最近、あらすじが詐欺なんじゃないかと思うようになってきました。
……ええ、誰が見てもデッドエンドを回避するために行動する主人公じゃないですよね。
第二十九話:三大勢力の会談
駒王学園、会議室。
特別に用意させたと言う豪華絢爛なテーブルを囲み、各陣営のトップたちが座っていた。
ただし、その中の一角に一人だけで座っている人物がいる。──人間である一誠だ。
どの組織にも属していない為、一人だけ単独で座る羽目になったらしい。緊張した様子も無く、ごく自然体で椅子に座っている。
自然体と言うよりも、真夜中に呼び出されたので、かなり眠そうな表情なのは仕方が無い。
暇潰しに各陣営を見渡し、今回の会議の重大さを再認識する。一誠にとっては、あまり関係がある様には思えない会議ではあるが。
悪魔サイドにはサーゼクスとセラフォルーの魔王二人。それと給仕係のグレイフィアに、コカビエルの一件の関係者であるリアスの眷属とソーナ。
天使サイドには金色の翼を十二枚展開しているミカエルと、その部下であろう白い翼の女性天使。
堕天使サイドには黒い翼を十二枚展開したアザゼルと、『
そして、人間として一人だけ座っている一誠の図となる。
(……ねみぃ……速く終わらねぇかな)
会議が始まる前からだれていた一誠は、チラリとアザゼルの方へと視線をやる。今日ばかりは浴衣では無く、黒いローブの正装姿の様だ。あれが正装でいいのかは、一誠には判断がつかないが。
先日見た時は私服だったサーゼクスとセラフォルーも、今回ばかりは凝った装飾が付けてある服を着ている。
それらを確認し終わった時、タイミング良くノックの音がして、リアス達が入ってくる。
リアス達が会議室に入ったのを確認して、サーゼクスがリアス達を紹介した。
「私の妹と、その眷属だ」
その言葉が告げられると同時に、リアスが会釈をする。
「先日のコカビエル襲撃で、彼女達と兵藤君が活躍してくれた」
その場の視線が一誠に向き、立ち上がって軽く会釈。流石にこの場で傍若無人に振る舞う気は無い。
「報告は受けています。改めてお礼を申し上げます」
「悪かったな、俺のところのコカビエルが迷惑をかけた」
ミカエルがリアスと一誠へ礼を述べ、アザゼルもぶっきらぼうながらに謝辞を述べる。
サーゼクスに促されてリアス達は席に座り、更にサーゼクスが前提条件を口にする。
会談の前提条件は『神の不在』を知っている事。最重要禁則事項であり、これを知らなければ話についていけないのだ。
この時を持って、三大勢力での会談が始まった。
●
順調に会議は進んでいる。人間である一誠には全く関係のない話が目の前で繰り広げられ、睡魔と闘いながらぼーっと会議を眺める一誠。
サーゼクスやミカエルの話に時折アザゼルが混じり、場の空気を凍らせる事があったが、アザゼルは狙ってやっている様にも思える。
そして、先日のコカビエル襲撃についての話へと移り変わった。
説明役はリアス、ソーナ、朱乃の三人。
コカビエル戦の一部始終を話す三人だが、極度の緊張でガチガチになっているのが遠目からでも分かる。
自分の発言が三大勢力の行く末を決める可能性があると言うのだから、緊張しない方が無理というものだろう。
そして、やはりと言うべきか、当然と言うべきか。赤龍帝である一誠が最終的にコカビエルを倒した事。遠距離からの謎の攻撃を受けた事も報告された。
どの道バレようが無いのだから、知られても問題は無い。
「──以上が、私、リアス・グレモリーと、その眷属悪魔が関与した事件の報告です」
「御苦労、座ってくれたまえ」
サーゼクスの一言を受け、深く息を吐いてから席に座るリアス。
「さて、アザゼル。この報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたい」
質問を受け、長々と説明をし出したアザゼルだが、簡潔にまとめれば概要は二つ。
コカビエルは『赤龍帝』である兵藤一誠が処理した事。その後、コカビエルは軍法会議の後に『
