午前零時から午前一時にかけての一時間でユニークアクセスが三千人を超えている件について(何
……おっかなびっくりです。
第二十六話:事後処理
コカビエル襲撃の翌日。
取りあえず家に帰って部屋の床で寝ていた一誠だが、朝からイリナに踏まれて起こされたりと散々な起床方法だった。
脇腹を押えながら、一誠は起き上がって痛みに呻く。
「いてぇ……」
「イッセー君がそんな所で寝てるからでしょ」
「お前……人が頑張って戦ってきたっつーのに、なんて扱いだ」
踏まれたと言うより、寝ぼけたイリナが足元の一誠に気付かずに蹴っ飛ばしたといった方が正しい。
とはいえ、一誠からすればどちらも同じ様なモノだ。わき腹を蹴られて若干不機嫌なものの、別に怒っている様には見えない。
イリナはジロジロと一誠の姿を見て、疑問の声を上げた。
「……怪我して無いの?」
「俺は避けるの専門なの。攻撃を受けるのは避けられない時だけだ」
言うのは簡単だ。口でなら誰だって言える。
それでも、あの二人を相手に防御しないと言うのは至難の業だ。絶技と言っても差し支えないほどだろう。
「ちゃんと帰って来たんだから、お前に文句を言われる筋合いは無いっての」
「うん……約束、ちゃんと守ってくれたね」
「当たり前だ。……ところで、お前。その格好で部屋から出るつもりだったのか?」
「え……?」
言われて気付くイリナ。──昨夜から、下着姿のままなのだと言う事に。
理解すると同時に、一気に顔が真っ赤になる。恥ずかしさが最高潮に達したらしく、そのまま後ずさってベッド上の布団を被る。
「な、何でもっと早く教えてくれなかったの!?」
「……いや、気付くだろ、普通。俺には何で気付かないかのほうが気になるんだが」
呆れた表情で言う一誠に、ふくれっ面で文句を言うイリナ。
それを傍目に、血塗れの服を見る一誠。どう見ても着れそうにないそれを、どうしようかと悩んでいる様にも見える。
「とはいえ、お前が着る服は血塗れで着れたもんじゃねぇしな。切られたりして破けてる所が多々あるし」
「荷物は近くのホテルに置いてあるから、其処までいければいいんだけど……」
「……仕方ない。俺の服貸してやるから、今日はそれ着て過ごせ。ちょっとサイズが大きいかもしれないが、文句は言うなよ」
クローゼットの中に入ってるから、好きなのを着ろ。それだけ言って、一誠は階下に降りて行った。
残されたイリナは、一誠が下りたのを確認してから立ち上がり、クローゼットを開ける。中には幾つかの服があるが当然ながら男物であり、イリナが普通に着れるものは少ない。
ダボダボで裾を曲げなければ踏んでしまいそうなズボンと半袖の服。それらを取りあえず見繕って着てみるが、何となく似合わない。
「……まぁ良いわ」
イリナは今まで宗教にのめり込んでいたせいで、お洒落と言うものを余りやったことが無い。なので、取りあえず着られればいいやという事で適当に選んだ。
これからどうしようかと悩んでいた時、部屋のドアが開く。
「イッセー、部屋にシャツをおい、て……」
階下にいるであろうイッセーに向けて言った言葉なのだろう。だが、部屋の中にいるイリナを見つけるなり、硬直する一誠の母。
「……お、お邪魔してます」
二人の間に気まずい空気が流れる。
「あちゃー……」
一誠の母親の後ろで、一誠が頭を抱えている。イリナが着替え終わった後と言うのがせめてもの幸運だろうか。下着姿ならどんな誤解を受けたか分かったものではない。
一誠の母親はゆっくりと振り向き、一誠の肩を掴んで力強く告げた。
「責任はちゃんと取るのよ」
完全に誤解していた。
一誠の服を着ていたのが原因だろうか。何にせよ、厄介な事になったなぁと他人事のように思う一誠。
何故か軽い足取りで階段を下りて行く一誠の母親を見ながら、一誠はイリナへと声をかける。
「……取りあえず、朝飯食うだろ。母さんにバレたんだし、もう隠れる意味もない」
