
「まぁ、今更言ってもしゃー無いわな」
四本の試験管の栓を抜き、中身の液体を
だが、
相変わらず足元の氷を壊そうと奮闘し、魔力弾を放って木場をけん制している。
(……試験管の中身がばれてるのか?)
こちらと同じ様に、何かしらの通信機器を持っているのだろう。そして、あの
双子の子たちが倒れ込んでいる時、何かしらの方法を使って通信したと考えるのが妥当だろう。
ならば、聖水は使うだけ無駄だ。
一誠の方へと飛んできた魔力弾を避けつつ後退し、チェーンソーを取って直ぐ様エンジンをかける。
「塔城!」
「……分かっています!」
引いた一誠に代わり、背後から小猫が素早く飛び出す。小猫は相手の
流石は
数回バウンドして倒れ伏す
当然、至近距離からの魔力弾を避けるだけの時間も無く、直撃して小猫の体が飛ぶ。
「チッ!」
吹き飛んだ小猫を横目に、
直ぐ様避けて魔力弾を撃とうとする
十分な位置にまで踏み込んだ一誠は、チェーンソーを大きく振りまわして
彼女が倒れ伏すと同時に、アナウンスが鳴った。
『ライザー・フェニックスさまの「
よし、と一息つく間も無く、木場から声が上がる。
「こっちの援護も頼むよ!」
「分かってるよ」
チェーンソーを再度構え直し、小猫の方を見る。
魔力弾が直撃した所為でダメージこそあるものの、まだ動ける様だ。並みはずれた防御力は伊達じゃ無いらしい。
「ニィ、あっちの人間の方をやれ! ライザーさまが直々に倒したがっていたが、奴は残すと厄介になりそうだ!」
「にゃ!」
頭部に獣の耳を生やした女の子が、目にもとまらぬ速さで一誠へと迫る。
「クソッ、こっち優先かよ!」
獣人と言うだけあり、体術も速度も並はずれている。
しかし、速度は木場に及ばず、体術は小猫に及ばない。平均的な意味であれば上を行く可能性もあるが、少なくとも一誠には避けられて当然の筈だった。
そう、
「が、あッ……!」
突如、爆音と雷鳴が轟いたかと思えば、新校舎のガラスが残らず割れたのだ。音が衝撃波となり、ガラスの破片が雨の様に一誠を襲った。
当然ニィにも襲いかかった筈だが、姿勢を低く保って被害を最小限に保ち、ガラスの雨を走り抜け──一誠へと一撃を当てる。
ガラスの破片とニィの体術にやられ、一誠はチェーンソーを手放した。
全身に切り傷が出来、殴られた左腕はじんじんと痛む。
だが、その状況でも一誠は引かなかった。
『Boost!!』
「オ、ラァッ!!」
至近距離に迫っていたニィの顔面を、懐に忍ばせていた十字架を持って殴り飛ばし、未だ刃が回転し続けているチェーンソーを蹴り飛ばす。
地面を滑るように移動するチェーンソーは、倒れ込んだニィの右腕へと食い込み、血をまき散らす。
当然、抑えられていない為に直ぐ刃が抜けるものの、十字架の力とチェーンソーの刃が食い込んだ事で身体はボロボロだ。先程までの動きは期待できない。
そして、一対一へと持ち込んだ木場はと言えば、やや木場が優勢な状況を保っていた。
小猫をニィの方へとぶつけ、一誠は大きな傷だけを破った制服で止血し、木場と戦っている
「くっ!」
木場と打ち合いをしていて、姿勢を崩した所へと投げ込んで来たのだ。避けきれる筈も無く、試験官が割れて聖水を直に浴びるシーリス。
水が蒸発する様な音がした後、動きが止まった所で木場が切りかかり、そのまま倒れた。
小猫も無事倒せた様で、アナウンスが鳴って一息つく三人。
「……あぁ、キツイ」
「兵藤君、傷は大丈夫かい?」
「……
「問題無い。傷が酷い所は止血したし、面積が小さいとはいえチェーンソーが盾になったからな」
それでも、ガラスの破片で切り傷を幾つも追った事に違い無い。
「……さっきの爆音は、多分朱乃さんだと思うけど……」
「……苦戦しているんでしょうか」
「それならそれで良いさ。このまま時間を稼いでくれればな」
ライザーを倒すだけなら、出来ない事も無いだろう。赤龍帝だとバレる可能性は高くなるが。
(……いや、別段勝つ必要性も無いか? むしろ、赤龍帝である事を隠すならこのまま適当に負けた方が楽かも知れねぇ)
『だが、喧嘩を買ったんだろう? お前、ここまで来て引き下がるのか?』
(……そうだなぁ。取りあえず、あの野郎の顔面にストレートブチ込んでから考えるか)
喧嘩を買ったのは確かだし、むかついたのも確かだ。初見であそこまで人を馬鹿にしてくる奴も珍しい。
あちらが上級悪魔で、こちらが唯の人間の一般人という事もあるのだろうが。
「取りあえず、少し休んでからライザーを探し──ッ!」
『リアス・グレモリーさまの「
アナウンスが響くと同時、跳ねるように立ち上がった一誠は木場と小猫の首根っこを掴み、近くの教室へと隠れた。
瞬間、先程まで一誠達が居た場所が爆破される。咄嗟に移動したおかげでダメージは少なかったものの、教室と廊下を隔てる程度の壁では大して防壁にならなかったらしい。