ミカエルが最低な部類である説明に嘆息する。だが、それでもアザゼルが戦争を望まないのは分かっている様だ。
コカビエルもアザゼルの事をこきおろしていたようで、二人の仲が悪かった事を示している。
だが、一つだけ気になった事があったらしく、サーゼクスがアザゼルへと問いを投げた。
「アザゼル、ひとつ訊きたいのだが、どうしてここ数十年
「そう、いつまで経ってもあなたは戦争を仕掛けてこなかった。『
二人の言葉でアザゼルは苦笑し、理由を告げる。
「
「それはそうだ」
「そうですね」
「その通りね☆」
サーゼクス、ミカエル、セラフォルーの三人に同意され、面白く無さそうに椅子に座り直すアザゼル。
性格ゆえか、信用が無い。何をやるか分からない為に、戦争を起こすのではないかと何度も危惧されていた存在ならば、尚更と言えるだろう。
ならよ、とアザゼルは続けた。
「──和平を結ぼうじゃねぇか。どうせお前等三人、それが目的でこの場に来たんだろ?」
アザゼルの突然の発言に、一瞬静まり返る。
あり得ない話では無かった。戦争を望まないのなら、戦争を起こさせない為の策を打つ必要があるのだから。その為に選ばれた手段が──和平協定。
「コソコソと研究するのも止めだ。お前等が疑うだろうしな。だったら、和平でも何でもして大っぴらに研究した方が気が楽ってモンだぜ」
明らかに平和よりもそれが目的ではないかと思わせる言葉が出たが、ミカエルは微笑みながら言う。
「そうですね。私も悪魔側と堕天使側に和平を持ちかける予定でした。このまま三すくみの関係を続けても、何の得も無い。天使の長である私が言うのもなんですが──戦争の元凶である神と魔王は消滅したのですから」
そして、何より他の神話体系の神に介入されない為にも、和平は必要なことだった。
「言う様になったじゃねぇか。あの神を狂信していたミカエル様がよ」
「……失ったものは大きくとも、悲しんだから戻ってくる訳ではありません。過去ではなく今を見据え、信者達を導いていくのが我らの使命です」
神の子を見守り、先導するのが一番大事なことだと、ミカエルは言う。セラフ達の意見も同じらしい。
それを聞いたアザゼルは苦笑する。
「おいおい、その発言は『堕ちる』ぜ? ──と、思ったが、システムはお前が受け継いだんだったな。俺らが『堕ちた』頃とは違う。全く羨ましいぜ」
ま、別に堕天使になった事を後悔してる訳じゃねぇがな、と続ける。
立場上、総督であるアザゼルが堕天使になった事を後悔している、等と発言されれば、それだけで組織が崩壊しかねない。
サーゼクスも同調する様に頷く。
「我ら悪魔も同じだ。魔王がいなくとも、種を存続させる為には先へと進む必要がある。我らは戦争を望まない──次の戦争が始まれば、悪魔は滅ぶ」
「そうだ。次に戦争をすれば、三すくみは仲良く共倒れになっちまう。そして、人間界へと多大な影響を及ぼし、世界は滅ぶ。俺らはもう、戦争を起こせないのさ」
おちゃらけた雰囲気だったアザゼルが、真剣な様子で話し出す。
「神がいない世界は間違いだと思うか? 神がいない世界は衰退すると思うか? 残念ながら世界はそうじゃなかった。俺もお前達も、今こうやって元気に生きている」
アザゼルは腕を広げながら、言った。
「──神がいなくても、世界は回るのさ」
世界を作ったとされる『聖書の神』の死。例え、その神が滅んでも世界が回るとアザゼルは言う。
だが、根本的にはそうとも言えない。
システムの
絶対では無いとはいえ、神がいなければ、世界は緩やかに崩壊へと向かうのだ。
●
話は各勢力の兵力や陣営の対応、勢力図についての事へと移っていた。
そろそろ本格的に飽きて、睡魔が強くなって来た頃合いの時、アザゼルから声がかかった。
「さて、と。そろそろ俺達以外の世界へ影響を及ぼしかねない存在──現赤龍帝と現白龍皇の話を聞こうじゃないか。まずはヴァーリ、お前はどうしたい?」
「俺は強い奴と戦えればそれで良い」
アザゼルの問いに、ヴァーリはにべも無く答える。本当にそれ以外には望んでいないといった様子だ。