「そ、そうだね」
未だに動揺しているが、イリナは一誠の後ろについて行く。テーブルに着いた所で一誠の父親が目を丸くして驚いていたが、母親が耳元で何かコソコソと話すと、感極まった様に泣きだした。
「イリナちゃん……こんなバカ息子だが、一誠をよろしく頼む」
「おいコラ、何処まで勘違いしてんだよバカ親父」
二人の異常な反応に一誠は額に青筋を浮かべ、イリナは顔を赤くして俯いていた。
「いやぁ……滅多に友人すら家に招かないお前が、女の子を呼ぶとはな。朝に帰っても大丈夫なのかい、イリナちゃん?」
「だから勘違いするなっての。別に何もねぇよ」
そのまま両親二人が勘違いの会話を繰り広げるのを疲れた目で見ながら、一誠は朝食を食べ終えた。
その後制服に着替え、イリナと共に部屋に戻り、携帯が鳴っているのを見つける。木場からだ。
「……もしもし?」
『ああ、兵藤君。紫藤イリナさんの居場所を知らない? 昨日コカビエル達のアジトに乗り込んだ時にやられて、そのまま行方不明なんだけど……』
「ウチにいるけど?」
『え?』
驚いている木場を傍目に、イリナの方を向く一誠。そのまま携帯を渡しながら説明をする。
「イリナ、木場から。昨日連れ去られてから行方不明なんで、探してるってよ」
「あ、そうよね。連絡もしてないし、ゼノヴィアも心配するよね」
携帯を受け取り、木場と幾らか会話をする。事の顛末は会ってから話すようだが、簡単に説明は受けたらしい。
「バルパー・ガリレイは殺害。エクスカリバー五本の欠片は回収出来た……うん。任務は達成ね。私は役に立てなかったけど……ああ、主よ! お役に立てない私をお許しください!」
いきなり祈り出したイリナを放って、一誠は学校の準備をする。一応確認しておくが、今日は平日だ。
昨日は学校が半壊した上に、体育館は吹き飛んでいるが。その辺は悪魔が何とかするだろ、と一誠は気軽に考えている。
と言うか、していなかったら臨時休校でちょっと得するのだろうが、それは無いだろう。
「イリナ。お前、ホテルに行って荷物取ってくるんだろ? その後はどうするんだ?」
「うん。私はバルパーの遺体とエクスカリバーの欠片を持って、教会の本部へ帰るわ。ゼノヴィアも同じよ」
遺体を持っていくと言うのも若干どうかと思うが、その辺は教会の方で手配するのだろうと考えた一誠。
「そうか。それじゃ、俺は学校に行く。服は洗ってからちゃんと返せよ」
ぶっきらぼうにそう言った後、鞄を持って部屋を出る。イリナも直ぐに家を出るようで、必要なモノを持って一緒に玄関から出た。
血塗れの服はビニール袋に入れて持って来たので、誰かに見つかる心配は無い。
「また後でな」
「うん、また後でね」
そのまま、二人は別方向へと歩み始めた。
●
イリナが教会本部へと行き、コカビエル襲撃事件から数日が経った。
案の定リアスから呼び出された一誠は、渋々ながらに部室へと入る。そこで最初に目に入ったのは、駒王学園の制服を着た少女──ゼノヴィアだった。
「……悪魔になったのか」
「察しが良過ぎるぞ。もっとこう、驚く所が見てみたかったんだが」
「いや、イリナから聞いてたし。随分と残念そうだったけどな。同じ聖剣使いが悪魔に下るって事で」
「……そうだな。イリナには悪い事をしたかもしれない。次会う時は敵だな」
目を細め、少し悲しげの表情を浮かべながら、ゼノヴィアは呟く。
イリナの事で、少なからず思う所があるのだろう。一誠はそれを気にせず、次の話題を振る。
「教会の方は何も言ってこなかったのか? 折角のデュランダル使いをみすみす失う結果になった訳だが」
「私が神の不在の事を知っていると告げると、何も言わなくなったよ。これで晴れて教会の『異分子』となった訳だ」
神の不在を知る者は、教会にとって不都合な存在だ。だからこそ、あちらは何も言わないし、これからは敵として狙う事になる。
