第二十八話:段ボール吸血鬼
本日は授業参観──もとい、公開授業の日だ。
一誠の父も母も忙しいと言う理由で来る事は無く、後輩が来ると言っても特に緊張する事無く教室で本を読んでいた。
ゼノヴィアが転校してきたのも木場のクラスだし、一誠のクラスは松田と元浜の二人が騒いでいるのを除けば大凡静かと言って良い。
ちらっと耳にした限りだと、リアスの兄──サーゼクス・ルシファーと父親が来ているらしく、校内ではかなり噂になっている。
イケメンだと大人気のサーゼクスだが、一誠はあの人一応既婚者なんだよなぁ、と適当に思っていた。
しばらくした後に授業が始まって、後ろの扉が開けられ、親御さんや後輩たちがずらっと並ぶ。
授業は英語。教諭は妙に気合いの入った調子で、袋に入った長方形の物体を配って行く。中身は紙粘土と、明らかに英語で使う物体では無い。
訝しげに紙粘土を観察する一誠達を見ながら、教諭は告げる。
「いいですかー。今日はその紙粘土を使って好きなモノを作ってください。題材は何でもいい。動物でも、人でも、家でも、植物でも。自分が脳内に描いたありのままの表現を形作ってください。そう言う英会話もある」
ありません。ボソッと告げた一誠だが、誰にも聞こえていないようだ。
とはいえ、一体何を作れと言うのか。英会話なんて最初からやる気の無い一誠からすれば、ありがたい限りでもあるが。
「さぁ、レッツトライ!」
テンションの高い教諭を放っておき、頭を悩ませる一誠。
適当に作っても良いが、どうせなら評価される様なものを作りたい。ついでに言うと売れそうなものを作りたい。
魔術を使って作っても良いが、人の眼がある以上はそう言う訳にもいかないだろう。
結局、適当に作った謎の物体Xは特に評価される事も無く終わった。
●
昼休み。廊下が妙に騒がしく、聞いた噂だと魔法少女の撮影会をやっているらしいので、一誠も興味本位で見に行ってみることにした。
その場所ではカメラのシャッター音が鳴り響き、ペドフィリアな人達が見た目美少女な子をカメラで撮っていた。
一誠は少女の姿を見て、呆れたように名前を告げた。
「セラフォルー=レヴィアタンかよ……」
現魔王の四人は曹操から写真を見せて貰った事がある。特に印象的なのがレヴィアタンである彼女で、最初のインパクトが強過ぎて忘れようにも忘れられない。
人垣がある所為で向こうからこちらは見えないだろう。何かのアニメのキャラをしているようだが、そう言った類の事には疎いので何の格好かは分からない。
スティックをくるくると回し、激しく動いてミニスカートがめくれている。
興奮する様にシャッターを切る人達を見て、周りの女生徒は若干引いているようだ。当然だと一誠は思うが。
「なっ!」
酷く驚いた声が聞こえたのでそちらを見てみれば、リアスが写真を撮られている子を見ていた。まぁ、魔王の一人がこんな事をやっていれば驚くよなぁ、と他人事のように……というか、他人事として見ている。
「オラオラ! 天下の往来で写真撮影たーいい御身分だぜ!」
そんな事を言いながら、生徒会役員でもある匙が人だかりへ飛びこんでいく。続いて同じ様に生徒会のメンバーらしき女の子たちも。
匙の剣幕に押されたのか、カメラで写真撮影をしていた面々も蜘蛛の子を散らす様に何処かへ行った。
ちゃんと仕事をしてるんだな、と感心しつつ、主の姉に対してどういう対応をするのか見物する事にする。
「アンタもそんな恰好を……って、もしかして親御さんですか? そうだとしても、場に合う衣装ってもんがあるでしょう。困りますよ」
「えー、だって、これが私の正装だもん☆」
かなり軽い性格の様で、セラフォルーはポージングをしていて聞く耳を持たない。
苛立つ匙だが、リアスに対してサーゼクスと父親を案内していると告げる。匙の後方をみれば、会長であるソーナがサーゼクス達を案内していた。
「何事ですか? サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつもいって──」
「ソーナちゃん! 見つけた☆」
セラフォルーはソーナを見るなり抱きつき、ソーナの方は固まっている。
サーゼクスがそれに気付いた様で、セラフォルーを見るなり挨拶をしていた。匙は案の定知らなかったようで、酷く狼狽していた。
その間にリアスが近づき、セラフォルーへと挨拶していた。
「セラフォルー様、お久しぶりです」
「あら、リアスちゃん☆ おひさ〜☆ 元気にしてましたか?」
「は、はい。おかげさまで。今日はソーナの授業参観に?」
「うん☆ ソーナちゃんったら酷いのよ。今日の事、黙ってたんだから! もう! お姉ちゃん、ショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」
軽い事にプラスしてシスコンだったようで、そんな理由で攻め込まれた時はやられた天使達も浮かばれないだろう。
と、そんな事を思っていると、悪魔勢がこちらに気付いた様で視線を向けてきた。
「あら、兵藤君。丁度いいわ。この方が四大魔王の一人、セラフォルー=レヴィアタン様」
「はじめまして☆ 私、魔王セラフォルー=レヴィアタンです☆ 『レヴィアたん』って呼んでね☆」
横チェキで挨拶するセラフォルーに対し、軽く頭を下げながら挨拶をする一誠。
「はじめまして。ただの人間の兵藤一誠です」
にこやかに言う一誠だが、リアス達は微妙な顔をしている。赤龍帝を宿す人間が、唯の人間だと名乗れる訳もないのだから。