次に一誠へと視線が向き、問われる。
「次はお前だ、赤龍帝。お前はどうしたい? 何を望む?」
「何も」
一言だけ告げた一誠。それに対し、静寂が場を包む。
呆れたように、アザゼルが改めて問い直す。
「……何も、って言われてもな。具体的に話せ。わからねぇだろうが」
「何も望みませんよ。俺は、貴方達が接触するまでは唯の高校生でしたからね。普通に生きて、普通に学校行って、普通に就職して、普通に死ぬものだと思っていたので」
静かに、さも当然の様に一誠は語った。
嘘と偽り。虚構で埋め尽くされたその場しのぎの自分の望みを。
「だが、赤龍帝の力には気付いていたんだろう?」
「ええ、幼少期から気付いていましたよ。ですが、それに何の意味があるんですか? 俺自身は、別にやりたい事も無い。だから、何時か来る災厄である『白龍皇との戦い』で生き残るために、力を付けていた。それだけの話ですよ」
もっとも、戦わずに済むならそれでもよかった。別に戦いを求めていた訳じゃないから、今までの生活で十分満足できた。と、一誠は言う。
しかし、高校二年へと進学した時に、変わる。
「最初は堕天使との接触。次は悪魔のレーティングゲーム。最後にエクスカリバー持ちの敵と戦闘した上に、堕天使の幹部。全くもって、龍の因果ってのは呪いたくなる位に面倒なものですね」
辟易したように告げる一誠。その言葉を聞いて、再度沈黙が訪れる。
龍の因果が関係しているとはいえ、三大勢力が見事なまでに迷惑をかけている。いたたまれなくなるのも止む無しという事だろうか。
その中で、アザゼルが口を開く。
「……俺達堕天使は、害悪になるかもしれない
「理解は出来ます。組織としては当然、当たり前の事ですから。ですが──感情まで抑え切れてるかと言えば、そうじゃないんでね」
敵意を込めた視線で、アザゼルを射抜く。
理解は出来ても納得は出来ない。それが生死に関わる事なら当然だ。そう簡単に納得できる筈が無い。
「アーシアにしても、貴方の所の部下が暴走して一度死にかけた。部下の面倒はキッチリ見ておかないと、何処で恨みを買うか分かったものじゃないですよ」
チラリと視線をアーシアへ向け、再度アザゼルへと戻す。
「忠告ありがとよ。その辺りはキッチリ覚えておくぜ……だが、今更俺が謝っても後の祭りだろ? だから、俺は俺にしか出来ないことでお前等を満足させてやるつもりだ」
「へぇ、貴方にしか出来ない事、ね。覚えておきましょう」
一誠がアザゼルに対して望む事は無い。魔導書を持っていたとしても、彼らには読めない。力のある魔導書なら破壊も出来ない為、後々奪いに行けばいいだけの話だ。
どの道、今後はテロリストとして活動する事になる。バレ無い様に動くと言っても限界がある以上、無駄な労力は使いたくない。
「まぁ、宣言はしておきます──俺は、この力は無闇には使わない。必要最低限の時以外は使う必要もありませんから」
「無闇に振るわない、ね。どっちみち、赤龍帝を宿す以上は使う機会も増えるだろうさ」
「勘弁してほしいですね。面倒事が向こうから来るなんて。数少ない友人も減ってしまうじゃないですか」
「そりゃそうだ」
アザゼルはゲラゲラと笑いながら答える。友達の数が少ないのを、さも当然の様に言う。笑いたくもなるだろう。
とはいえ、人間何処で繋がっているか分からない。洗いざらい調べるに越した事は無い、とサーゼクスとミカエル、アザゼルは視線を交わした。
まぁ、流石に『
「そう言う意味じゃ、天使側が一番俺と繋がっていると言えますね」
イリナの事を思い出しながら、呟くように言う。
堕天使側とは知り合いなどいないし、悪魔側のグレモリー眷属は友人と言うよりも利害が一致しただけに過ぎない。
「紫藤イリナさんですね。彼女は敬虔な信徒ですから、私もよく知って──」
──瞬間、身を包む奇妙な感覚に襲われた。
一誠も会談に参加させたわけですが……殆ど全部が建前で本音が無いって言うww
暴れるのは次話か次々話位かなぁ、と思ってます。