ふぅん、と適当に返事をしてソファに座る一誠。それを確認した後で、リアスが口を開いた。
「教会は今回の事で魔王側に打診してきたそうよ。『堕天使の動きが不透明で不誠実の為、遺憾ではあるが連絡を取りたい』──と。それと、バルパーについても謝罪してきたわ」
過去に逃した自分達の責任だ、と。敵同士である為、謝罪を送る事は抵抗があったのだろうが、それでも木場達には良い結果と言えるだろう。
ちなみに校舎は魔王の関係者が修復してくれたため、本当に一晩で修復されていた。
「コカビエルについては、堕天使側の総督であるアザゼルから魔王側と神側に真相が伝わってきたわ。今回の件は全てコカビエルの独断。再び戦争を起こそうとした罪により、『
白龍皇が介入して連れ去ったコカビエルは刑が執行され、一誠が生きている間は二度と会う事は無いだろう。会いたくも無いが。
「近いうちに天使側の代表、悪魔側の代表、アザゼルが会談を開くらしいの。なんでも、堕天使側から話したい事があるらしいから。その時にコカビエルの件に関しての謝罪をするつもりと言われているけど、どうかしらね」
「……まぁ、傲慢働いて天使から堕落した存在ですからね。真面目とかまともな奴が少ないでしょう」
リアスの言葉に、一誠が嘆息しながら言う。
神に反逆した天使。人間の美女に騙されて堕落した天使。聖書では大体こんなところだろうか。ちなみに前者で代表的なのはルシフェルで、後者で代表的なのはアザゼルだ。
「それにしても、三大勢力が一堂に会する訳ですか……碌な事が起きなきゃいいですけどね」
正に事を起こす組織に属している一誠だが、曹操からは未だ何の連絡も無い。このまま何の連絡も無いのなら、一誠は特に協力せずにいるつもりだ。
どの道、しばらくはここで過ごすつもりでもある。
「警備はちゃんと厳重にするでしょう。……それと、私達もその場に招待されているわ。今回の件について報告しなければならないの」
リアスの眷属達が驚きの表情を浮かべる。これは予想外の出来事らしい。
「……それで俺を呼んだ訳ですか」
「貴方がコカビエルを倒した当事者だもの。当然、私達と一緒に出て貰うわ」
やれやれ、と溜息をつく一誠。
「今回呼び出した用件がそれだけなら、俺はもう行かせてもらいますよ。この部活の部員じゃありませんからね」
手をひらひらとさせながら、一誠は部屋から出て行った。
●
家につき、鞄を置いて着替える。キッチンで適当に水分補給をした後で部屋に戻ると、曹操と共に入れた覚えのない人物が部屋の中にいた。
「こうして会うのは初めてになるな。──今代の白龍皇、ヴァーリだ」
「おい曹操。どういう事だテメェコラ」
一誠が額に青筋を浮かべながら曹操へと問う。
曹操は肩を竦め、軽い調子で話す。
「どう、と言われてもね。彼が君に会いたいと言うから、連れてきただけだよ。今は堕天使側の存在だから余り派手に動かないで欲しいんだが」
「そう言うな。普段の赤龍帝と一度会ってみたかったんだ。それに、話したい事もある」
ヴァーリと名乗った銀髪の少年は、一誠をジッと見ながら言った。
一言で表すとすれば、美少年だ。
ダークカラーの強い銀髪。顔の造形は整っており、外見的な年齢は一誠よりも下に見える。
透き通った蒼い眼が一誠を見透かすように射抜き、強い存在感を発している。
「……話したい事、ね」
平静を保ちながらベッドの上に腰かけ、ヴァーリと曹操を床に座らせる。不法侵入者にはこれで十分だとでも言いたげな表情だ。
「今度、駒王学園で三大勢力の会談がある事は知っているか?」
「……ああ、今日聞いたよ。リアス・グレモリーからな」
ヴァーリの言葉に頷きながら答え、先を促す。
「その時、俺は旧魔王派の一人と共にクーデターを起こす。旧魔王派としての目的はトップ陣の誰かを殺せればいいんだろうが、俺は観察役だ」
この会話が出ると言う事は──と言うか、曹操と一緒にいる時点でヴァーリが『