爆発の衝撃が壁を大破させ、一誠達に襲いかかった。
「……ッテェ……!」
頭を打ったのか、額から血が流れていた。しかし、其処まで重傷では無い。気にするほどではないだろう。
木場と小猫はと言えば、やはり一誠同様に校舎外側の壁と教室と廊下の間の壁が多少なり緩衝材になったらしく、傷を負いながらも立ち上がるのを視認出来た。
「負けたのかよ、ウチの
分かっていた事ではあるものの、タイミングが良過ぎる。まるで、何者かが図っていたかのような錯覚さえ感じてしまう程に。
敵の
「今のうちに、どうにかして奴を倒したい。……何か、攻撃手段は?」
「僕と小猫ちゃんは一応悪魔だし、羽を使って空を飛べるけど……」
「止めて置いた方が良い。あの女、爆破を主に使うからな。空じゃ奴の独壇場だ」
「なら、どうすれば……」
悔しそうに床を叩く木場。自陣でも一番強いであろう朱乃をやられているのだ。最低限傷は負わせているだろうが、『フェニックスの涙』で回復されている可能性も否めない。
そうなれば、朱乃の戦闘は無駄になってしまう。いや、『フェニックスの涙』を使わせただけ良しとするべきなのだろうか。その辺りの判断は、一誠には付かない。
「……木場。お前、魔剣はどれ位まで伸ばせる?」
「……え?」
「……僕の魔力を編んで作ったものだけど、最大でも十メートル弱。と言っても、それを振りまわすと構成がブレるから余りやりたくは無いね」
「振る必要は無い」
「……どういう事だい?」
一誠が左腕を見せる。其処には、赤い籠手が付けられていた。
「俺の
この期に及んで『
「これを使って、あの女を地べたに這いつくばらせてやる」
●
「……おかしいわね」
ユーベルーナは一人、空中で佇んでいた。
リアスの
朱乃の敗北がアナウンスされると同時、警戒心を持たれる前にと、先程戦闘中に聞こえてきたチェーンソーの音の辺りへと爆発を放った。校舎の中にいては見えないのだから仕方が無い。
それに、それなりの魔力を込めた。例え直撃で無かろうと、人間に耐えきれるものではない筈だが──?
そう考えるユーベルーナだが、考えるだけでは物事は進まない。もう一撃爆破するべきかと悩んだ所で、不意に強力な魔力を感じた。
(これは、一体──ッ!)
もしかすれば、自身さえ上回る可能性のある魔力量──それが敵陣営にいるとするならば、朱乃よりも脅威になる可能性は高い。
そして、眷属の殆どがやられた理由も分かる。
早急に倒さねばならないと、爆破の為の魔力を集めた所で──ユーベルーナの胸を一振りの刀が貫いた。
「…………え?」
余りの事態に、呆然とするユーベルーナ。当然だ。刀が伸びているのは、校舎の中──いや、窓際にいる二人の手元からだ。
直線にしておよそ二十メートル強はある筈のユーベルーナとの距離を、ものともせずに貫いている。
「……どう、して……?」
状況を理解出来ぬまま、ユーベルーナは光に包まれて消えた。
●
「……凄い」
「……これは、一体……どうなっているんだい、兵藤君?」
手元にある長大な刀を見て、信じられない様子で呟く二人。一誠は壁に寄り掛かって休みながら、二人に答えた。
「言っただろ。俺の
「……それでも、ここまで上手く行くなんてね……ちなみに、倍加で何処まで伸びると予測できる?」
「13キロだ」
「え?」
「ああ、いや。冗談だ。流石に音速の500倍で伸縮したり、13キロも伸びたりはしないだろう」
ついでに言うなら、刀身が毒になったりもしないだろう。
それはともかく、これでライザーの眷属は全て倒した事になる。
「野郎は今、丸裸って訳だ」
「そうだね。でも、油断する訳にはいかない。……ここまできたら、部長とアーシアさんを呼んだ方が良いんじゃないかな?」
全員が少なからず傷を負っているし、アーシアの力があればそれを癒す事が出来る。戦力的にもリアスは貴重だし、
ならば、いっその事ここに呼んだ方がいいのではないか。木場はそう言うのだ。
「……どうだろうな。相手はフェニックスだ。不死である以上、幾らグレモリー先輩でもキツイ所があるぞ?」
「それを言ってしまえば、君だって
「そりゃあそうだが……」
床に座り込んで休む二人は、座ったまま話し続ける。リアスを呼ぶか呼ばないか。この状況で
小猫も、基本的には寡黙であるものの、今回は自分の意見も言う必要があると口を開いた時、耳に付けてある通信機からアーシアの声が聞こえた。
『た、大変です! ライザーさんが、この旧校舎に乗り込んで来ました!』
原作からしてシリアスにギャグを混ぜるスタンスなので、それに乗っかってみた(おい
ガラスの破片で傷を負いまくった一誠。そして譲渡の力で木場の魔剣を強化、と。
書きたい事は大体かけたので、後はライザー戦ですな。ぶっちゃけ潰す方法だけなら幾らでもありそうな気がしますけど。
ちなみにチェーンソーは健在ですよ(え