「ねぇ、サーゼクスちゃん。この子が噂のドライグくん?」
「そう。彼が『
ふぅん、とジロジロ一誠の事を見た後、リアスの父親たちと挨拶をし始めた。
ソーナは姉に対して恥ずかしく思っているようで、顔が真っ赤になっていた。心配してテンション高めに話しかけるセラフォルーを振り切ろうと、何処かへと走り去って行く。
仮にも魔王なのだから、振り切る事は無理だろうと思うのだが。それでも場の空気に耐えられなかったのだろう、と察する一誠。
その後、その場にいた面々は何処かへと移動し、一誠も自分の教室へと帰って行った。
●
数日後。
一誠は特に何をするでもなく、暇潰しに借りていた図書室の本を持って読書に興じていた。
その途中で、デュランダル片手に金髪赤眼の女の子──だが男だ──を追いかけまわしているゼノヴィアを発見した。
何をやっているのか疑問に思い、近くにいたジャージ姿の匙へと疑問を投げる。
「何でも、リアス先輩の『
匙の説明を聞きながら、当の金髪赤眼を見る。
ギャスパー・ヴラディ。由緒正しい吸血鬼の血筋で、人間とのハーフ。人間部分のおかげで『
溢れすぎて暴走している様だが。
本来は『
明らかに駒を複数使うであろう転生体が、一つで済んでしまったりする特異な現象を起こす駒──それが、『
「……なるほどね」
この世界に姫神がいなくて良かったな。と思いつつ、生死のかかった追いかけっこを見る。
生徒会の雑用を任されていると言う匙は、ジャージ姿で花壇の手入れをしている。人の上に立つ事に慣れたソーナにこき使われているのだろう、と適当に考える一誠。
そんな時、背後から奇妙な気配がした。
「魔王の身内の眷属さん方はここで集まってお遊戯か?」
「……アザゼルか」
相変わらずの浴衣姿に軽いノリ。本人であることに間違いは無いだろう。
「よー、赤龍帝。あの日以来だな」
その場にいた全員が奇異の視線を向けていたが、一誠の一言で場が豹変する。
ゼノヴィアはデュランダルを構え、アーシアはゼノヴィアの後ろへ隠れる。ギャスパーは木の陰に隠れており、匙は手の甲に蜥蜴の様なものを用意した。
『
「ひょ、兵藤、アザゼルって!」
緊張した様子で匙が聞く。敵対している堕天使の長と言うだけあって、威圧感を感じているのだろう。
一誠は気にすることなく、適当な調子で告げた。
「こんなのだが、れっきとした堕天使の頭だよ。現実を見ろ、匙」
「ハッハッハッ。喧嘩売ってんのか、お前」
笑いながら光の槍を出現させるアザゼルに対し、ゼノヴィア達が最大級に警戒する。背後から首元にそれを突きつけられた一誠は、迷惑そうにアザゼルへと視線をやる。
「この場で堕天使が騒ぎを起こしたら不味いんじゃないのか? 下手をすれば、戦争に発展するかもな」
至極冷静な調子で、アザゼルへと告げる一誠。言われた本人は苦笑しながら光の槍を消した。
「分かって言ってたのかよ。
「アンタほどじゃないさ」
二人のやり取りを見ていても、なお警戒を解かない面々。堕天使の総督と言うだけで、警戒するに値すると判断されているのだろう。他人からの評価が窺える一面でもある。
「そんなに警戒してくれるなよ。別にここでやり合う気はねえ。どの道、このメンバーで俺と戦っても勝てる訳が無いだろ? それに、さっき赤龍帝が俺がお前等に対して手を出せない理由を説明してくれただろうがよ」
曰く、戦争を再発させかねない。
だからこそ、アザゼルは手を出せないのだと言う。それを信用できるかどうかはやはり人望なのだろう。敵対勢力の長がいきなりそう言ったところで、信じられる筈も無い。
「ところで、聖魔剣使いはいるか? ちょっくら見に来たんだが」
「見当たらない所を見ると、ここにはいないんだろうな」
適当な調子で言う一誠の言葉を聞き、残念がる様子を見せたアザゼル。珍しいものには惹かれるのが研究者らしい。
そこのヴァンパイア、とギャスパーに近づいていくアザゼル。遠くから見ているとギャスパーの怖がりようが凄まじく、何となく笑えてくる。
「『
ブツブツとギャスパーの両眼を覗き込みながら説明しているアザゼル。
研究者気質なのは根っからの様で、興味津々と言った様子でギャスパーの事を見ている。
ふとした拍子に一誠達の方を振り返り、声をかけてきた。
「そっちのお前は『
目を付けられたと思った匙が身構える。どうしても戦闘態勢を取ってしまう辺り、アザゼルへの恐怖心が根底にあるのだろう。
「丁度良い。そのヴァンパイアの
「お、俺の神器ってそんな事も出来るのか? ただ単に敵のパワーを吸い取るだけじゃ」
「ったく、これだから最近の
長ったらしい説明を終え、匙が自分の
一誠から見れば、ソーナは規則に五月蠅い女王様の様なものだ。匙に言ったらキレるので話はしないが。
「ま、
飲ませねぇよ、という一誠の拒否の言葉はスルーされた。
そのままここから立ち去って行ったアザゼルを見ながら、匙がギャスパーの修行に付き合うと言いだした。
先程言われた事を試す機会でもあるし、丁度よかったのだろう。根っからの良い奴らしい。
余分な力を吸い取った『
訓練中に一誠が無意識に止められようとしていたが、力の差故か一度も止めることが出来なかった。
──そして、三大勢力会談の日を迎える。
タイトルの時点でネタ臭しかしない訳ですが、ある程度は真面目。俺シリアスしか書けないんで(え
しかし、本当に■■さんいなくて良かったとしか。いたらギャスパーが灰になってましたね(おい
次回は三大勢力による会談。大筋は原作通りなんですが、微妙に変わってきてるっていう。