「本題はここからだ──赤龍帝、兵藤一誠。クーデターを起こした時、俺と全力で戦ってくれ」
「……理由は?」
一度目を瞑って思考し、理由を問う。
「理由? そんなモノ、強い奴と戦いたいだけだ。それ以外の理由は無い。『
ヴァーリの目的とは、強い存在と戦うだけ。即ち、最強を目指すと言う事。
一誠はその目的を聞いて溜息をつき、曹操を見る。
「お前はそれで良いのか?」
「実質、旧魔王派のやることだからね。俺達には関係の無いことだよ」
それもそうだ、と零す一誠。この提案に対し、余り乗り気では無いらしい。
やる気の無い一誠へと、ヴァーリが訝しげな視線を向けた。
「……赤龍帝となって、白龍皇である俺と戦うのは宿命とも言える事だろう? 何故そこまでやる気が無いんだ?」
「やる気、ねぇ……そんなに死にたいなら、俺が殺してやるが? ヴァーリ・ルシファー」
前魔王ルシファーの血筋。人間と悪魔のハーフであるが故に
正に、過去現在──そして、恐らくは未来永劫において、最強の白龍皇。
それを知っていてもなお、勝てると豪語する一誠に、目を丸くするヴァーリ。
「知っていたのか。それには驚きだが……それでもなお、俺を倒せると?」
「やろうと思えばな。面倒臭いからやらねぇよ。……ま、ここにいるのは俺の意志だ。それで連中の眼を誤魔化せるだろうし、戦闘する位なら問題無いか」
ただし、右腕は使わない。
三大勢力にあれを見せるメリットが無い。未だ完成どころか碌に力を振るえない出来そこないを、他人に見せる事などしない。
視線をヴァーリから曹操へと移し、思い出した様に聞く。
「そういや、曹操が勧誘に行った聖人の方はどうだったんだ?」
「こっぴどく振られたよ」
まるでわかっていたと言う様に、曹操は首を横に振った。
「信仰の深い女性でね……悪魔に対して、並々ならぬ感情を持っている様に見えた。『テロなどと言う行為には絶対に加担しません』だと」
「へぇ。今度資料を見せてくれ。聖人は出来れば戦力に加えたい。……後、コカビエルが雇っていた聖人はどうなってるんだ?」
一誠の疑問に答えたのは、曹操では無くヴァーリだった。
「アザゼルが一足早く動いたよ。金の支払いを良くするから、今後専属契約を結ばせてくれ、って言ってたな」
ヴァーリとの戦闘後に堕天使の一部隊がイヴァンを捕捉。その後、アザゼルとの交渉を終えて堕天使勢力に組み込まれたらしい。
「それは残念。他の聖人は?」
「駄目だった。足取りを追えない者からそもそも戦闘に興味が無い者までいたが、勢力に組み込む事は難しそうだったよ」
「そうか……まぁ良い。駄目なら駄目でやり様はある。後、魔術に関する情報は?」
「魔術結社を幾つか飲み込んだ。詳しい話は連中として欲しいが……結局の所、一誠は何時から動くつもりなんだ?」
曹操の疑問は尤もだろう。
組織に入ったとはいえ、一誠は組織の為に動く事は無い。これでは利用されているだけだ。
「何時でもいいさ。俺だとバレ無ければ、ある程度はちゃんとやるよ。……まぁ、多少の選別はするけどな」
「頭の片隅に置いておこう」
了承を得た曹操は、笑みを浮かべて口をつぐむ。曹操が付き添ってきたのは恐らくこれを聞く為なのだろう。
髪の色を変えたりという変装用の魔術は幾つか用意している。顔を隠す様にローブでも着れば、バレる事は無い。
「で、これだけか? 連中に見つかると少々厄介だ。早めに出る事を勧める」
「困るのは君の方だろう? とはいえ、流石に同じ組織に属する以上は余り迷惑をかける気は無い」
ヴァーリと共に曹操も立ち上がり、携帯で何処かに連絡し出す。相手は恐らくゲオルクだろう。
霧に包まれたかと思えば、次の瞬間には二人の姿は消えていた。
オーフィスの登場を期待していた方にはゴメンナサイを(おい
多分六巻辺りで出てくるんじゃないかなぁww
いや、それ以前に出そうと思えば出せる所はあるんですけどw